第九十話:八型航空機完成
五月二十日に旧キグナス帝国領は正式にアルタイル王国に編入された。
我らにはラウス地方をやろうなどとバカな事を言ってきたので
丁寧にお断りしてサウスイースタンとエクセリオンの二つの街以外へ
の立ち入り禁止をお願いしておいた。
「兄貴、どうせなら全面的に追い出しちまえば良かったのに」
「同盟国だからな、そうもいかないんだよ」
「コンラート、サウスイースタンとエクセリオンへのシリウス航空の
定期便を廃止してくれ」
「リキの担当では?」
「空軍で強制的に行って欲しい。密航は厳罰だ」
「わかりました」
「フレッド、ヤン、二つの街から出る車両を徹底的に調べるんだ
七月以降はエクセリオン以外は通行を禁止する予定だ」
「兄貴、アルタイルと戦争ですか?」
「そのつもりはないが、潜入する情報部の人間の数が多すぎる
サウスイースタンは補給を行うために一時的に受け入れるがすぐに閉鎖だ」
「そうなると深刻な食糧不足に苦しむアルタイルの新領土への補給は
輸送船とサンドリア湖経由のみとなりますね」
「イシュタル地方は今年も去年並みの収穫を上げれるようだ。それほど
大きな問題はあるまい」
領土拡張を断ったんだ、技術開発には全力で臨みたい。
翌日の報告ではアデルのイシュタル辺境伯家の領土は我々の希望は
南のお隣さんだったが、遠く離れた旧帝国領の中部の南よりバベルのあった
西側一帯だった。
「うちの南のお隣さんはラウスから領地替えになった
ブルームハルト辺境伯家ですか? あそこは不遇な土地でしたから優遇した
つもりでしょうが……我らを誘っているようにも思える配置ですね」
「色々と徴発してくれたからな」
「私達がバルバロッサと手を組んで南下するとか考えて無いのかしら?」
「飛行艇開発に力を入れているから余裕があると思っているんじゃないの?」
「ノア型を見たことのない連中だからな」
「今時、貴族なんて古いんだよね」
「八型を増産しているんでしょう?」
「ちょっと不具合があったようだね。今は再びテスト中だよ」
「まあ七型でも何とかなるか?」
「バカだな、ノア型の七型は五十機しかないんだぞ」
俺も魔王の呼び名のない世界に来たんだ、出来れば大量殺人はしたくない。
アルタイルも小麦だけで五千万トン程度は収穫出来ると言っていたから
大きな問題は無いだろう。
そしてアルタイルの装甲部隊が西海岸に到達し、先発部隊と本隊が海を
渡りきった三週間後に南のバルバロッサが急遽アルタイルの本国へ
電撃侵攻を開始した。
「コンラート、サウスイースタンを封鎖しろ」
「了解」
「ヤン、エクセリオンの街への外国人の入場を拒否しろ
それと現在滞在中の外国人を輸送船に送り返せ」
「わかりました」
「ヨハン、全ての領土への外国人の入国を拒否する勧告を出せ」
「エクセリオンは如何致します?」
「外国人の追い出しが終わったら輸送船の外へは船長を含めて五名まで
それも海軍の監視付きのおまけつきだ」
「わかりました」
ほんとアルタイルも全面的に米を作れよ。そうすれば二億トン以上は
手に入るのに、戦争中ではそれも無理か。
「ノア兄、八型が完成したって、観に行こうよ」
「そうだな」
これが八型か、七型より少しだけ大きくなったな。
エンジンが双発に変更されたのか?
「よく来たな。これが八型戦闘機だ。奥が攻撃機で更に置くが爆撃機だ」
「それで待たせた分は良くなったんでしょうね」
「期待を裏切るような真似はしないぜ」
「よく言った、さすが男だ」
「性別は関係ないでしょう」
「少し重くなったが性能は上がったし
大国オーガスやサン王国と戦っても負ける気はしねえな」
これでしょぼかったら笑えないぞ。
「それで性能は?」
「聞いて驚きやがれ、魔道双発ターボファンエンジンでの速度は最大で
時速二千百キロで最大上昇高度が一万九千メートルに航続距離が
四千五百キロで九発のミサイルを積むか増設タンク三個を積むかは自由だ
それに安定の三十ミリ機関砲一門を装備だ」
「うん……七型よりちょっとマシな程度」
「豪語する程じゃないな」
「『頑張ったでしょう』をあげてもいい程度かな」
「大きくなった分だけ伸びた感じだな」
「わたしの期待を返して欲しいわね」
「聞いた限りじゃスペックの相違は僅かだが高性能の機体を更に
改良するのは厳しいんだぞ」
「でも戦争中よ」
「言ってない事があったな。こいつの巡航速度は千六百キロだぞ」
「二千百キロ出るなら当たり前じゃないの?」
「嬢ちゃんは甘いぞ。最高速度は加速ブースターを使って出す事が出来るんだ
それをブースター無しでこいつは実現可能だから燃費も良くなるって訳だ」
「そうなの『一生懸命頑張りました』をあげてもいいかもね」
「それより空母に乗るんだろうな?」
「アレス型なら余裕だがノア型だと熟練の飛行士が必要だな」
アレス型がフリーダム型でノア型は変わらないんだな。
「戦闘機は合格点だろう」
「次は攻撃機だな。先に言っておくが、これはアレス型でもギリギリだからな」
「近くでみるとでけえな」
「三型にでも簡単に落とされそうね」
「黙って聞け、魔道双発ターボファンエンジンでの速度は最大で
時速千五百キロで最大上昇高度が一万八千メートルに航続距離が
七千キロで十七発のミサイルを積むか増設タンク八個を積むかは自由だ
それに安定の三十ミリ機関砲一門装備だ。勿論フレア弾も積めるぞ」
「今度は『お前はがんばったでしょう』をあげてもいいわね」
「そうだな『お前は強い子だ』をあげてもいいな」
「最初にこっちを見せなさいよ」
「形もかっこいいわね」
これならオーガスの戦闘機にも追いつかれないな。
みんなの評判も概ね上々だ。
「これが十機あれば街を灰に出来そうね」
「おいおい、怖い事をうっとりした顔で言うなよ」
「出来るのか?」
「エクレールでも五十機あれば灰に出来るぜ」
「エクレールには最新型の対空砲が山のようにあるぜ」
「変な事で争わないでよ」
「それで最後は?」
「こいつは爆弾を積まなければアレス型から発艦する事は可能だ」
「爆弾積んでない爆撃機って意味あるの?」
「ねえだろうな。給油機の代わりにはなるけどな」
「一応は性能を聞こうじゃないか」
「聞いてくれるか、魔道四発ターボファンエンジンでの速度は最大で
時速千二百キロで最大上昇高度が一万八千メートルに航続距離が
一万四千キロで二発のミサイルを積める、増設タンクも最大で八個積めるし
それに安定の三十ミリ機関砲を前方に二門と後方に一門装備だ」
「なんというか形容しがたい性能ね」
「形が今一つだな」
「どこまでも飛んでいけるのは凄いけどな」
「見つけたらルッツ型でも落とせそうだな」
「大きくすれば性能は良くなるのかしら?」
「これは爆撃機だぞ。真価はフレア弾二百五十発を積める所だぞ」
「それなら攻撃機は要らなかったんじゃないの?」
「上昇速度がちょっと遅くてな。制空権を確保してからじゃないと
投入出来ないな」
「まあ『来年までに頑張りましょう』をあげてもいいレベルだな」
「そうだな、『君はやれば出来る子』をあげておくか」
「航続距離は申し分ないし最高速度も良い
コンラート、空軍で上手く使ってやってくれ」
「参謀と話し合って運用して見せますよ」
「それじゃ戦闘機は海軍仕様を優先して製造
攻撃機と爆撃機は空軍仕様を優先して製造だな」
「そうですね。今はいつ攻め込まれてもおかしくない状況です
抑止力となる数が欲しいですね」
「そうなると戦闘機が優先になるな」
「それは仕方ないだろう」
「七型五十機だけじゃ飛行士が持たないよ」
「せめて六百機は欲しいですね」
「今度は大々的に作れるんだ。任せておけ」
ダンの数年に一回の晴れ舞台も終わりそろそろ麦の収穫だ。
「ニコ、ユリアン、フレッド、徹底的に横流しは取り締まれる体制を維持しろ
他国へ無断で横流しした馬鹿は処刑だ」
「「「わかりました」」」
多少は商会の流す金の量が減って商業に悪影響がでるだろうが
俺には金銭感覚の全く無い神様からの海金貨千億枚分の金貨十兆枚がある。
神様が偽造を心配して金貨にしてくれたのかは不明だが
金貨の方が使いやすいと俺が思っていたからだろう。
次元倉庫がなかったら持つことも出来なかったな。
「ノア様、ガイア大陸の混乱は収まりませんね
このままでは貿易にも影響が出そうです」
「民間船での取引は全て許可制にする」
「商会が混乱しますね」
「バルバロッサ王国やアルタイル王国に我が国に攻め込むだけの理由を
与える訳にはいかないからな」
「商会なら金を積めば我が国を売る可能性もありますね」
「そういうことだ」
狸陛下は無理難題は突きつけてきたが必ず逃げ道を用意しておいてくれた
だがフランツ王子は戦争を知らないボンボンだ。ジュノー大陸統一などと
側近達にささやかれたらどう転ぶか判らない。
義理の兄だからなんて甘い事が通用する世界じゃない。
「若様、大変です!」
「コンラート、どうした?」
「八型爆撃機で偵察しましたが、バルバロッサ王国の侵攻速度は驚異的です
それに加えて爆撃機でアルタイル東部の穀倉地帯のほとんどを焼かれました
収穫出来た麦は一割もないとの事です」
「食糧を焼いてきたか。徹底しているな」
「それにバルバロッサの陸上部隊は旧キングダムの王都まで進撃しており
西ではアルタイルは輸送船を破壊されてガイア大陸から戻れない状況です」
我々より遙かに計画的に動いているじゃないか
キグナス帝国が西へ移動する前から準備していなければ出来ない荒技だな。
「我が国も警告を無視して潜入してきたアルタイルの情報部の人間を
百名近く捕らえている状態だ。アルタイルの防衛には参加出来ないな」
「アルタイルには金があります。物資支援だけして時間を稼ぎましょう」
「それしかないな」
バルバロッサには三型か同等以上の航空機があるという事か
それに暫く戦争に参加していないから食糧には余裕がありそうだ。
陛下が今、政務に復帰したらフランツ王子は三流の烙印を
押されてるような物だ。あとはシュナイダー内務卿を上手く
使って操るしかないだろう。
「今年も大豊作です。……次はトウモロコシですね」
「それが終わったら麦の種まきと米の収穫と大豆の収穫だぞ」
「休暇届を出して良いですか?」
「三ヶ月後に出してくれ」
この足音はヒルダか。ヒルダは自室から滅多に出てこないからな。
「ノア様、今年の麦の収穫高は本国で一億三千万トンにミランで
一千万トンに昇りました。ミランの人間もよくやってくれました」
「それは申し分ないね」
「去年、他の作物に手を出していた農家が小麦栽培に戻ってきてくれたお陰です
どこに優先的に売り込みますか?」
「まずはトレミー帝国からで、その次がサンドリア湖経由で南だね」
「アルタイル本国は後回しですか?」
「本国はまだ八百万トン程度はあるだろうし後回しで構わないよ」
「それだけあれば二ヶ月程度は持ちそうですね」
あくまで焼かれる前の予想だから実際はどの程度あるかは不明だけど。
前の世界線よりはいい未来に期待したい所だ。
お読み頂きありがとうございます。




