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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
22/26

1-3-1 ノコサレタモノ1

第一章第三話の開始です。

今回の部隊は戦闘後の戦場です。

 クリズノー王国北東部、セブンレイク高原。

 戦前、この地はクリズノーの楽園と呼ばれていた。

 大陸の中心に聳え立つ最高峰の山脈、アルファン山脈から湧き出る清らかで澄んだ雪解け水が、大小7つの湖を満たしていた。

 この地の地下に流れる大きな龍脈は、恵まれた肥沃な大地を生み、多種多様な植生を育み、多くの動物が謳歌した。

 人々も自然豊かなこの地に惹かれ、集まり、多くの集落を作った。

 肥沃な大地で人々は、野菜や果物、畜産を育て、王国中の食事を彩った。


 だが、戦争で一変した。

 大軍が布陣することができるこの高原は、毎年戦場に選ばれてしまった。

 度重なる戦はこの地を大きく傷つけた。

 大龍脈は幾度の戦術級魔術同士の衝突により、大きな傷を負った。

 大龍脈が支えていた大地の栄養は失われ、緑豊かな大地は黄土色の枯草が僅かに生える不毛の地となった。

 アルフォン山脈から湧き出た雪解け水は涸れ、ほとんどの湖は干上がり、残った水は赤く染まった。

 人々は戦火から逃れるためにこの地を去り、多くの集落が廃村ゴーストタウンと化した。

 それでもこの地に残った人々は、雀の涙ほどの食料を何とか遣り繰りしながら、冬を越していた。


 そんな荒れ果てた地に今年も両軍は相対した。




 両軍は干上がったファーファル湖の両岸に布陣した。

 西岸に帝国軍一万六千、東岸に魔導国軍一万。

 人数に分があるのは帝国軍、その士気はやや高い。

 人数で勝る分、気持ちの余裕が見えた。

 一方の魔導軍も、士気は帝国軍に劣っていない。

 人間よりも身体能力が高い魔族が大半を占める魔導国軍は、人数差などさほど気にしていなかった。



 もうすぐ太陽が頂点を通過しようとする頃、両軍は指し示したかのように、降伏勧告の書状を持った使者が中央まで進み出る。

 その内容はお互いに相手を挑発する文言が組み込まれた、形ばかりの書状だった。

 使者が対面し、お互いに書状を読み上げる。

 そして使者が自陣に戻ると、すぐに両軍から鳴り物が響いた。

 帝国軍からは、天を切り裂くような高らかなラッパの音が。

 魔導国軍からは地底を震わすような重たい太鼓の音が。

 その音に応じ、両軍の後方の部隊がまず初めに動き出す。

 どちらも二つの魔術師部隊だった。

 帝国軍は赤の基調のローブを着た部隊が、巨大な陣を描き、呪文を詠唱する。

 そして白の基調のローブを着た部隊が、祭壇に供物を捧げ、聖句を唱える。

 一方の魔導国軍は魔術に長けた妖狐の一つ、氷魔術が得意の氷狐族が舞を舞う。

 そして同じく妖狐の一つ、結界魔術が得意の白狐族が六芒星の陣を描き、護摩壇で祝詞を唱える。

 攻撃魔術の完成はほぼ同時。

 赤魔術師部隊の魔術と、氷狐族の魔術が交差し、相手へと放たれた。

 帝国軍が選択したのは火と風の戦術級複合魔術、『熱砂の嵐(サンドストーム)』。

 触れたら火傷では済まない熱を持った砂が吹き荒れる、砂嵐の魔術。

 魔導国軍が選択したのは氷狐族の数ある魔術の中でも得意としている儀式魔術、『雹の舞』。

 数多の拳大の氷の礫が大地へと降り注ぎ、頭部に当たれば即死、掠めただけでも裂傷と凍傷を負ってしまう危険な魔術である。

 だが、どちらの魔術も兵士を傷つけることは出来なかった。

 相手の魔術の展開と同時に発現された二つの異なる結界が、魔術の猛威から兵士を救ったからだ。

 展開したのは白魔術師部隊と、白狐族。

 祭司を務める長を中心に、澄んだ声で高らかに聖句もしくは祝詞を唱え続けていた。

 両軍の兵士の耳には、相手の魔術の圧力で結界が軋む音が聞こえた。


 時間にして数刻ほどで両軍を襲っていた魔術は消え去った。

 そして攻撃魔術が霧消した瞬間、砕け散るガラスのように結界も消え去った。

 わずかな時間であったが、どの兵士にとっても数十分以上の時に感じた。

 それ以上に長く感じたのは、結界を維持していた魔術師たちだった。

 結界の維持に努めていた両軍の魔術士の多くが、結界の解除と共に精根尽きて崩れ落ちた。

 彼らは命に別状はないものの、動くことができなかった。

 そんな彼らの代わりに、今回補佐役を務めていた魔術師たちが手分けして、動けない魔術士たちを担ぎ上げ、片付けを行い、素早く戦場から撤退した。

 そして、戦場には戦士のみが残された。



 戦場に再びラッパと太鼓の音が幾度も

 その音に合わせ、兵士はガチャガチャと音を鳴らし、士気を高めていく。

 暫くすると一連の音が鳴り止んだ。

 一瞬の静寂が荒野に訪れる。

 そして、その時が訪れた。

 突撃を告げる音が荒野に響きわたる。

 同時に両軍の指揮官の号令が下される。

 両軍の兵士は雄叫びを上げながら、敵陣へ一直線に突撃を敢行した。

 ほぼ中央で両軍は激突、瞬く間に剣戟の音が高原に響き渡る。

 激突時、魔導国軍が種族の力の差で、帝国軍の勢いを押しやる。

 だが、勝人数の有利を活かした帝国軍は部隊や兵士間の連携によって、徐々に優位を築く。

 そんな中、帝国軍の左翼は大きく押し込んだ。

 そして左翼に引っ張られるように中央も徐々に勢いづいた。

 その対応を求められた魔導国軍の司令部は、いたって冷静だった。

 右翼の崩壊を防ぐために、後方に控えていた部隊の一部を送り込む。

 少しでも時間を稼ぐ、そんな思惑であった。

 そしてそれが功を成した。



 朝から薄曇りだった空が、瞬く間に暗黒の雲に包まれた。

 一迅の雷鳴が鳴り響くと、猛烈な風雨が兵士たちに襲いかかる。

 戦場は一寸先すら見えず、声すらかき消された。


 この異常気象は、大規模な魔術が衝突し、周辺の魔素が不安定になって引き起こされた現象であった。

 ただ、異常気象を予測する為の技術が両国内で画一しており、指揮所は魔術の行使したタイミングから、予測を始めていた。

 その為、それに備えた行動を指揮所は取っていた。

 魔導国軍は風雨によって混乱した帝国軍に、攻勢をかける算段だった。

 一方の帝国軍は風雨による混乱によって戦線が崩れるのを防ぐために、少しずつ後退させる予定であった。


 明暗ははっきり分かれた。

 戦前から考えていたプランを実行した魔導国軍に対し、魔術戦後に対応する帝国軍は予定よりも早い天候の変化に間に合わず、前線への伝達が叶わなかった。

 統率の取れた後退ができず、前線と後方が間延びした帝国軍は混乱に陥った。

 そこに魔導国軍の兵士が襲い掛かった。

 得意の連携も封じられた帝国軍の兵士は、次々と魔導国軍の兵士に狩られていった。

 ただ、魔導国軍の反撃は多くの時間が与えられなかった。

 三十分もしないうちに、嵐はきれいさっぱり消え去ってしまった。

 視界の開けた両軍の指揮所は、素早く現在の戦況情報を集める。

 前線は魔導国軍が大きく押し返していた。

 だが、魔導国軍の一部が突出してしまっていた。

 帝国軍は減った兵員の補充と再度の押上げを敢行するために、後方の部隊の実に半数を前線に送り込んだ。

 魔導国軍は突出した部隊を救援するための指令を出した。

 結果、魔導国軍は突出した部隊の救援には成功したが、手にした優位を失う結果となった。

 そして、戦場は膠着状態に変わった。



 その戦場が大きく動いたのは、膠着してから数十分後だった。

 戦場の北側から土埃が上がり、馬の足音が鳴り響いた。

 彼らが掲げる旗は帝国旗。

 この一手は帝国軍が異常気象を利用した作戦だった。

 嵐に紛れて移動し、魔導国軍の右翼の側面を奇襲する、シンプルでありながら有効的な手だ。

 発見に遅れた魔導国軍は、迎撃態勢を取ることができなかった。

 奇襲部隊は魔導国軍右翼を切り裂き、楔を打ち込むことに成功する。

 魔導国軍は混乱の坩堝に落ちた。

 前線は瞬く間に崩壊し始め、帝国軍が戦果を挙げていく。

 その一報を受け取った魔導国軍の司令部の決断は凄まじく早いものだった。

 -撤退-。

 魔導国軍司令部はすぐに撤退を指示する太鼓を鳴らさせ、後方に控えていた殿軍を送り出す。

 混乱の中でも撤退の太鼓の音を聞いた部隊は、精強な殿軍に守られながら素早く撤退していく。

 その速さはまさに脱兎の如く。

 三十分ほどで魔導国軍の大半の部隊が戦場から撤収した。

 そして最後、苛烈な帝国軍の追撃を耐え忍んでいた殿軍が、少なくない犠牲者を出しつつも戦場から脱出した。

 帝国軍はこれ以上の追撃を諦めた。

 部隊を整列させ、勝利の雄叫びを上げる。

 その声は高原中に響きわたり、戦の終わりを告げた。

 そして帝国軍は、ゆっくりと戦場から移動していく。

 その先は東。

 魔導国が守る大地へと歩みを進めた。



 第四次セブンレイク高原の戦いはこうして幕を閉じた。

 死者は両軍合わせて三千、負傷者は述べ五千。

 帝国の勝利を収めた戦いであった。

 後の両軍の報告ではこう伝えられた。

 帝国では、想定以上の犠牲者を出しつつも、敵の第一次防衛線の突破に成功、と。

 魔導国では、少なくない犠牲者を出しつつも、相手に大きな損耗を与えることに成功した、と。

 この戦の結果は、この年の帝国軍の攻勢計画に大きな影響を与えたのだった。


今年中に上げれるかどうかわかりませんが、早めに投稿できるように頑張ります。

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