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第五話:クレア男爵家


 戦争開始から十二日、キングダム・アルタイル連合軍は

ダリアン王国軍を追って敵国の王都まで進軍を続け

一度目の総攻撃の三時間後にダリアン国王による全面降伏の

申し出がありキングダム王国軍が王都へ兵を入れた。


 

「結局、僕たちは厄介払いですか?」

「ハイネ辺境伯にお任せしよう

我々もそう長くは領地を留守には出来ないしな」


 結局、キングダム王国は伯爵の裏切りがあったものの、すぐにダリアン軍が

撤退したのでキングダム軍に包囲され三千程度の死傷者を出して捕虜に

勿論、裏切ったジラローン伯爵は王都へ護送されて、領地没収の上

三等親以内の家族は根切り、つまり皆殺しだ。


 我らアルタイル軍は死者三百八十五と少ないながらも死者を出したが

ハイネ伯が一万の軍を残してそれ以外はアルタイルへ凱旋だ。


          

「そろそろ東へ向かわないとオリオンへは遠回りになりますよ」

「ノア、残念だが私とノアは護衛に百騎を連れて王都へ呼び出されている」


「そうですか」

 何の用だろうな?


 ◇


 ここが王都か、オリオンが横浜なら王都は東京といった感じだな

人口三百万以上は伊達じゃないな。


「それでは我々は屋敷へ参りますので」

 

「陛下による謁見の準備が整っております。イシュタル卿とご子息は

このまま王城へお越し下さい」



 もしかして、やり過ぎちゃったのか?


 これが王城か、随分と警備が厳重だな

もう戦争は終わっただろうに、何かあったのか?


「イシュタル家の方は謁見の間へどうぞ」


    

 どうするんだっけ? とりあえず絨毯の色が違うところまで進んで

あとは父さんの真似っ子すればいいか。


        

「第十五代アルタイル国王、グラン、キング、アルタイル陛下のご入来」


 ちょっと焦るな、最悪は亡命も考えておくか、逃げるなら南か西か。

     

「ルッツ、久しいな」


「陛下に置かれてはお変わりなく安心致しました」

 父さん、下向いたまま挨拶してるぞ。これってありなのか?


「ルッツ、此度の戦争の子細は軍務官から聞いておる。イシュタル家の働き見事

である。ルッツの息子のノアと言ったな。直答を許す」

     

「イシュタル辺境伯家次男、ノア・イシュタルと申します」


「良い面構えじゃ。幼いのに敵兵八万を殲滅するとは見事である

ノアはチェスやルーレットの考案者であるとも聞いておる

どうであろう、ルッツには嫡男がおるしオーブ家に養子として入っては」


「陛下、それは……」


「無理にとは言っておらんぞ、戦争中にオーブ家の当主が病で倒れての

加えてあそこには男子が生まれん。そうなるとオーブ家にはイシュタルの加護

を持つ者が必要だ。それにルッツの妻はオーブ子爵家の娘であろう」


「陛下、無理にとは言ってもいないと言っても、臣下にとっては強要している

ようにしか映りませんぞ」


「内務卿は相変わらずじゃの」

    

「はっきり言おう。ノアをイシュタル家から離して他国へ留学させろと言う

馬鹿共がおるのだ。全く自己保身しか考えない馬鹿者じゃ

そこでノアが次男となると、次は他の有力貴族が婚姻を結んで囲い込もうと

するので先手を打って祖父や祖母のいるオーブ家はどうかという話じゃ」

    

        

「そういう事情があるなら、喜んでお受け致します」

「ノアもそれで良いか?」

  

「陛下の御心のままに」


「わかった、そうなると土産が必要だな。シュナイダー内務卿

いい知恵はないか?」


「そうでございますな……陛下が公式に馬鹿共と発言されましたし

その馬鹿共の領地を西の辺境地へ転封して、その空いた領地へ

オーブ卿の南の位置にあるアイストン子爵を伯爵家として領地替え

そしてアイストン領にノア君を男爵として送り込みオーブ家の当主になった

段階で更に陞爵すればイシュタル家とオーブ家からも文句は出ないかと」


「オーブ家の領地は広いがアイストン家は若干狭いしそれで良かろう

ついでにヘカテー勲章と領地開発料として星金貨一万枚だそう」


「よろしいのですか?」

「どうせ、イシュタル家に居ても男爵になるのは確定事項だ

ルッツが与えるのも儂が与えるのもさして変わりはあるまい」


     

「では奸臣の領地没収、その領地へアイストン子爵を伯爵として領地替え

アイストン領をノア男爵の領地として与え、オーブ家の婿になった時点で

その時のオーブ家の爵位を一つ上げるものとする」


「ところでノア殿、獣人についてご意見をお聞きしたい」

「内務卿、わたくしは種族による差別は

前々から不公平だと思っておりますが」

  

「了解した、期待して構わんぞ」

何が言いたいんだか?


 男爵か、父さんから貰うと思っていたけど六年前倒しになったな

リリーナが結婚相手なら問題ないか。


 ◇


   

 さて、王都をゆっくり見物したいけど母さんにも会いたいな。

    

「ノア、居るの?」

「ノーラ姉さん、お久しぶりです。春休みですか?」


「あんたは呑気なものね。学院は上へ下への大騒ぎよ」

「何かあったんですか?」


「ノアが次期伯爵家の当主になる事、その前に獣人の側近を雇うと噂で

卒業間近の三年生は単位修得試験に殺到よ」


「何でですか?」

「貴族、それも上級貴族はコネが無いと簡単に仕官出来ないのよ

ノアは六歳で男爵家の当主で領地持ちで将来は伯爵家の当主が約束されていて

お隣はルッツ父さんで辺境伯よ。これ以上の条件といったら王族か公爵様よ」


「そうなるんですね。でも明後日には王都を発つつもりですよ」


「そう上手く行けばいいんだけどね」


 そういえば繋ぎとはいえ家名はどうしようかな?

 サイトウ家じゃ変だしな。


 

「アレックス先生、ご相談なんですがお勧めの家名とかありますか?」

「家名か? ルッツはなんか言ってたか?」

「自分で決めろと。不名誉な家名じゃ無ければいいそうです」

  

「クレア家というのはどうだ? 元々は伯爵家だったんだが

二百年前の戦争の時に国王陛下を守ってヒンメル神聖国に滅ぼされた家だ」


「響きは悪くないですね。ヒンメルと敵対して途絶えたというのも悪くない

どうせ繋ぎの家名ですし王家から文句が出なければそれにします」


 ノア・クレア、あれちょっと響きが余り宜しくないような?

 将来はノア・オーブだし同じかな。


      

 しかし、王都の屋敷は調度品の趣味が悪いな、何というか悪趣味。

   

「ノア、家名は決まったか?」

「はい、アレックス先生のお勧めでクレア家はどうかと」

「クレア伯爵家か、それなら問題ないだろう」


「父さん、アイストン領はどんな所ですか?」

    

「……そうだな土地は悪くないが、陛下は知らなかったようだが

アイストン子爵夫人の散財のせいで民は重税で苦しんでいるな」

                       

「それでは余り歓迎されないかも知れませんね」

 

「土地は良いしノアは贅沢するわけじゃ無いから

優秀な文官を率いて行けば歓迎されるだろう」


「うちからは誰を連れて行って宜しいでしょうか?」

  

「そうだな、ヘルミーナ、ヨハンとアレックスも興味があるとか

言っていたな。後はノアが決めて良いぞ」

  

どうするかな? 内政改革が必要となると文官だよな

オーブの南という事は東は海で大きな湖があって、南は山だよな

そうなると滋賀県みたいにオリオンを京都に見立てて海運がメインになるか。


   


『ダンダンダンダン』

 

「ノア様、起きて下さい」

「どうしたんだ? 王都見物はお昼過ぎからだろう」

  

「屋敷に仕官希望者が大勢押しかけてきております」

「ここはイシュタル家の屋敷だぞ」


「メイドが既に庭に通してしまいました」

 面倒な事をしてくれたな、一度通したら、『俺、受かるんじゃないか?』と

期待させちゃうじゃないか。


 中庭か、確か二百名は入れるはずだな。

「父さんは?」

「家名の件で王宮に行っております」


「わかった、使用人に焦げたクッキーを大量に作って貰ってくれ

それとお茶の用意だ」

         

「何をするんですか?」

「まあ、運試しかな」


  

うぁ、確実に百名以上いるじゃん。


「みなさん、予定ではクレア家の当主のノアと言います

簡単な試験を作ってそれを午後に行いたいと思いますので、それまでテーブル

と椅子を出しますのでみんなでお互いに応募動機や家族、交友関係を

話しながら試験開始までお待ちください。庭から出たらそこで終了です」


「ノア様……」


「ヨハン、行くぞ」


 さて、子供の言う事を真面目に聞く人間はどの程度いるかな?


        

「ノア様、こんな所で如何するつもりですか?」

「観察だよ。ヨハンももしかしたら何年も共に生活する人間かも知れないんだ

気に入らない奴はチェックしておくんだな」


 あいつは一時間も経つのに会話するどころか座ろうともしない

あの学院の女性徒は積極的に話しているな。


「ヨハン、焦げたクッキーを食べた人間はきちんとチェックしてきた?」

「してきましたよ、食べていたのは半分くらいでしたね」

「僕が考案したとちゃんと伝えたよね」

        

「勿論ですよ」


 

 十二時か、そろそろいいか。


 

「みなさん、今から紙を配るのでその質問に答え終わった方は用紙を

持って私の所へ来て下さい。面接会場へ案内します。先着順ですよ」


 最低、四問の質問程度にまともに答えられない奴はダメだな。



「出来ました」

「うん……それではこの札を持って中庭に剣を持った指導官がいるので

手合わせしてきて下さい」


「わたしも出来ました」

「そうですね、ホールでお待ちください」


 みんな終わったか。


 

「アレックス先生、こっちに来た人間で使いそうな人は居ましたか?」

「だめだな。クズばかりだった」

「そうですか、お疲れ様でした。部屋にお酒を用意してあるのでどうぞ」

「さすが、貴族家の当主になると気が利くようになったな」


 なんか酷い言われようだな。


 あとはヨハンに任せるか。


 

 受験者はみんな帰ったようだな。

「ヨハン、どうだった?」

「見込みがありそうなのが三人、答えに問題はないですが

鍛え直せば使えそうなのが十人ですね」


「百四十人中十人ですか。みんな私を子供と思って舐めてますね」


 そもそもヒンメル神聖国の騎士が二人で決闘を申し込んできました

こちらは貴方と文官の副官の二名です。決闘を受けますか?

 こんな馬鹿みたいな質問で『ハイ』を選んだ人間の人格を疑うよ。



 王都見物は出来なかったか? 俺の領地はあまり裕福そうじゃ無いし

王都の屋敷は当分無しとなると、とりあえず帰ってからかな。


お読み頂きありがとうございます。


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