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第九十七話:アデルに貸し一つ


 バルバロッサ帝国の新造飛行艇は平地は勿論の事林の中にも

降下出来る優れものらしく一ヶ月で二百隻は見つけて撃墜したが

今は偵察網に引っかかるのを待っている状態だ。


「敵の陸上部隊がサウスベルの南五十キロに集結中の模様です」


「敵には集団自殺願望でもあるのでしょうか?」

「残りの飛行艇四百隻にかすかな期待をしているんじゃないの?」

 

「しかし、五百機で捜索しているのに、見つかった飛行艇が

僅か二百隻というのが引っ掛かるわね」

 

「開戦時に飛行艇が不時着したのは確認済みなんだ。どこかで

数百隻が待機しているのは確実なんだよな」

    


「それにしても我々を相手に陸上部隊が集結してるんですよ」

「相手は三式以前のうちの陸軍しか知らないんじゃないの?」


「なるほど、地対地ミサイルを使った事が無かったですね」

「巡洋艦に積んであるんだから普通は理解するだろう」


「敵の陸軍と海軍は仲が悪いそうですよ」

「諸侯の間でも派閥争いがあるみたいですね」


「俺も一時は貴族になって浮かれていた時代がありました」


 

「我らに向かってくる部隊は奴隷の集団かも知れませんね?」

「奴隷は絶対服従なの?」

   

「奴隷主の言う事を聞かなければ激しい頭痛に見舞われるそうです」

「それって近くにいる指揮官が奴隷主っていう事よね」


 

「そうですね、最前線ですから逃亡を考えると奴隷主が

後方にいるという事は考えにくいですね」


「サキ、敵が討って出てくるのを待とうと思ったが、指揮官クラスを

狙撃する事は可能か?」

   

「熟練兵なら二キロ離れていても狙撃可能です。衛星補助システムを使えば

正確には狙撃ではありませんが五キロ以上でも射殺可能です」


「サキ、思いっきりやってみてくれ」


 うちは借金奴隷という馬鹿以外は奴隷は禁止だ。

そういえばアデルは頑張っているだろうか?


 

 

 サキの指示した陸軍の特殊部隊は恐ろしい練度で三キロ離れた相手でも瞬殺

衛星を使って八キロ先の指揮官をロケットで仕留める強者も現れた。


「あれって七式ロケット弾よね。あれを狙撃って言うの?」

「シャル、古い考えは捨てろよ。奴隷部隊が動き出したぞ」


 奴隷は確かに動き出した。目標は南の味方だけど。

 末端の兵士に恨まれている状態で、よく前線に出てきたもんだな。


         

「八型爆撃機、いや攻撃機で敵の陸上部隊を叩け

出来るだけ奴隷部隊は避けてくれ」


「奴隷の部隊は黒一色だ。判別は容易ですよ」

         

「第二十、第二十一攻撃大隊出撃」


 

「軍務長官から報告、サンドリア湖方面で敵の一部が突っ込んで来るそうです」

「地対地ミサイルをお見舞いしてやれと伝えろ」

          

 ベルは俺達で本国はヨハンとトムでサンドリアはマルコが指揮官だ。


「敵の主力は片づきそうですね」

「そうだな、そろそろ一ヶ月になるからな」

   


その日は敵も味方の強襲を受けて大混乱を起こし戦線を一旦

南へ引いたようだ。


 

「レーダーに敵影発見。敵の大型航空機です。二時の方向で距離二百キロ

……敵の数は三百以上です」


「上がれる戦闘機隊を緊急発進だ!」

  

「上がれる飛行士にスクランブル発進を命令する。更に東部以外の警戒部隊は

サウスベルの南西の飛行艇の撃破を優先せよ」


 

 いいタイミングだ、よくも一ヶ月も潜伏していられた物だ。

 優秀な指揮官だったんだろうが司令官が無能だったようだな。


「第六戦闘大隊と敵飛行艇部隊が接敵しました」

「敵味方識別信号は出ているか?」

       

「はい、正常に作動中です」

「ノア様、地対空ミサイルの発射許可を下さい」

   

「仕方ない、味方に当てるなよ」

 

「勿論です」


「対空ミサイルで敵をなぎ払え」

   

「了解、第五、第六ミサイル大隊は敵飛行艇にプラズマ弾を発射せよ」

 


「プラズマ弾、発射装置四十機のデーター入力完了」

 

「戦闘機隊に通達、これより三十秒後にプラズマ対空ミサイルを

敵にお見舞いする。二十五秒後に回避運動に移れ」

 


 

「三、二、一、発射!」


 陸軍がプラズマ弾を使うのはこれが初めてか。

 俺も初めて見るが凄まじい威力だな。


「空中に残存する敵飛行艇はゼロです」

「目標を完全に撃破しました」


「俺達の勝利だな」

「どうやって決着をつけてやるか」


     

その四時間後に勝利に水を差す報告だ。


「東海上を航行中の民間の輸送船二百二十隻が敵の飛行艇に撃沈されたと

報告が来ました」

   

「オーガス王国への輸送は五十隻単位でハリネズミが

四隻護衛に付いているはずだろう」


 ハリネズミは防空駆逐艦で航空機の天敵とも言える存在だ。能力的には

一隻で太平洋戦争で頑張った秋月型駆逐艦五隻の対空能力がある。 


「トムに渡された資料には載っていない輸送船の船団です。民間の非合法組織

の船団だと思われます」


「チェ、二百以上もやられるとはな」

「乗員を合わせれば最低でも四千名は超えますね」


「敵はノア型七番艦から出撃した七型が仕留めたそうです」

「ダンのやつ、戦闘機が足りないんだよ」

 

「九型の開発をしている場合じゃないですね」

「ノア、七型戦闘機をもっと生産した方が良いんじゃないの?」


「そうは言うがな、ダンの話だと七型と八型を混ぜると効率が悪いそうだ」

「七型は単発エンジンで八型は双発エンジンですからね。生産性が

落ちるんでしょうね」

            

「そんな事言っている場合。三型は今年で引退でしょう?」

「シャルの言いたい事もわかるが空軍も同機種じゃないと訓練が大変なんだ」

「七型を海軍で八型を空軍で使えばいいじゃない」


「アレスも帝国ほどじゃないが好き嫌いを言う人間はいるんだよ

古い七型を海軍が使うと言うと反発する人間がいるんだ」


「ほんとに男って面倒ね!」


 来年からは型版じゃなくて愛称で呼ぶか?

 それでも数字は付いてくるんだよな。


 ノア型とルーカス型は? 今から王太子の派閥を作ってどうする。


       

二日後の夕方に反帝国を掲げる人間から手紙が来た。


「今時、月光便とは珍しいわね」

「内容は帝国の圧政を退けてくれれば協力するという事ですね」


「バベルっていう街を作らせられて不満があるのは分かるけどね」

「名前がないのが気に食わないわね」

「帝国の罠かも知れませんね」

「でも陸軍と空軍を併せただけでも戦死者は既に三百人を超えていますからね」

       

「海軍も重巡二隻が大破のようだから戦死者はそれ以上ね」

 

俺に攻め込めと言わせたいんだろう。しかしこれはジュノー大陸の統一戦

じゃないんだよな。

 アデルは善戦しているだろうか?


「敵の敵は味方とも限らない。折角ここまで北上してくれたんだ。敵の

装甲車両を徹底的に叩けるだけ叩こう」


「侵攻作戦ですね。どこから攻め込みますか?」

「腕が鳴りますよ」

「任せなさいよ」


「俺とヤンが空母で東から南下するからベルからはコンラートとサキだな

サンドリア湖からはマルコとデニスで西海岸はヨハンとミーアだ」

 

 冷静な判断が出来るマルコとデニスに中央部を任せれば

東と西のどちらにも応援に行けるだろう。 


「本国防衛はどうします?」

「ニコとシャルでいいだろう」


 シャルを最前線に出したらうっかり都市を滅ぼしかねないからな。

 部下が魔女と呼ばれると再び俺が魔王と呼ばれかねない。


「わたしの時代が来たっていう感じね! ニコはどうせエクレールから

動けないし、わたしが臨時総督ね」


「それなら俺は幕僚総監だな」

              

前の統一戦の記憶はないんだろうが

このノリで敵をなぎ払っていったんだろうか。凄く不安なんだが。


 

  

一週間後の八月十三日には俺は旧イシュタル領の東の海上をノア型一番鑑で

南下中だ。

 

 この世界で唯一のニミッツ級原子力空母の一番艦もそろそろ現役引退だな。


「しかし、ダンでも空母だけは一番艦を超える船は作れないようですね」

「左にいるアレス型三番艦の方が大きいぞ」


「図体はでかいですが電磁カタパルトが二基だけじゃないですか」

「一番艦は四基ついてますよ。それにちょっと速いし格好いいですね」


 やっぱりアレス型は艦橋の作りが適当なんだよな。

 


「ギュンター、偵察部隊からの報告は来たか?」

「これが南部の航空写真です。都市と呼べる街が七つと普通の街が

十二以上が壊滅状態です」


「アデルの所は深刻な被害だな。これって四百万以上が死んでるって事じゃん」

「アデルも無能じゃない。ある程度は退避しているだろう

それでも二割は死んでるかな」


「南東部はバルバロッサの兵が密集していたので

フレア弾をお見舞いしてきました」

  

「当然だな」

「その為に来てるからな」


 なんだ、こんな忙しい時に長官職の人間に通信なんて。

   

「ノア様、レンが激務で倒れたと通信が入りました」

「レンも遂に倒れたか」

「物資輸送を任せっきりだったからな。十日間は休養するように伝えてくれ」

 

「それとこの赤い機体ですが、どうも国籍不明なんですよ」

「大きさは三型より一回り大きいですね」

「この写真に写っている四機だけなのか?」


「いえ、重複して目撃している可能性もありますが五十機はいるそうです。

それも南部を中心に今月に入ってからの目撃情報ばかりです」


「今更参戦しても旨みはないよな」

「与えるつもりは無いな」


「真面目に考えればアデルの所の新型という事になりますね」

「帝国でも三型の改良型を作ったんだからあり得るか」


       

 そして五日後の八月十八日。


「合図の無線を確認しました」

「五万人程度は扇動してくれるんですかね?」


「アレシアは落としてくれたんだ。ダメなら私達でやり直しだ」

  

「それでは戦闘機隊と攻撃機隊を出撃させます」

「頼む」


「戦闘機隊発艦」


「第一戦闘大隊発艦」

「第二十七攻撃大隊発艦せよ」


「第七十一、第七十二、第七十三戦闘中隊は空母の護衛につけ」

「「「りょうかい」」」


 現在は緊急時なので空母の型番の後の数字を航空兵力の名前に

つけている状態だ。

 これもいずれは改善しないといけない点だよな。


「コンラートとサキがアレシアの西でマルコがクラウディアを北から

攻めてて、ヨハンが西から四空母か、勝負ありましたね」

  


  

バベルには八百万の人間がいて、陸上部隊が二十万いるらしいが

奴隷は三千万人以上だ。

 それが一斉に反乱した。


「八十二、八十三攻撃中隊が補給を求めています」

「よし、四十分で空に戻してやれ」

    

「乗員の休憩時間は二十五分ないですね」

「もう夕方の四時だ。次の攻撃で今日は終了だよ」


    

 それから空と陸からの攻撃を一週間続けた所でミカエル一型を名乗る

戦闘機が参戦してきた。


「ギュンター、東の空母部隊は任せる。ヤン、バベルに入るぞ」

「遂に来ましたか、バベルの落日が」


「来年の夏辺りには映画で公開されるかも知れないな」


                 

 バベルに入ると、ラインにいるマルコ率いるアレス王国軍四十万とは別に

別働隊五万が出迎えてくれた。

            

「若様、八月二十五日午前十一時にバルバロッサ帝国の

最後の皇帝は公開処刑になりました」 


「立ち会えなかったのか?」

「私達で立ち会えたのはサキだけですよ」

  

「群衆三千万が一斉に騒ぎ出した瞬間は

私達も死んだかと思いました」


  

 その三時間後にはアデルもやって来た。

 

「アデル、被害はどの位だった?」

 

「都市が九個に街が二十二もやられたよ。軍の戦死者も四十万を超えたね」

 

「帝都バベルは完全じゃないが使い物になるし

川は南の海まで流れている。どうだ?」

  

「どうだっていうと?」

 

「バベルをミカエルいやアデルの奮戦を評して進呈しよう

私の物という訳でもないけどな」


「ジュノー大陸で最大の都市だよ!」

 

「北のラインの街の中心部を北と南で分けて貿易都市として

アレス王国の南の要衝はクラウディアで構わないぞ」


「閣下、ぜひその提案をお飲み下さい。バベルはバルバロッサ帝国が

資金と技術の全てを注ぎ込んで作った防衛都市です

ここがあればミカエルの難民四百万も安心して暮らしていけます」


「兄さん、対価は?」

「アデルに貸し一つとバベルにある金貨の二割でいいぞ」


「私はミカエル王国の宰相のマイクと言います

ノア陛下、ぜひその条件でお受けしたい」

           

「僕からもお願いします」

 

「決まりだな、私とアデルで全ての領土を決めるのも体裁が悪い。

うちからは宰相のヨハンと家臣団を出そう。そっちもマイク殿と家臣団を

出してもらって南北の国境線を決めてくれ」


「そうだね、考えてみれば兄弟で国境線を引くのは良く思われないね」


    

 そして、アレス歴九年の八月二十六日に終戦となった。


 

お読み頂きありがとうございます。


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