第六十七話:父が変わった理由
東大陸から戻る際に見つけた広い滑走路を持つ島を攻略する為に
デニス率いる空母二隻で先制攻撃だ。
「中継機に三型攻撃機二百を二時間後に我らと合流できるように
発進するように伝えろ」
「了解」
「第一、第二戦闘中隊発艦せよ」
「飛行要員はカタパルトへ誘導せよ」
「第一から第四カタパルト射出準備完了」
「健闘を祈る」
そして二隻の空母から飛びだった鷹達の獲物狩りの時間だ
総勢二百機の三型戦闘機だ。レーダー性能が上の軍が奇襲を行える。
三十分後。
「第二戦闘中隊が敵中継基地へ攻撃を開始しました
他の三隊は敵の迎撃機四十機と戦闘中です」
「敵のレーダーも五十キロ程度の目は持っているらしい」
格上の百二十機と旧式の四十機では相手にならず
第二戦闘中隊がきっちりと敵の機体を抑えて
空軍基地からやってきた攻撃機が止めをさした。
「三時間四十四分で制圧ですね」
デニスも細かくなったな。
「指令、味方の損失はゼロで敵機百二十機以上の撃破に成功
滑走路及び格納庫にあった戦闘機は千六百、爆撃機が六百二十だったそうです」
これは新人のテスト機行きかな。
こうなると八千機以上持っていた事になるのか。
知らない場所にもまだあるかも知れないな。
「しかし、サントスは数だけは多いですね」
「あの領土に人口が数億もいれば飛行士も使い捨てだろう」
人が多い国を攻めるのは大変なんだよな。
「報告します。港の裏に隠しドックを発見しました
潜水艦十四隻を鹵獲しました」
「空母と巡洋艦を港へ入れる。護衛は四十機だ」
「了解」
司令官さんも大変そうだ。俺は見てるだけが一番だな。
五日後には中継基地には三型戦闘機八百機に三型攻撃機が四百と
三型爆撃機が四百の大所帯になった
空母は戦闘機八十と攻撃機二十のみを搭載した四空母体制で
敵を待ち受けている。
「敵は来ますかね?」
「島の様子を調べないと戦略的に致命的になるだろう
フリーダムへの攻撃を諦めるか侵略を諦めるかの参考材料が必要だろう」
「徹底的に叩きますか?」
「事情が変わったからな。サントスの出方次第では許しても良いんだが」
「サントスの航空機から再び無線通信が入りました」
「内容は?」
「ノア・フリーダム国王と二人で会談の席を持ちたいとあります
場所は明日、この島です。発信者はサントス国王となっております」
俺がいる事を知っていてくれるとは光栄だが
相手の真意が理解出来ないな。俺の暗殺もあり得るが。
国王の顔を見てみるのも悪くないか。
「よし、会うと伝えろ」
「いいんですか? 罠の可能性が大きいですよ」
「その時はなんとかするさ」
そして翌日に飛行艇一隻がやってきて
兵士の数は五十人程度で俺と本気で面談したいというのは本当のようだ。
「それじゃ行ってくるよ」
十七才というから同じ年か、どんな奴だろうな。
「やあ、久しぶりだね。四年ぶりくらいかな。
「ら、ラインハルト、生きていたのか?」
「あの混乱で僕も死ぬかと思ったが父上が偽の死体を用意してくれて
東大陸に逃がしてくれる算段を事前につけておいてくれたんだよ」
「よくも国王になれたな?」
「お互い様だね。優秀な部下が四千人ほど着いてきてくれたし
資金は豊富だったから飛行艇を四隻作った段階で国を立ち上げて
それ以降は毎日が戦争の日々だったよ」
「オーガスの連中が盗人とか言ってたぞ」
「支援戦闘機と潜水艦の技術がどうしても欲しくてね。魔法兵を送り込んで
設計図を奪ったんだよ。それ以降は強力な転移結界を張られたけどね」
うちも気をつけないとな。三型の設計図を奪われたら目も当てられない。
「それで会談の目的は?」
「僕とノアの仲だしそろそろ停戦協定を結んでもいいんじゃないかな」
「お前の所の兵士にうちの兵士もだいぶ殺されたぞ」
「それこそお互い様じゃないか。それにノアの統治の邪魔をしそうな
獣人排斥運動に力を入れている連中を受け入れてやってるじゃないか」
「オーガスとうちとの二正面作戦は辛そうだよな」
「本音はそこなんだけどね。サントスの飛行艇技術は世界一だよ
毎年のように改良された新造飛行艇が出来てきているよ。ジュノー大陸を
統一してノアも戦争を終わらせたいだろう」
確かに二年は内政に専念したいというのが本音だ
西大陸が動かないのも不穏だし南大陸があるような事を言っていたしな。
「いいだろう、その代わり攻め込んでくる素振りを見せたら
サントスの全土を灰にするぞ」
「フリーダム軍の人の密集地帯を狙った無差別爆撃は帰還兵の間でも有名だよ
僕も折角助かった命だからね。命を無駄にする気はないよ」
シャル達の所業が俺の魔王伝説を上書きしてるじゃないか。
「停戦協定の内容はどうする?」
「それなんだけどね、うちとジュノー大陸は二千キロ以上離れているし
和平条約にしない?」
「いいだろう」
そしてサントス王国との和平条約を結んだ。
内容はお互いに攻め込まない。更に貿易の関税は双方一割までで
お互いに貿易港を一つに絞るという内容だ。
「でも領土の大きさでオーガスに負けてるのに善戦してるじゃないか?」
「条約を結んだから言うけどうちの大陸の北にはサントスの本拠地の
大きな島があるんだ。そこで建国して南に攻め込んだんだけどね
島と言っても大きさは学院に通い初めた頃のアルタイルくらいあるんだけど」
「それなら領土の大きさでは負けているが、本拠地は北という事か、それに
してもよく支援戦闘機の有用性に気がついたな?」
学院に通い始めた頃というとヒンメルを収めた程度か。
「キングダムに殺されたと言われていた強力な魔法兵が居たのは覚えてる?」
「双子の魔法兵だろう」
「その双子の生き残りの方がバルバロッサ王国の陰謀で呪術魔法で両腕を
動かなくされたんだ。それで打倒バルバロッサ王国の為に
ロレーヌ家を頼って庇護を求めてやって来たんで助けてやったんだよ」
「そいつが支援戦闘機を勧めたという訳か」
「理解が早くて助かるよ。仇のバルバロッサはノアが打倒しちゃったし
ノアの所のジェットっていうやつも開発中なんだよ」
こいつらの高い生産力で三型と同等の戦闘機を開発されたら世界中を
巻き込む戦争に発展しかねないな。
聞いてもいない事をペラペラ話してくれるのはラインハルトの生まれの良さ
というか自慢話が好きなんだろうな。
「ところで戦争中なのに何でジュノー大陸の覇権を狙ってきたんだ?」
「僕はアレク・イシュタルを殺してこいと命令しただけなんだけどね
優秀な将軍だったんだけどジュノー大陸で勝ちすぎたのが原因みたいだけど
暴走してジュノー大陸の王を望むようになってしまったようだよ」
「つまり親を殺された復讐をするために兵を送っただけで
ジュノー大陸の併合を狙っていたわけではないという事か?」
「そうだよ、人って不思議だよね。僕の目の届く範囲にいる間は忠実な
部下だったんだけど、大軍を指揮して僕から離れたら個人的な野心の為に
僕の大事な兵を五十万以上失う失態をする馬鹿に成り下がるなんてね」
やはり命令系統に統一性がなかったから簡単に戦線が崩れたのか?
将軍と言っても海を渡り百万以上の兵権を与えられて我を失ったようだな。
「人っていうのは変わる物だ。それも仕方ない」
「そうだ、良いことを教えてあげよう。君の父のルッツ殿はアレクによって
闇系の従属魔法をかけられて年月をかけてアレクの人形に
されていたんだよ。たぶん最後は死の恐怖も感じずに死んだんだろうね」
「アレクはそんな高度な魔法まで使えたのか?」
「アレシアの近衛兵の部隊長達を洗脳してキング国王の近辺の警備を
薄くしてくれたのもアレクだよ。僕が直接殺したかったけど死んだのなら
もうどうでもいいかな」
俺の兄だ。それなりに魔法の腕はあると思ったが、闇の系統の
魔法に偏っていたんだな。確かに今となってはどうでもいい事か。
「よし、それじゃ会談は終わりだ。良い関係が続くのを期待してるよ」
「僕もだよ。南部大陸を支配したら遊びに行かせてもらうよ」
ラインハルトを乗せた巨大飛行艇はかなりの速さで去って行った。
「サントスと和平条約ですか?」
「ラインハルトが生きていたんならいいんじゃないの」
「国内の食糧不足を解決するまではうちも余裕はありませんしね」
「これで当分は戦争は無しですね」
「それじゃ折角ここまで来たけど帰国しようか?」
「この島にはどの程度の兵力を残しますか?」
「和平条約を結んだんだし、とりあえず三型を二百機程度残して
来月にはルッツ型を二百機程度配備して様子を見よう」
「わかりました」
そしてエクレールに帰国して半月程度すると各地でイシュタル芋が
取れたと報告が届いた。
イシュタル家の男子の人間の支配を受け入れなければイシュタル芋は育たない
少なくとも農民はフリーダムの支配を受け入れたようだ。
そして三日後に南西部で反乱が起きたと報告が来た。
「私達の爆撃が怖くないのか?」
「どうやらロアンが後ろで手を引いているようです
かなりの支援を行っているようで反乱軍は三万程度だそうです」
「ロアンをやっつけちゃおうよ」
「兄貴、弱気な所を見せるとつけあがりますよ」
「トレミー帝国の友好国だから攻めにくいんだよな」
「それもそうね」
「狡猾な国だわ」
「コンラート、残念だが反乱を起こした地域に戦闘機と爆撃機を送ってくれ
反乱が大陸中に広がったら一大事だ」
「わかりました」
「さすが兄貴です。攻撃機じゃ無くて爆撃機という容赦のなさに
惚れますよ」
「お前は結婚相手を早く見つけろよ」
男のヤンに惚れられても嬉しくないわ。
航空機の威力は絶大だ。一週間で反乱軍を殲滅して
不穏な動きをしていた住民をまとめてロアンに送ってしまった。
そして俺がノルト大陸に行って貿易交渉を終えて帰ってくると
トレミー帝国がロアンに対しての宣戦布告と同時の侵攻作戦が始まったと
各地から連絡が来た。
「ミュラー陛下の考えか、他の人間の入れ知恵かは不明ですが
同盟国の我が国への反逆行為に対する制裁措置を名目に攻め込むとは
なかなかの策士ですね」
「うちらが大陸を統一したもんだからガイア大陸統一の建前じゃないの?」
「よく食糧があるもんですね」
「うちから買った食料がかなり余っているようですよ」
「どおりで気前よく買っていたわけですね」
「我々も内政が忙しくて外に目を向ける余裕がありませんからね」
「攻め込んでくる様子が無い限りは来年の米の収穫までは我慢だ」
「仕方ありません、当分は国力増強に努めましょう」
戦争ばかりしてはいられない
安定すれば反乱を起こすより富を求めるようになるだろう。
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