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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
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1-2-5 死体漁り屋≪スカベンジャー≫5

お待たせしました。

 次の日、アズリーは屋根裏部屋で作業をしていた。

 相手はセレストのお店から運んできた、大量の資料。

 束ごとに纏めた資料を荷箱から取り出し、区分けされた棚に収めていく。

 熟れた手つきで資料を片付けていくが、荷箱の中身はなかなか減らない。

 時折休息を挟みつつ、一つ一つ間違いがないように、片付けていった。




 太陽が頂点に近づいた頃、室内にジリリリッ、と音が鳴り響く。

 アズリーは手を止め、音を発した存在に近づいていった。

 音を発した正体は、屋根裏部屋の中央に鎮座する、無骨な大型の魔導具、通信機だった。



 天井まで届くこの魔導具は遠距離との交信を可能とした、非常に革新的なものだった。

 開発された当初からいくつか改良を重ねたものの、人工魔法石を大量に使い、さらに刻印魔法を幾重にも刻むことには変わりなく、非常に高価な魔導具の一つであった。

 そのため購入しているのは、国庫から多額のお金が割り当てられる軍や、大陸を股に駆ける大商人、経済的な余裕のある大貴族などであった。

 そんな非常に高価ではあるが、遠距離まで音を伝達できる能力この魔導具に値段以上の価値を見出したのが、帝国の酒場の組合だった。

 以前から冒険者の集まる場所として、互助システムを構築していた酒場の組合は、この魔導具を規模の大きい町の酒場から順次導入し、互助システムを発展させていった。

 そして今では多くの人々が利用し、なくてはならない組織まで発展させていった。


 今、アズリーが所有している通信機は二台。

 いずれもセレストの酒場が経年劣化による買い替えを行った際に買い取ったものを、ディー博士に修理・()()してもらったものを使っていた。

 そのうちの一台は、アズリーの目の前にあり、もう一台はセレストのお店の隠し部屋に設置してある。



 今なっているベルは、通信が来たことを告げるものだった。

 相手はもちろん、セレストのお店にいるルルだ。


「もしもし、アズリーよ。」

「主様、無事到着なさったのですね。よかったです。」


 アズリーがマイクに向かって言葉を出すと、平坦な口調のルルの声が聞こえた。


「さっそくだけど、報告お願い。」


 この通信の目的である、報告をするよう促した。


「はい、まずは…。」


 ルルは酒場の情報、お店に来た依頼者の依頼内容など、様々な内容を手元の資料を確認しながら、淡々と読み上げていく。

 アズリーは報告の区切り区切りに指示を与えていった。

 お店に関わる情報のやり取りを終えると、町の様子やダイダやレイアの話など世間的な情報も交わしていく。


「…私からは以上となります。」

「ありがとう。そうね、こちらからは特にないわ。」


 昨日この拠点に到着し、特に報告することも必要なものもないため、アズリーは簡潔に報告を済ます。


「わかりました。酒場の対応は指示の通りにいたします。それでは失礼します。」


 アズリーがその言葉を聞き終えると、終了のボタンを押した。

 ブツンと音が聞こえ、通信機から音が聞こえなくなった。

 アズリーはメモした資料を分類ごとに分け、棚に収めていく。

 そして、通話前にしていた作業に戻った。




 昼食をとった後も、アズリーは資料の片づけを続けた。

 そして日が傾き始める前に全ての資料が片付けられ、荷箱は空になった。

 作業がようやく終わり、アズリーは背筋を伸ばしていた。

 その時、リリリッ、リリリッ、とルルからの通信があった時とは違うベルの音が通信機から発せられた。

 その音を聞き、アズリーは顔をしかめて、通信機の近くにある机に向かった。

 そこにはアズリーが見た中で一番詳細な地図が敷かれていた。

 その上に駒が一つ置かれていた。



 これはディー博士に通信機を修理した際に改造して追加された機能の一つであった。

 マイオソティスが依頼者に渡すブレスレットが発信する魔素の信号を受け取り、信号の飛んできた方角と強度からどの場所から発信されたのかを推定し、その位置に駒を動かす機能だった。

 駒が指し示す位置は、学園都市アインズリールの西にある、アインズリール平原の南西にある森林を示していた。

 この拠点からこの場所の距離を考えると、小さくない誤差があることがわかる。

 そしてこの信号が届くということは、帝国軍の兵士が戦死したことを指し示していることでもあった。



 この音を聞きつけ、別々で作業をしていた双子も屋根裏部屋に上がってきた。


「アズリー、今回はどうするの。」


 地図を見たキリアがアズリーに訊ねる。

 アズリーは二人が上がってくる前に決めた方針を口に出した。


「クレアと行くわ。キリアはお留守番お願い。」

「わかりました。さっそく準備してきますね。」


 指名されたクレアは元気よく、下に降りていこうとする。

「クレア、待ちなさい。今からは出ないわ。」


 アズリーは小窓から外を見ながら、クレアを引き止める。

 小窓越しに見える太陽は、少しずつ傾き始めていた。

 このまま準備を整えて出発しても、すぐに日が暮れてしまうのは明確だった。


「そうなると…、」


 クレアは何か言いだそうと口をもごもごとさせる。

 だが、キリアがクレアを窘める。


「クレア、このまま出ても日が暮れる前に町には着かないわ。今出て危険な夜の時間に移動するよりも、しっかりと準備して明日の早朝に出るほうが得よ。」


 もう少し考えて行動しなさい。と言葉をつけ足すと、クレアは渋々という表情で引き返した。


「ねぇ、アズリー。これは…。」

「そうね、私も帝国軍の先遣隊とパトロール隊がかち合ったと思うわ。いわゆる合戦の前哨戦ね。」

「私もそう思うわ。」


 キリアとアズリーは地図を見て思ったことを、共有する。

 毎年、合戦の前に情報を入手する先遣隊と、情報を隠したい魔導国の哨戒兵が衝突することが何度も発生していた。

 この発信された位置も、毎年衝突が起きる場所の一つであった。


「何であれ、この時間はついてないわ。」


 アズリーがぼやく。


「嘆いても仕方ないわ。それよりも準備を整えるべきではない?」

「そうね。クレア、準備を始めるわ。キリアもいくつかポーション準備しておいて。」

「分かったわ。」

「はい。」


 三人は手分けして、明日の準備を始めるのだった。

次回はいよいよ戦場になります。

二週間以内に投稿する予定ですが、この2話のメインになりますので遅くなるかもしれません。


1-1-0を大幅に改稿していますので、もしよければもう一度読み直していただけるとありがたいです。

もしかしたら、数日中に1-2-0も一部改稿するかもしれません。


最後に、この作品を気に入りましたら、いいねや高評価お願いします。

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