第六十九話:異動は大変だ
ヒルダの提案で四省の増設となったが仕事の割り振りでの混乱は
予想以上で単に税に集中できる国税省以外の混乱は深刻で
十二月になっても異動命令が続いている。
「今日からアレス通貨しか使えなくなるんですね」
「本国はいいが新領土は混乱するだろう」
「我が内務も商務と仕事の分担で揉めているので実際は通貨どころじゃ
ないというのが現状ですよ」
「海運省も戦闘艦を要求してきているようで大変そうだぞ」
「ニコの所も今まではマルコと話をつければ終わっていたのに
林野省と海運省が相手になったので輸送船の手配で四苦八苦のようです」
国税以外は混乱したままか。
「兄貴、俺の情報省だけ情報局になったのは何でですか?」
「やることは変わらないが仕事内容の問題だな」
「何か不味かったですか?」
「情報省の建物を各地に建てられないだろう。今でも商会を隠れ蓑にして
各地へ散っているんだ。給料は同じだから気にするな」
「若様、文部をマリア様にお願いしたので軍務の書類が回ってくるんですが」
「無線は商務に任せたし我慢してくれ」
「軍務が空席というのは不味いんでは?」
「適任者がいないんだよ」
「アレックスさんもバベルに居ますし既に陸軍とは上手く連携作戦を
取れない状態ですよ」
「推薦したい人間がいたら言ってくれ。最悪はリリーナになるぞ
それより最近はデニスを見かけないな」
「兵器開発に機械の増産と都市建設ですよ。各地を飛び回ってますよ」
ニコの仕事が減ったと思ったら今度はデニスの番か。
「それで今日、挨拶に来る長官というのは?」
「ユリアンは林野長官なのでいませんが、入ってきてくれ」
女性が二名もいるのか。男尊女卑はいけないな。
「商務長官に任命されたコリーンと申します」
「同じく加工長官に任命されたアイラと申します」
「わたしは海運長官に任命されたミッキーと言います」
「よろしくおねがいするよ。未だに混乱しているようだけど
気長に見てやってくれ」
「「「りょうかいであります」」」
海運長官はマルコになると思ったが海軍を選んだか
ニミッツ級を任せるからこれもありか。
緊張する三人を見てヤンは笑っていたが
三人とも二十歳だというから若い。俺もそろそろ十八だが。
翌日はエクレールの混乱を調査だ。お供はおなじみにヤンとミーアと
コンラートだ。
「お前達って仕事してるのか?」
「「勿論ですよ」」
「兄貴、視察の後は満腹亭でラーメンにしましょうよ」
「構わないぞ」
「家族連れが多くて一人だと入りずらいんですよ」
カウンター席という概念自体がないからな。
まずは駅か。
「ノア兄、ここはセントラルステーションの南だけど実質はここが
本国最大の駅ね。ホームだけでも三十六もあって空港と隣接してるのよ」
北西に空港があって南はバスターミナルか。
「若様、空港も手前が民間用で滑走路が三本で奥が空軍用で
滑走路が四本です。空軍は横風用の滑走路も二本ありまして
民間用と乗り換えも可能です」
土地が余っているとはいえ五千メートル級の滑走路を三本か。
空軍の方の二本は六千メートルはあるな。
「お父さん、早くしないと超特急が出ちゃうよ」
「お爺さん、イースタン行きは二十五番ホームみたいですよ」
「お兄ちゃん、サザンクロス行きが出ちゃうよ」
「すぐ乗るぞ」
超特急まで出来たのか人が溢れてるじゃないか。
「すいません、マイセン行きの乗り場はどこかご存じですか?」
「マイセン行きはあちらの八番ゲートから四十分後に離陸ですよ
搭乗手続きはあと二十分ですよ」
「ありがとうございます」
「ニコ、アレス航空はマイセンまでの路線まで持ってるのか?」
「はい、途中で給油の為に直行便ではありませんが
南の旧王都のエンジェルまで飛ぶ便もありますよ」
バルバロッサ王国の王都はエンジェルというのか。
「デニス兄さんも四式の民間航空機を開発しているみたいだけど
軍用機が優先なんだってぼやいていたわ」
「仕方ないさ、四型戦闘機のテスト機がこの間墜落したばかりだからな」
「若様、見て下さい。あれがバベル行きの特急列車です」
「ごついボディだな」
「引くのは魔道エンジン四機搭載の新型機関車が二両です
ここからバベルまでを僅か三日と十五時間で結ぶ新型ですよ」
「それは凄いな。飛行艇でもぎりぎり一日だろう」
「アレス航空の最新式でも朝一番で発っても着くのは深夜ですからね」
「最新式は無給油でバベルまで行けるのか?」
「はい、ギリギリですが直行便ですよ。危険な時は手前の空軍基地に
降りることになっています」
「それじゃ転移で加工工場の見学に行くか?」
「若様、今は結界装置の増設で普通の魔法師では転移は不可能ですし
若様が転移魔法を使った場合でも転移警報が流れますよ」
「マジで?」
「マジです」
「兄貴、ライトバンで行きましょうよ。運転はお任せを」
のどかな風景だな。もう大豆の収穫も終わったから冬野菜だけか
来年は新領土が米だから麦と小麦が多いんだろうな。
「ここですね。最新式の設備を使った加工工房でフリーダムパンから
各種の野菜缶と肉缶まで製造しています」
「魚缶は?」
「魚は匂いが違うので別工房ですよ」
アルタイルパンもフリーダムパンになってしまったか
残存するアルタイルを使う言葉は飛行艇のアルタイル砲だけか。
「ここで消毒してから入ります」
冬なのに徹底しているな。
「兄貴、マスクだと息苦しいですね」
「我慢しなさいよ」
「ではご説明しますね、ここから右がフリーダムパンの製造エリアです」
「おい、アイラ、長官が説明なんてしていていいのか?」
「これも大事な仕事です。中央が野菜缶で一番多いのがコーン缶です
そして左が肉缶で牛缶が一番人気ですが最近は辛口羊缶も人気があります」
「食べれる年数は?」
「一年ですね。ノア様の即位された年が元年で今年はフリーダム歴三年ですから 四年の十月までと記載しています」
「一年じゃ無かったのか?」
「二ヶ月は猶予を見ているんです」
俺も三年以上経ったシーチキンを食べたりしてたからな
余裕は必要だよな。
「アイラ、期限を過ぎたのを食べて腹を壊したらどうするんだ?」
「それは自業自得です。国は責任を負いませんよ
ちなみに期限前でも責任は負いませんけど」
国営工場は怖いな。一般住民には電話がないから無敵だな。
「ノア兄、あれってソーセージかな?」
「そうですよ。ソーセージもここで作っています
お勧めは『辛味ソーセージ君』ですね。酒のつまみに最高だと噂です」
「アイラ、私達はこれから食事だけど一緒に行くか?」
「ぜひお供します」
そこからヤンの暴走運転で二時間で満腹亭まで戻ってきた。
「ヤン、飛ばしすぎよ」
「そうだぞ」
「予約の時間ぎりぎりだったんですよ
さあ入りましょう」
「いらっしゃい」
「俺達はトリプルチャーシューの全部入り大盛り辛味噌ラーメン四人前で
アイラはどうする?」
「わたしも同じので」
「初めてで辛味噌大盛りとはチャレンジャーだな」
「残したら料金三倍よ」
「覚悟の上です」
「おまちどう、熱々だから気をつけな」
「やっぱり冬はラーメンだよな」
「うどんや蕎麦もいいけど食べ応えが違うわね」
「「「「いただきます」」」」
「い、いただきます」
「今日は一段と辛いわね」
「でも美味いな」
「このチャーシューが柔らかいのが凄いですよね」
「ここのネギは相変わらず美味いな」
夏だったら汗が凄かったと思うが完食出来た。
「アイラ、汗だくだぞ」
「ちょっと辛かったです」
「初心者はざるラーメンの普通盛りから入るからね」
「今年は子羊をかなり潰すんでしょう。次はステーキハウスですね」
「ラライラちゃんの仕事も減っちゃいますね」
「来年の秋になれば食糧難も解決するからそれまでの辛抱だな」
「お替わり無料も一年はお預けか」
難民一億四千万は一日一食で頑張っている
俺達の大盛り自体が贅沢とも言えなくも無い。
食事も無事終えて解散だ。
そして今日は人によっては大事な十二月十四日の予算会議だ。
「アレックス先生、お久しぶりです」
「ノア、さすがに今日は来ないわけにはいかないからな」
「では会議を開始しますが、暴言を吐かれた方はそれ以降の発言を聞きません」
「ヒルダ、この案だとコリーンとアイラとミッキーの所を優遇
しすぎだと思うんだけど」
「三つは新規職員の獲得に金貨が必要なので今年度だけの処置です」
「うちも新規なんだけど」
「ユリアンの所は農務から大勢連れていったじゃないですか」
自分の旦那にも厳しいとは侮れないな。
「海軍の予算が去年より減ってるんだけど」
「海運と別れたんですから当たり前です」
「陸軍に星金貨五千枚増額してくれんか?」
「うちに星金貨なんてありません」
「それじゃ海金貨二千五百枚」
「陸軍ならいいでしょう」
「それじゃ空軍にも同額を」
「そもそも空軍と海軍の新型機の開発で海金貨が消えているんですよ
開発費を半分に抑えて頂けるなら皆さんに
海金貨を三万枚ずつお渡ししますわ」
「情報局に海金貨二千枚を頂きたい」
「良いでしょう、西大陸は全面戦争中ですから」
西大陸は二カ国の余波を受けて南部の四カ国も戦争に入って泥沼状態だ
ヒルダはロアン以外の各国に食糧援助を行っているようだが。
「農務は空軍への種まきや農薬散布の依頼で金が飛ぶんだ
海金貨三千枚を追加して頂きたい」
「そうですね、認めましょう」
「それなら国土交通も都市建設で入り用だ。二千五百枚の増加を希望する」
「二千五百は無理ですね。二千なら出しましょう」
「感謝する」
「ヒルダ、軍務の額が記入されていないよ」
「ノア様の好きな額をご記入下さい。その代わり苦しくなるのは国ですよ」
俺が軍務代理だけど好きな額と言われても空軍と同額でいいか。
「私の所の予算を回しましょうか?」
「加工省の予算ならうちも助かる」
「アイラ、ダメよ。冬に去年の三倍以上の羊の加工があるわ
その為の増額よ」
「はい」
確か、アイラは二十歳でヒルダは二十三だけど
少女と大人のようなやり取りだな。
「無いようね。予算要求をしなかった長官の所には海金貨千枚を
加算するわ。それでは解散」
やっと終わったか。
「デニス兄さん、ヤン、どうだった?」
「まあまあだな」
「俺は海金貨で二千枚多くゲットしたぜ」
無事終わって良かったが
問題は西大陸だよな。まさかトレミー帝国とロアン王国の戦いが
全大陸を巻き込む戦いになるとは俺も思わなかった。
出来ればトレミーに勝って欲しいが運次第だな。
お読み頂きありがとうございます。




