49 お祭りにて
リヴェルは誕生祭、グレースとアーティは舞踏会。
参加を決めてから、オルストン邸では各々が勉学にダンスにと日々励んでいた。
今日もグレースとアーティは、朝食を終えて早々にライラにダンスの指導を受けている。
「ストップ」
手を叩く音とともにライラに制止を掛けられ、グレースとアーティは足を止めた。
「アーティ、少し歩幅が大きいわ。相手の動きに気を付けて。グレースは腕が少しずつ下がってきてるからそこを意識するともっと美しくなるけれど、それ以前に」
「?」
ライラは後ろに回り込むと、両手で軽くグレースの背中を押した。
「わっ!?」
「姉さん!」
よろけたグレースは一歩踏み出すが踏ん張りがきかず、そのまま崩れるように床に座り込んでしまった。
アーティは慌ててグレースの隣に膝をつく。
「大丈夫よ、アーティ。久しぶりだからちょっと足に来ちゃって」
「グレース。それ、貴方の悪いところよ」
苦笑するグレースに、ライラは視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「まさかここまで体力が落ちてるとは思わなかった私の判断の甘さも悪いけれど、辛かったなら辛いと声をあげなさい」
「けど、リィル君も頑張ってますし、私も頑張らないと――」
「辛いと言えないほど自分を追い込む頑張りは、何れ心を壊します」
「うっ」
眼前でビシっと人差し指を立てるライラに、グレースは言い返すことが出来ない。
「けど、疲れも顔に出さず笑顔で踊り続けるポーカーフェイスは素晴らしいわ。けれど貴女、何か別の事を考えていたでしょう? 何を考えていたの?」
「今日はいい天気だなぁと……」
「グレース?」
嘘はついていない。窓から射す陽光は絶好の散歩日和だ。
けれどそれすらも、グレースが自分自身を誤魔化すためにした現実逃避だという事にライラは気付いている様で、笑顔で詰められる。
グレースは暫しの葛藤の後、ライラから目を逸らし、小声で呟いた。
「………………ちょっと、しんどいかもしれないなって」
「何が?」
「し……、至近距離で、異性と踊るのが」
「!!」
グレースの言葉に衝撃を受けたのは、アーティだった。自身が不快の種ならばと、アーティはグレースから距離をとるように即座に後ずさる。
そんなアーティに、グレースは「ち、違うのよ!」と声を上げた。
「アーティは平気なの。でも、舞踏会だし、他の方に誘われたら断れない場面もあるでしょう? 知らない男性に触れられながら至近距離で踊らなければいけない可能性に気付いたら、ちょっと、あの……」
先程まで笑顔で踊っていたとは思えない程、しどろもどろになるグレース。
ライラは社交界デビューをしたばかりの頃のグレースを思い出したが、他者と踊る事にここまで困惑を示す事は無かった筈だ。
「昔からそうだったかしら?」
「いえ、以前はなんとも。社交の場で踊るというのは、そういうものだと思ってましたし。……多分これは、転移症になってからだと思います。前世の私の育った環境の所為もあると思うんですが、性格というか性質というか」
前世の故郷である日本にも社交ダンスはあるが、善子には縁遠いものだった。
そもそも、異性と公の場で踊るなど考えられなかったし、時代によっては「はしたない」と白い目で見られたものだ。
歳をとり、趣味にどうかと友人に誘われ見学に行った事があるが、恥ずかしさで自分には無理だと断りを入れた。
(ある程度面識がある人だったら平気だけれど、見ず知らずの人と踊るなんて、恥ずかしいよりも気まずいわ……。けど、出ると決めたのは自分だし、我慢さえすれば)
「あの、大丈夫です。舞踏会の間さえ乗り切れば良いわけですし、慣れれば平気になる筈です」
「さっき言ったでしょう? 辛かったら声を上げなさいって」
「でも、舞踏会で踊らないわけには……」
「あら、踊りたくて舞踏会に行くわけじゃないんだからいいじゃない」
「え」
困惑するグレースに、ライラは首を傾げる。
「あら、違った? てっきり私は殿下に会いたいのかと」
「ち、違います……! 私が舞踏会に行くのは、王妃様にお会いしたくて」
「なるほど、敵情視察ね」
「それも違います!」
グレースは力強く否定するも、ライラは意に介さずにこやかに微笑んだ。
「それじゃあ、踊らずに済む理由は適当に用意するとして、そうなるとドレスも少し変えたいし、根回しも必要ね」
「じゃあダンスの練習はもう必要ありませんか?」
グレースの手を取り立ち上がりながら、アーティは尋ねる。表情には出さないが、アーティもあまりダンスが得意な方ではない。
出来れば無くなって欲しいと期待を込めた眼差しは、ライラには届かなかった。
「それは続けるわ。グレースの体力づくりと貴方の練習も兼ねてね。けど、今日の所は終わりにしましょ。そろそろ準備しないと――」
ライラが時計を確認しようとすると、慌ただしい足音が聞こえてきた。この足音はきっとメイリーだろう。
扉に視線を向けると、勢いよく開かれた扉の先に案の定メイリーがいた。しかし、その表情はいつもの笑顔ではなく、焦りを帯びている。
「失礼します、奥様……!」
「何かあったの? メイリー」
その様子にただ事ではない空気を感じ、ライラはメイリーに尋ねる。
荒れた呼吸を鎮めるように大きく息を吐き出し、メイリーは口を開いた。
「リ、リィル坊ちゃんが……!」
***
「いやー、面白かった! 主人公の女優さんの演技も歌も良かったなー……。他の劇にも出てるのかな?」
恰幅の良い栗毛の青年は、満面の笑みを浮かべながら隣に座る友人に話しかけた。
友人の青年は深く被ったハンチング帽を上げ、三白眼を見開いて驚いた様な表情を浮かべる。
「へー、珍しい。ボイドが食い物以外の事に興味を持つなんて」
「ジェイ、お前俺をなんだと思ってるんだよ! 俺だって女優さんに興味ぐらい持つっての!」
「肉の串焼き食いながら観劇してた奴の言葉なんて信じられないつーの」
ボイドと呼ばれた青年の笑みは、一変して不機嫌そうなものに変わる。しかし、ジェイと呼ばれた青年は意に介さず、胸を張るボイドの腹を軽く叩いた。
一見、喧嘩に発展しそうなやりとりは、幼馴染の二人にとっては変わらない昔からのコミュニケーションだ。
「だって、親父が今日のは良い肉だぞって言うから、それは食べるじゃん? そういうジェイだって、酒を片手に観てたろ!」
「酒屋の息子が酒ばっかり飲んでると思うなよ。流石に病院で酒は駄目だし、これはうちの店特製ベリージュース」
「え、何それ美味そう……」
「その食欲に素直なとこがお前の良い所だよ。うちの屋台に行けば、母さんが出してくれるぞ」
「分かった! ちょっと行ってくる!」
ジェイの手にする取っ手のついた木製カップに熱い視線を注ぎ、ボイドは駆けだそうとする。
しかし、はたと気付いてボイドはもう一人の友人へと視線を向けた。
丸眼鏡に紺色の長い前髪。いつもはボイトとジェイのやり取りを笑いながら眺めているのだが、今日はまだ彼の笑い声を聞いていない。
「ヴェントは? 飲む?」
「…………」
呼びかけても返事がない。長い前髪のせいで目元が見えないが、眠っているわけではないだろう。
ボイドは更に声量を上げて呼びかける。
「ヴェントー! おーいっ!!」
「っ!? えっ、あぁ、何?」
「だから、ベリージュースだよ! 飲む?」
びくりっと肩を震わせて顔を上げたヴェントにボイドは、ずずいっと詰め寄った。
何がだからなのかよく分からないが、とりあえず合わせておいた方が良いだろう。
ヴェントはボイドの勢いに圧され、頷いた。
「えーと、じゃあ飲む」
「あいよ! 待ってて!」
返事を聞くや否や、ボイドは意気揚々と屋台が並ぶ方へと駆けて行った。
「ボイドー、 人混み気をつけろよー! んで? こっちは随分上の空じゃん」
走り去るボイドの背に声をかけると、ジェイはヴェントに向き直る。
「あぁ、ちょっと仕事が立て込んでて。戻ってからまた缶詰かと思ったらちょっとな」
「うーわ、マジかよ。久々に顔見せたと思ったけど、作家業も楽じゃねーのな。つか、ここに居て平気なわけ?」
「気分転換と取材も兼ねてるからへーき、へーき」
これ以上ジェイに気を遣わせまいと、ヴェントは笑う。
「ヴェント」とは、王太子アーヴェントの変装した姿だ。
ボイドとジェイは、街に幾度か来ている内に知り合ったヴェントの友人達だが、二人には王太子である事は隠し、作家と名乗っている。
嘘を吐くのは心苦しいが、小説のための取材と称せば話も聞きやすい。
(いつも通りの執務に誕生祭、あと舞踏会……。最近色々詰めすぎて全然こっちに来れなかったし、ブラムに誘われて来たは良いけど、頭が疲れてるな)
複数の屋台が並び、小さな舞台が用意されているここはブラムの病院の中庭だ。
半年に一度、地域の住民達との交流を目的に開かれているお祭りで、病院の職員や周辺の店、出入りの業者達が協力して屋台を出している。
「何度か遊びに来た事はあったけど、まさか屋台側で出る事になるとはな。ボイドのとこに、ここの厨房紹介したんだって?」
「あぁ、ちょっと知り合いが居てさ。ボイドが卸し先探してた時に、ここの厨房が肉屋を探してたから声かけてみたんだ」
「ボイドの親父さん達泣いて喜んでたぜ。ありがたいって。その繋がりで、うちもここに屋台出せたしな」
「そりゃ、良かった」
ボイドは以前、ブラムを通してウェスタに紹介した肉屋の息子で、ジェイはその隣の酒屋の息子だ。
なんでもボイドの紹介で、料理に使う酒を病院の食堂に卸すようになったらしい。
「でも、前は舞台なんてなかったよな。さっきやってた劇の劇団だって超有名どころらしいし、今年は気合入ってんだなー」
ジェイはジュースを煽りながら、舞台の方を見る。
遠目に見える舞台の上では、複数人で楽器の演奏をしているようだった。
「そうなのか?」
「俺も詳しくはないけど、ライラ・リーが立ち上げた劇団だってボイドが騒いでた。それ目当てに来てる客も多いみたいだぞ」
「なるほど……」
(今年は、豪華なので楽しみにしていてくださいね。とか、ブラムが言ってたのはそういう事か)
その名を聞いて、ヴェントは合点がいった。
ライラ・リーはグレースの母、ライラの舞台上での名前だ。きっとグレース経由でブラムが出演を依頼したのだろう。
「ボイドって、劇とか好きなのか?」
「らしい。俺もガキの頃、ボイドに付き合って一回だけ劇場に行ったわ。ライラ・リーの子供が出るらしいから一緒に観に行こう!って五月蠅かったんだよなー」
「子供?」
「あぁ。どんな内容だったかとかはあんま覚えてないけど、面白かったのは覚えてる」
「なぁ、その子供って――」
「た、たたたっ、大変だー……!!」
もしかしてグレースの事だろうかと、ヴェントはジェイに詳しく聞こうとしたが、慌ただしく駆け込んできたボイドによって遮られてしまった。
「危ねぇな。お、豚の串焼き」
勢いが良すぎて二人の間の円卓に倒れ込む形になってしまったボイド。
その左手には、分厚い豚肉が刺さった三人分の串焼き、右手にはジュースが入った二人分の木製のカップの取っ手がしっかりと握られていた。
「あ、これは父ちゃんが皆で食えって持たせてくれた。はい、ヴェントの分」
「悪い。ありがとな」
起き上がって二人に串焼きとジュースを渡すと、ボイドは二人の間に座り、大きな口で串焼きに齧りつく。咀嚼し、呑み込み、ジュースをぐいっと煽るとボイドは満足げに声を上げた。
「はーっ、うまい! やっぱ祭で食べる肉サイコー! ヴェントは? 美味い? 元気でた?」
「急かすな、急かすな。自分のペースで食わせてやれって」
「いや、大丈夫。ん、美味いな、これ。ジュースも甘すぎなくて良い」
「だろー!」
「ジュースも悪くないけど、これが酒ならもっと最高だな」
串焼きとジュースを三人ともあっという間に平らげると、思い出したようにヴェントはボイドに尋ねた。
「そういえば、さっきの大変ってなんだったんだ?」
その言葉にボイドは、思い出したようにはっとする。
「そうだった……! それが大変なんだよ!! さっきそこでライラ――」
ボイドが振り向き指さした先、そこには長い黒髪の少女がこちらを見つめていた。
少女の赤い瞳と目が合い息を呑むボイドと、見知らぬ少女に首を傾げるジェイ。
そんな中、ヴェントだけが勢いよく椅子から立ち上がった。
「グレース!?」
「こんにちは、ヴェントさん」
どこかほっとした表情で軽く会釈をするグレースに、ヴェントは駆け寄る。
「驚いた。グレースも来てたんだな」
「ブラム先生にお誘い頂いたんです。たまたまヴェントさんに似た姿をお見掛けして、もしかしたらと思っていたら御同席の方と目が合ってしまって……良かった、人違いじゃなくて」
「そうだったのか。あの二人は街に来た時によくつるんでる俺の友達でな。グレースは一人で来たのか?」
「いえ、母と一緒です」
グレースが振り向いた先に居たのは、つばの広い帽子を深く被った女性。
こちらに気付き近づいてきた女性は、広めのつばを少しだけ持ち上げて上品に微笑んだ。
「こんにちは。貴方がヴェントさん?」
プラチナブロンドの美しい髪にグレースと同じ赤い瞳。
ひと目で、舞台女優ライラ・リーその人だと分かる。
(この人がグレースの……。そして、母様の親友――)
サイラスからグレースの母親がライラだと聞かされた時、アーヴェントは心底驚いた。
(こうしてみると面影あるし、本当にグレースの親御さんなんだな。……何か、変な感じだ)
こうして会話をするのは初めてだが、アーヴェントにとって舞台女優ライラ・リーは、良く知る存在だ。
幼い頃から母アーリベルによって、公演のチラシや新聞の切り抜きを見せられ、その存在がいかに素晴らしいかを熱く説かれた。
凛々しく舞い、美しく歌う。とても素晴らしい自慢の親友だと。
友について語る母の笑顔は楽しそうで、そんな母を見られる事も嬉しくて、幼いアーヴェントにとってその時間はとても幸せなものだった。
「初めまして、グレースの母です。貴方の事はグレースから色々と聞いているわ」
「えっと、初めまして」
ヴェントの正体については、グレースから聞いているのだろう。
ずっと話に聞いていた母の親友という存在に、ヴェントは少しだけ身構える。
(母様の事も聞きたいけど、その前にリィルの事もちゃんと感謝と謝罪をしたい……が、ボイドとジェイがいる場所では話せないし……)
伺うように二人へ視線を向けると、何故かボイドが立ち上がり、わなわなと震えながらこちらを指さしていた。
「ら、ららっ……」
何かを呟きながらこちらを差す指は、どうやらヴェントではなくライラへと向けられている。
ボイドの半開きの口がひと際大きく開かれると同時に、隣に居たジェイは何かを察したらしく、ボイドの後ろに素早く回り込んだ。
「ライラ・リ――、んぐっ!?」
叫びかけたボイドの口を素早く塞いで指を降ろし、無理やり椅子に座らせると、ジェイは何事かと見つめてくる周囲の人々の視線に愛想笑いで誤魔化した。
視線が散らばると、ジェイは手を離しボイドを見る。
「大声出すな、馬鹿……!」
「だ、だって……!」
「だってじゃねぇの。 こんなとこに大女優がいるなんて知られたら大騒ぎになるだろー」
「いでででっ! ごべん、ごべんーっ!」
ジェイに頬を抓られながら、謝るボイド。
そのやり取りに笑いながら、ライラは二人に近づいた。
「ふふっ、気づかれてしまったわね。ヴェントさんのご友人かしら?」
「!!」
「ふぁ、ふぁい!」
ぎょっとするジェイと、目を輝かせながら返事をするボイド。ボイドはジェイの手を振り払って、まるで祈るようにライラの前で両手を組んだ。
「あ、あの、俺、貴女の大ファンで……! あの、その――びゃ!?」
緊張と興奮で言葉が続かないボイドに微笑むと、ライラはボイドの手にそっと自身の手を重ねた。
「ゆっくりと話を聞きたいのだけれど、ごめんなさいね。人を待たせていて、行かないといけないの。でも、貴方の気持ちはちゃんと受け取ったわ。有難う。貴方も、騒がせてごめんなさいね」
「い、いえ……」
真っ赤になって固まったボイドから離れて、ライラはジェイに軽く頭を下げた。
「お母様、時間大丈夫ですか?」
「あら、本当にそろそろ行かないと駄目ね。貴女は大丈夫? 結構人も多いけれど一人でブラム先生を探せる?」
劇が終わった今は人混みもだいぶ落ち着いたが、屋台の方はまだまだ賑わっている。
心配するライラに、グレースは胸を張って答えた。
「子供じゃありませんし、一人でも大丈夫ですよ」
「グレース、ブラムを探してるのか?」
「えぇ、院長室に挨拶に伺ったんですがいらしゃらなかったので」
病院に到着し、先ずはブラムに挨拶をしに行ったのだが姿が見当たらず、敷地内を探していた時にヴェントをみつけたのだとグレースは説明する。
その話を聞いたジェイが、思い出したように声を上げた。
「先生なら、あっちの屋台でみたな」
「本当ですか?」
「奥の方の屋台で子供達と何か作ってましたよ」
屋台が並ぶ奥の方を指差して、ジェイはグレースに答える。すると、固まっていたボイドがはっと我に返り「あ、あの!」と、グレースに声をかけた。
「一人だと人混み危ないし、もし良ければ俺が案内を……!」
「駄目だろ」
赤く染まったボイドの頬にジェイは何かを察したのか、間髪入れず制止をかけた。
「なんで!?」
「そろそろ店番戻んないと怒られるから。 だから、ヴェント。お前一緒に行ってあげたら?」
「!……そうだな。一緒に行くか」
思いがけないジェイの提案にヴェントは一瞬驚くも、すぐに頷き、グレースに向き直る。
「そんな、ご迷惑じゃ……」
「折角のご厚意なんだから、素直に甘えさせて貰いなさいな。私もヴェントさんと一緒なら安心だし。それじゃあ、私はお先に失礼します。グレースのこと、よろしくお願いします」
「はい、任せてください」
遠慮するグレースを後押しし、ライラはヴェントに頭を下げると、舞台がある方へ歩いていった。
グレースは少しだけ考え込んだ後、ヴェントの言葉に甘える事にした。
「……じゃあ、お願いしても良いですか?」
「ん、任せとけ。じゃあ、ちょっと行ってくる。またな、二人とも」
「おーう、行ってらー」
「行ってらっしゃーい……」
グレースとヴェントの背を落ち込んだ表情で見送るボイド。
その肩にジェイは手を置いた。
「どんまい」
「どんまいってなんだよ、どんまいってー! 大体、まだ店番変わるまで時間あるじゃんか。なんで止めたんだよ!」
「あのなー、見れば分かるだろ。ヴェントのあの感じ、絶対彼女に気がある。今まで女の知り合いみつけて駆け寄ってく姿なんか見た事ないだろ?」
「それは、確かに……」
「じゃ、応援してやろうぜ。それでも彼女を案内したいってんなら俺も止めないけどさ」
「そういうわけじゃないけどさー……。あーあ、俺も恋人欲しいなぁ」
ジェイの言葉にボイドは肩を落として、いじけたようにテーブルに突っ伏した。
その姿に、ジェイは「やれやれ」と溜め息をつく。
「まぁまぁ。落ち込むボイド君には、優しいジェイ君が何か奢ってあげましょう」
「マジで!? やった! さっきあっちで美味そうな匂いがしてたんだよなー、行こうぜ!」
先ほどまでの落ち込みはどこへ行ったのか。
勢い良く顔を上げたボイドの瞳は爛々と輝いている。
「……俺、お前のそういうとこ本当に尊敬するわ」
ジェイは呆れたように笑いながら、目当ての屋台に向かって歩き始めるボイドの後を追った。
キリの良い所までと打ち続けていたらまたどんどん長くなりました……。
今年も何卒よろしくお願いいたします。




