第五十一話:結婚式は二回目の方が盛大に祝う必要があるそうだ
そして収穫祭。ルーカス王子の影響で大豊作だとか
倒れた麦が持ち直したとかと色々な噂があるが今年も豊作でなによりだ。
「若、今年はコンバインのお陰で予定の三割程度で収穫が済みました」
「ニコはいつも忙しいんだから、お祭りの時くらいはゆっくりしてくれ」
「はい、お酒を試飲以外で飲むのは久しぶりです」
なんか苦労掛けてるな。
「ノア様、天使アヒルを取り分けて参りました」
「ヨハン、ありがとう。自分で出来るぞ」
「もう十羽も残っていませんよ」
「まだ始まって一時間も経ってないぞ」
「ヤンとコンラートが争うように食べるのを見た住民が
今はこぞって天使アヒルに群がっていますよ」
そうか、貴重な若い天使アヒルを食べる機会なんて
農奴だった時代じゃそうそうあるもんじゃないか。
俺はたったの三切れだけか。
「兄貴、暑い時はやっぱりビールが一番ですね」
「そうですよ。熟成させなくても美味しい所がいいですね」
「ノア様、こんにちは」
「メアリーちゃん、赤マグロの大きいのを三本も取ってきてもらって
助かったって調理場の人間が言ってたよ」
「収穫祭だと高く売れるからお互い様ですよ
それより天使アヒルってあんなに美味しかったんですね」
「わたしも学院の三年生の時に食べたのが最後だよ」
「国王様って貧乏なんですか?」
「貧乏じゃないけど、わたしの家族だけで食べる訳にはいかないだろう」
「メアリー、だから言ったじゃない。ノア様は真面目だって」
「そんな事はどうでもいいじゃないか。学院生、お前達も飲めよ」
「そうですね、ワインなら頂きますわ」
「今日は何でもあるから好きな酒を飲めるぞ」
そして、新領土の繊細の住民への発表だ。
説明はヨハンが行うことになった。
「みなさん、今お渡しした紙で青く塗られている部分がフリーダムの
新領土です。領土において約二倍近くに増えています。更に格安の土地です
移住を考えている方は国土交通省に申し出てください」
裕福になってきてるのに
今更開拓民に戻ろうという人間はほとんどいないだろう。
「ではわたし、ノア・フリーダムの名において宣言する
東部地域をフリーダム王国に編入する事をここに承認する
フリーダムの自由に乾杯」
「「「「乾杯」」」」
「「ルーカス王子万歳」」
「「フリーダム万歳」」
この日本酒って結構甘みがあるな。こういうのも悪くない。
収穫祭は夏場に農民が休める唯一の休みなので
簡単な農作業はするが三日間は休みだ。
「ユリアン、ノルト大陸の農業指導はどうなった?」
「ノア様の出したライ麦の収穫をほとんど行っていませんし
先月から若者を中心に我が国への移民を希望する人間が急増しています」
「なんで収穫しないんだ?」
「単純に我が国の農作物の方が美味しいからでしょうか
鉱石などを売って農作物が得られるならその方がいいそうです」
「移民はどうしてるんだ?」
「ヒルダと相談してますが、新領土への移民は既に三百万人以上です
ノルトの移民を本国にするか新領土にするかを検討中です」
鉱石を掘るのと農作物を作るのはどちらが楽かと聞かれると微妙だな
片手間でいいなら魔法があるし鉱石を掘った方が楽かも知れない。
「わかった。若者の意見と年配者の意見に大きな差があるようでは
今年の併合は無理だな。来年また考えよう」
残りの仕事は明日にするか。
「ノーラ姉さん、食欲がないんですか?」
「お爺さま、お婆さま、それにお母様、わたしマルコと結婚したいの?」
「なんだ、そんな事なの。沈んだ顔をしているから病気かと思ったわ」
「ダメかしら?」
「マルコの両親が許してくれるなら構わんぞ」
「お爺さま、ありがとう」
「姉さんおめでとう」
「「おめでとう」」
ノーラ姉さんも再婚か。苦労してるけど二十歳前だからな。
「そうするといつ頃がいいかしら?」
「来年だとノーラも二十歳ね」
「そうだ。マルコは九月から新規空母の慣熟航行で忙しくなるよ」
「そうなると八月の初めがいいかの」
「それなら……お針子さんを総動員しないといけないわね」
「別に盛大な結婚式はしなくても……ノアもしなかったし」
「ノーラ、貴方は二回目なのよ。しっかりした結婚式が必要なのよ
綺麗なドレスに豪華な料理にダンスパーティもいいわね」
「わたしもパーティに行きたい」
「ダンスは久しぶりです」
金がかかるのは仕方ないか。姉さんには今度こそ幸せになってもらいたい。
そしてトウモロコシの収穫だ。
こいつはうちで最大の収穫量を誇る割には収穫時期をずらして蒔かないと
人手が足りなくなる厄介者の一つだ。
「ノア様、コンバインの鉄道輸送は終了しました」
「リキ、ありがとう。どのくらい貸し出した?」
「トラクターの八割とコンバインは九割が出払っています」
「順調だね」
俺も会社みたいに資産を運用出来ればボロ儲けなんだが
税金をもらう立場だからそんな事は言えないけど。
「ノア様、先日お話ししたノルト大陸の移民の第一陣が
明日、フリーダム本国に到着します」
「今回は何名になったの?」
「ほとんどの若者が勘当状態で持ち物が服と小物だけなので
物資輸送の帰りの輸送船を使うので一度に六十万人です
予定では第十二陣まで既に埋まっております」
「トウモロコシの収穫と加工で猫の手も借りたい状態だ
お金もそんなにないだろうし希望者は臨時で働いて貰おう」
「移民にはルミエールに入ってもらって、将来的に土地所有を目指す者は
サザンクロスや他の村へ移住してもらう予定です」
「それでいいよ。他には?」
「それでは私から、ノア型空母の四番艦が八月の中旬に予定通り完成します
更に一万トンクラスの巡洋艦五隻が九月に完成します。それと……」
いくら潜水艦がいないとはいえ空母だけの行動は不安だったんだ。
「それで、なんなんだ?」
「航空工房の責任者からノア様に話しがあるそうです」
話があるなら来れば良いのに。まあ忙しいんだろう。
なんだ、この異様な暑さは。イシュタル領に居たときよりはるかに暑いぞ。
「坊ちゃん、きてくれたようだな」
「なんだ、ダンか、十四型のお披露目以来だな」
「この一年は工房で寝泊まりしてるんだが一型がどうしても出来ねえ」
前は一式とか言ってたような気がするが構わないだろう。
「それで?」
「俺達のプライドの為に若い飛行士を死なせるのも辛いんで
中途半端だが戦闘機だけ作った」
うぁ、この暑いのにエンジンの噴射実験してやがる。
「これだ、名前はないが最高戦闘速度六百キロ、最高高度七千五百メートル
二人乗りで大型機関砲一門のみで航続距離は二千二百キロだ」
「ダン、凄い出来じゃないか。これを一型にしても問題ないぞ」
攻撃機のような仕様だけど、遂にここまで来たかっていう感じだ
大型機関砲というが三十ミリ以上だよな。
「これはあくまでの繋ぎの機体だ。改良する気はないぞ」
「若様、わたしも同様の意見でして、誠に申し上げにくいのですが
既に五百機発注済みで完成品だけでも二百機を超えております」
「問題無いよ。新しくできた新領土の空軍基地と空母に優先して回そう
十三型は練習機にして十四型は本土警戒に当たらせよう」
「助かります、それではすぐに手配します」
「ダン、十年物のウイスキーが入ってる。みんなで飲んでくれ
改良を加えるつもりがないなら名前はルッツ型でいいだろう」
「坊ちゃんの父親の名前か悪くないな
ほぉ、全部で……百本以上か、ありがたく飲ませて貰うぜ」
中途半端に優秀で悲劇の最後を遂げたという意味だが
それぞれ好きに勘違いしてくれると有り難い。
空母に巡洋艦に戦闘機か、ヘリコプターを量産してくれるのはいつ頃かな。
やはり暑さの原因は航空機のエンジンの影響だったか
早死にしないといいんだけどな。
「ノア様、東大陸へ商品を売り歩いた結果が出ました」
「金と銀だよね」
「はい、金を八千トンに銀を五十万トンです。金が一キロで黒金貨六枚
銀が一キロで小金貨七枚です」
星金貨八百三十万枚か。これは極秘文書行きだな。
「すごいな、小麦を真面目に売ったら九億トンくらいかかるな」
「続けて大量に売れる物でもありませんが鉱物資源と資金が揃いましたので
かなり無理して機械化が可能になります」
「空は攻めないならルッツ型戦闘機で間に合うよね。他に何か必要?」
「フリーダム本国の北部は鉄道網も揃っていますので
対空砲と偵察機でしょうか」
「この前の大型機関砲を対空砲に改造するとして、偵察機は速度が命だから
まだ無理かな」
「その件はデニスと工房のチームで検討してみます」
ラライラちゃんはいるかな?
「こんにちは、大変そうだね」
「マルコ兄さんとヤンさんなら来てますよ」
マルコは判るがヤンは何やってるんだ。
「ヤン、トラクターに乗って何やってるんだ?」
「収穫のお手伝いですよ。さすがにコンバインは操作出来ないんで
兄貴、そっちのトラックの運転をお願いできますか?」
「わかった」
これは星金貨のコンバインハーベスターか。それも二台あるのか
マルコも資金援助してるのか?
「ありがとうございます。頼んでいた人が夏風邪で
急に来れなくなって困っていたんです。わたしじゃ足が届かないので」
「ラライラ、行くぞ」
「発進!」
ダイナミックな作業風景だな。トウモロコシの三十キロや四十キロ程度は
落としても問題なしか。
「兄貴、十二往復もしましたね。農家って疲れるんですね」
「収穫時期は睡眠時間が四時間程度だって言われているな」
今日は早めに寝るかな。そろそろ姉さんの結婚式か。
お読み頂きありがとうございます。