1-2-0 泡沫の想い出『魔獣について②』
予定通りに投稿できなくてすみません…
少女の影が本を開く。
本のページがめくるたびに近くのろうそくの灯がふわふわと揺れる。
それに合わせて二人の影もゆらゆらと揺れた。
少女が開いた場所は、グール種について書かれたページだった。
最初のページにはグールの絵が描かれていた。
一切毛がない頭。
虚のような眼孔。
とってつけたような耳鼻。
大きく裂けた口。
獰猛で不釣合いな牙。
血の代わりに魔素が循環した灰色の体。
異常に発達した腕足。
鋭く尖った爪。
そして所々赤黒く不気味に彩る傷跡。
どれをとっても醜く、絵ですら不快感を催す怪物。
これがグールだった。
少女がページをめくるとグールの生態や研究が書かれていた。
グールは 多くの生態が 未だに分かっていない
どこに住み どのように繁殖するのか 不明である
唯一分かっていることは 死んだ生物を 食べるということだけだ
奴らは死体がある場所に どこからともなく現れる
死体を食べることにより 不活性化した魔素を 体内へ取り込み 自らのエネルギーにする
ただそれだけのみ わかっている
~中略~
グールの起源は 多くの研究者が 様々な説を 唱えている
死んだ人間を 生き返らようと 試みた結果 生まれたという説
古代の人間が 神を模した生物を 創造した結果
逆に人類の 敵として 神が創造した 人間と同等の生物
この世界に 魔素が生まれた時から 存在する生物
だがどの説も 根拠も 証拠も 論拠も 存在しない
~以下略~
少女の影が一通り読み終え、本から視線を外す。
手持無沙汰に机に腰掛けていた、女性の影が口を開く。
「奴らの対処法は、一番は攻撃しないことだ。奴らは死骸にしか興味を示さない。普段はこちらから攻撃しなければ、奴らも攻撃してくることはまずないだろう。だが、死骸が付近に存在する場合、このことは当てはまらない。自身の獲物を手に入れるべく、襲い掛かってくるだろう。
奴らの攻撃手段は、異常発達した鉤爪だ。グールの魔獣特性である硬化で相手の攻撃を防ぎ、鋭い鉤爪で戦う。
そんなグールだが、奴らには知能がない。一体だけなら、多少武芸を齧った村人ですら倒すことができるだろう。
しかし、奴らの危険な点は攻撃手段ではない。
奴らは多くの場合、群れで現れる。いや、群れという表現は正しくないな。死骸に集まる習性により、ほとんどの事象において、一斉に現れるという表現が正しい。そして時間が経てば経つほど、そして死体の数が多ければ多いほど、集まる数は増していく。
もし多数のグールに包囲されてしまえば、熟練の狩人でも討伐には困難を極める。
その状況下に陥らないためにも、第一に死骸のそばに近づかない。第二に死骸を素早く処置する必要がある。」
「死体にはよっぽどのことがなければ、近づくなということですか。」
「そうだ。このことはこの他の魔獣の対策にもつながる行動だ。何れか解体術を教えるが、素早い解体術は身を守るためでもあるのだ。
そろそろ時間だな。明日は今日取り上げなかった一般的な魔獣について行う。今日教えたことは忘れないように。」
「はい師匠。」
少女の影は大きな本を閉じ、元の場所に戻すために本をもって席を立つ。
その小さな後ろ姿を、女性は優しい眼差しで見守っていた。
今週あと一話投稿するかもしれません