喫茶める
ここは場末の
喫茶店『める』
来る客はみな
くずばかり
ってわけじゃないけど、喫茶店を場末で営んでる。
私の方が後からなのに、喫茶店の名前からか、めるちゃんと呼ばれたりしている。
そんな私の日常である喫茶店の開店をして、客が来るのを朝ごはんを食べながら待つ。
一応、こんな店だけど、地域の人が食事をしたり、井戸端会議をする場所に使ってくれる程度には利用されていたりする。
そんなお店だけど、時々、ちょっと変わった人が来るのは事実。
今も、テーブル席でホットコーヒーを見つめているスーツ姿の男性がいる。
かれこれ、数十分はそうやっているように見える。
コーヒーは冷め切っているだろうなと、心配になる。
せっかく美味しい物を美味しいタイミングで飲めるようにしてあるのになと、思わなくもない。
「せっかくのコーヒーが冷めてしまいますよ」
たまらず、声をかけてしまった。
娘から散々、変な人には声をかけないでねと、言われたことを思い出したが、もう遅い。
「あー、すみません。ちょっと、考え事をしていたもので」
と言いつつも、コーヒーに軽く口をつけただけでカップを戻す。
「今日は、朝ごはんは?」
「いえ、ここのところ、食欲がなくて」
私はサッと調理場へ戻り、モーニングセットを用意する。
慣れた作業だから、ものの数分で作業は終わる。
それをスーツの男性のところに持っていく。
戸惑った表情でこちらを見る。慣れているその視線を笑顔で返す。
「それを食べて、元気になりましょうよ。空腹だと、良い考えを思いつくことができませんから」
でも、彼は戸惑っている。
「おい、そこの兄ちゃん。折角、めるちゃんが出してくれた料理だ。食いなよ」
鈴木のおじいちゃんである。モーニングセットを食べに来てくれるご近所さんだ。
「でも、私、頼んでないですし、それに、お金が」
「今回は、サービスです。次もこの喫茶めるを利用して欲しいですからね」
ホッとしたのか、男性は黙々とモーニングセットを食べる。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
気分転換できたのか、彼の顔色が少し良くなった気がする。
「最近、こっちに転勤して来たんですけどね」
彼は、ポツリポツリと自分の状況を話し始めた。
「色々と頑張って来たとは思うんですが、段々、会社が嫌になってしまいましてね」
「そんなに大変なお仕事なんですか?」
鈴木のおじいちゃんは、最近の若いものは云々、我慢が何たらとぼやいているが、キッと睨みをきかせて黙らせる。
「左遷みたいな感じでこっちに飛ばされたみたいで、ですね。居場所がないっていうか、何と言ったら良いのか」
うんうんとうなずく。
「なるほど、大変でしたね」
邪魔をしないように反応する。
「こんな店に出会えたんだから、転勤も悪くなかったのかなって思えてきました」
男性が少し笑顔になったみたいで、嬉しくなった。
「ありがとうございます」
と返事をする。
「今度は普通の客として来ます」
晴々とした表情で男性は帰っていく。
「鈴木のおじいちゃんはいつも通りのお値段ですからね。無料のサービスはしませんよ」
コッソリ出て行こうとする鈴木のおじいちゃんにしっかりと釘を刺す。
こうして、男性は帰っていった。
そんな人がたくさん来たりするから、あまりこの喫茶店の売り上げは上がらないんだよなぁとか、いろいろと後で後悔することがあるけど。
でも、それはそれ!っていう気分で切り替えている。
数週間後、私の表情を見た、娘のういが閉店作業中に話しかけてきた。
「お母さん、何か良いことあった?」
「ん?あ、先日来たお客さんでね……」
こういう事があるから、私はこの喫茶店を続けているんだろうなと、改めて思う。
そんな私のニヤニヤした表情を見たからなのか
「良い男性でも見つかったの?」
と聞いてくるのも、お約束になりつつある。
「そんなことないって」
「あ、お母さん、また……」
ペロっと舌を出しながらごまかす。
私の店が誰かの人生のほんのわずかな部分に含まれているならありがたいなと思いながら、店仕舞いの手を早めた。
久々に書いてみたので駄文になっているかもしれません。
これから、徐々に小説を書いていこうかなと思っています。