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前世の私は幸せでした  作者: 米粉
2章
59/68

58 二人の魔力

 



 リズィーが邸を訪ねてから早五日。


「やっと、ひと段落ついたわ」

「お疲れ様です」


 肩をほぐすように片腕をぐるぐると回すリズィーに、グレースは労いの言葉を伝える。

 リズィーは「ありがと」と微笑みながら、手元のティーカップを口に運んだ。


「本当は日帰りのつもりだったんだけどね。グレースの淹れたお茶が飲めなくなるの残念だわ」

「ふふっ、もっと居てもいいんですよ」

「そうしたいのは山々なのよー! でも、帰って色々仕上げないと。作るものも増えたしね」


 リズィーは、少し離れた場所で木剣を振るうアーティとリィルに目を向けた。


「ごめんなさい。お母様が無茶を言って」

「ライラの無茶なんて今まで何度聞いてきた事か……もう慣れっこよ。それに、光栄な事だわ。私が作った服を王子様が着てくれるだなんて」


 木剣の重さに肩で息をするリィルの姿を見て、リズィーは微笑ましそうに目を細めたかと思うと、はっとグレースに向き直る。


「おっと、王子様っていうのは比喩であって、私は何も知らないから。ライラに頼まれた何らかの式典に使う礼服を、あんなに可愛らしい王子様みたいなリィル君に着て貰えるのは光栄だなーって意味で」

「分かってます」


 くすくすっとグレースが笑うと、リズィーは苦笑いで肩を竦めた。


 リズィーが邸を訪れた日、グレースとお茶を嗜んだ後で、リズィーはリィルを紹介された。

 ヴェントの弟で体が弱く、訳あってオルストン邸で預かっていると。

 ライラがそう紹介した数秒後にリズィーは頬を引き攣らせ「ちょっと(つら)貸しなさい」と、ライラを連れて部屋を出た。

 一体どんなやりとりが行われたのか。

 グレースは知る由もないが、戻ってきたリズィーは何事も無かったかのようにリィルと挨拶を交わし、暫く邸に滞在する事になっていた。

 後に、リズィーが魔眼を使った事、リィルの誕生式典用の礼服を仕立てる事をマウロに聞き、色々と察したグレースがリズィーに謝ると「私がやりたくてやるんだからいいの! あ、私はあの兄弟について詳しい事は何も聞かないから!」と、念を押されたのだった。


「デザインはもう決まったんですか?」

「大体ね。でも、帰ったら貴女とアーティの衣装を先に仕上げないと。当日は(うち)に来て、着付けとメイクをしてから馬車で王宮まで行くのよね?」

「はい。何から何までお世話になってしまって……」


 申し訳なさそうなグレースに、リズィーは首を横に振る。


「良いのよ。むしろどんどんお世話させて頂戴。入院してる時も会いに行けなかったし、可愛い私達のグレースとアーティを着飾れるなんて、劇団員一同大喜びなんだから」


 グレースの入院中、リズィーと他の劇団員達が病院を訪れることは無かった。

 王都ではそれなりに顔を知られている事もあり、自分達が病院を訪れればグレースの迷惑になるからと、見舞いに行くのを遠慮していたのだ。

 その代わりにと時折贈られてきていた手紙と見舞いの品は、入院中のグレースにとって、このうえない励みとなっていた。


「しかし、まぁ。ここ数日、衣装作りのためにリィル君と交流してきたけど、良い子よねぇ。可愛いし、お利口さんだし」

「分かります。本当に、ほんっっとうに分かります」


 リズィーの言葉に、グレースは力強く同意する。


()()()()も綺麗な顔立ちしてるしね。可愛くないのは魔力だけだわ」


 リズィーはリィルを視た際、サーリーの存在に気付いていた。

 ライラを連れ出した際にその事についても問い詰めたようだが、過去にも多重人格の人間を視た事があるらしく、リズィーはすんなりと受け入れたようだった。

 リズィーの言う「もう一人」がサーリーを指しているのだと気付き、グレースは少しばかり驚きの表情を浮かべる。


「サーリー君の容姿まで分かるんですか?」

「サーリー?」

「えっと、リィル君のもうひとつの」

「あぁ! 彼、サーリーっていうのね。はい、これ」


 リズィーは傍らに置いてあった衣装のデザイン用のノートを開き、あるページをグレースに見せた。

 そこには端正な顔立ちをした、どこか艶がある青年が描かれている。


「着色してないから分からないでしょうけど、褐色肌の金目に黒髪の美人でね。思わず描いちゃった」

「これがサーリー君……」


 今のリィルからは想像できない容姿に、グレースは目を瞬かせた。

 リヴェルの姿で話すサーリーを思い出し、思わずノートに描かれたサーリーとリィルを交互に見比べてしまう。


「魔眼で視た時、珍獣でも見るような目で私の事見てたけどね、彼。美人だから許したけど。今は木剣振って疲れてるリィル君を嘲笑ってるわ」


 リィルを笑うサーリーの姿が容易に目に浮かび、リズィーには本当にサーリーの姿が見えているのだと、グレースは驚いた。


「サーリー君とは話した事あるの?」

「少しだけ。リィル君とは本当に対称的で、なんというか……」

「性格が歪んでる? 視てる感じクセが強いというか、アクが強いというか」


 グレースが濁した言葉の意味を察して、リズィーははっきりと言い切った。


「前世と言えど、容姿も人格も違えばほぼ別人。魂が同じとは言われてるけど、そんなの傍目からじゃ分からないしね」

「そうですね……」


 転移症者であるグレース自身、リズィーのいう事はよく分かる。

 梅野善子は確かにグレースの前世だが、全てが同じかと問われればグレースは異を唱えるだろう。

 善子とグレースは別人だとはっきり言える。


(……けれど、善子(かのじょ)は確かにグレース(わたし)なのよね)


 言葉で説明するのは難しいけれど、魂がそうだと肯定している。

 そしてそれは、人格が分かれていてもリヴェルとサーリーも同じなのだ。


「でも、本人同士はやっぱり馬が合うのかもね。サーリー君のおかげで、リィル君は生きて来られたんでしょうし。あれだけの魔力量、サーリー君が使い続けていなきゃとっくにパンクして、今頃ベッドの上から動けなくなってる可能性もあったでしょ」

「えっ……?」


 言葉の意味が理解できず、グレースはリズィーに視線を向けた。

 その視線にリズィーは首を傾げる。


「ん? なぁに? 私何か変な事言った?」

「えっと、サーリー君が使い続けているって……リィル君の魔力をですか?」

「そうだけど、まさか知らなかったの?」

「リィル君はそんな事一言も……。主治医の先生も何も言っていませんでしたし」


 リィルは勿論、ブラムやフィグからもそんな話は聞いていない。

 それ以前にサーリーが魔力を扱える、つまり魔法を使えるだなんて話は聞いた事が無かった。


「んー? ちょっと待って……そっか、これは視えなきゃ気付かないのかしら」


 リズィーは多少困惑しながら口元に手を当てて、じっとリィルを視た。

 数秒の後、長めに瞼を閉じるとリズィーは息を吐き、グレースに向き直る。


「えっとね、グレース」


 そう言うとリズィーは、ノートのページを一枚めくり、新たなページにペンを走らせた。


「私の眼には、魔力が色で視えるの。魔力の色は人それぞれだけど基本一色。けど、リィル君の場合は二色ある。それは多分、リィル君とサーリー君、二つ分の魔力」


 リズィーはノートに簡単な人型を書き、その人型を囲う様に二層の膜を描くと、一層目を濃く、二層目を薄く色づけた。


「最初に身体を覆ってる濃い膜がリィル君、それをさらに覆う薄い色の膜がサーリー君の魔力。人ってね、魔法を使うと魔力の膜が炎みたいに揺らぐんだけど、サーリー君の魔力は常に揺らいでる。視た感じ、リィル君の魔力も使いながら何らかの強めの魔法をずっと発動してるのよ」


 一層目と二層目の境目をグラデーションで曖昧にするかにように色をつけて、リズィーはペンを置いた。


「視た感じ、結構長い間魔力を使い続けてると思うわ。揺らぎが安定してるもの」

「どうしてそんな事を……」

「それは分からないけど……。でも、リィル君は魔力も多いし、身体も弱いでしょ?」

「えぇ。今は大分落ち着いてますけど、病院に居る時は魔力暴走もあったと聞いています」

「でしょうね。正直尋常じゃないもの、この魔力。私は医者じゃないから断定はできないけど、サーリー君が魔法を使い続けていた事で、今のリィル君の命があるのは確かだと思うわ。今より幼いリィル君の身体が、あの魔力量を耐えきれていたとは思えないもの」


 思いもよらない事実にグレースは言葉を失ってしまう。


(サーリー君が魔法を? でも、ブラム先生はそんな事一言も――)


「リヴェルは、魔法で自分の時を止めてるんだ」


 グレースの脳裏を過ったのは、アーヴェントの言葉。


(ヴェントさんは、無意識でリヴェルくんが魔法を使っているって言ってた。リヴェル君に聞いても、分かっていないみたいだって)


 ブラムとフィグが、サーリーが魔法を使える事を知らなければ、リヴェルが自分で時を止めていると思っていても仕方がない。しかし、魔法を使っているのがリヴェルではなくサーリーだとして、リヴェルが気づかないという事があるのだろうか。


「でも、どうして――」


 リヴェルの身体が弱いのは、自身の強い魔力に未成熟の身体が追いついていないからだと思っていた。

 身体が成長しなければ、いつまでも魔力に耐えられない。

 それなのに、何故時を止める魔法をかけ続けているのか。


(時を止め続けていたら身体は成長しない。でも、その魔法を使い続けているおかげで、リヴェル君は生きていられる……?)


「グレース」

「!」


 優しく肩を叩かれ、グレースは次々に浮かぶ疑問からようやっと我に返った。

 見ると、リズィーが心配そうな顔でこちらを覗きこんでいる。


「大丈夫? 顔、真っ青よ」

「ご、ごめんなさい! ちょっと、びっくりしちゃって」

「ごめんなさい、私が変な事言ったからよね」

「そんなことは……! むしろ、聞けて良かったです。リズィーさんが教えてくれなかったら、きっと誰も気付けなかったので」


 リズィーにこれ以上心配をかけまいとグレースは頭を振って、笑みを浮かべた。

 そして、意を決したようにリズィーに尋ねる。


「リズィーさん、この事をリィル君の主治医の先生にお話ししても良いですか? 魔眼の事も話さなければいけなくなるかもしれませんが、絶対にリズィーさんの名前は出さないので」

「全然大丈夫だけど、私みたいな眼を持った素人のいう事なんか信じて貰える? グレースがおかしな目でみられちゃうんじゃ……」

「それはあり得ないです。ブラム先生は優しくて聡明な方なので、きっと信じてくださいます」

「なら良いんだけど、何か言われたらすぐ言うのよ? 病院に乗り込んでいって、私が直々に話すからね!」


 リズィーの親切心と優しさに温かいものを感じながら「リズィーさん、フィグとブラム先生のこと気に入るだろうなぁ」と、リズィーの好みのタイプを思い出しながら、グレースは内心で静かに微笑んだ。





昨年末から家族共々体調を崩し、落ち着かない年末年始を過ごしておりまして……気付いたら1月も半ば。遅くなってしまい、申し訳ありません。

昨年も大変お世話になりました。

今年もマイペースな更新になるかと思いますが、何卒宜しくお願い致します。


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