第八十五話:ガイア大陸は駄目らしい
テスト無し、完全なオートメーション化で七型戦闘機の製造は順調に進み
五月にはイースター島にミサイル二発を装備した機体を二百機配備。
そして順次イースタンの工房で兵装の改装中だ。
「既に実践で飛べる機体が四百機を超えましたが相手は攻めてきませんね」
「ラインハルトが自国で特攻を仕掛けるとは思わなかったよ」
「オーガスも大損害で一時撤退したようですね。さすがに特攻を始めて
見せられた軍の精神的ダメージは大きいでしょう」
「オーガス軍は制空権を握っている事で油断しすぎたな
三十万程度は特攻で死んだだろう」
オーガスは過信して戦力を集中させすぎた。五十万以上の部隊が
駐屯している場所への大型機での特攻など想像出来なかっただろう
「ルッツ型と五式以前の兵器をサントスに高値で売りましたので
半年は持ちそうですね」
「アレス航空の大型機で特攻をかけられたら街が消滅するな」
サントスが優勢になる可能性も考えて三型戦闘機は売れなかったが
ルッツ型なら飛行士の犠牲を考慮しなければ善戦してくれるだろう。
サントスには何と言っても後がない。
「ノア様、いつ頃攻勢をかけますか?」
「徹底的に叩けるのは我が国の戦闘機の性能の方が劣っていると考えている
一度だけと考えた方が良いだろう」
「そうすると第六戦闘大隊まで増設出来る八月以降になりますね」
「それか、サントスに戦力が集中した時のどちらかだな」
さあ、反撃の時間だ。
「兄貴、ガイア大陸はもうダメだな」
「戦争でも始めたか?」
「いや、もうそんな力は残ってないと思う。ユニコーン王国の民間船が
上陸して住民を殺して楽しんでいる状態ですよ。うちの職員が五日探して
生きている住民はたったの五十人だったって話です」
「娯楽で人を殺しているのか?」
「無法地帯なんで軍事訓練らしいですよ」
俺達の責任で荒廃したわけだが責任は取れないし
今は東部戦線に戦力が集中していて西に軍を回す余裕がない。
「東部を一度叩いて、少し安定したらガイアにも人を送ってみよう」
「そうですね、このままだと寝覚めが悪いですしね」
ヤンが気にするレベルまで荒廃しているとなると
本当に酷い有様なんだろうな?
焦っても仕方ない。こういう時は癒やしが必要だ。
「雲一つないですね」
「みなさんお暇なんですか?」
「サーシャちゃん、僕たちは休暇なんだよ」
「そうだね」
「休みは大事なのよ」
「お兄ちゃんが四人は遊んでばかりだって言ってました」
「サキのやつめ、今度合ったら鉄拳制裁だな」
「サキさんはまだ仕事に慣れてないんだよ」
「サーシャちゃんの所で働いている従業員さんも休むでしょう」
「それはそうなんですけど……」
「兄貴、いつ攻め込むか決まりましたか?」
「八月以降だな」
「空軍の飛行士は毎日八時間も飛行訓練ですよ」
体重が減りそうな事をしているな。
シミュレーターも使っているだろうが、過労で倒れないようにしないとな。
「三型は酷使しても構わないぞ。来年は地方警備に回すからな」
「四年も最前線を支えてくれたのに可愛そうですね」
「航空機には寿命があるからな」
「お兄ちゃん達、お仕事の話なの?」
「そうだよ、いつ戦争を始めようかという大事なお話だよ」
「戦争になっちゃうの?」
「東の方で去年から始まってるんだよ」
「そうなんだ」
大人でも知らない人間が多いからな。
占領なんて無理だと判っているから、どこまで敵の中枢部を削れるかだな。
「それで目標は決まったんですか?」
「衛生の情報だと南部大陸の中央部から北部にかけて工房が
集中しているみたいだからそこを徹底的に叩くつもりだ」
「随分とアバウトな作戦ね」
「何度補給出来るか判りませんからね。最悪は一撃離脱です」
「それだと作戦の意味がなくなるけどね」
「敵の新鋭機の数次第ですよ」
「今年のモデルが出てたら最悪ね」
「出ているだろうけど七型には負けてるだろう」
「そういえばラライラちゃんの八型計画は進んでるんですかね」
「彼女は来年には副班長になるらしいぞ」
「それは期待できますね」
「折角来たんだし新鮮な牛乳を貰って食事にしましょうよ」
「「「賛成」」」
「新鮮な牛乳は本当に美味いですね」
「そうだな」
「この子は子牛を産んだばかり何だよ」
「うちの嫁も子供を産んだばかりだ」
「リンダさんの事なんて聞いてないわよ」
「嫁さんはまだ十七だろう。大事にしろよ」
「コンラートのマイちゃんは十五だけどね」
「パンもいいわね」
「満腹亭のラーメン以外にも小麦の使い道はあるもんだな」
「あ、このパン凄くふっくらしていて美味しいです」
「ミランの人間が焼いたパンなんだって」
「あそこの人は器用な人が多いわね」
「このカレーパンも揚げたてには敵いませんが美味いですね」
「兄貴、なんでマジックポーチを使わないんです」
「紫国民だけしか使えないからな。王様が美味しい物ばかり食べてたら
不満が増えるだろう」
「若様、今年は収穫祭はやるんですか?」
「ああ、大々的にフリーダム全土で開催するぞ
戦いの前の最後の晩餐だ」
「まるで特攻でもする前みたいね」
「何人死ぬかな?」
「運次第だな」
俺達の牧場ミーティングも終わり
その僅か二日後には今度は東の港町のマイセンで列車事故だ。
「今回はテロのようです」
「やってくれるな」
「久しぶりに転移でやって来てみればテロか?」
「陸軍と海軍が犯人を捜索中ですが見つかるかどうか」
「リキ、何とかならないのか?」
「サントスの国民と偽って密入国させた国民は捕らえてあります
フレッドの部下の拷問次第でしょう」
「悪魔の国税省か」
「しかし、金に目がくらんで敵国のスパイを国に入れるとは
情けないですね」
「星金貨十枚だったと言っていますよ」
「国家反逆罪は一族根切りだろう。その千倍は貰わないと」
犯行グループの八人はあっけなく見つかった。
こっちもフレッドが出した星金貨十枚の懸賞金に釣られて
住民がリークした結果だった。
「この魔王め。セシリー様がお前を生かしておかないぞ」
「正義は我らにある」
「オーガスは世界を取る。ひれ伏せ蛮族共」
せめて楽に死なせてやろうと思ったが見せしめは大事だよな。
「フレッド、薬を注射してやれ」
「はい、原液を注射してやれ!」
「「ぎゃあぁぁぁ」」
「「く、くるしい」」
「あ、あたまが」
「告げる。この者達の半径二メートルに近づいてはならない
破れば国家反逆罪を適用する」
薬で時間をかけて苦しんで死んで貰おう
まともな神経をした住民ならこれを見れば協力しようとは思うまい。
それから俺達は転移警報を響かせながら戻った。
今はエクレールのカレーハウスで話し合いだ。
「昨日の原液は凄かったですね」
「空軍の飛行士もパイロットケースの中にモルヒネが入ってるだろう」
「あれは緊急時の痛み止めですからね」
「うちの職員も尋問用に携帯してますよ」
「情報局は必要だよな」
「でも懸賞金を貰った奴はついてますよね。俺の給料以上ですよ」
「協力者の財産を没収して渡しただけだから
国は遺族に金を払うだけだけどな」
「俺達も鉄槌を下さないといけませんね」
「攻撃した際に転移結界に穴が空くようなら久々に魔法で暴れまくるぞ」
「俺の魔法が火を噴きますよ」
「たまには剣で戦いたいですね」
「剣で戦っている間に後ろから撃たれるぞ」
「世知辛い世の中になりましたね」
決闘をするような場面にはまずならないだろう
相手は女王制の国だ。プリンセスセシリー様が脳筋なら別だが。
「そういえば空軍も金曜カレーを始めたらしいな」
「海軍に遅れること一年ですが自慢話を聞いていたら
我慢出来なくなったそうです。第一整備中隊のカレーが一番美味いと評判ですよ」
「海軍は母艦の旗艦のカレーが一番だと言っているけどな」
「若、お待たせしました」
「ニコ、遅いぞ。カレーを三杯もお替わりしちゃったじゃないか」
「ヤン、夏場はうちは忙しいんだよ」
「それじゃ魔法研究所へ行くか?」
街の中は反重力エンジン搭載の自動車が一気に増えたな。
ここも久しぶりだな。
「お待ちしてました。こちらになります」
「今日は仕事を休んでまで何を見せてくれるんですか?」
「オーガスで活躍する為の装備だ」
「これが転移結界の中和フィールド発生装置です
我々は簡略して中和装置と呼んでいますが。我が国の結界でも三時間の
中和に成功しています。オーガスならば四時間は持つでしょう」
「利点と欠点は?」
「メリットは効果範囲が極めて大きいことで転移磁場発生装置を連鎖的に
潰していきます。デメリットは上書きが出来ない点です」
転移結界は一度効果が消えると再構成に時間がかかる
優秀な魔法師がいなければ最悪は丸一日程度は解除されたままだ。
「テストでは復旧にどの程度掛かった?」
「ノルト大陸でテストした時は復旧に半日かかりました」
「若、これはいけそうですね」
「若様、これなら七型戦闘機の兵装として取り付けられるでしょう」
一度の攻撃の一回だけの効果か。
通用しなかったら泣けてくるな。
「それと、この小さいのが飛行士に自機消滅用に配っている
小型フレア弾です。突撃作戦なら役だってくれるでしょう」
秘密保持の為に墜落しても自機の消滅は飛行士の最後の任務だ
これを怠るような愚か者はうちの軍には居ないと信じたい。
「この大きさでフレア弾なら暴れられますね」
「なにぶん数が少ないので一人四個しか提供出来ません」
「それで十分だよ」
あとは戦闘機の数が揃うのを待つだけか。
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