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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
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1-2-9 死体漁り屋≪スカベンジャー≫9

 帰り道、途中で遅めの昼食を取ったため、朝よりも時間をかけてアインズリールに到着した。

 道中の馬車の中の空気は行きとは違い、終始どんよりとした雰囲気が漂っていた。

 アインズリールの門でひと悶着ありつつも、なんとか無事に通過し、セシリアの集いの本店である東学生寮の玄関にたどり着いた。

 相も変わらず出入りする人が多いが、流れゆく人を妨げるように、一つだけ大きな人だかりができていた。


「あれは…。」


 馬車を止め、アズリーとクレアが肩を並べて眺める。

 すると、ゆっくりと人だかりが解れ、一人の美男性がこちらへ近づいてきた。


「「師匠!」」


 アズリーたちが声をかける前にクリスとジンが駆け出した。


「君たちだったか。どうだった?」


 師匠と呼ばれた彼は駆け寄る二人に声をかける。


「凄く疲れた。」「僕も同じく。」

「そうですか。ちょっと彼女たちと話があるから先戻っていなさい。」


 は~いと二人は東学生寮の中に消えていった。


「さて、アズリーさん、クレアお久しぶりです。」

「お久しぶりです。去年の秋以来ですか。」

「貴方が待っているとわね、ローガン。」


 三者三様に挨拶を交わす。



 ローガンは代々王国騎士団に所属していた家系の三男坊だった。

 クレアとは、王立アインズリール学園の一学年先輩だっただけでなく、大剣の流派であるカリアテン派の兄弟弟子でもあり、お互いに競い合う関係だった。

 そんな彼は、内戦で王家を守るため、アインズリール学園を中退し、家族兄弟がいる前線で革命軍相手に死闘を繰り広げた人物であった。

 その後、敗走し撤退中に王都が包囲されてしまい、放浪していたところを婚約者であったイーニアが見つけ出し、彼女を手伝うためにセシリアの集いに合流したのだった。

 そして現在は護衛や魔獣討伐などを行う傭兵部門のトップとして青少年たちを指導しながら、自らも率先して依頼をこなし、危険な魔獣や厄介な野盗の討伐をしていた。



「今日は助かりました。こちらが報酬です。」


 アズリーはまず、依頼の報酬が入った麻袋を手渡した。


「はい、確かに受け取りました。」


 ローガンは袋の中身を確かめてから、しっかりと鞄にしまった。


「ねぇ、ローガンはなぜ私たちを待っていたの?」

「実はアズリーさんたちが昨日頼まれていた件について、話があります。」


 ローガンの言葉に二人は小さく驚く。


「もう返ってくるとは思いませんでした。」

「ははは。あの話ですが条件付きでなら、快諾しますよ。」

「条件?」


 アズリーとクレアは顔を見合わせて首を傾げる。


「今日預けた子たちもそうですが、そろそろ実践を積ませる段階でして、その試験を兼ねてなら受ける、とのことです。」

「ねえローガン、戦場跡は精神的にもすごく負担がかかるけど、その点はどうするの。」


 クレアが懸念を示す。


「それは確かに我々も心配しています。そのため。引率者として私ともう一人同行することとなっています。それと、ローテーションを組んで、適宜休息を取らせていただきたいと思っています。いかがですか。」

「期間も長く、一ヶ月以上はかかりますよ。」


 アズリーも不安要素を訊ねる。


「彼らはまだ未熟ですが、すでに二度ほど一ヶ月間の遠征は経験しています。体力面は問題と思います。」


 ローガンはその点は心配は全くしていないとばかりに、淀みなく答える。


「悪くない条件ですね。どれくらいの人数ですか。」

「彼らの人数は24人です。それと同行者を含めると26人です。」


 アズリーは少し考えてから、口を開く。


「私たちはサポートできないかもしれないですが、大丈夫ですか。」

「はい、問題ありません。」


 ローガンは即答した。


「なら、その条件を飲みましょう。依頼料はどのくらいですか。」

「詳しい内容はこちらに書かれていますが、去年の二割増しでお願いします。」

「なら許容範囲内です。」


 アズリーはローガンから書類を受け取り、内容を確認する。

 やや去年とは変わっているものの、どれも問題はなさそうだった。


「それでは、お願いします。」

「はい、了解しました。」


 アズリーとローガンが握手を交わす。


「ねぇローガン、模擬戦しない?」


 話が終わるやいなや、クレアがローガンに話しかける。


「ええ、かまいませんよ。」


 ローガンも乗る気だった。

 そんな二人を眺めていると、右の耳元で声が聞こえた。

 その音は周りからではなく、右耳のイヤリングだった。


「アズリー、クレア、セブンレイク付近で信号があったわ。聞こえていたら、応答して頂戴。」


 雑音交じりの、キリアの声だった。

 アズリーは返答の代わりに左耳のイヤリングに手を当て、魔素を流す。

 実はアズリーたちのイヤリングは簡易通信機で、音を受信できるイヤリングと、魔素波を発生させるイヤリングであった。


「クレア、次の仕事が入ったわ。」


 ローガンとの会話に夢中で、聞こえていなそうなクレアに声をかける。

 その言葉にえっ、とした表情を浮かべたクレアは、アズリーに顔を向ける。


「ローガンさん、次の仕事が入りましたので、私たちはこれで失礼します。」

「そうですか。クレア、残念だけどお預けみたいですね。」


 ローガンもクレアも残念そうな表情を浮かべた。


「ローガン、次こそ模擬戦してね。」


 クレアはそう言い残すと、馬車を動かす準備を始めた。


「護衛はいらないですか。」


 ローガンがつい気になり訊ねた。


「今から出れば、荒らされる前に対処できますので。依頼の件、お願いします。今日はありがとうございました。」


 アズリーは時間惜しげに別れの言葉を告げると、馬車に乗り込んだ。

 ローガンが静かに見送るなか、次の目的地に向けて馬車を出立させた。


少し長くなりましたが一章の二話が完結しました。

ここまでで一年かかってしまったのは少し反省点です。

次は来月に投稿できるように頑張ります。


次話はようやく戦跡での作業になります。

この章の(一応)メインに当たる部分になると思います。

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