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第七十二話:クーラーが欲しいこの頃です


 食糧難の六月をなんとか缶詰で切り抜けて迎えた七月だ

見た目にも刈り取ってくれと訴えているように見える麦畑だ。


  

「ノア様、いえルーカス様の加護も加わっているのでしょうが。新領土でも

大豊作です。本国以外の小麦は四千万トンで大麦は二千二百万トンです」


「やっと缶詰生活ともお別れか?」

「缶詰工房も肉加工は停止中ですのでこれを機に再開出来ます」


「麦だけで六千万トンという事は本国の小麦は収穫したらすぐに

新領土へ輸送する事になるな」


「それもありますが、現在は輸送船をフル回転させてトレミー帝国と西大陸の国々

並びにノルト大陸に輸送中ですがルミエールからイースタンまでの

本国収穫量だけでも今年は小麦が七千万トン以上になるでしょう」


「民間の輸出規制はどうする?」

 

「甘い汁を吸った商会と農家には制裁あるのみです

当分は国の余剰分を売りまくって一トンで金貨二枚まで輸出価格が

下がったら民間人にも商売を再開させます」


 旨みが消えてから民間にも商売を再開させるのか

トラクターとコンバインの貸し出しだけでも海金貨がかなり貯まりそうだ。



            

 そして本国でも小麦の収穫だ。   


「兄貴、焼きたてのパンですよ」

「ほんとに久しぶりですね」


「地震の後は穀物を食べれたのはごく僅かだからな」

「当分は缶詰はご免ですね」


「食堂も再開しましたね。ご飯がないのが残念ですが」

「米の収穫高はおそらくは億単位だぞ」


「それじゃおにぎりを……何個作れますかね?」

「大きめので一兆個は軽く行くだろう」


「食べきれないじゃないですか?」

「おにぎりを作るだけでも大変そうですね」

「わたしは三十個作れば疲れるわね」

 

「米が恋しい人間は二ヶ月待ちですね」

「海外への輸出が先だけどな」


「食べずに先に売っちゃうんですか?」

「米好きのお得意様を満足させるだけ売ったら民間にも取引をさせる予定だ    先に売らないと価格が暴落するからな」


「既にコンバインの借り入れ金で農家は大打撃ですよ」

「コンラート、まだまだ農家は金を持っているはずだ」

「そうだね、持っているだろうね」


「空軍は儲かって良いんですけどね」

「そういえば、今は十四型爆撃機に種まきさせているのか?」

「十四型は農薬散布ですね。種まきはルッツ型でやってますよ」


 十四型は完全に練習機になってしまったな。

 四式も四型もまったく音沙汰無しだしな。



「兄貴、それで、コンラートが遂に婚約したんですよ」

「恋人がみつかったのか?」

「それがアリスちゃんの同級生のマイちゃんですよ」


「航空士官の娘さんだっけ? でも十二才だろう」

「だから婚約ですよ」


「ヤン、お前も恋人が出来たんだろう」

「恋人というか……嫁さんに近いかな」


「誰なんだ?」

「ノア兄、聞いてよ、ヤンのバカは情報局の十四才の職員に手を出したのよ」

「マイちゃんより二才年上だぞ」

                      

「まあ、これで第七食堂研究部の人間は全員が所帯持ちだな」

「そうですね、マイも八月には卒業なので後はご両親に挨拶するだけです」

 

 そうか、アリス達も卒業なのか。

食糧の事ばかり気にしててすっかり忘れてたよ。


「うちは持ち直したけどお隣さんは戦争を再開したらしいですね」

「食糧が届いたら戦争とは人間の業なのかな?」

「食べ物に困らなくなると欲が出るんだろう」


「代金はちゃんと貰ってるの?」

「主に白金で貰ってるよ」


「それならリスクを覚悟すれば商会にも利益が転がり込んでくるわね」

「そうだね、完全に干す訳にはいかないからね」


 最前線への食糧輸送は商会にやってもらおう。


「いつまで続きますかね?」

「再生産が早いトレミー帝国の陸上部隊の方が有利かな

工業地帯にダメージを受けたロアンの飛行艇は製造に時間がかかるからな」


「北方大陸も心配だろうし早期決戦かしら?」

「皇帝陛下次第だろう」


 

      

 五日後にはヒルダがまるでスキップをしているような感じでやって来た。


「ノア様、今年の本国での小麦の収穫高は七千八百万トンです

トウモロコシと米の収穫高を想像するだけでも踊り出したい気分です」


「本国も当初の二千万人から一時は一千五百万人まで減ったが

今は八千万もいるし農耕面積も軽く二倍以上だからね」

     

「昨日は財務の金庫の底が抜けるという事故がありましたが

今は金属製の金庫に金貨を移している所です」


 金貨が重すぎて床が耐えられなかったとは贅沢な悩みだ

財務長官としてはご満悦だろうな。


 既にエクレールだけなら電子決済も可能なんだが

導入すると他の都市から苦情が来るだろう。


          

「それで本題は?」

「はい、今年の十一月からノルト大陸も併合するのがいいかと存じます

すでにかの国は食糧の七割を我が国に依存しております」

      

「新年じゃないのか?」

「米を大量に売りつけて我が国の穀物生産量を見せつけてからの方が

相手も納得しやすいでしょう」


 帝国にちょっかい出される前に編入しても問題ないか。

農業大国って素晴らしいじゃないか。


「わかった、反発が強いようなら延期するけど

基本的には十一月に編入する案で行こう」


「ありがとうございます。情報局を使って上手く情報を流しておきます」



 俺達は楽しむか。


「それでは収穫祭を始める。米も三ヶ月後にはかなり取れる

今日は小麦料理を堪能してくれ」


「「「「「おおおおぉぉぉぉ」」」」」



「なんとか天使アヒルを少し食べれましたよ」

「若いアヒルは百羽しか出せなかったからな」


「来年は五百羽は出しましょうよ」

「そうよね、秋には新領土でも天使アヒルを飼えるようになるんでしょう?」


「難民次第だけどね」

「初めは小さい土地からだけどすぐに裕福になれるわよ」

     

「まずは商人でその次が軍人で漁師に農民か」

「猟師以外にもかなりの人間が獲物を捕っていたようですから

溜め込んだ物を根こそぎ取り去るってフレッドが言ってましたよ」


「猟師はこの一年は当たり年だったようね。税が海金貨一枚の固定だから

商会を起こした人間も多いみたいね」


「それより酒を飲みましょうよ」

「そうだな」



 

 収穫祭なのに農民の数は少なかったが

無事に終わりトウモロコシの収穫に移行だ。


  

「これで燃料計を気にせずに飛行士も気兼ねなく飛べますよ」

「空母への発着訓練も去年の統一戦以前のペースに戻せますね」


「デニス、新型の話が全く出ないがどうなってるんだ?」

「どうやら石油とバイオ燃料のどちらがいいかで揉めてるんですよ」


「原油はいつまでも採掘は出来ないぞ」

「研究班の調査結果ではノルトの油田だけでも三十年は持つと言うんです」

   

「有害物質が多く出るだろう」

「それも研究者には理解出来るんですが

それ以外の人間には理解出来ないようです。それに利権が絡んでいます」


「例のノルト派とアレス派というやつか?」

 

「そうです。油田開発に力を入れてきた部署がノルト派と呼ばれていて

原油推進派ですね。更に開発して一日の産出量を増やしたいそうです」


「今の一日の産出量は?」

「一日に二十万キロリットルです」

        

 年間で七千三百万キロリットルか。


「コンラート、空軍での一日の消費燃料は?」

          

「そうですね、機種によって搭載燃料と燃費に差がありますが

三型戦闘機で七千リットルですから単純に五百機稼働として

三千五百キロリットル程度ですね」

 

 ジェット燃料は一割程度だとしても十分足りるな。

 ガソリンが四分の一で軽油が二割だ残りは重油と灯油とそれ以外か。

 

「デニス、コンラートとマルコの所が無駄に使わない限りは足りるな」

「でもダンの開発した火力発電所の一号機が九月には稼働しますよ」


 四型以外にそんなもん作ってたのか。

   

「数年後かも知れないが国内が車で溢れるようになるようだったら

油田設備の増設で良いだろう」


「個人で車を持てる時代なんて来るのかしら?」

「戦争次第だな」

                

 技術の発展にも戦争が必要だし、多すぎると研究資金が追いつかない。

          

   

 そこで技術畑の素人同士の会話は終わり翌日は開発チームの展示会だ。

  

「これがコンピューターというやつなんですね」

「航空機にも部分的に使われていますが、これがあれば飛躍的に開発速度は

向上しますよ」


「読める部分の方が少ないんだけど」

「これはサカエ文字といって過去に開発された言葉でより開発しやすい

新言語といった感じでしょうか」


 以前に来た転生者はプロブラマーも居たのか

C言語に似ているがCOBOLにより近いか。


      

「でも車がないと運べないですね」

「小型化は研究中ですが先は長いといった感じです」


  

「残りは電気製品ね」

「これは?」

「冷蔵庫ですね。食べ物を冷やします」

「マジックポーチの劣化版なのね」


 

 電灯に冷蔵庫と暖房器具にガスレンジと色々あったが

ミーアの合格を頂けたのはガスレンジと発電機と扇風機だけだった。


「この扇風機というのは涼しいわ。風魔法より手軽ね」

「そうだね、魔力消費しないで風を起こせるのは革新的だね」


 魔力の方がかなり革命的だと思うが、産まれながらに魔力が当たり前だと

考え方も違うんだろう。


 

 電話もあったが電話線なんて維持コストだけで金貨が消えます。

 電気を国中の一般家庭に広げる……送電線と変電設備の維持が無理です。

  

 全ては労働力と金次第とは情けないが仕方ない。


 個人的にはクーラーだけでも導入したかった。



お読み頂きありがとうございます。


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