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第三回

 そのとき君は唖然とした表情を浮かべていたね、無理もないことだけど。僕は口に出して提案したとたん、どうしても二人で仔猫を飼いたくなったんだ。だから一層の熱を籠めて君の説得に乗り出した。

「でも、どうやって世話をするの? わたしの家はダメよ。ペット禁止のアパートだから」

「それじゃ、ここで」

 僕はますます自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。何となく熱意だけが空回りしてしまっているような気がした。そして君は一層困惑してしまっていたね。当然といえば当然のことだけど。

「やっぱり、無理、かなぁ」

「うん、ちょっと……」

「でも僕んちもペット禁止なんだ」

 君は一体何に驚いたのか、目を丸くして言ったね、一人暮らし? と。僕は頷いた。

「そうなんだぁ。わたしもそう。一緒ね」

 それから仔猫の話題はどこへやら、僕たちの間で、一人暮らし、自炊についてのことが話題に上った。憧れの君と打ち解けて話せている、そう思うと僕は天にも昇る気持ちだったんだ。まして君が僕と似たような境遇にあると知ったのでは。

 君は仔猫をしきりに撫でまわしながら話していたね。

「そういえば、お互いの自己紹介がまだだったわね。わたし、細川恵っていうの。よろしくね」

「僕は明智孝」

 程よく打ち解けてきたところで自己紹介になったね。

「なんか戦国時代の細川忠興夫妻みたいだね」

 僕が笑いながら言うと君も笑顔を返してくれた。

「知ってる。たしか細川ガラシャ夫人よね」

「知ってたんだ」

「うん、高校生のときに三浦綾子の『細川ガラシャ夫人』、読んだことあるから」

 君が読書好きだったということに、僕は改めて思いを至らされた。僕は君ほど読書が好きじゃなかったけど、幸い歴史は好きだったから君の言った本は読んだことがあった。

 それからしばらくは『細川がラシャ夫人』の話になったね。

「わたし、あの本を読んで明智光秀っていい人だったんだと思ったんだ。将来結婚するんなら、あんなふうに公正な人と結婚したいなって。……あれ、どうしたの? 顔赤くなってるよ」

 そう言って君は俯いた僕の顔を覗き込んだ。なんだか悪戯な笑みがこぼれていたよね。君は人が悪いと、そんなふうに僕が思ったのも仕方の無いことだったんだ。だって君の話を聞いたとき、何故か分からないけど、なんとなく自分のことを言われているような気がしたのだから。それで顔が赤くなったんだ。それに気づいた僕は一層恥ずかしくなった。こういうのを自意識過剰というのかな。それともナルシスト? ギリシア神話に出てくる美少年ナルシスは水に映る自分の姿に見惚れて水死したって有名だけど、僕もそんな感じだったりするのかな。


 ところで仔猫は僕のアパートで飼うことになった。誰かに見つかれば、そく追い出されるところだったわけだけれど、ちょうどあの部屋にも愛想が尽きかけていたところだったし、むしろそうやって追い出されたら都合がいいかな、なんて能天気なことを考えていたんだ。

「そう、ありがとう。それじゃ、わたしも時々遊びに行くね」

 君の言葉を聞いたとき、僕は心の中でガッツポーズ。もしかしたら仔猫を僕のところで飼うことにしたのは、君を僕の部屋に招いてみたい、という打算も働いていたかもしれない。今から思えば、の話だけど。

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