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第拾伍話 我こそは 六〇〇の技 持ちし者

「ごめん!」


「ぴぎゅっ!」


 蒼い閃光を纏った直剣の横薙ぎが角ウサギ(アルミラージ)の角を断つ。角を失くした角ウサギは一目散に茂みの奥へと逃げていく。


「おや? 倒しませんのよ?」


「レベル的にも素材的にもあまりおいしくないからね。スキルの試し撃ちができればそれで充分」


 半分本当のことをさも全てであるかのように宣いつつ地面に落っこちたアルミラージの角を拾い上げポーチにしまう。


「さあ来いさあ来い! 出来ればゴブリン! 次点でイノシシ!」


「本音が漏れてますのよ……」


「いや、だってさあ……」


 いくらゲームでも可愛い動物の姿をしたのを狩るのは心が痛むの。いや、どうせやってくうちに慣れてくるんだろうけどそれは今じゃないから。


 そんなことを胸中に、右手の直剣と左手の盾を叩き合わせて誘引スキルを発動。


 茂みを掻き分け出現したのは……



~~~15分前~~~


「あら? 零門様、まだ集合時間には早いですのよ?」


 集合時間の30分前にログインしてきた私に対し、ライムは目を丸くする。


「まあ、そうなんだけどね。向こうでやることが案外なかったっていうか……」


 色々情報の収集は試みたけど、ほとんど役に立ちそうになかった。それならこっちの方で情報を収集するなり、実際にモンスターと戦って練習するなりした方が良いと思い至ったのだ。なにせ、私は自由に使える時間が多い。


「まあ、約束の時間までにやれることをやっておこう! ってね」


「何をしますのよ?」


「練習」


 というわけで現状確認。


「ねえライム、私が覚えてるスキル全部をウィンドウ式で表示してくれる?」


「承知ですのよ! ローディンローディン……出ましたのよ!」


 目の前に表示されたウィンドウに書かれてあるのは自分が習得しているスキルの一覧。ウィンドウの下から上まで思いっきりフリック。下から上へと高速で流れていく文字列を感覚で数えていく。


「50…100……200? …………400!? ………………止まった。……ざっと数えて650から660の間くらいかな?」


「凄いですのよ! 正解は655個ですのよ!」


「多すぎでしょ……扱いきれる気がしないんだけど?」


「655個のスキル全てを使う必要はありませんのよ。それに“優先度設定(スキルセット)”がありますのよ!」


「優先度設定?」


「戦闘時or非戦闘時、残りHPや残りMP、使用武器種といった条件毎にスロットを割り当て、1スロット毎に優先して使いたいスキルを最大30個設定できますのよ。」


「要するにスキルのマイセット的なのが複数組めるわけね。『ナイフ装備時用のスキルセット』とか『刀装備時用のスキルセット』って感じ?」


「その通りですのよ! 設定したスキルはシチュエーションに合わせて優先的に零門様の()()()()()()()()()()ようになりますのよ」


「なるほど……」


 ターン制ならともかくリアルタイムアクションで無駄に多い選択肢はデメリットしかない。およそ700個の選択肢を30個以下に減らせるならなかなかに便利な機能だ。


「それじゃ、スキルの選定がてら外に出ようか!」



~~~そして現在~~~


「ガアァァァッ!」


「くまあああっった!」


 飛び退くように熊型モンスター「ローグベア」の前足攻撃を回避する。


「背後! 先に戦ってた1匹がいますのよ!」


「わかってる!」


 もう1匹のローグベアのベアバッグをバク宙で回避しつつ、その無防備な背中に一撃加える。攻防一体の回転切りスキル「スラッシュフリップ」。今回はうまく機能したけど使えるシチュ限られすぎ! 保留!


 ついでにこちらへと振り向こうとするローグベアの脇腹に3連突き! 傷口から噴き出すのは炎・氷・雷! 異なる3種のエフェクト。その名も「トライエレメンツ・スラスト」


「属性の効き具合を様子見する分には便利そうね……でも弱点探ったらそれでお役御免だしなぁ……」


「斥候用のスキルセットを組むのも一種の手段ですのよ」


「なるほど。それ採用!」



 今、私がやっていること。それはスキルの選考だ。


 とりあえず使えそうなスキルや面白そうなスキルを、お試し用のスキルセットに選択。実際に実戦で運用してみて気に入れば正式なスキルセットに加える。


 とはいえ、覚えているスキルの数も膨大だし、設定するスキルセットの数自体も膨大だから困る。

 扱う武器種のスキルセットだけでも「短剣」「長剣」「大剣」「細剣」「刀」「槍」「薙刀」「棍」「斧」「ハンマー」「紐」「爪」「盾」「拳」etc……

 単にその武器攻撃のスキルだけを選べば済むって話でもない。それぞれの武器の立ち回り方に合った「ステータス強化」「機動力強化」「回避・防御」「回復」etc……のスキルも盛り込んで設定していかなきならないわけで……


「あ~! 頭こんがらがる……!」


 とはいえこれからこのゲームをやっていく以上は、スキルのカスタマイズは避けられない事項。集合時間までにできる限り把握しておきたい。


「ふぅ~~……集中よ……集中……」


 実はこう見えて結構ピンチだったりする。目の前にいるローグベアはこのエリアの中でも屈指の強モンスター(あの乱入イノシシは除く)。それを2頭同時に相手せねばならないのだ。


「零門様! 後ろですのよ!」


「承知っ!」


 右後方から迫りくるローグベアの薙ぎ払い。それを倒れ込むように躱しつつ左手から短剣を放し、接地した左手を軸に右脚で蹴りを繰り出す。


「アウーバチドゥだっけ? ベイジャフロールの方が響きは好きだけど」


 左の短剣が落ち切る前に右手で回収! 蹴りの反動で体勢復帰! もう片方が近寄ってこないよう魔法で牽制しつつ、弱っている方が体勢を立て直す前にありったけのスキルを叩き込み一頭を処理する。

 

「あうーばちどぅ? べいじゃふろーる? そんなスキルはありませんのよ?」


「技は技でも技術の話! ところでスキルって重ね撃ちできる?」


「動作や条件が一致してるのであれば可能ですのよ」


「途中で武器変更してもOK?」


「スキルに武器の指定が無ければ大丈夫ですのよ!」


「了解!」


 お喋りしてる間にももう一頭のローグベアが目の前に立ち塞がる。こちらはほぼ無傷の状態。


「それじゃ、やりたい事、試したい事優先ってことで……ね?」


 視界に表示されるスキルの発動指示。それはカウントダウンと敵の胸に記された7つの光点。


「アルカイド、ミザール、アリオト」


 右手の短剣で三太刀。それと並行して左手側にも短剣を展開!


「ドゥベ、メラク、フェクダ」


 左右左と交互に3連突き。それは先ほども試した「トライエレメント・スラスト」。さらに両手の装備を解除し代わりに槍を展開!


「メグレズ」


 逆手に持った槍を大きく振りかぶりローグベアの胸に突き刺す。槍専用の刺突兼投擲スキル「ビーストベイン」

 さらに指定の7か所への攻撃を制限時間内に達成したことにより発動する大技「セプテントリオン」


 噴出する炎氷雷、穿つような一閃、そして眩い7つの光。計11個のエフェクトが胸に炸裂し、ローグベアは唸り声をあげながら倒れ伏した。


「はい、一丁上がりっと……『セプテントリオン』は結構使えるわね……」


「7回攻撃を当てないといけない難しいスキルなのに零門様はすごいですのよ!」


 正直、こういうことを褒めてもらえるのは悪い気がしない。心なしか肩を少しそびやかしてるような気もする。自制……自制……


「ところで途中の掛け声は何だったんですのよ……? スキルの発動条件に掛け声は関係ありませんのよ?」


「……えーとぉ……ば、場所の確認……的な?」


「なるほどですのよ! やっぱり零門様はすごいですのよ!」


 正直、こういうことには触れてほしくないんだよ? ライム……うぅ、心なしか顔が熱い気がする。自省……自省……



「さ、さて! 次のモンスターも呼ばないとね! もう一回誘引使うよ! 次最後にするから! 次終わったら集合場所いくから!」


 何かを誤魔化すがごとく槍を旗のように振り回す。次に茂みから姿を出したのはゴブリン……


「零門様! 要注意ですのよ! あのゴブリン、早速仲間を呼ぼうとしてますのよ!」


「させるか!」


 「ビーストベイン」でゴブリンに向けて槍を投擲する……が、その狙いは見事に外れて槍はゴブリンの真横の地面に突き刺さった。直後、周囲の茂みがあちこちでガサガサと揺れ動き始めた。


「あ……」


「仲間を呼びましたのよ~! しかもたくさん来ちゃいましたのよ~~~!」


 ゴブリンの仲間呼びは大体1~2体、多くて3体だという。だが「何かしらの要因でモンスターとの遭遇率がアップ」してる状態だとごく稀に10匹近くが一度にやってくるという……


「これって『出来損ない』の補正のせいかな……?」


「そのとおりですのよ……」


 モンスターからのヘイトが上がるとはあったけど、まさか遭遇率にも干渉するってわけ……!?

 私を取り囲むのは11体のゴブリン。作品が作品なら色んな意味で死亡フラグな状況……いや、このゲームはそういうジャンルじゃないから大丈夫だけどさぁ……


「ゴブリンに殺されるのだけはごめんだからね……」


 とはいえどうする? 今の私は実質レベル1状態。魔法で薙ぎ払おうにも威力もMPも足りてない。スキルで攻撃しても他のゴブリンに袋叩きにされるのが目に見えてる。逃げようにも包囲されてる状態だと厳しい。だとすれば……


「ねえライム……あのゲージ技的なのって使える?」


 ライムからの答えはYes。ならちょうどいい機会だ。この際使わせてもらおう……!


「コーリングバースト―――」






「こ、これはひどい……」


 素材すらも残さないまま塵殺されたゴブリンたちの残骸を見下ろしながら、私はそう呻くのだった。

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