第五十六話:キングダム王国滅亡
今日は苦労人のニコラウスの結婚式だ。お相手は狼族のお嬢さんで
二才年上らしいが美人でまさに仕事が出来るといった感じの女性だ。
「それでは裏切り者のニコラウスの花嫁さんの幸せを祈って乾杯!」
「「「乾杯」」」
二時間もすると参加者の一発芸で盛り上がり食事タイムだ。
「お母さん、この唐揚げ凄く美味しいよ」
「本当ね、何のお肉かしら」
「食べた事ないお肉だね」
「唐揚げにしてもいけるのね」
これは俺のお祝いでそれほど若くはないが天使アヒルの唐揚げだ
今日は小さい子供が多いと聞いたので一人唐揚げ八個だ。
そしてオーケストラ隊の演奏が二十分程度続いた後に
午後の二時に結婚披露宴が終了。
「ニコ、どこに旅行に行くの?」
「ノア湖の畔にある貸し別荘に三日間いくつもりだよ」
「ノアが鰻の為に作った人工湖ね」
「あそこは景色がいいからね。ナディアと決めたんだ」
「三日と言わず一週間くらいのんびりしてきなさい」
行ったか、当分はユリアンが大変そうだが。
「兄貴、天使アヒルが食いたいです」
「さっき食べたばかりだろう。そんなに食いたきゃ明日にでも結婚式を
挙げろよ。結婚祝いで贈ってやるぞ」
仕事をするか。
農作物はいい売れ行きだ。かぶが余ってるのか。
「兄貴、今日は食事会という事ですが、兄貴が作ったんですか?」
「そうだ、残さずに食べて帰れよ」
「勿論です」
「若様、全てに同じ野菜が入っているように見えるんですが」
「気にするな。全て味付けは違う」
「かぶの油揚げ炒めにかぶのそぼろあんかけにかぶと豚肉の炒め物に
かぶと人参のサラダにかぶの梅和えですか」
「兄貴、体がカブになっちまいます」
「かぶ料理を馴染みの店に紹介してくれればいいさ」
「どこかに売ったらどうですか?」
「売るとなるとサントス王国かロアンあたりか」
一月も下旬になって冬本番だ。
フリーダムはそこまで寒くは無い。飛行工房は丁度いいと言ってる位だ。
「兄貴、ロアンにカブが十キロで小金貨一枚で売れたぞ」
「それは良かったよ」
「何でもカブのスープは家庭の味なんだとか言ってたらしい」
日常的に食べている野菜だったのか?
「それでロアン軍の様子は?」
「国境線を決める交渉を外交使節がやっている最中らしい
今月末には決まりそうだと言ってたな」
後は飛行艇の減ったキングダムがどう動くかだな?
そして一月末にヘンドラーのラインの街でヘンドラーの分割統治案の
会議が開催される事になったが、うちからは爺ちゃんが出席して
五カ国での会議となった。
爺ちゃんは僅か三日で帰国した。
「お爺さま、随分早かったですね」
「既に水面下であらかた決まっておったわ。北西部はロアンで
南西部の一帯がバルバロッサで北東部がキングダムが領有するが
代わりにヒンメルの北部の国境線を南に百キロ南下させて
そこにサントスが入ることになった」
「キングダムはどんな感じでした?」
「爆撃機を売ってくれなどと馬鹿げた事を言ってきたから
逆に軽く殴ってきてやったわ」
「うちも各国への支援の礼ということで各国が百枚ずつ出し合って
光金貨を四百枚貰ってきたぞ」
キングダムに支援したつもりはないがフレア弾を持って行かれたからな。
「和平条約または停戦協定などの話題は出ましたか?」
「キングダムから出たが他の国が黙殺しおったわ」
低気圧の塊が無くなったならキングダム攻めを止める者はいない
俺の手で止めをさせないのが残念だが滅びてもらうか。
その三日後にロアン経由で一ヶ月後にキングダム王国へジュノー大陸の
各国共同で攻め込むという月光便が来たのでうちも二隻の空母を派遣した。
「キングダムもバカですね。ソフィーさんを大事にしていれば今頃は
逆に大陸東部を征服出来ていたって言うのに」
「戦争は人を狂わせるらしい。私達も気をつけないとな」
そして十日後、海軍の空母二隻と巡洋艦二隻がヒンメル地方の北東部に
差し掛かった所でキングダムがヘンドラー地方へ軍を進めたと報告が来た。
「よし、一度海にでて空母と合流するぞ。ついてくるのはヨハンとヤンと
ミーアで他のみんなは防衛任務だ」
三時間の転移で空母と合流すると不完全な飛行艇。違うなエンジンを
搭載した塊が上空を北西の方角に向けて飛んでいった。
「マルコ、どうなってる?」
「二日前にキングダムがバベルの街を夜襲してフレア弾をばら撒いた後に
建設中の城へそのまま墜落。それ以降も各地の街へ墜落を繰り返している模様」
くそ! ついに思いついたか。航空機のある意味最悪の使用方法に
これは特攻だ。
絶望的な状況になると思いつく物なのか。
「零式戦闘機と攻撃機でキングダムの飛行艇基地を攻撃。空母は海岸から百キロ
以内には近づかずに常に護衛のために一式戦闘機を上空に展開させてくれ」
「りょうかい」
不味いな、特攻はバカな戦法だが混乱している相手には極めて有効だ。
「閣下、敵飛行艇四隻接近、方位二時の方向、距離三百キロ
高度五千メートルです」
「一式戦闘機十二機を迎撃に向かわせろ。墜落するまで弾丸を撃ち込み
続けろと飛行士に徹底しろ」
「了解です」
「第四、第五戦闘機隊は二時方向の飛行艇の迎撃に迎え
更に第二、第六戦闘機隊は上空で護衛任務に当たれ」
最悪はサントスとも開戦する可能性も考えて戦闘機を九十機ずつの
百八十機積んできて正解だったな。
「敵の飛行艇四隻を完全破壊。墜落を確認したとの事です」
「よし、第四、第五部隊は一時帰還して休憩だ」
「了解」
「ノア様、あれマイセンですよ」
「イシュタル領最大の港に船の一隻も停泊していないとはな」
それから三週間に渡り俺達は更に八隻の飛行艇もどきを撃ち落とし
二千隻の戦闘艦と八百隻の輸送船を撃破してキングダムの王都の東の海上
三十キロで待機だ。
「第一から第四戦闘大隊発艦。続けて第一、第二爆撃大隊発艦」
「キングダムもしぶといですね」
「西と北の部隊の損害が甚大で包囲網が出来ていない」
「南部も良く持ちこたえていますよ」
「後ろから我が国の輸送船が四十隻来ます」
「よし、護衛機を二倍に増やせ。我が艦も北東に二十キロ移動する
燃料と弾薬の補給を明日の昼までに終わらせるぞ」
うちの輸送船は荷を積んだ状態だと速くて時速二十キロ弱だ
とても戦闘艦との共同運用は出来ない。
新型輸送船の完成が間近だとダンが言っていたから期待するか。
「給油ポンプ接続完了……給油開始しました」
「弾薬の搬入を急げ!」
「今、フレア弾でも落とされたら俺達は丸焼きですね」
「ヤン、縁起でもない事言わない」
翌日の十二時には空母二隻と増援を加えた巡洋艦四隻も完全補給と
修理を終えて戦線復帰だ。
しかし、午後一時から雨の為に爆撃は延期だ。
「お爺さま、飛行艇で来たんですか?」
「ソフィーの死んだ場所を見たくてな」
「ノア、私達もいますよ」
「お婆さまにお母様までですか」
「あら、私は軍ではノアの次に偉いはずよね」
「それはそうなんですけど……」
「明後日には雨は止みそうです。そこで総攻撃ですね」
「いや、キングダムは死兵となって陸で戦っていると聞く。もう少し他の国が
苦しくなってから我らが王都を叩こう。それからうちの戦死者は三万人と
いう事にしておけ」
一人も死んでないけど怪我人はいるし、まあいいか。
「戦闘機隊より報告です。王都の南でキングダムの兵が約二百五十万が
バルバロッサと交戦中の模様です」
「報告します。王都の西でキングダムの王国兵約百七十万がロアン軍と
交戦中の模様です」
正規兵に加えて義勇兵と徴兵に傭兵や一般の国民も動員されてるな。
「北部はどうか?」
「サントスは飛行艇の特攻で飛行艇基地もろとも崩壊しており
残存兵は僅かに一万程度。ヒンメルの防衛に専念しております」
結局は包囲網は完成しなかったか。
そして、たまに戦闘機でキングダムを攻撃しながら情報を集めること
二週間でバルバロッサとロアンが後退を開始したところでうちの爆撃機隊
で王都を爆撃。五日間の爆撃の嵐でキングダムが遂に無条件降伏した。
その三日後にキングダムの王都にうちの爺ちゃんとバルバロッサの宰相に
ロアンの宰相が集まって領土分割会議だ。サントスはキングダム兵を一人も
殺す事が出来なかったので不参加だ。
「どうなりますかね?」
「ジュノー大陸で最大領土を持つ国はバルバロッサで決まりだろうな」
「そうですね、我が国の二倍以上になりそうですね」
「兄貴、やばくないですか?」
「大きさや数の力は今回の戦争で確かに証明されたが
うちは技術力と兵の練度で更にその上を目指すしかないんだよ」
「少数精鋭ですね」
「お戻りのようですね」
広大なキングダムの領土分割の会議にしては二日とは短いな。
「ノア、うちはキングダムにある財産の星金貨二千二百万枚の半分の
千百万枚と飛行艇技術の供与を拒否する見返りに工業用貴金属
三十万トンをぶんどってきた」
うちは飛行艇なんか作らないからね。
電子部品に使える貴金属は大歓迎だ。
「それでバルバロッサの領土は?」
「この地図じゃ。旧領に加えて帝国とキングダムの八割じゃ
我が国の二倍以上じゃ。ロアンも奮闘したので旧アルタイルは
ロアンが領有する事になった」
ロアンはうちとバルバロッサ、更にバルバロッサとサントスの間の
緩衝地帯という事か。
「お疲れさまです」
「ソフィーの遺髪を手に入れることが出来たわ。帰国したらエクレールの
近くにお墓を建ててあげましょう」
「母さん……」
ここに長居は無用だな。
「全艦、フリーダム本土に帰還する。その後は長期休暇だ」
「「「「おおおおおおぉぉぉぉ」」」」
俺達はマルコを指令官として残してお爺さまと飛行艇で帰還だ。
バルバロッサが三百万人の兵士を加えると困るが。
お読み頂きありがとうございます。
手痛い感想を複数頂きありがとうございます。わたしがもう少し
人物描写がまともに書ければ読みやすい物をお届けできそうなのですが
試しました複数の人物の心情を描くのは無理だったようです。この作品は
八十七話で終わる予定でしたが友人に書き始めたのなら百話以上書いてみろと
助言を受けて主人公が二十五歳になるまで未熟ながら書かせて頂きました。
未熟な作品ですが読んで頂けると幸いです。