第六十五話:偵察は大変です
八月十五日に本当のエクレールに帰還
別にお盆休みというわけではないが、やっぱり落ち着く街だ。
「それで獲得した領土の荒れ地にイシュタル芋を植えてみて成功したら
野菜に移行してから来年の米用の畑に移行するんですね?」
「イシュタル芋で一時的に飢えを解消してから稲作だな
ブラックペッパーや特殊作物と野菜専業農家はそのままだな」
「兄貴、ジュノー大陸中が米ばかりになりますよ」
「水さえ豊富なら主要穀物の中で米が一番育てやすい。連作障害も低いし
魚料理には一番合う」
「飼料が無くなりますね」
「不満も大きそうですよ」
「納得しない人間はいりません。好きなように一日一食の
難民生活を続けてもらおうじゃないか」
「ニコ、獲得した領土での来年の米の収穫高はどの程度になりそうだ?」
「そうですね、上手く行くと仮定して一億五千トン程度ですかね」
「八億以上も住民が居て一億五千トンならまあまあですね」
「来年の秋までが勝負ですね」
余裕があれば大豆で様子を見たい所だが
安心の米をジュノー大陸のメイン穀物にしよう。
「あれ、そうすると税はどうします?」
「特殊作物と認定した農地は物納五割と一割を金貨で払って貰って
新規に獲得した領土は全てわたしの直轄地だからアレス領と同じ方法で
農家は来年は物納八割で漁師は四割を物納と二割を金貨で貰います」
「猟師は星金貨二枚でいいんですね」
「そうだね、山が多そうだし払えるでしょう」
「今年の商人の税金はどうします?」
「商会は立ち入り調査をしていますから隠し立てすれば全財産没収で
真面目な所は四割を税として治めて貰います」
「わかりました、とりあえる領民証は五号機を発行しておきましょう」
「兄貴、東大陸はどうします?」
「勿論、専守防衛なんて生ぬるい方法はとらないよ
今月の中旬までは潜水艦探しで中旬から四空母体制で
東大陸へ攻撃を仕掛けます」
「東大陸も占領ですね?」
「それは悪手だね。制空権を取ったら攻撃機と爆撃機で徹底的に
施設を攻撃して軍事力を奪った後に一年間の停戦協定を目指すよ」
「占領しないのか。仕方ないか」
裏で暗躍していると思われる転生者に時間を与える余裕はない
まずは研究施設を徹底的に叩いてじわじわと締め付けよう。
多くの食料を持って行けないから今回は空軍と海軍だけの
奇襲作戦しか打てる手段がないな。
本国での会議も終わりゆっくりとしたい所だが俺とヤンとコンラートは
東大陸への偵察旅行だ。
「本当に方角は南東であってるんですか?」
「二十回の転移で着かないとはかなり距離があるようだね」
魔力の高い俺でも所有者のいない領域では一度に転移出来るのは
五十キロが良いところだ。
「ご飯にしよう」
「なんだパンですか?」
「新開発したベーコンとチーズ入りのアルタイルパンだ
味わって食べてくれ」
「中々いけますが、夏場は時間停止系の魔法のかかった入れ物以外での
持ち運びには問題がありそうですね」
「やっぱり妥当な所でチーズパンにしておくか」
「若様、今度はわたしが転移魔法を使ってみますよ」
「コンラートも使えるのか?」
「魔法研究所の予想だと時魔法は自分より上位の魔法師と共に行動していると
上達が早いそうです。既にエクレールからサザンクロス程度は転移出来ます」
「転移」
「コンラート、あそこの島の大きさがほとんど変わらないぞ」
「おかしいな」
「所有者のいない場所だとわたしでも五十キロ程度が限界だよ」
「それじゃわたしは十キロも転移出来ませんね」
「俺もやってみるぜ、転移」
コンラートとヤンがそれぞれ二十回程度の転移をしてから俺が更に
七十回の転移を行いようやく東大陸へ到着だ。
「ヤン、お前が適当に転移するから方向が判らなかったじゃないか」
「何とかなりますよ」
「トレミー帝国と同じで暑いですね」
「あそこのはプロペラ機ですね」
「戦闘機のようだね」
「まずは飯でしょう」
「もう夕方だしこの地方の料理を味わってみるか」
「ご注文は何に致しますか?」
「鹿肉のステーキと季節の野菜サラダというのを六人前にご飯を三人前と
サントスパンとスープをお任せでお願いします」
「露天で大麦五キロで銀貨四枚でしたし、戦争中にしては豊かですね」
「去年まで統一戦争していたにしてはメニューも豊富だな」
「おまちどおさま」
「ありがとう」
「味はどうかな?」
「鹿のステーキは悪くないですね」
「このサントスパンって大麦パンみたいですね」
「小麦と米と大麦の混ぜ物ですね」
「サラダも鮮度が悪いですね」
「そうだな、トウモロコシに関しては旬なのにダメダメだな」
「来ましたよ、大麦ご飯ですね」
麦飯だな。配合率は白米七割に大麦三割程度か
いくら食物繊維が豊富と言ってもサントスの王様は胃腸を気遣っているのか。
「メニューの下の方にありますね。白パンは一個で銀貨四枚ですよ」
「白米も一杯で銀貨二枚ですね」
「大麦の収穫高が高いんだろう」
その晩は宿に泊まって翌日から情報収集という事になった。
朝はどこでも同じなんだがベッドの質が悪くてよく寝れなかったな
今日はどこへ行くか。
「若様、ここの女性から国の資料庫の場所を聞き出しました」
「凄いじゃないか」
コンラートは顔だけはいいんだよな。なんで独身なんだろうな。
「小麦は五キロで小金貨で四枚ですか」
「米は五キロで小金貨で二枚だな」
「ありえねえ、トウモロコシが一キロで小金貨二枚だと」
「これはトウモロコシ畑が少ないか国の政策のどちらかだろうな」
あれが資料庫か、見張りの兵士は全部で六人ならいけるな。
「転移魔法で行くぞ。転移」
「各自、それぞれ貴重そうな本をマジックポーチにしまってくれ」
「兄貴、これは空き巣というやつでは?」
「戦争相手国だよ。住民から食糧を強奪するわけじゃないし
ちょっと裕福な人間から少々書物を頂くだけだよ。正義は我にありだよ」
「物は言い様ですね」
王様の名前がラインハルト・サントスで十七才か
ラインハルトというとロレーヌ公爵のラインハルト君と同じ名前か
これも運命かな。
「若様、地図がありました」
「広いな、これって本物か?」
「そうじゃないかな。北西いや、西にバルバロッサ帝国って
書いてある島があるぞ」
「その先のロアン島というのと比べるとバルバロッサの方が四割程度は
大きいから測量はしているようだね」
「この地図を信じると南北の二つの大陸に分かれていて
二つの大陸を合わせるとジュノー大陸の倍程度の大きさになりますよ」
ヨハンが前にフリーダムの二倍程度だと言っていたのは小さめの
北大陸だけを指していたのか。あくまでこの地図が本物の場合だけど。
「細い陸地部分を挟んだ南の部分は色が違いますね
まだ統一されていないんじゃないでしょうか?」
「こっちの文献では南はオーガス大陸と書かれていますね」
「北の軍備の配備状況を偵察してからオーガスとやらに行ってみよう」
それから軍の配備を確認する旅は三日に渡ったが、新しい潜水艦四隻は
ダンへのお中元として頂いて、捜索のした結果、まだ戦闘機が五千機以上
に爆撃機が三千五百機以上あり、なんと飛行艇が二千隻以上ありやがった。
「兄貴、飛行艇の工房をフレア弾で燃やしちまって良かったのか?」
「戦利品に数十機頂いた。設計図は見つからなかったが問題無い」
「次はオーガス大陸ですね」
おいおい、誰だ統一したなんてデマを流したのは。
飛行場の戦闘機だけでも千機以上で飛行艇も二百隻以上いるな。
「やはりジュノー大陸に攻め込んできた部隊は先発隊といった感じ
だったようだな」
「だから、兵士の練度が低かったんですね」
「一万機以上の航空戦力で攻め込まれていたら防戦が精一杯でしたね」
「確かにその通りだな。南の国と戦争中に海を渡って西の大陸に
攻め込むとは何がしたかったんだろうな?」
「若様、北にあったのとここのを合わせれば戦闘機だけでも六千機は
いきますよ、それに飛行艇が随分と大きいですね」
「敵軍の航空機の数はそれ以上だな」
「それに地図ではもっと陸地部分が太く書かれてましたが、両軍の中間の
陸地の幅は一キロ程度しかありませんね」
「俺が守備側だったら海との高低差もそんなに無いし
トルネード弾を千発程度お見舞いして海で隔てるな」
「だいたいの兵力はわかりましたし
転移してオーガスへ行きましょうよ」
「それが、試しているんだが転移出来ない
かなり強力な転移結界が広範囲に張られているようだ」
「フリーダム本土と同様の仕様ですか」
「それじゃ帰りますか?」
「十三型戦闘機を三機持ってきた。戦闘になったら
南へ飛び込んでみよう」
「十三型は廃棄したんじゃなかったんですか?」
「研究資料として工房に五機と俺が三機貰ったんだよ」
二時間か、燃料がそろそろ持たないだろう。格闘戦を挑んで見ろよ。
「敵の方が仕掛けてきましたよ」
敵の敵は味方ともいうが今は敵か。
「直撃弾を受けてるのにサントスの飛行艇は落ちませんね」
「アルタイルの飛行艇より装甲が厚そうだな」
「どうします、良い感じに乱戦になってますよ」
「よし、コンラート発進だ。敵の左翼低空が空いてるぞ」
「発進します」
「コンラート、サントス軍の戦闘機が追いかけてくるぞ。早く逃げろ」
「もうお爺さん機なんですから三百も出ませんよ」
「十時の方向から緑の機体が接近してるぞ」
「そもそも二千機程度が戦争している所に一機で突っ込むのが無謀なんですよ」
「言い訳してる暇ないだろう。前見ろ」
「機関砲だぞ」
たぶん二十ミリの機関銃か機関砲だな。国によって呼び方が違うからな
緑の人達は歓迎してくれないようだ。
俺達のダサい機体を見ればサントス軍じゃないと判ると思うんだが。
「緑の機体が機関砲を撃ってきます」
「左側に数発喰らったぞ」
「撃ち返しますか?」
「「逃げるのが最優先」」
「出力全開」
これは墜落するな。俺の命も短かったな
誰だこんなに広範囲に転移結界を張れる奴は。
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