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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
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1-2-3 死体漁り屋≪スカベンジャー≫3

遅くなりました。

 アルテットの町を出て一時間半、アズリーはクリズノー王国で危険な森林地帯に到着した。

 窪地にあるこの森林地帯は一年中霧が立ち込め、見通しが悪かった。

 さらにこの霧には、人に幻影を見せる力もあった。

 そのため街道から一歩でもそれてしまうと、森から出ることは困難と言われていた。

 人々は幻霧の森と呼び、街道から一歩たりとも外れないように細心の注意を払って、通行していた。


 アズリーは森に入る直前、後ろの木箱からとあるものを取り出し、身に着けていた。

 そして少しでも周りの視界を確保するためにランタンに光を灯し、荷馬車のランタン掛けに掛けた。

 北部の街道はこの森が行軍の邪魔をするため、運搬ルートで一部通行する程度しか利用されていなかった。

 そのため管理が行き届いておらず、街道は少し荒れていた。

 だが街道に一定間隔で建てられている誘導灯には、しっかりと火が灯っており、人々を導く役割をしっかり果たしていた。



 森に入ってから30分ほど歩いた頃、アズリーは一つの誘導灯の前で馬を止めた。

 アズリーは御者台から降りると、誘導灯を確認する。

 その誘導灯にはほかの誘導灯にはない、不思議な文様が深く刻まれていた。

 それを確認すると、森に入る直前に身に着けたものを口元にあてた。

 それは顔の下半分を覆い隠すマスクだった。

 このマスクは普通のマスクと外見も違い、分類上ガスマスクと呼ばれる物だった。

 そして御者台に戻ると、馬に新たな指示を与えた。

 馬はためらう動きを見せたものの、指示された通り街道から外れる方向に歩き始めた。

 もちろん街道の脇には草木が生い茂っている。

 だが、この草木が馬や荷台を傷つけることはなかった。

 物が触れる直前、草木はすぅっと跡形もなく消え、代わりに新たな道が現れた。

 実はこの辺りの草木、この森が生み出した幻影で、この道を隠していたのだった。



 幻影の草木に隠された道を進むと、急に幻影が消えた。

 そして現れたのは透明な花弁を持つ花が咲き乱れる花畑だった。

 霧は少し薄くなり、僅かな日の光が降り注いでいた。

 半透明な花が弱い光の夕日を反射し、きらきらと幻想的な風景を生み出していた。


 この透明の花の名は、夢幻花と呼ばれている、魔訶草だった。

 魔訶草は特殊な環境でしか育たない草で、多くの魔素を有している代わりに、何かしらの力があった。

 薄暗く霧が立ち込めた環境でしか育たない夢幻花の場合、花粉には花の名前の由来でもある、幻覚を見せる効果があった。

 人間が多量に吸い込むと魔素中毒や麻薬中毒を患ったり、数日間幻覚に悩ませたりするなど人体に多大な悪影響があった。

 この森にはこの花畑以外にもいくつも夢幻花の群生地が存在していた。

 窪地という地形も相まって、この森全体に霧が覆い、そして霧には夢幻花の花粉が混ざっていた。

 そのためこの森は訪れたものに幻影を見せる、危険な森となっていた。



 アズリーはマスクをしっかりとつけたまま、花畑の中を突き進んだ。

 しばらく進み夢幻花の花畑を抜けると、また深い霧に包まれた。

 だがすぐに前方が明るくなり、フェンスの影が見えてきた。

 進むたびに霧も晴れてきて、フェンスの輪郭も徐々に見えてきた。

 アズリーの前に現れたのは白木でできたフェンスだった。

 馬を止めてフェンスゲートを開けると、馬の手綱をひいて進んだ。




 フェンスの先には別世界が広がっていた。

 まずドームのように空を覆い隠していた枝葉がない。

 くっきりと見える空から優しい光が降り注ぎ、空間を照らす。

 透き通った小川が道の脇を流れ、池に流れ込む。

 その池には魚が悠々自適に泳いでいる。

 畑には多種多様な植物が植えられ、天から降り注ぐ光と池の水を吸収し、すくすくと成長していた。

 そしてこの空間の主、白木の原木でできたログハウス。

 白土の焼物みたいな純白の外壁に、不純物がほとんどない透明なガラスがはめられた窓、外壁とは真逆の漆黒の屋根。

 それはまるで童話の世界で出てきそうな、かわいさときれいさを兼ね備えた家がどっしりと光の輪の中心に立っていた。



 アズリーは馬を家の前まで進ませ、止めた。

 そして家の玄関を開けた。

 玄関についた鈴の音が辺りに響き、すぐに手前の部屋から一人の女性が現れた。

 中性的な顔つき、蒼色でボーイッシュな髪型、そして一番の特徴の蒼と緋のオッドアイ、そしてメイド服に身に纏っていた。

 彼女はアズリーの姿を見ると、ためらいもなく彼女に飛びついてきた。

 アズリーは彼女をしっかりと受け止めた。


「ヒメさま~、おかえりなさい~。」

「キリア、ただいま。さっそくだけど荷物を降ろすの手伝ってくれない?」

「は~い。ヒメさま。」


 キリアと呼ばれた彼女は名残惜しそうにアズリーに抱き着くのを止め、元気に玄関を出ていった。

 アズリーもすぐに彼女の後を追って、玄関を出た。

 荷馬車の帳を開け、木箱に詰められた荷物を二人で降ろしていく。

 木箱の上部に着色された色ごとに木箱を分類し、あっという間に木箱を降ろし終えた。


「クレア、キリアはどこにいるかしら?」


 荷物を降ろし終え、馬を馬小屋に移動させるために御者台に乗ったキリアに、アズリーはこの家のもう一人の住居人で、荷下ろし中にも現れなかった女性の居場所を訊ねた。


「お姉ちゃんはいつもの部屋に籠っていますよ。」


 クレアは少しぶっきらぼうな声で答えた。


「そう、わかったわ。馬車は任せたわ。」

「了解です!」


 クレアは元気よく返事を返すと、荷馬車を動かした。

 アズリーは家には入らず、家の裏手に回った。



 家の裏手には、いくつかの小屋が立っていた。

 アズリーはその中でも、煙突のある小屋の扉を開けた。

 小屋の中は窓が空いているにも関わらず、鼻を刺すような刺激臭が充満していた。

 アズリーは慌てて霧の中に入る時につけていたマスクで鼻と口を覆った。

 そして臭いの元である、大釜のある場所を見た。

 そこにはアズリーと同じマスクをつけた女性がいた。

 キリアの双子の姉、キリアだ。

 彼女は双子ということもあって、クレアに非常に似ていた。

 蒼色の髪で緋と蒼のオッドアイ、中性的な顔つき。

 だが髪はクレアよりも少し長く、目つきも鋭く感じる。

 そのため全体の印象は、少しトゲトゲとした雰囲気がしていた。

 そんな彼女はアズリーが後ろにいることに気づかず、黙々と目の前の大釜をかき混ぜていた。

 その一つ一つの動作に魔力が込められていて、作業に全てのリソースを振っているようだった。

 アズリーは声をかけず、そっとキリアの動きを見守った。



 数分後、全ての工程が終わり、キリアは火を止めた。

 そして釜の中の薬液を少量試験管に注ぎこみ光を照らすと、爽やかな水色のポーションが鮮やかに煌めいた。

 その反応を見て、キリアは満面の笑みを浮かべた。

 そして小躍りするように空瓶を保管している戸棚に向かおうとした。

 そこでようやくアズリーの存在に気が付いた。


「ア、アズリー、いつからそこに?」


 先ほどまでの笑顔は消え、鋭い目つきでアズリーを睨みつけていた。

 だがその頬は少し赤く染まっていて、照れ隠しだとアズリーは気づいていた。


「少し前よ。いつもの取りに来たの。」


 アズリーは簡潔に答えた。


「そ、そう。なら取ったら早く出ていって。」


 キリアの怒声のような言葉を聞き流しつつ、薬品棚のある小部屋に入った。

 そこには大小色とりどりのポーション瓶が陳列されていた。

 その中から淡く白く輝いているポーションを一瓶取り出した。

 しっかりとラベルを確認すると、腰のポーチにしまった。

 アズリーが小部屋を出ると、キリアは出来上がったポーションを瓶に移していた。


「玄関に運んできた荷物があるから、クレアと一緒に整理お願いね。」

「わかりました!」


 アズリーが錬金小屋から出ていく時、キリアに声をかけると、先ほどと同じような口調で返事を返してきた。

 小さなころから変わらない態度に自然と笑みをこぼしながら、アズリーは家に入っていった。


できれば来週に投稿します。

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