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前世の私は幸せでした  作者: 米粉
2章
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59 知らない彼

 



「記憶、体調ともに異常なし、と。では、今回の検診は以上です。お疲れ様でした」

「有難うございました」


 膝の上でくつろぐフィグを撫でる手を止め、グレースは軽く頭を下げた。

 今日は、グレースの定期健診の日。

 グレースは屋敷から扉を繋げ、病院の院長室でブラムから問診を受けていた。


「お祭りの時以来ですが、お元気そうで安心しました。皆さんも息災ですか?」

「えぇ、家族全員変わりなく。リヴェル君も、我が家に来た頃より体調を崩す事が少なくなってきました」

「さっき顔を合わせた時も思いましたが、血色も良いし、元気そうでしたね。今日、扉を繋げたのもリヴェルですか?」

「はい。リヴェル君のおかげで楽に病院に来れました。ですが、院長室に直接繋げてしまって良かったんでしょうか? 受付もせず、そのまま検診して頂いてしまって」

「大丈夫ですよ。この後リヴェルの検診もありますし、こちらのほうが秘匿性も保てて大助かりですから」


 本来なら、バートに近くまで扉を繋げて貰って病院へ出向く予定だったのだが、今日はリヴェルが扉を繋げる役を買って出てくれたのだった。

 院長室に直接扉を繋げた時は、ブラムの迷惑になるのではと不安だったが、当のブラムは気にしていないようだ。


「リヴェルはオルストン邸で良い影響を受けているようですね。しばらく、サーリーも現れていないと聞いていますが」

「退院してからは一度も。あの、サーリー君についてなんですが、先生に聞いて頂きたい事がありまして…」


 グレースの神妙な面持ちにブラムは「勿論」と頷き、膝の上でくつろいでいたフィグも耳をピクリっとそばだて、グレースを見上げた。


「是非聞かせて下さい」


 ブラムに促され、グレースは持参していた封筒を差し出した。

 中に入っているのはリズィーが描いたサーリーの似顔絵と、グレースに説明する時に分かりやすく図解してくれたリヴェルとサーリーの魔力の絵だ。

 リズィーの正体は隠しつつ、リズィーが魔眼で視たサーリーとリヴェルの魔力の事、サーリーが魔法を使っているかもしれない事、それによってリヴェルが生かされてきた可能性がある事をグレースは順序だてて説明した。


「マジでこれがサーリーなのか……?」


 全てを話し終え、最初に口を開いたのはフィグだった。

 いつのまにか少年の姿でブラムの座るソファーの肘置きに腰を下ろしていたフィグは、サーリーの似顔絵を見ながら眉間に皺を寄せ呟いた。


「えぇ、確かにそう言っていたわ。褐色肌に黒髪、金眼の男性が視えるって」

「……こいつに今まで振り回されてたのか」


 牙をむき出しにし、睨みつけるように似顔絵を見続けるフィグ。

 しばし睨みつけた後、似顔絵からグレースへと視線を移した。


「というか、本当に信頼できる奴なのか? その魔眼持ち」

「それは……」

「グレースには悪いけどよ、魔眼持ちなんて滅多に出会えるもんじゃないぜ?」


 フィグが疑うのも無理はない。

 魔眼の存在は希少で情報も少ない。魔眼を理由に迫害を受ける可能性もある為に、それを持つ事を公にしないのだとリズィーは言っていた。


「まぁ、気持ち悪いわよね。何を視られてしまうのか、分かったもんじゃないんだもの」


 魔眼についてリズィーが教えてくれた時、諦めたように笑いながら言っていた。

 リズィーという人間を幼い頃から知り、信頼しているグレースとは違い、リズィーの事を知らないフィグからすれば簡単に信じられないというのも分かる。


「信じられないかもしれないけれど、その人は嘘を吐くような人じゃないわ」

「でもなぁ」

「信用できる話だと思いますよ」


 信じきれずにいるフィグにどう伝えるべきか。

 悩むグレースに代わり、口を開いたのはブラムだった。


「普通、 ひと目見ただけで二重人格だとは気付けません。第一、こんな嘘を吐くメリットは無いでしょう。それに、オルストン邸に出入り出来るなら、身元も確かだと思います」

「それもそうか。疑って悪かったな、グレース」

「ううん、大丈夫よ」


 リズィーの話を信じて貰え、グレースは胸を撫で下ろした。

 フィグが手にしていた似顔絵をテーブルに置く一方で、ブラムは魔力の説明を描いた紙をまじまじと見つめ続けている。


「魔眼の存在は知っていましたが、こういう風に魔力が視えるというのは初めて知りました。本当に、実に興味深い」

「先生やフィグのように魔法に長けた人でも、魔力を目にすることは出来ないんですか?」


 人よりも強い魔力を持ち、魔法の扱いに長けた二人ならば視えるのではないか。

 グレースは、純粋な疑問を口にした。

 すると、ブラムは紙からようやっと視線を外し、苦笑しながら首を横に振った。


「魔力を感じる事は出来ても、目にする事は出来ません」

「なんつーか、感覚だよな。この魔力はあいつの魔力だ! とか、こいつ魔力量多いな。とか、俺らは肌で感じてるんだよ。グレースも分かるだろ? 強い魔力を感じた時の鳥肌が立つ感じ」


 フィグに言われ、グレースはリヴェルが病院で魔力暴走を起こした際に感じた感覚を思い出し「確かに」と、呟いた。

 病院の中庭で感じた、ぞわりっと肌が粟立つ感覚を思い出しグレースは思わず腕を擦った。


「でもよー、俺とブラムがリヴェルから感じてた魔力は一つだろ? リヴェルとサーリーで魔力の色が違うなら、感じる魔力も二つになるんじゃないのか?」


 フィグは腕を組み、首を傾げながらブラムに問いかける。


「分かれているのは人格のみで、身体、魂、魔力はあくまでもひとつです。魔眼で視えるのは、魔力の見た目。私とフィグが感じるのは、魔力の質。と、いったところでしょうか」

「見た目は違うけど、味は一緒みたいなことか」

「その例えが合っているのかは分かりませんが……。魔眼で視た前例や資料がないので、憶測ですけどね」


 ブラムは手にしていた紙に視線を戻し「しかし」と、呟いた。


「そうなると、サーリーも魔法を使えるという事に──」

「それはありえない!」


 ブラムの言葉を遮って、フィグが吠える。

 ソファーから落ちそうなほどに身を乗り出して、フィグは続けた。


「リヴェルが言ったんだぞ。サーリーは魔法を使えないって。お前だってその場に居ただろ!」

「それはそうですが……」


 ブラムとフィグは、リヴェルが病院に入院する事になった際、前世の記憶やサーリーについて確認している。リヴェルの答えに、嘘が混じっていない事をフィグは確認済みだ。

 身を乗り出すフィグに、グレースは遠慮がちに口を開いた。


「あの、リヴェル君が嘘をついていた可能性は……」

「ない! 俺の診断は間違ってない!! 大体、サーリーが魔法を使ってたとして、リヴェルが気付かないはず──」

「こら、フィグ」


 グレースに対して声を荒げるフィグをブラムは嗜める。

 その勢いに気圧されたグレースを気遣う様に、ブラムは声をかけた。


「すみません、オルストン嬢。リヴェルが転移症を発症した際の問診で、リヴェルに嘘が無かったことは確かな筈なんです」

「そうなんですね。ごめんなさい、フィグ。疑うような事を言ってしまって……」

「あ、謝るなよ……! 別に怒ってる訳じゃないし、グレースは悪くないっ」


 グレースの謝罪に慌てるフィグの姿に、ブラムは息をついた。


「何にせよ、真実かどうか確かめる必要がありますね。サーリーは魔法を使えるのか。そしてそれが、リヴェルの時を止める魔法なのか。もしそうだったとして、何故その魔法をかけたのか」

「知人が言っていました。サーリー君が魔力を使い続けているおかげで、リヴェル君の身体が今まで耐えてこられたんじゃないかって。リヴェル君を生かすために、サーリー君が魔法を使っている可能性もあるんじゃないでしょうか?」

「無いだろ」

「フィーグー?」


 疑問を持つ余地もなく、間髪入れず即答で答えたフィグの頬をブラムがつねる。


「ふぁって、はーりーらぞ! ありへないらろー!」


 恐らく「だって、サーリーだぞ! ありえないだろー!」と、頬を抓られながらも訴えるフィグ。

 心の底から、サーリーがそういう事をする人物だと思っていないらしい。


「そう思う気持ちも分かりますが、ありえないと決めつけてはいけません」


 ブラムは手を離し、フィグの眼前にビシッと指を立てた。


「一先ず、予定通りにリヴェルの検診をしましょう。そこで、サーリーについてそれとなく探りをいれます。良いですね?」

「分かったよ……」


 抓られて少し赤くなった頬を擦りながら、フィグは渋々答えた。


「すみませんが、オルストン嬢。リヴェルを呼んで来て頂けますか?」

「分かりました」

「お願いします」


 今日はこの後、リヴェルの検診も予定されている。

 グレースは席を立つと、隣のブラムの私室へ入り、廊下へと続く扉を開けた。

 魔法で繋げたままのそこは、オルストン邸にあるリヴェルの部屋。

 ベッドの端に腰かけて、本を読むリヴェルの姿があった。


「リヴェル君、先生が呼んでるわ」


 声をかけるとリヴェルは顔を上げ、ベッドから降りて駆け寄ってくる。


「おねえさん、おかえりなさい!」

「ただいま。ここで検診が終わるの待ってるね。いってらっしゃい」

「うん! いってきます」


 元気に返事をして扉をくぐるリヴェルの背中を見送り、グレースはリヴェルが座っていた場所に腰を下ろす。開いたままの本に丁寧にしおりを挟むと、優しく本を閉じた。


(思えば、サーリー君のこと何も知らないのよね。名前と人を殺めたことがあること。あとは似顔絵でみた姿くらいで、好物とか嫌いなものとか趣味とかは何も……)


 共に過ごす内に、少しずつリヴェルの事を知る事が出来ている反面、サーリーについては知らない事が多い。

 退院して邸に戻ってから、一度も姿をみていないので知りようがないのだが、果たしてこれでいいのかと、グレースは思う。


「せめて、魔法について何か分かればいいのだけれど」


 しかし、グレースの祈りとブラムとフィグの労力も空しく、リヴェルからサーリーの魔法について情報を得られることはできなかった。




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