第八十六話:施設破壊作戦
七型が完成してから四ヶ月。季節は八月になってオーガス王国の二度目の
北部侵攻作戦が再開された。
俺達は空母九隻を展開させてイースター島の南で待機中だ。
七月の頭に空母に移ったから先発隊は既に五十二日も待機している。
「ノア型一号艦を除く全ての戦力が揃いましたね」
「戦闘機も比較的新しい三型戦闘機を二百機だけ本国に残して
エンジンの耐久値が低下しているのは全部持ってきました」
「海軍も使える巡洋艦と駆逐艦には対地ミサイルを満載して総動員ですよ」
「戦闘艇は二割を対潜ミサイルで残りを対空ミサイルを積んで
八百艇連れてきました」
「これで陸軍がいればジュノー大陸統一戦の再来ですね」
「今回の攻撃で一年はフリーダムを攻めて来れないように徹底的に叩く
指揮官が十秒ためらえば一個小隊が全滅すると思って気合いを入れてくれ」
「「「「「了解です」」」」」
ノア型空母七隻にフリーダム型空母二隻に重巡十四隻と軽巡三十九隻
更にはハリネズミが百隻に戦闘艇八百艇に七型戦闘機千三百隻と
三型戦闘機千機に攻撃機六百機に爆撃機八百機の一大部隊だ。
負けられないな。
「では戦況説明をします。我々はオーガスの軍が北のサントスの島へ
上陸開始して戦闘機が出撃したと報告を受けたら出撃します。まずは
イースター島から出撃した七型五十機で敵の後方を攪乱した後に
我々は南大陸の北部の制空権の獲得と同時に攻撃隊の出撃
その三十分後に爆撃機隊を発艦させます」
「ヨハン、制空権を取れなかったら?」
「その時は潔く撤退します」
「敵の戦闘機が南下してくる可能性は?」
「敵の最前線と我々が攻め込む工房群の距離は五千キロ以上
二回は空軍基地で補給しなければ接触する事はないでしょう」
「もし占領出来たらどうするの?」
「敵の最前線にいる航空機は四千機以上です。拠点防衛だけでも千機以上
存在すると予測されます。占領など考えずに破壊だけに集中してください」
「あとは運次第か」
「それでは我らは時速二十キロで南東に向かいます」
「今日は空母に移ってもう五十四日目よ、敵の侵攻速度が遅すぎるんじゃない?」
「前回は手痛い撤退をしたから万全の体制で臨んでいるんだろう」
「我らのように陸軍無しでも完全集結に二週間かかりましたからね」
それから四日、戦闘艇が敵潜水艦二十二隻を撃沈するが
敵の航空機は発見出来ないまま先頭の戦闘艇がオーガス大陸の
三百キロラインを超えてしまったが我らよりレーダー性能が
劣るのか発見されなかった。
「敵の先発部隊がサントス攻略を開始しました」
「よし、二時間後にはイースター島から七型が八百機やってくるぞ
七型を全て飛行甲板に列べろ。面舵一杯」
「面舵、艦尾をオーガス大陸へ向けろ」
「第一、第二戦闘大隊は発艦位置へ順次移動せよ」
「ヨハン、まだ二時間後でしょう、今から飛行士を待たせるの?」
「もう敵の空襲がいつ来てもおかしくない位置だ
臨戦態勢を取るのが遅いくらいだ」
八月二十八日の五時二十分か、長い一日になりそうだ。
「北部方面戦闘隊が敵に攻撃を仕掛けたと報告がありました
撮影した映像が来ます」
「これは予想以上ですね。五千機はいますね」
「半分以上が爆撃機みたいね」
「そうなると我々の向かう先にも戦闘機が居そうだな」
「この小さい装甲部隊は対空砲みたいですね
一万台はいそうですね」
「それにしても装甲車両が少ないですね」
「足の遅い車両は特攻を警戒して戦闘機と爆撃機で蹂躙するつもりなんだろう」
陸上部隊は六十万程度か、それを二十以上の部隊に分けてある
前回の特攻にかなりびびった証拠だな。
主力は航空機で制圧は歩兵を中心に行うつもりか。
「我が艦の北西三百キロに七型を探知」
「よし、七型を飛ばせ」
「了解、第一戦闘大隊発艦せよ」
「第二戦闘大隊、発艦位置へ移動せよ」
大陸間戦争をするなら空母があと四隻は必要だな。相手はどうやって
フリーダム本土まで攻め込む気なんだろうな。
「第二戦闘大隊全機発艦しました」
「よし、燃料の少ない七型から受け入れろ」
「了解」
そして二時間後には八百機の七型も発艦して東へ向かった。
「第七、第八、第九攻撃隊がイースター島を出撃したと報告が来ました」
「第一戦闘大隊が敵迎撃機と戦闘に入ったと報告」
「第三攻撃大隊より報告、敵新鋭機と戦闘に突入
敵の総数は四百以上という事です」
二時間後、
「敵の新鋭機軍を撃破したと報告」
「よし、爆撃機大隊をイースター島から出撃させろ」
「了解、イースター島基地へ命令する。第十、第十一
第十二、第十三爆撃大隊は出撃せよ」
「南三百キロから敵攻撃機六十機接近」
「輸送船から三型は何機空母に移した?」
「四百二十二機です」
「二百機を迎撃に充てろ」
「了解」
既に十一時か。
「第一戦闘大隊が戻ってきました」
「飛行甲板にある三型は全て発艦させろ。そのまま敵の拠点攻撃だ」
「了解、第一戦闘中隊は我が艦へ、それ以降は規定の母艦に着艦せよ」
「第一攻撃大隊全機補給完了しました」
「飛行士を三十分の休息の後に発艦させろ」
それから第一戦闘大隊が発艦して、第二戦闘大隊が戻ってきた所で
爆撃機隊が俺達の頭上を飛び越えていった。
「大丈夫なの? 爆撃機隊を先に出して?」
「攻撃機隊を収容するのに精一杯で爆撃機隊の補給をするスペースがない」
「第二戦闘大隊発艦します」
「よし、輸送船から三型をありったけ積み替えろ」
お昼を過ぎたか。ミサイルを満載した攻撃機はある程度の旋回能力があるが
トルネード弾を満載している爆撃機は味方戦闘機の護衛なしで敵戦闘機に
見つかったら全滅もあり得る。
「空中給油が追いつきません。第五攻撃大隊から着艦要請です」
「仕方ない、フリーダム型空母の三型を全て送り出せ」
「了解」
「一時的に護衛戦闘機が居なくなるぞ」
「艦対空ミサイルに期待しましょう」
「北東三百二十キロに敵爆撃機部隊……千機以上を確認
戦闘機が二百六十機以上含まれているようです」
「全艦船に報告、半径五十キロ圏内の侵入を許すな」
「敵機が百キロを切りました」
「全艦艇及び戦闘艇は対空ミサイル発射!」
対空ミサイルの雨は凄まじかった。特に戦闘艇八百艇からの
対空攻撃は一瞬で敵大編隊を溶かしてしまう威力を発揮した。
問題は四発しか積めない点だが順次輸送船に戻り補給作業だ。
「第三、第四戦闘大隊帰投します」
空母九隻に積める航空機は三型で千二百機弱で七型で千五百機程度だ
三割程度の収容能力で三千七百機の航空機を順次補給しつつ攻撃しなければ
ならないので航空要員も三交代制の二十四時間体制だ。
翌二十九日の朝五時に第四戦闘大隊と第五戦闘大隊が出撃。
我々もオーガス大陸まで百キロの所まで来た。
「第二十、第二十一戦闘大隊発艦」
第二十からは三型仕様だ。
「第七攻撃大隊を発艦位置へ」
「了解」
「ノア兄、何日続くのかしら?」
「当初の予定だと今日で終わりだけど、敵の新鋭機が最初しか出てこないから
叩けるだけ叩くなら補給の切れる四日間ほどかな」
「兄貴、そうなると突入は明日あたりですね」
「そうなりそうだな」
今日はヨハンに代わってデニスが指揮を取る。
昨日は風を読み切れず大隊の進撃予想がずれたのと敵の迎撃で予定が狂ったが
今日は朝の八時に第一次侵攻部隊の攻撃機と爆撃機が出撃してから
第六次侵攻部隊まで発艦と補給を行い、少ない時間で給油機の補給も済ませる。
デカ物こと、巨大ヘリが輸送船で補給を受けれる事が唯一の救いだ。
翌三十日は朝四時からマルコが指揮を取る。
「敵の港を完全破壊完了。港周辺の飛行場を一つ占拠しました」
「三型は飛行場へ移せ」
「了解」
オーガス大陸は南北の長さはジュノー大陸より一割程度長い程度だが
東西の長さがジュノー大陸より三千キロ以上長いので我々はオーガス大陸の
東海岸へ回り込む事が出来ないので敵とは西海岸での攻防になってしまう。
「若様、おにぎりをもらってきました」
「美味しそうね」
「最後の晩餐にならないよう気をつけよう」
「いよいよ突入なのね」
「そうだな」
「徹底的に壊してやりましょう」
そして十一時半。
「行くぞ」
「三型爆撃機発艦」
俺達を含めた転移魔法の使い手九十名と九百名の部隊の王都急襲だ。
本来は工房地域への潜入予定だったが第五侵攻部隊の報告でうちと同様に
王都周辺に開発工房が集まっているという報告を受けて急遽作戦変更だ。
「デニス、死ぬなよ」
「当たり前です」
「行くぞ、中和装置投下」
「転移結界が解除されます」
「遅れるなよ、転移開始」
「侵入者だぞ!」
「喰らえ、小型フレア弾だ」
「転移」
それから三時間の間に六回の転移を繰り返して開発工房を火の海にした。
「これは新鋭機の設計図ですね」
「これが新鋭機か、七型の倍近くありますね」
「隣にあるのが旧型ね」
「これは新鋭機よりも少し小さいですね。よくこんなのを一年で四千機以上
作れたもんです。ある意味尊敬しますよ」
「これにうちらの三型は良いように落とされたからな」
「これはダンのお土産に貰っておいて次へ行くか?」
「若様、転移結界が修復を始めていると報告です」
「ここまでか、戻るぞ。転移」
「ノア様、お戻りでしたか、既に輸送船のミサイルの残弾がなくなったので
乗員を収容後にフレア弾を積んで港へ突っ込ませております」
「まだ一日分あったんじゃないのか?」
「第十五侵攻部隊で使い果たしてしまいました。残るは戦闘艦艇に
積み込んである分だけです。現在は転移した部隊を収容した艦から
西へ向かって撤退中です」
作戦では第十三侵攻部隊までしか考えて無かったからな
どの程度の施設を破壊出来たのかは帰国してからだな。
そして輸送船がフレア弾で燃え上がるのを確認した後に全部隊が西に
向かって進路を取った。
「マルコ、被害報告を聞こう?」
「空母は無傷で重巡二隻が中破で軽巡四隻が小破、戦闘艇十八艇が沈没
七型戦闘機二十二機が撃墜され三型戦闘機百四十八機も撃墜され
攻撃機十四機も撃墜されましたが爆撃機は無傷でフリーダムへ帰投中です」
「戦死者は?」
「海軍で千二百六十二名と空軍が三百五名です」
「千五百名以上が死んでしまったか……暫く休ませて貰おう」
俺は三回は地獄を巡らないといけないみたいだな。
お読み頂きありがとうございます。