第六十四話:戦いのあとはうな丼が良いよね
七月十九日にバベルを出発して南部侵攻を開始した
敵と散発的に戦闘になるだけで対陣するような事はなかった。
「トラックって以外と遅いのね」
「これでも空母の倍の速度だし速いんだぞ」
「もう五日も南下してるけど味方の戦闘機しかいないじゃない」
「ちょっと寄り道しすぎましたね」
「西も東も空母が主力だからね」
「ヤン、敵の戦闘機はどうだった?」
「五十機ほど高角砲の餌食にしてやったよ」
「なんか戦争しているって気分じゃないわね」
「デニス、このチラシを十万部程度刷っておいて」
「降伏勧告ですね。わかりました」
更に寄り道しながら一週間進むと遂に初めて見る南の海岸線だ。
「結局、この一週間で戦ったのはオンボロの装甲車三百両だけね」
「難民に偽装した兵士が五万人ほどいたじゃないか」
「もう昔の事よ」
「あれってノア型空母の四番艦よね」
「向こうは僕たちが乗ってた二番艦だね」
「今度は東、それとも西?」
「ノア様、怪我も無く安心致しました」
「ギュンター、戦況はどうなったんだ?」
「サントス軍は事実上は崩壊して既に残存部隊の八割は自国へ帰還中で
残りは東の港のマイセンを中心に東と南東部の港へ向かっていますな」
「つまり全軍で逃げ出したと」
「その言葉がまさに当てはまりますな」
「よし、デニス、前に渡したビラをジュノー大陸中に配布してくれ」
「本当に港と空港施設以外から一時撤退するんですか?」
「各国の反応と住民の反応を観察したい」
もう完全に魔王だし、もはや傷つくプライドはない
徹底的にやってやろうじゃないか。
それにサントス軍の上級指揮官を全くみかけない。もし東大陸に
豊富な戦力がある又は部下の事を駒としか考えていないなら
俺達の戦力を見極める為の生け贄とも考えられる。
「兄貴、折角バベルを取ったんですよ。あんなに苦労したのに」
「私達がいなくなってバベルで百万人クラスの反乱が起きたら
バベルを灰にするぞ」
「あんな立派な都市をですか?」
「これは縁起担ぎとでも言うか、希に自分の生まれたばかりの赤ん坊を
形式的に一旦捨ててすぐに拾って授かり物としてありがたがるとかあるだろう
バベルも一度捨てて再び我々の手に戻れば大事にしよう」
「よくわかりませんが、兵の配置はどうします?」
「中規模以上で良い立地の飛行場か空港に兵を二千と戦闘機と攻撃機を配備
主要の港を五個厳選して空母と巡洋艦を配備して
残りはフリーダムに帰国して一週間の休暇だ」
「輸送船はどうします?」
「食糧は空母のいる港に降ろしてそのまま休暇にしよう
ヘリも全て一度帰還で給油機は必要な分だけ残して帰還だな」
「わかりました。暴動が起きた街や村は灰になるんですね」
「頑張って鎮圧して貰おうじゃないか
治安の良好な街は攻撃しないとちゃんと書いてあるからね」
「よし、撤収だ!」
「「「おーぉ」」」
気合いがないがいいだろう。
食べ合わせが悪そうだが鰻の蒲焼きにスイカと洒落込むか。
俺達幹部は八月の四日にはフリーダム本国に帰還した。
「おやじさん、鰻どんの鰻を二重にしてご飯は大盛りでお願い」
「俺は天ぷら定食の海老を三倍でご飯大盛りでね」
「わたしはキスの天ぷらと野菜天ぷらとご飯大盛りで」
「フリーダムは平和ですね」
「先月迄戦争してたなんて錯覚かと言われれば信じそうです」
「こういう日常が一番だよ」
「お待ち」
「熱々だね」
「あたぼうよ」
美味そうだ、夏は精をつけないとな
江戸時代に鰻が売れなくて苦肉の策と聞くが
俺的には夏で良かったよ。
「コンラート、うちらは何人くらい死んだ?」
「ご飯の後に聞きますか? 一昨日の記録ですが飛行士が四百二十二名
他の正規兵が三千二百五十四名に予備軍で七十七名と義勇兵はゼロでした」
「三千七百名も死んだか……」
「攻める場所次第で変わりましたね。中央が死亡数は一番ですが
飛行士は東部で多くが死んでますね」
本隊が西部だったからしわ寄せが中央と東部に行ったか
航空機の性能と練度ではうちが圧倒していたんだけどな。
「わかった、この話は終わりだな」
翌日は満腹亭でその翌日はラライラちゃんとトウモロコシの収穫作業
そして帰国してから一週間が経った。
「どうなった?」
「宣伝の効果は多くの地方で守られましたが南部は酷い状況で
反乱が起こってから更に二日に渡って警告しましたが収まらず、反乱が
大規模になりましたので四つの街を灰にしました」
「旧イシュタルは旧ヒンメルの聖都が同様だったので
四日目に灰にしました」
五つの街が灰になったか。来世はミジンコあたりに転生かな
ルーカスが聖人と呼ばれるように育ってもらおう。
「よし、女性陣はフリーダムに残留でニコは農務だしデニスは東の空母部隊の
指揮で……やっぱりシャルもつけよう……あとはヨハン夫妻に南の空母部隊の
指揮を任せよう。コンラートとヤンは私とバベル入りだな」
「わたしは?」
「リリーナはアレスの総督だ」
「ノア、儂もバベルとやらへ行くぞ」
「お爺さま、体の調子が悪いと言われていましたが」
「儂も年じゃ最後に一千万以上が暮らせる都市というのを見るのも
いい冥土の土産になるじゃろう」
「そうおっしゃるなら、行きましょう」
「若君、マルコはどうします?」
「着任したらここへ戻してあげて。……そうだみんな護衛はつけてね」
「兄貴、俺達は?」
「三型戦闘機で行こう。護衛は百機でいいだろう」
「俺の操縦テクニックをお見せしますよ」
何度か十四型に乗ってるからいけるだろう。
「それじゃリリーナ、安定したら戻ってくるから」
うぁ、これって別物じゃ無いか。よくこれで空母に降りられるな
脱出装置はあるな。
速いのは良いんだが、個人的には時速八百キロあれば十分だな
これで高度一万以上でマッハを超える奴の心臓は凄いな。
「兄貴、余裕でしたよ」
「ヤン、足が震えてるぞ」
「やはり訓練とは違いますね」
「アレックス、元気だったか?」
「ハインツ様、よくここまで来ましたね」
「なに、冥土の土産よ」
「この都市は異常なほどの出来ですよ」
「確かにでかいな。でかすぎる」
「アレックス先生、南の街を焼いた後に死者は出ていますか?」
「いや、平和なもんだ」
「そうですか」
ここを真面目に作ったら星金貨で一千万枚でもきつそうだな
名前は知らないけど良く作ったよ皇帝陛下様。
ダメだ寝れない。何かにとりつかれているのか?
調度品におかしい所はないよな。
ダメだ。三十分も寝れなかった。
「ヤン、どうだ?」
「なんか眠いっす」
「わたしも眠いよ」
「枕が違うとかそういうレベルじゃ無いよな」
「呪いですかね」
「昨日の夜に調べたけど
そんな痕跡は無かったね」
九時か、昼飯からでいいか。
「こんにちは、先生眠れましたか?」
「どこでも眠るのは俺の特技の一つだからな」
「お爺さまは眠れましたか?」
「決まった時間になれば自然に眠れるわ」
「そうですか」
二人とも超人だな。
「アレックス、食糧はどの程度ある?」
「わたしがお答えします
我々の分だけなら数年分ですが、聞いた話では五千万程度がここで
生活をしている模様なので……ここでくらしている人間分だと
よくて十日ですね」
「ユリアン、どうする?」
「東のマイセンと西のマーチへ移動させましょう」
「何人くらいじゃ?」
「東西に二千万人ずつがいいかと。明日には追加の食糧が届きます」
「仕方ないの、希望者は今日の汽車で送ろう」
俺も帰ろうかな。居てもあまり意味なさそうだし。
「今年のフリーダム以外の麦と米の収穫高は判るか?」
「ここも既に暫定的にはフリーダムなのですが、予想と概算ですが
旧イシュタルが麦が九百万トンで米が二百万トン、旧キングダムが
小麦が八百万トンに米が三百万トンで旧バルバロッサが小麦が二千万トンで
米が六百万トン程度ですね」
「全て合わせても四千八百万トンしかないのか? それに米は二ヶ月後だぞ」
「既に倉庫に去年の蓄えは無く、今年の麦を食べている状況です
農家などは家にある程度は貯蔵しているでしょうが外に出ることは
ないかと存じます」
「何でそんなに収穫高が減ったんだ?」
「簡単に申せば戦争の影響で。多くの女性を軍需物資の製造に送り
若い男性の七割以上を徴兵して戦地へ送ったようです。これでは
農地が荒れ果てるのは仕方ありません」
「お爺さまをバベルの総督にします。アレックス先生はバベルの軍のトップで
如何ですか?」
「ノアはどうするのじゃ?」
「イシュタルの加護が薄れると心配ですしエクレールへ戻ります」
「そうか、この禍々しさは若い者には辛かろう
この城の装飾で売れる物は売っておこう」
「お願いします」
「アレックス、軍の配置は?」
「東部に空母が二隻に南部に空母が二隻で旧はつけませよ
ヒンメルの王都に陸軍二万に空軍が四百、元のエクレールに陸軍三万に
空軍が四百と南の港に陸軍三万と空軍四百とここに陸軍五万と空軍が二百です」
「西から攻められたら終わりじゃないか」
「その時は警告なしで報復しますよ」
「そこのメイドさん、こちらへ来て頂けますか?」
「は、はい」
「この街の方ですか?」
「旧キングダムから参りました」
「ではここで宣言します。ジュノーの女神にお伝えする
我、ジュノー大陸を統一し、ここにジュノー大陸を治める事を宣言する
証人は横にいる女性だ。我の言い分に理があると思われるなら
イシュタルの加護をジュノー大陸の全てに与えたまえ」
「兄貴、これで終わりですか?」
「そうだよ」
「領民が一人いればいいんだよ。多分有効なはずだよ」
国外に売ると主要穀物はほとんど残らないぞ
今年は酒を減らさないといけないか。
「ヤン、コンラート、ちゃんと飲んでおけよ
今年はこれ以降は麦と米は酒に回せないかも知れない」
「それはきつい」
「兄貴、やばり魔王になったんですか?」
「去年の米と麦の生産量を合わせてもなんとか一億トン程度だぞ
それを八億以上の難民とノルトの八千万で割って見ろ」
敵対した難民には食料を配る必要はないしノルト大陸も中立国と
いってもいい立場だから最悪はフリーダム王国の本土の国民から
餓死者を出さないようにすればいいんだけど。
「えっと、……単純計算ですけど百キロ程度ですか?」
「俺は三百キロは食べるぞ」
「こちらにある麦は?」
「無理矢理奪えば別だが自分から収めるとは思えない
小麦と大麦の収穫はゼロと考えた方がいいだろう」
「来年の麦の収穫までは大変そうですね」
「イシュタル芋が飢えで死ぬ人間を出すか出さないかの鍵になるだろうね」
「わかりました、農民にイシュタル芋を植えるよう指示します」
「ユリアン、よろしく頼むよ。それと帰って来て良いからね」
「ありがとうございます」
そして翌日、西へ三百万人と東へ二百万人が移動を開始した。
四千万も移動するなんて大変だろうな?
東大陸の指導者は本格的にジュノー大陸を占領する余裕がないのかも
知れない。もしかして東大陸を統一したという情報に間違いが
あるのかも知れない。
とにかく来年の麦の収穫までは戦争は出来なくなったな。