42 お見舞いへ行こう
「やっぱり、王都は人が多いわねぇ」
普段、領地から出ることのないグレースにとって王都は目新しいもので溢れている。
新鮮で面白いと思う反面、慣れない人の多さに疲労を感じずにはいられなかった。
行き交う人の多さに思わず溜息をつくと、繋いだ左手をくいっと引かれ、そちらへと視線を向ける。
深めに被った帽子のつばを少し上にずらし、グレースを見上げるフィグと目が合った。
「もうちょっとで着くけど、どっかで休憩するか?」
白いシャツにブラウンの短パンと帽子、肩から小さな鞄を下げた少年フィグの装いは、いつもの黒ずくめではない。
「大丈夫。そういえば、いつもと違う格好も素敵ね」
「ふふんっ、良いだろ。おでかけ用ってやつだ。あ、あそこ曲がれば直ぐだぞ」
自慢げに鼻を鳴らすフィグを微笑ましく思いながら、案内された道を進む。
フィグが指差した角を曲がり、少し進むと目的の建物らしきものが見えてきた。
「もしかして、あれがそう?」
「おう」
道路を挟んだ向かい側。
二階建ての建物の一階に「クラベル」と彫られた木彫りの看板が見えた。
ガラス張りになった壁面から中を覗くと店内には数名ほど客の姿があり、賑わいを見せている。
「とっても素敵なお店ね。ここから見えるパイも焼菓子も美味しそう」
ショーケースにはいくつかパイが並び、棚にはいくつかの焼菓子が陳列されていた。
外から見ただけで、店員や客の表情から店内の雰囲気の良さが伺える。
「甘いぞ、グレース」
中の様子に気を取られていたグレースに、フィグは真剣な表情を向ける。
「中に入ったら、もう、美味いんだ」
「もう美味い……!?」
神妙な面持ちで頷くフィグ。
その言葉の真意は読めないが、店内に入れば理解できるのだろうか。
グレースは息をのみ、入口の扉へと手を伸ばした。
緑色の木製の扉。ひと際目立つ金色のノブを掴み、手前へゆっくりと引いた。
一歩足を踏み入れると同時に来店を告げるベルが耳に響き、同時に鼻孔を甘い香りが通り抜けていく。
「!」
グレースは、フィグの言葉の意味を一瞬で理解した。
(焼きたてならではの香ばしくて甘い香りに、目に飛び込んでくるパイの美しい焼き色……あ、あっちのにはクリームが沢山、こっちのには色とりどりのフルーツが……これは、これは……!)
「確かに、もう美味しいわ……!」
口にしなくても、視覚と嗅覚で脳が理解する。これは絶対に美味しいやつだと。
「これは、フィグが熱弁を奮うのも分かるわね……て、あら?」
繋いでいた筈の左手が軽い。
慌てて店内を見回すと、いつの間に移動したのか、パイが並ぶショーケースの前にフィグは張り付いていた。
「駄目よ、フィグっ。邪魔になってしまうわ! ごめんなさい、すぐに退きますから」
張り付きたくなる気持ちも分かるが、ショーケースの近くに居る客の迷惑になってしまう。
慌ててフィグに駆け寄り、グレースは客の女性に軽く頭を下げた。その様子に、女性は首を横に振って微笑む。
「ふふっ、大丈夫ですよ。もう支払いは済ませてますし、近くで見たくなる気持ちも分かりますもの」
「お待たせしました! お気をつけてお持ち帰りくださいませ」
「有難う。それじゃあ、失礼。可愛らしい僕に、どうぞ思う存分眺めさせてあげてくださいな」
女性は店員から商品を受けとると、にこやかに微笑んで店を出ていった。
店員も「お決まりになりましたら、お声がけください」と、グレースに笑みを向けて別の客の元へと向かっていった。
(あぁ、なるほど。先生が子供の姿で行くようにフィグに言っていたのは、こういう事だったのね)
グレースは病院での検診後に、フィグとともにこちらへ出向いていた。出掛ける際、ブラムがフィグに言い聞かせていた言葉を思い出す。
「良いですか? 絶対に子供の姿で行ってください。帽子も被ること。それと、オルストン嬢。フィグが何かやらかしたら、容赦なく叱ってくださいね」
「あのなぁ、やらかすってそんなガキじゃあるまいし」
「えぇ、年齢的には子供じゃありません。子供じゃないからこそ子供の姿で行ってください」
念を押すブラムの言葉の意味が、その時は理解できなかったが今なら分かる。
ショーケースをかぶりつくように眺めるフィグがもしも青年の方であったなら、先程の女性も上品な笑顔ではなく、奇異の視線を向けたことだろう。
まして、フィグが神子だと気づかれれば店内はきっと異様な空気に包まれ、明日から「ショーケースに張り付く神子が現れた」と、まことしやかな噂が囁かれかねない。
子供の姿だからこそ、微笑ましく見守って貰えるのだ。
(流石、先生。フィグの行動はお見通しなのね)
グレースが感心していると、店内にある立派な柱時計が昼の三時を告げた。
「と、こうしちゃいられない。フィグ、フィーグ! 先に用事を済ませないと、お買物できませんよー!」
監視役を任されたグレースの手元には、ブラムから預かったフィグの買物用の財布がある。買物は用事を済ませてから。ブラムの言いつけだ。
うっとりとショーケースを眺めるフィグの耳元で叫ぶと、フィグはようやっと我に返った。
「いや、でも、ウェスタに会ってる間に売り切れちまうかも」
「沢山あるから大丈夫よ。ささ、ウーちゃんに会いに行きましょ。すみませーん」
後ろからフィグの両肩に手を置いて、グレースはフィグを近くの店員の元へ誘導する。
「はい、お決まりですか?」
グレースの呼び掛けに気付き、先程声をかけてくれた若い女性の店員がこちらに近づいてくる。
グレースと同じ、もしくは年下くらいに見えるその女性は栗毛に真ん丸の瞳が印象的な愛らしい女性だ。
「あの、お訊ねしたいんですけど、こちらにウェスタ・ホーウェンさんのご家族の方はいらっしゃいますか? ブラム先生の遣いでウェスタさんに会いに来たのですが」
「あぁ、おばあちゃんの!」
グレースが尋ねると店員は手を打ち、笑みを深くした。
「初めまして、ウェスタの孫のアリシアといいます。すみませんが両親は今手が離せなくて、話は聞いているので私がご案内しますね。すみません、カウンターお願いします」
アリシアは近くの店員に声をかけ「こちらへどうぞ」と、カウンター奥、二階へと続く階段を上って行った。
アリシアの後に続き階段を上り切ると、廊下に面していくつかの扉が並び、その内のひとつへと二人は通された。どうやら二階は居住スペースのようで、この部屋はキッチン兼リビングなのだろう。室内には、キッチンと大きめのテーブルに揃いの椅子が六つ並び、棚にはいくつかの家族写真が飾られている。
「今、おばあちゃんを呼んでくるので、そちらにお掛けになってお待ちください」
そう言って、アリシアは部屋を出ていった。
「若いのにしっかりしたお孫さんねぇ」
「グレース、お前と同じくらいの歳だからな。自分の年齢忘れるなよ」
すっかり老婆の目線でアリシアに感心するグレースに指摘して、フィグは椅子へ座る。
「そういえば昨日は帰ってからどうだったんだ? あいつ、ちゃんと説教されたか?」
テーブルに片手で頬杖をついて、フィグは意地の悪い笑みを浮かべた。
あいつとはリヴェルの事だろう。
ニヤニヤと笑うフィグに、グレースは小さく頬を膨らませる。
「もう、楽しんでるわね。あの後、家に帰ってお父様からちゃんと注意されてました。リィル君も反省してたし、少し可哀想だったけど……」
「いーんだよ。人間ってのは、ガキの内に沢山怒られてデカくなってくもんなんだろ? 怒られる事すら滅多にないし、あいつに説教できる人間も少ないんだ。約束守んなかったあいつが悪いし、ちゃんと叱ってやれよ」
「フィグの言う事も分かるけれど、不敬じゃないかしら」
身分を隠して生活し、家族同然のように接しているとはいえ、相手は王族なのだ。グレースが心配するのも無理はない。
しかし、グレースの心配をフィグは一蹴する。
「不敬どうこう以前に、散々迷惑かけられてんだから気にすんなよ。ま、居ないとは思うけど不敬だなんだと騒ぐ奴が居たら言えよ。神子様の力で黙らせてやる。ブラムが」
「そこはフィグじゃないのね」
フンっと胸を張るフィグにグレースは笑う。
その時、扉をノックする音に次いで「お待たせしました」と部屋の扉が開いた。
いつもはお団子にまとめている髪を緩く結んで前に流し、部屋着姿のウェスタがそこに居た。
「ウーちゃん……!」
「あらあら、グーちゃん。本当に来てくれたのねぇ」
現れたウェスタに、グレースは一目散に近づき両の手を取った。
「急に訪ねてごめんなさい……体は大丈夫?」
「ふふふっ、大丈夫よ。ごめんね、こんな格好で」
グレースの手を握り返して、ウェスタは微笑む。
多少の疲れは見えるものの、その微笑みはいつも通りだ。
ウェスタは顔を逸らして、フィグへと視線を向ける。
「フィグも、わざわざごめんなさいね」
「気にすんなよ。顔色だいぶ良さそうだな」
「先生の薬のおかげよ。待ってて、今お茶を淹れましょうね」
キッチンの方へ向かおうとするウェスタを、グレースは慌てて止めた。
「わわっ、大丈夫よ、ウーちゃん。お気遣いなく!」
「そういうわけにはいかないわ。折角来てくれたんだし、お茶くらいは出させてちょうだい」
「でも……」
「よし。じゃあ、俺が淹れる」
「フィグが!?」
椅子から降りるフィグに、グレースは思わず叫ぶ。
押し問答を続けていた二人の横を通ってフィグはキッチンへと立ち、戸棚を開けた。
「俺だって茶くらい淹れられるぞ。ウェスタはグレースと座ってること」
「それなら私が――」
「グーちゃんは座ってて。フィグも、お客さんにお茶を淹れさせるなんて出来ないわ」
「いいから、いいから。調子崩してるウェスタに茶淹れさせたなんてブラムに知れたら、俺が滅茶苦茶怒られるんだよ。俺の為に座っててくれ。お、茶葉みっけ。カップはこっちか」
二人に構わず着々と準備を進めるフィグは、どうやら本当にお茶を淹れるつもりのようだ。
フィグは怒られるからと言ったが、ウェスタを気遣っているのだろう。
多少心配だが、迷いなく準備を進めていくフィグをグレースは信じることにした。
「じゃあ、お言葉に甘えましょうか」
ウェスタもフィグの気遣いを察したようで、グレースとウェスタは顔を見合わせると、向かい合うように椅子へと着席した。
「あの、これ良かったら。うちで採れたグラバーアップルなのだけど、皆さんで召し上がってくださいな」
グレースは持っていた籠の中から箱を取り出して、ウェスタへと差し出す。
「まぁまぁ、グラバーアップルなんて高価なもの頂けないわ……!」
「両親が、良くして頂いたお礼とお見舞いにって持たせてくれたの。だから、遠慮せず受け取って。あと、こっちは私から。ちょっと急ごしらえだったから、上手くいってるか自信がないのだけれど」
グラバーアップルが入った箱の横に、グレースは遠慮がちに少し大きめの瓶を置いた。
ウェスタはそれを受け取って、まじまじと中を眺める。
瓶の中は透明の液体で満たされ、緑色と白色の何かが鮮やかに映えている。
「これは、瓜、かしら?」
「紫蘇と胡瓜の漬物です」
「うわ、なつかしっ」
答えたのはウェスタではなく、聞き耳を立てていたフィグだった。
フィグが驚くのも無理はない。
前世で、グレースは日常的に好んで食べていたものだが、こちらの世界に同じ料理は存在していない。酢漬けやマリネといった物はあれど、日本風のものはやはり少ないのだ。
「よく材料揃えたな」
「退院してから前世で食べてたものが恋しくなっちゃって。育てられそうな野菜の種を取り寄せて色々育てたり、市場で色々使えそうなものを探したりしてたの。それで、吐き気があってもさっぱりして食べられそうなものって考えて浮かんだのがこれだったのだけど……やっぱりお見舞いの品としては間違ってたわよね」
「そんなことないわ。グーちゃんの前世での食事がどんなものか気になるって、前に手紙に書いたでしょう? それに私の体調まで考えてくれて嬉しいわ。有難うねぇ」
グレースの言葉に首を横に振って、ウェスタは優しく微笑んだ。
「あとで家族と一緒に大事に頂くわ。これは、このまま食べられるのかしら?」
「えっと、酢漬けに近いもので浅漬けというのだけど、酸味は抑えめにしてあるの。ただ、浸かり過ぎちゃうと味が濃くなっちゃうから、中の液体は味を見て捨てて貰って……。その、私は大好きなんだけど好みがあると思うから、口に合わなかったら無理はしないでね」
「そん時は俺が貰うから遠慮なく言えよ」
「あら、駄目よ。グーちゃんの手料理なんだから私が美味しくいただくわ」
「だってよ、グレース。あとで俺にもくれ」
不安げなグレースを余所に、当の浅漬けを取り合う二人にグレースは呆気に取られていたが、二人の優しさに思わず笑みがこぼれた。
暫くするとフィグが無事にお茶を淹れ終え、テーブルへと戻ってきた。
早速お茶を口にすると、渋みもなく、上手に淹れられている。
「おいしいっ! フィグ、上手ね」
「本当。フィグがお茶を淹れれるなんて知らなかったわ」
「伊達に長くブラムの側にいるわけじゃないからな!」
グレースの隣に着いたフィグは、グレースとウェスタの称賛を受けて鼻高々だ。
「おっと、そうだ。ブラムで思い出した。ウェスタ、これブラムから新しい薬。飲み方は今飲んでる奴と同じ。で、症状が出なくなってきたら、もう飲むの止めていいからな」
フィグは鞄からブラムに頼まれていた薬を取り出し、ウェスタへと手渡した。
「分かったわ。有難うね。先生にもお礼を伝えておいてちょうだい」
「おう」
「ねぇ、ウーちゃん。本当に体調はもう大丈夫? 急にお邪魔してしまったけれど、辛かったらすぐにお暇するわ」
大事そうに薬を受け取ったウェスタにグレースは問いかける。
「あらあら、そんな事言わないで。私は大丈夫だからゆっくりしていってちょうだい」
心配そうなグレースにウェスタは首を横に振った。
「心配かけてごめんなさいね。数日前よりは本当に随分良くなったのよ。そういえば、フィグが最初に見つけてくれたんだってねぇ。何かお礼をしないと」
「戻って来たらとびきり美味いもん食わしてくれれば、それでいいよ。つーか、やっぱ倒れた時のこと思い出せないか?」
フィグがウェスタを鳥から助け出した際、ウェスタは気を失っていた。
目覚めたウェスタに話を聞くと、鳥に襲われた時の事を一切覚えていなかったのだ。
「そうねぇ。特別個室に入院した患者さんに、食べ物の好みを聞きに行ったのまでは覚えているんだけど……。あぁ、でも」
ウェスタは頬に手を添えて考え込んでいたが、何かを思い出したように呟いた。
「なんだか、寂しかったのを覚えてるわ」
「寂しかった?」
「何故だか分からないけれど、寂しくて悲しい、泣きたくなるような気持ちというのかしら。もしかしたら倒れている間に何か夢を見ていたのかも知れないけど、覚えてるのはそれだけなのよ」
どこか悲しみを帯びた瞳を細めて、ウェスタは困った様に苦笑する。
その時、扉をノックする音が部屋に響いた。
「どうぞ」
「失礼します。おばあちゃん、持ってきたよ」
扉を開き、中に入ってきたのはアリシアだった。
その手にはトレーを持ち、トレーの上にはパイが二切れ、それぞれ皿に乗せられている。
「あぁ、有難ね。今、次の新作の試作を作っていてね。二人とも、食べて感想を聞かせて頂戴」
アリシアはグレースとフィグの前に皿を置いて「どうぞ召し上がてください」と微笑んだ。
香ばしく焼けた生地にメレンゲが美しく飾られたパイに、グレースとフィグは目を輝かせる。
「すごい、とても美味しそう!」
「いただきます!」
言うやいなや、フィグは素早く掴んだフォークをパイに突き立て、流れるように口へと運んだ。
一口、二口、三口と、あっという間に口へと放り込まれ、皿の上には何も残っていない。
グレースとウェスタは見慣れた光景だが、アリシアは呆気に取られたように目を瞬かせていた。
「やっぱりフィグの食べっぷりは気持ちがいいねぇ。美味しいかい?」
「うまいっ!!」
満面の笑みを浮かべるフィグにアリシアは吹き出して、驚きから笑顔へと表情を変えた。
「あの、おかわり持ってきましょうか?」
「いいのか!?」
「もちろん! すぐお持ちしますね」
勢いよく答えるフィグに笑顔で答えて、アリシアは小走りで部屋を出て行った。
「フィグ。美味しいのは分かるけど、食べ過ぎちゃ駄目よ」
「分かってるけど、やばいぞ、グレース……フォークが止まらなくなるんだ」
「えぇ、それは大変だわ……!」
本気で悩ましい表情を浮かべる二人に「遠慮なくおかわりしてね」と、ウェスタは微笑んだ。
その後も他愛ない会話を交わし、グレースとフィグは長居しないようにと程無くしてウェスタの元を後にした。
「お見舞いに来た筈なのに、行きより荷物が増えたわねぇ」
「店で買った他に、ウェスタ達が沢山お土産くれたもんな」
帰り道を歩く二人の手にはパイは勿論、焼菓子やお茶が詰め込まれた紙袋が提げられている。
見舞いの後、店で買物をし、いざ会計となったところでウェスタの息子夫婦が現れ「母を助けて頂いた恩があるので、お代は結構です」と支払いを断られた。
流石にそういう訳にはいかないと「払う」「受け取れない」の応酬を繰り返した結果、購入した商品とは別に大量のお土産を持たされる事になったのだ。
「沢山頂いちゃって何だか申し訳ないけれど、どれも美味しそうで食べるのが楽しみね」
「な! どれから食おうかなー」
今にもスキップをしだしそうな程、フィグはウキウキを隠せないようだ。
「ウーちゃん、思ったより元気そうで良かった」
「だな。あの様子ならあと二日も休めば元通りだろ」
ウェスタの顔を見るまでは多少心配もあったが、元気そうに笑う姿を思いだし、グレースは安堵した。
それと同時に、ウェスタの言っていた言葉を思い出す。
「ねぇ、フィグ。ウーちゃんが言ってた寂しい気持ちっていうのも、あの鳥のせい?」
グレースの問いにフィグは「んー……」と唸る。
「鳥が消えちまって調べようもないから何とも言えないが、ありえるな。心を操ろうとした鳥にウェスタの心が刺激されたか、もしくは、鳥の感情が流れ込んだか」
「鳥の?」
「正確には鳥の主の、だな。魔法ってのは心が大きく作用するもんだ。魔法を使った時の感情が、鳥を通じてウェスタに伝わった可能性も無くはない」
「もしそうだとしたら、どうしてかしら。寂しい、悲しいって思いながら、他人の命を狙ってるってこと?」
「んんー、流石にそこまでは分かんねぇな。俺、そんな魔法使った事ねぇし、そもそも禁忌だし」
「そうよねぇ……」
フィグの言葉に同意を返しつつも、グレースは疑問を抱く。
(あの鳥の主はリヴェル君を狙ってる。それは間違いないけれど、命を狙っているなら、腹が立つとかもっと怒りに似た感情を持つものじゃないのかしら)
寂しいと思いながら、他者の命を狙う。
そもそも他人の命を狙う人間の気持ちなど、グレースには分からない。
グレースの脳裏に、リヴェルの顔が浮かぶ。
正確には、もう一人の彼の顔が――。
(サーリー君なら何か分かるのかしら……)




