第六回
そんなこんなで僕は君に言われた通り、ニケを連れて部屋を出た。もちろん出るとき周りに人がいないか確認してね。
ニケは気まぐれな所のある猫にしては珍しく、従順でそのときも静かにしててくれた。因みにニケには、見つからないよう大きめのリュックに入ってもらったんだ。リュックの中はニケだけだから、そこまで苦しくもなかったろうけど、僕は何となく胸が痛んだ。
「ごめんな。もうちょっとの辛抱だから」
ニケは健気にもじっと沈黙を守っていた。
僕は自転車で君との待ち合わせ場所に向かった。君はもう来て、待っていたね。
「ごめんね、待った?」
「うん、一時間くらい」
お決まりの会話文が形成されるのかと思いきや、予想外の展開に思わず絶句する僕を見て、君はおかしそうに笑ったね。
「うそ。ホントは十分くらい」
それから君はニケのことを口にしたね。ニケは嬉しそうにリュックの中から顔をのぞかせて喉を鳴らした。もしかしてニケは僕より君に懐いているのでは、とそのとき僕は思ったんだ。
ニケの嬉しそうな鳴き声、君の慈愛溢れる眼差し……、それを見ている僕は幸福そのものだった。ちょっとだけニケに嫉妬する気持ちがあったのも事実だけど、猫に対抗心燃やしても仕方ないと、その気持ちをうまく水路変更することができた。
君と出会ったころに比べれば、ちょとした進歩だと思うのだけど、どうかな。あのときは本に嫉妬心を燃やしてたくらいだからね。
僕たちはペットOKのファミレスに入った。そういう店は、なかなか無いから割と簡単に見つけられたのは幸運だった。
君はカルボナーラを、僕はハンバーグを注文した。
「よくそんなくどいものが食べられるのね」
「うん、まあ、お腹減ってるから、さ」
ふぅん、と君は途中で興味が遠退いたみたいにケータイをいじりながら言ったね。
会話が途切れた。