第六十六話:わたしに外交は無理のようです
最後は地図でオーガスとあった大陸で墜落したと思ったが
一応生きているようだ。
「俺はさすがに牢屋に入れられたのは初めてですよ」
「若様、トイレに行きたいのですが」
「そこにあるじゃないか。オマルが」
「これですか……」
ここはどこだろうな? 日光が差さないから地下牢というやつなのか
ロマンを感じるが、ここでも転移出来ないとは俺以上の使い手がいるのか。
「おい、食事だ」
「これって黒パンと水ってやつですよ」
「黒パンですか、前に一度食べただけですから二度目ですね」
「農奴の人達はよく一日一食でやっていけてたよな」
「俺達じゃ一週間で反乱を起こしますよ」
「十三型はどうなったかな?」
「若様、たぶん壊れたでしょう。ポケットに破片が入っています」
「そうだ、お前達のマジックポーチを預かっておくぞ
代わりにラライラちゃんに上げた五十キロのやつを渡しておくから
適当に二十キロ程度の荷物を詰めろ」
「若様は?」
「さすがに次元収納を見破られたらお手上げだ
とりあえず二百キロのマジックポーチをカモフラージュにするよ」
「全然、足りないですよ」
「五日経って音沙汰無しなら魔法を使って脱走を試みよう」
その日は初の牢屋でお泊まりだ。
結局それから安宿での宿泊は二泊延長されて3日目だ。
「……不審者ども起きろ」
「兄貴、俺は国に帰れたら優しく起こしてくれそうな女性を探しますよ」
「同感だね。寝起きは重要だよ」
「兵士の方、我々は外交官です。この国の名前を教えて頂きたいのだが?」
「宰相閣下が貴様らにお会いするそうだ。黙って着いてこい」
やはり城の地下室だったのか。奴隷はお断りなんだけどな。
「ここで待て。荷物を寄越せ」
イシュタル家に生まれてから俺って良い生活してたんだな
これで囚人服なら犯罪奴隷三人前の出来上がりだ。
既に二時間か、宰相って言うと普通は国の重鎮だよな
何で不審者と会うんだ。その辺も謎だな。
「待たせたようだね。僕が宰相のライオネルで隣にいらっしゃるのが
女王陛下のプリンセスセシリーだよ」
女王で何でプリンセスなんだろうな?
「「初めましてフリーダム王国の外交使節団でございます」」
「私はノアで右隣がコンラートで左がヤンと申します」
「ほう、フリーダムというと北西にあるというジュノー大陸の農業大国か
噂は聞いているぞ」
「それは何よりです。今回はサントス王国を調べにやってきましたが
敵兵に追われて南に逃げましたが……その後の記憶が曖昧でして」
「うちの別荘に墜落してきたので、我がオーガス王国の宮廷魔道士の手によって
救出したのだ。感謝するがいい」
「ありがとうございます」
こいつ転生者じゃないか。強い奴の方だったら面倒だな。
「貴公らの乗ってきた戦闘機を調べたがサントスの軍の物では無かったが
武装は悪くないがエンジンは我が国に劣るな。手荷物も調べたが質のいい
食材が詰まっていたのでその方らの言い分に嘘は無いようだな」
「兄様、そんな簡単に信じてよろしいのですか?」
「陛下、いいんですよ。情報部の調べでは盗人のサントスの機体を
二千機以上も墜とした大国らしいです」
「直答を許す。そちの役職はなんぞや?」
「一応、国のトップを務めさせて頂いております」
「俺は情報部の長官です」
「わたしは空軍の長官です」
見た目は十才程度に見えるな、兄様と言っていたから兄弟なのか
それともミーアみたいに親愛を込めて兄と呼んでいるのか?
「フリーダム国王というとイシュタル国王の仲違いした弟殿か?」
「そうなります」
「手短にこの大陸へ来た要件を言って頂きたい」
「はい、先月の下旬にジュノー大陸を統一しましたがまだ不安定なので
サントス王国へ攻撃を加える為の情報集めです」
「我が大陸への領土拡張か?」
「いえ、ジュノー大陸は食糧難で他国を制圧する余裕もなければ
信頼出来る部下も少ないのでサントスの軍事力を削るのが目的です」
「いつごろ攻め込んでくる予定なのだ?」
「私達が戻ればすぐにでも攻め込む予定です」
「あの機体で攻め込むのだ、かなりの機体数を保有していると見える
陛下、サントスを打倒して先代の父君の悲願でもある南北大陸統一に役だって
もらっては如何でしょう?」
「悪くない案だが南方大陸に対する守りはいいのか?」
「うちには精鋭の操る最新型の潜水艦があります。海賊船もどきが
五万隻いようと我が国の領海に入ったが最後です
見事沈めてご覧にいれましょう」
五万隻っていうのは海賊とは言わないぞ、海洋国家なんだろうか?
でかい国は大変だな。
「よいであろう。ここで殺しても旨みは無い」
「では戻って軍を展開して頂こう。我らは帰国がサントスに襲いかかったら
攻め込もう」
「兄貴、俺達は属国じゃないですよ」
「そうです。サントスをこの国が支配するなら相応の見返りを求めるべきです」
「お前達、無礼であろう」
「しかし、陛下並びに宰相殿。手を縛られた状態で軍議を開いたと知られれば
このオーガス大陸へ攻め込むべきだと主張する将軍を説得出来ないでしょう」
「それと戦勝祝いに同盟国へ報酬を出すのは指導者の務めですよ」
「そうそう、国際常識です」
「それではサントスの盗んだ設計図を報酬として出そう」
「宰相殿が二千機を墜としたと言ったではありませんか
あんなプロペラ機の設計図など要りませんよ」
「ジェットエンジンは機密である。それならば星金貨五万枚でどうだ」
「桁を数桁お間違えでは? サントス軍に先制攻撃して囮となり
領土を要求しないという事になるならば金貨ならば
星金貨で五千万枚は頂きたいですね」
「わらわ達が寛大な心を見せてれば図に乗りおって……」
「それでは決裂ですか? 我々はサントスの領土を奪うことに悲願などは
感じませんが、北の大陸で相まみえるのも一興かと」
「自分の立場が分かっておるのか?」
「言い忘れましたが既にロープは切ってありますし
これでも国の重鎮です。ある程度の魔法の心得はあります」
言いなりは嫌いだ。後で難癖つけられるのが落ちだ
いじめというのは一度でも言いなりになるから相手がつけあがるんだ。
「陛下、お下がり下さい。衛兵出て参れ」
おいおい、ゾロゾロ出てきたじゃないか
剣を見るのも久しぶりだ。
「若様、どうします」
「手っ取り早いのはお姫様を人質にする案ですよ」
「三日も地下牢に入れられて不満もあるが女の子を人質にするのは
悪の手先みたいだから遠慮しておこう」
「結局逃げるなら最初から逃げ出せば良かったじゃないですか?」
「幼女に会えただけでも儲けものだよ」
「そうですね、頭の硬い方だと判ったのも収穫です」
「みなさん、我々は現在はまだ敵ではありません。その相手に剣を
向けてきたのはあなた方ですので逃げさせて頂きます」
「追ってくるなら命の保証は出来ないぜ」
「身の程を知ってくださいよ」
「轟け、渦で巻き込め、【ウォータートルネード】」
水道橋とはなんとも洒落ている造りだ。
「兄貴、鎧を着てる奴は遅すぎてもう距離を取れましたよ」
「あの岩場の先で戦闘機を出すから逃げよう」
「また十三型ですか?」
「今度は三型だよ」
宰相殿は女王陛下の護衛で忙しくて追いかけてこないようだな
俺ってどうして素直に平和を求められないんだろうな。俺の業かな。
「三型出てこい」
「コンラート、操縦を頼む」
「緊急発進します」
「一人も倒さなくていいんですか?」
「あとで利子をつけて返されたら返済が大変だ」
「エンジン点火、……発進」
「コンラート、敵の戦闘機の運動性能を見たい
高度四千で速度四百で北に飛んでくれ」
「わかりました」
「緑色のが四機上がってきました」
「速度を徐々に上げながら上昇だ」
なかなかやるな。
「速度五百、高度七千五百です」
敵は速度的には五百キロ以上でそうだが高度は七千が限界のようだな。
「よし、西へ速度七百で転進」
「突き放せ」
最高速は六百弱か。良い性能だ。
途中で十回の転移を加えてぎりぎりでノア型空母の五番鑑に着艦した。
「西に向かって飛んだ距離が二千百キロですね」
「わたしの転移で五百キロとして、ここから陸の基地までが百キロだから
二千七百キロもあるのか」
「若君、ヤンから聞きましたよ。サントス以外の国に喧嘩を売ってきたとか」
「成り行きだね」
「外交官を三日間も地下牢に入れておくのが悪い。それに領土を手に入れても
協力の代償が星金貨五万枚だけっていうケチな幼女様だったよ」
「三千キロ未満なら空母部隊で叩けますが」
「戻る途中に中継基地と思われる島を見つけた。大きさはエクレールの
五倍程度で滑走路が八本合ったからそこを落とそう」
「方位は北東というやつかな」
「距離はここからなら九百キロ程度ですね」
「わかりました」
中継基地を落とせば少しは楽になるだろう。
めんどくさい転生者の相手は先延ばしだな。
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