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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
17/26

1-2-6 死体漁り屋≪スカベンジャー≫6

お待たせしました。

 翌日、早朝に出発したアズリーとクレアは、現場の近くの町、アインズリールに向かっていた。

 曇天の下、クレアは御者台で馬を操り、アズリーはその隣に座っていた。

 二人の瞳に映るのは、荒廃した大地と活気を失った村々。

 そして、擦り切れた服を着た痩せこけたこの地に住む村人たち。

 戦争以前、見ることのなかった、だが見慣れてしまった風景に二人は言葉を発することも、心を傷つけられることもなく、ただガタガタと音を立てる馬車に揺られていた。


 そんな二人の服装は野外活動だけではなく、戦闘を意識したものであった。

 アズリーは要所を金属で補強した皮の防具を身に纏い、赤茶色の外套を羽織っている。

 赤茶色の外套の裏地には、アズリーの師匠謹製の特殊な刻印魔法が刻まれており、着用者の顔の認識を曖昧にする効果があった。

 愛刀こそ腰に帯びてはないが、隣に立掛け、危険が訪れた際でもすぐに取り出せるようにしていた。

 クレアは金属を中心とした防具だが、動きやすさを重視したつくりとなっていた。

 その傍らには彼女の腰よりも長い刃を持つ、女性が扱うには不向きな大きさの大剣が置かれていた。

 そして二人の耳には緑の宝珠と紫の宝珠がはめ込まれたイヤリングを付けていた。


 適度に馬を休ませつつ、日が暮れる直前まで走らせた。

 そして日が沈む前に野営の準備と魔獣除けのお香を焚き、食事後は交代で火の番をして夜を越す。

 そして前線拠点出発して二日後、王国第三の規模を誇る、学園都市アインズリールに到着した。




 アインズリールの城門の前には何人か並んでいた。

 順調に審査が終わり、すぐに二人の番になった。

 城門には、武装した二人の門番が待ち構えていた。


「次。身分を示すものをだせ。それと荷台には何が乗っている?」

「食料のみで、残りは空箱です。」


 アズリーがクレアの分も含めて冒険者のカードを渡して、答える。

 アズリーからカードを受け取った門番は、もう一人に荷馬車の中を確認するよう指示を出し、自身は記録用紙に記載しだした。


「ちっ、白花屋か。」


 二人のカードを見た瞬間、その兵士はあからさまに顔をしかめた。

 顔を嫌悪感を現しつつも記録を取り終えた兵士は、荷物を確認した兵士から異常なしとの報告を受けると、カードを投げるようにアズリーに返した。

 そして言葉を交わすことなく、通っていいぞと顎で示す。

 その一連の行為にクレアが目くじらを立て、馬車から降りて兵士に詰め寄ろうとした。

 だがまずい雰囲気を感じ取ったアズリーが、クレアがアクションを起こす前にクレアの肩に手を乗せた。

 何か言いたそうな顔で振り向いたクレアに小さく首を振ると、無言で馬車に乗り込んで門をくぐった。



 アズリーたちは都市に入ると帝国軍が駐留する西地区を通り抜け、東地区の通りを移動していた。

 帝国軍や教会から忌避されている東地区は、浮浪者や難民なども多く住み着いていた。

 貧困に仰ぐ人々が道の脇で座り込んでいる大通りを進み、一つの建物の前で馬車を止めた。

 建物に掛けられた看板に刻まれた建物の名前は、東学生寮。

 王国東部出身の子供たちのために建てられた学生寮だった。

 その入口を警備するのは、18歳くらいの青年たち。

 しっかりと金属製の防具で身を固め、この建物に火の粉が降りかかるのを防いでいた。

 アズリーとクレアが馬車から降りると、二人のことを知っている警備員が寄ってきた。

 彼に馬車の番をお願いすると、学生寮の中に入っていった。



 学生寮の中は多くの人で溢れかえっていた。

 人々の年齢も職業も様々だった。

 動きやすい防具と剣で武装した冒険者や、ぼろ雑巾のような擦り切れた服を着た老人、高級な生地をふんだんに使った服を纏った商人までもいた。

 その中でも一番多いのが、学生服に身を包んだこの学園の元学生だった。

 彼らは戦乱の最中、様々な理由で故郷や親元に戻ることができなかった生徒たちである。

 そんな彼らが戦乱を生き抜くため集まり、この東学生寮を本拠地として、町や村の警備や魔獣の討伐、商隊の護衛、そして貨物の運搬、商品の売買、更には食料の生産など幅広い事業を手掛けていた。

 ムスリカの集いと名乗る彼らは、今では中央部ではなくてはならない存在として、日夜多くの仕事をこなしていた。


 アズリーとクレアは最も人々が集まっている部屋を訪れた。

 その部屋は元々会議室だったものを、ムスリカの集いに依頼を持ってきた人々が手続きするための部屋に改造されたものだった。

 今は人が一番多く集まる時間帯であったため、カウンターの前には列ができていた。

 二人は列に並び、自分たちの番が来るのを待った。




「ねぇ、今年帝国軍一大攻勢仕掛けるって本当?」

「ええ、帝国の国境地帯から来た同業者から聞いた話では例年以上にたくさんの兵士を集めているらしい。」


 順番待ちの最中、行商人らしき男性と商会のエンブレムが刺繍された服を着た女性の会話が二人の耳に聞こえてきた。

 ちらりと会話している二人のほうを見ると、二人の顔は誰でもわかるほどに曇っていた。

 すでに帝国軍に関する情報は、噂以上のものとなっているようだった。


「アズリー様、もう帝国軍の情報広まっていますね。」


 声を潜めて、クレアがアズリーに話しかける。


「ええ、そうね。」

「今回の戦いはどうなると思いますか?」

「クレア、ここで話すようなことではないですよ。」


 アズリーが小さな声で軽く窘める。


「そうですよ。どこに耳目があるか分かったものではありませんよ。」


 急に二人の背後から話しかけられた。

 二人ともびっくりしたように振り向くと、帝国の正装を着た、知り合いの女性が微笑んで立っていた。


「お二方、こちらに来てください。」


 その女性はそういうと、部屋から出ていった。

 二人は素直に彼女の後についていった。




「以前よりも隠形の魔法に磨きがかかっていますね。」


 廊下を歩きながらアズリーは先行して歩く女性を称賛する。

 本来帝国の正装は、この建物内では少々人の目を引く服装にもかかわらず、彼女に向く視線が少なかった。

 というよりも、この場にいる人全員が彼女の存在に気づいていないように感じるものだった。

 それは彼女が隠形と呼称される魔法を使用していたからだった。


「隠形術を駆使しないと、ろくに息を抜くこともできませんの。この前なんて、仕事部屋からでた瞬間、たくさんの人に囲まれて一時間も動けませんでしたの。」


 彼女は苦笑いしながら答えた。

 彼女はイーニア・アレバトーレ。

 王国東部にある交易都市、アレバを中心とした一帯を統治していたアレバトーレ伯爵家の息女であり、今はセシリアの集いの代表を務めている人物だった。

 彼女の一家は魔導国との繋がりが深く、彼女の一家に伝わる隠形の魔法も魔導国に住むある魔族から伝わったものだった。

 彼女との関係は、キリアとクレアの仲の良い先輩であり、アズリーも戦前パーティーや学園を訪れた際に何度か挨拶を交わしたことがあった。


「先輩、今日も忙しかったのですよね。私たちに時間をとってもいいのですか?」

「今日は帝国軍の幹部との会議だけでしたので、問題ないですわ。それにあなたたちお得意様の相手を務めたほうが有意義ですわ。」


 帝国軍の幹部の毒をさりげなく混ぜつつ、イーニアは答える。


「それにあなたたちが得た情報も気になりますし。」

「うっ。」


 イーニアが微笑みながら言葉を続けると、クレアはうめきのような声が口からこぼれた。


「ええ、私たちからは構いませんわ。その代わり、貴方が手に入れた情報も教えていただけませんか。」


 言葉に詰まったクレアの代わりにアズリーが返答を返す。


「ふふふ、わかりました。」


 そんな会話を交わしていると、目的の部屋にたどり着いた。

 その扉にはセシリアと書かれた札がかけられていた。

 イーニアが扉を開け、アズリーとクレアは続いて入っていった。



「どうぞ、こちらにお座りください。」


 イーニアの執務室は黒を基調とした内装だった。

 机の上には整頓された資料の山ができており、多忙な身であることが窺える部屋だった。

 部屋に設置された応接セットに二人を案内したイーニアは、部屋にやってきた従者に三人分の飲み物をお願いした。


「先輩、最近のこの町の様子はどうですか?」

「そうですね、以前にもまして緊張感が漂っていますわ。兵士と民間人のトラブルも増加していますし、兵士同士の喧嘩も増えていますの。」


 少し頭を抱えた様子でイーニアは答えた。


「私たちの下に届けられる依頼も増えてきて、今はすごく大変ですわ。」


 そのタイミングで従者が飲み物を運んできたため、会話が一度切り、三人は喉を潤した。

 従者がお辞儀をして部屋から退出したのを確認してから、イーニアが口を開く。


「それで、あなたたちの情報を教えていただけないですか。」

「わかりました。まず情報源については伏せさせていただきますね。」


 アズリーはお決まりの言葉を口にしてから、話始めた。

 イーニアは自分の手にしている情報との齟齬を確かめながら、話を聞いていた。


「私が入手した情報は以上です。」


 そう締めくくって、アズリーは飲み物で口を潤した。


「では、イーニアさんが入手した情報を教えてください。」


 アズリーが話を振ると、イーニアはまず自分の情報とアズリーの情報の齟齬を話し、その後アズリーが入手していない情報を教えた。

 内容としては、この町に一時的に駐留する軍の規模や、軍の到着・出立時期などの、この町に関わる内容だった。

 この情報はアズリーにとっても非常に重要な情報で、とてもいい情報交換となった。


「私が口に出せる範囲はこのくらいですかしら。それで、今回あなた達の依頼は何かしら?」


 情報を出し終えたイーニアは、二人がここにやってきた本来の目的を訊ねた。


「もし余裕がありましたら、明日二名ほどお借りしたいのですが。」

「それはいつものお仕事ですか?」


 アズリーは頷く。


「なら一つお願いですが、新米の子を連れて行ってもらえませんか?そろそろあの子たちにも経験させたいの。」

「…。私たちは構いませんが、多分大変な状況になっていると思いますよ。」


 イーニアの言葉に、アズリーは少し考えてから答えた。


「魔獣退治を請け負う子たちなので、そろそろあの経験を積ませたいなと思っていますの。」

「そういうことでしたか。お引き受けします。」

「ありがとうございます。」

「あと一つ、今度の夏季攻勢の時の話なのですが、毎年運搬をお願いしていますが、今年は安全確保の人員も少し用意できないでしょうか?」


 アズリーの二つ目の依頼に、イーニアは目を細めた。


「貴方やクレアさんの力では足りないのですか?」

「今回の攻勢は今までの攻勢よりも大規模です。その分多くの死者が出ます。あなたも知っての通り、私たちの家業は時間をかければかけるほど、危険性が増すものです。今回人員を増やしたのですが、その分私たちが警戒しなければならない範囲も広くなってしまい、彼らを危険にさらす可能性もあります。ですので、セシリアの集いから数名手を貸していただければすごくありがたいです。もちろん、しっかりとその分の報酬もお支払いします。」

「なるほど、返事には少し時間がかかるかもしれませんが、こちらも私のほうで依頼書を作っておきますね。」

「毎回ありがとうございます。」


 イーニアがあっさりと請け負ってくれたことに謝辞を述べたアズリーは、残った飲み物を飲み干し、クレアに目配せをして席を立った。


「もう行かれますの?」


 少し寂しそうな声でイーニアが訊ねる。


「はい。また今度、お互い時間があるときに食事でもしましょうか。」

「そうですね。その時を楽しみにしておりますわ。」

「先輩、ありがとうございました。また来ますね。」


 別れの挨拶を交わし、イーニアに見送られながらイーニアの執務室を後にした。


気付いたら前回から一か月たってしまいました。

かいていたら思った以上にかいてしまい、次回こそこの話のメインです。

頑張って早く投稿できるよう頑張ります。

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