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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
12/26

1-2-1 死体漁り屋≪スカベンジャー≫1

少し遅くなりました。

その分いつもより長いです。

 晴天の下、アズリーは荷馬車の御者台に座り、街道を北上していた。

 左手には大河がゆっくりと流れ、右手奥には旧クリズノー王国の西部と中央を隔てる西クリズノー山脈がはっきりと見える。

 街道沿いにある村は多くの人が農作業や家事をこなしていた。

 作業する村人たちに笑顔があり、活力に満ち溢れていた。




 ダイダとレイヤがお店に訊ねてきた日から、一週間が経過していた。

 その後も毎日町に出て、お店で買い物したり、教会に行ったりと、忙しくも平穏な日々を過ごした。

 そんな日々に暫しの別れを告げ、前線の近くにある拠点に向かっていた。




 町を出発してから1時間。

 北に伸びる街道は帝国軍が綺麗に整備し、また最近雨も少なかったため、ぬかるみもなかった。

 馬が引く荷台には、食料や武具などが入った荷箱がいくつも積まれていた。

 だが補助魔導具を装着した馬は荷馬車の重さをまるで感じさせず、軽やかに歩んでいた。


 前線に近い拠点に向かっているアズリーだが、その前に寄る場所があった。

 セレストの町を出て、最初の森に差し掛かった。

 アズリーは街道からはずれ、僅かに轍の痕が残る脇道に馬を進めた。

 ガタガタと荷台が揺れ、荷箱が音を立てた。



 ガタガタの整備されていない道をしばらく進むと、建物が現れた。

 門は赤く錆び、塀は至る所で崩れ、庭の草木は荒れていた。

 建物の壁は苔や蔦で覆い隠され、多くのガラスはひび割れていた。

 誰も住んでいなそうな廃墟だが、よく見ると人が居る痕跡がいくつも残っていた。

 まず荒れた庭の中に獣道のように草木が踏み倒されている箇所があった。

 また、庭の中には対魔獣用の罠がいくつも仕掛けられていた。

 そして建物の一階部分にあたる箇所の窓ガラスの一部が、新品なものに取り換えられていた。



 アズリーは門の前で馬を止めた。

 御者台から降りると、荷台から一つの木箱を運び出す。

 そしてその荷箱を持って門を押し開け、玄関のベルを鳴らす。

 錆びた金属音が扉越しに聞こえ、中がバタバタ騒ぎ出した。

 アズリーは屋敷の住人が現れるのを待たずして、所々傷んだ扉を押し開けた。


 屋敷の中はかすかに明かりが灯っており、廊下の一部を照らし出していた。

 廊下の床は一部が傷んでいるものの、生活するうえで問題はなかった。

 ただ、その廊下にはたくさんの道具が無造作に転がっていた。

 全て壊れた魔導具だ。

 そしてその隣には無数の部品が溢れた箱が何個も置かれていた。


 アズリーは運んでいた箱を玄関に置いていると、先ほどから迫ってきていたバタバタという音が大きくなってきた。

 音とともに廊下の奥から現れたのは、背の低い少女だった。

 丸眼鏡に愛嬌のある顔だが、ボサボサの髪の毛と目元にうかぶくまが、それらを台無しにしていた。


「アズリーさん、お待たせしふぎゃ。」


 ダボダボの白衣を半ば引きずるように現れた彼女は、アズリーの目の前でドテッと壮大にこけた。

 すぐに体を起こすと「あいたぁ~」とぶつけて真っ赤になった顔をさすり、「眼鏡どこ~?」と手で眼鏡を探し始めた。

 アズリーは転んだ拍子に近くまで飛んできた眼鏡を拾い、彼女に渡した。


「あ、アズリーさん、おはようです~。」


 照れ笑いをしながら少女は挨拶する。


「もう昼過ぎですよ、エイリさん。」


 アズリーは白衣を着た少女、エイリの言葉に苦笑いして声をかける。


「そうですか~。」

「食料の箱、玄関に置いておきました。」


 アズリーは先ほど置いた荷箱を指さす。


「いつもありがとうです~。」

「いえ、そういう契約ですので、気にしなくていいですよ。」

「はい~、魔道具の調整は終わってるのですよ~。」

「ありがとうございます。博士はどちらにいますか?」

「いつもの部屋で寝てますよ~。」


 エイリはアズリーの質問に答えながら、アズリーが持ってきた荷箱に手をかける。

 小さく華奢な体つきにもかかわらず、食料が詰まった箱を軽々持ち上げた。

 そして食糧庫にしている部屋のある廊下に消えていった。

 アズリーは廊下に転がっている魔導具や部品を踏まないように慎重に、博士の寝ている部屋に向かった。




 廊下を進むごとに廊下に散らばる魔導具や部品の量は多くなっていった。

 廊下に転がっている魔導具のうち、一部はアズリーが見たこともない、もしくは知っているが一部が改造されているものだ。

 その魔導具や部品の海の根源である部屋が現れた。

 ドアは外され、僅かな足場しかない入口を必死に渡ると、そこには鋼鉄の机と数々の道具がラックに立てかけられていた。

 鋼鉄の机には普段魔導具が置かれているはずだが、今は一人の人物がよだれを垂らし、むにゃむにゃと寝言を立てて寝ていた。

 その人物の外見は普通の人と違っていた。

 まず、耳の位置が頭の上にあり、魔獣の耳をしていた。

 そしてお尻の辺りから、白衣を押しのけてしっぽが生えていた。

 彼はいわゆる一般的に魔族と呼ばれている種族だった。



「ディー博士、起きてください。」


 アズリーは彼の体を揺さぶりながら、声をかける。

 するとディー博士は「うにゃ~」と声がもらし、目を細く開く。



 わずかに開かれた瞳孔は小型魔獣の一部にみられる瞳孔と類似したものだった。

 彼は霊猫族(れいびょうぞく)と呼ばれる種族で、霊猫族は魔族の中でも例外的な種族だった。

 魔族に分類される種族はそれぞれ独自の特異な能力を有しており、霊猫族は鑑定の魔眼を持っていた。

 鑑定の魔眼とはその名の通り、見たものの価値や能力を判別する能力だった。

 もちろん人それぞれに能力の差があり、貴金属の判別ができる人や他人の能力の判別ができる人など、多種多様なものを鑑定することができた。

 そのため霊猫族は古くから多くの国で認められていた。

 帝国内でも自身の能力の証明書さえあれば、その能力を生かした職種につくことができた。


 ディー博士の保有している鑑定の魔眼は、魔素の流れを判別するものだった。

 ディー博士はその力と日々の努力によって、多くの魔導具を発明し、世の中に発表してきた。

 そしてその実績が認められ、帝国にある魔法大学の客員教授を務めている…のだが、今は何故かこの古びた館に移り住み、日々魔導具の開発を助手のエイリと一緒にしていた。

 アズリーが以前ディー博士から聞いた話では、周りの期待やそれを上回るほどの嫉妬、魔族に対する嫌悪などが原因で、集中して開発に臨める環境ではなかったということだった。


 アズリーはある事件をきっかけにディー博士と出会い、今はアズリーが使う魔導具の手入れや製作を依頼する代わりに、戦場で廃棄された、または戦死した兵士が持っていた魔導具を届けることと、食料品の配達を対価として契約を交わしていた。

 エイリが受け取った食料が詰まった荷箱もこの契約の対価だった。



 しばらくアズリーが声をかけ続けると、観念したのかディー博士は背伸びをして起き上がった。

 そして、起きたばかりとは思えないような身軽な動きで机の上から降りた。


「アー君、おはよう。」


 先ほど寝ていた人物とは思えないような、鷹揚(おうよう)な態度で挨拶をディー博士は挨拶をした。


「博士、おはようございます。一応言っておきますが今は昼です。そして何度も言っていますが、作業机は寝るところではありませんよ。」

「ああ、知っているとも。ただ、机はヒンヤリしていて気持ちいいのだ。」


 アズリーが小言をこぼすも、まったく気にする様子もなく、ディー博士は近くの魔導具の山に近づく。

 ゴソゴソと山をかき分け、そして一つの木箱を取り出した。


「はい、完璧に調整しておいた。」


 アズリーはディー博士に渡された箱を開け、中身を確認する。

 そこにはいくつもの魔導具が、きれいに整頓されてしまわれていた。

 アズリーはひとつずつ取り出し、魔導具の状態を確認する。

 どれも新品同様な状態まで整備されていて、アズリーが軽く魔素を通すと、素直な反応が返ってきた。


「博士、毎度ありがとうございます。」

「構わないさ。ただアー君、君はどんな無茶をこなしているのかね。しっかりと手入れくれているのは見て取れるが、魔導具の限界ギリギリまで酷使するのは、魔導具を製作するものとしては…警告せざるを得ないな。」


 ディー博士が告げると、アズリーはそっと頬をかいた。


「もしもっといい性能の物が欲しければ、私の研究に付き合いたまえ。私が直々に作ってあげようではないか。」

「いえ、遠慮しておきます…。」


 アズリーは木箱の箱を閉め、持ち上げるとスススッと逃げるように部屋の入口に移動した。

 過去に彼の研究に付き合って大変な目にあったことを、今でも鮮明に覚えていた。


「そうか…それは残念だ。」


 ディー博士は肩をすくめた。


「それでは、私はこれで失礼します。」

「ああ、お土産を楽しみにしているぞ。」


 アズリーは来た時と同じように、地面に散らかった物を踏まないように部屋を出ていった。

 玄関に向かう道中、さっそく持ってきた食料で作った料理を博士の下に運ぶエイリとも別れの挨拶を交わし、そのまま館を後にしたのだった。


明日も投稿します。

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