第四話:初陣
五日前にアデルの三歳の目覚めの儀が行われたが
誰もそのことに関しては聞かないので俺も聞かない事にした。
そして俺は六歳、どうやら俺の誕生日は元旦らしい
王子様辺りに転生していたら周りは大変だったんじゃないかな。
「今日も商売に励むか」
俺の商売はズバリ言えば転売だ。
一年前に時魔法の転移を習得してから売れそうな獲物を探して
山や海へ行ってみたが、我が領地では港は一つしかなく
機能はほとんど貿易港であり漁船は僅か三十隻程度
よって、オーブ子爵領にある港を目指したが
どこが『お隣さんだ』と叫びたくなるような場所にあった。
感覚的にはうちが茨城県と栃木県を領有していたとして
新潟県といった感じだ。知ってますか? 栃木県から新潟県に行くには
僅かな距離だけど群馬県か福島県を通過しないと抜けられない事を
戦争があれば領土分割で取得出来る感じの山道だけど。
アルタイルでもその山々に僅かに存在する山道を転移魔法を使って
何とかオーブ領の港まで到着したけど、今の俺の時魔法のレベルでは
転移可能範囲は自分が一度行った事のある場所なのは勿論
そこが自分や血縁者の所有物でないと転移出来ない。
結局、悩んだ末に一件の物置のような小屋を金貨二枚で買い取って
なんとか拠点確保に成功。
「ノア坊、今日は脂の乗った虹マグロと赤マグロが入ってるぞ」
「それじゃ、虹マグロを六匹に赤マグロを二匹下さい
残りはお勧めの魚を金貨八枚分お願いしますよ」
「おうよ、虹マグロが一匹金貨二枚で赤マグロが金貨八枚だから……
金貨二十八枚とサバと鯛で金貨八枚で黒金貨三枚と金貨六枚だな」
ちなみに虹マグロというのは特殊な魔物ではなくカジキマグロの事で
赤マグロは普通のマグロだ。
クロマグロかも知れない。
「それといつもの貝を四種類入れておくぞ」
「いつもありがとうございます」
「まあいいって事よ。それよりこんな変な貝を使う細工職人も変わり者だな」 「僕は集めてこいと言われているだけですから」
「それじゃ、また明日な」
「それでは」
こちらでは何と貝を食べる習慣が無い。それにカニやエビもだ
なんと勿体ない、エビは個人的に好きではないので永遠に封印予定だが
資金が溜まったら一斉に売り出すつもりだ。
ある意味、貝を無料で手に入れるために魚を買っている感じがする。
「今日は何が入ってるのかな?」
牡蠣にホタテにハマグリにアワビ様か、アワビ様は干しアワビに加工すると
して、今日食べるハマグリ以外はマイ異空間にそのまま保存だな。
この世界では八歳で大人として認められるから。裕福じゃ無い家庭は
男の子なら七歳くらいから労働力として働くのは普通の事だ。
「転移、オリオン、シリウス商会」
「ノア様、おはようございます」
「今日は虹マグロ八匹と赤マグロ二匹、サバが六匹に鯛が七匹だ」
「はい、それでは二割はそのまま商品として売る事にして、それ以外は加工
メインは虹マグロはトマト煮に赤マグロは鉄板で焼いて
塩味とクリームソース味で、サバは煮付けと焼きサバ、鯛は塩焼き
それにカルパッチョで鯛飯でよろしいでしょうか?」
「それで問題無いよ。野菜類の仕入れも順調かな?」
「はい、既に開店して四ヶ月、ある程度の信用を得ましたので後払いでも
取引可能になりました」
「それは上々だ」
「こちらが先週分の売上げから今週分と来週分の仕入れ代金と管理費を
差し引いた売上げで金貨三百八十六枚になります」
「リキ、ラン、みんな上手くやってるか?」
「生活も安定して家族にも充分食べさせることが出来ております」
「来月は二号店を出店するから料理の腕を鍛えておいてくれ」
「かしこまりました」
毎日平均で黒金貨三枚から四枚、六勤一休だから仕入れ値が星金貨2枚程度
売値が魚をそのまま売る場合は原価率四割、食事にする場合は
原価率二割で売ってるから儲けは八割なので毎週星金貨7枚以上いっても
おかしくないんだが、そこは食料品店の悩みの種の売れ残りが出るので
現在は半値くらいで利益を上げている。
「ギブミー醤油」
「ノア様、勉学と魔力操作の精神集中は終わりましたか?」
「ヨハンか、終わったぞ」
「それでは剣の練習に移りましょう」
俺の自由時間は朝食後の朝の八時から十時半までの二時間半のみ
その間は勉強と魔法の訓練の名目で自室に籠もっていられるからだ。
「アレク様、ノア様、アデル様、同時にかかって参られよ」
一体いつの時代の人だろうか?
俺達の武術の先生はアレックス先生と言って爺ちゃんと一緒に戦争で
活躍した槍使いで、父さんが学園に居た頃の先生だったそうだ
今はイシュタル辺境伯家に仕える武官だ。
「アデル様はいいとして、お二方は気合いが足りませんぞ」
「「まあまあだよ」」
「そうそう、まあまあだよ」
最近のアデルは俺達の真似をするのがマイブームのようだ。
動くのが好きなソフィー姉さんが居ないのは母さんからマナーの勉強を
直々に教わっているからだ。今年の夏には学院だからね。
そんな感じでまったりと秋程度の寒さの冬を過ごしていると
アルタイルから南のキングダム王国を抜けた先、南東にあるダリアン王国が
我が国の友好国のキングダム王国へ戦争を仕掛けたという報せがやってきた。
「父さん、ダリアン王国は本気でキングダムに戦争を仕掛けてきたんですか?」
「アレク、軍務省の黒水晶部隊の報告だと総兵力七万以上
実働戦闘部隊が五万程度との見込みで魔法兵だけでも一万以上いるらしい」
「かなりの大部隊ですね」
黒水晶部隊というのはアルタイル国軍の情報部門の総称だ。
「アルタイルも援軍を出すんですよね」
「南部のハイネ辺境伯家が二万五千、国軍が一万五千、諸侯軍二万の計六万の
援軍の派兵が決定した。父さんも戦地へ行くので入れ替わりにお爺さまが
オリオンに戻られる」
うちからは父さんが訓練してきた第三連隊と第四連隊の一万だろう
国軍の数が少ない事を考えると、北側のヘルメスの侵攻も考慮しての出兵か。
「父さん、アレク兄さんがいますし僕を戦場に連れて行ってくれませんか?」
「戦場は遊び場じゃ無いぞ」
「そんなつもりはありません。将来新興の男爵家を率いてやっていけるか
試したいのです。魔物なら魔法でA級クラスを倒すことが出来ます」
「現在、一番強い魔法は何が使えるんだ?」
「火魔法の災害級のインフェルノが使用できます」
「インフェルノか……良し、連れて行ってみるか
残酷だが、人を裁けないようでは貴族家の当主は務まらん。ノアは二十歳前に
当主になるのは確定だからな」
「ありがとうございます」
「ノア、頑張れよ」
「ノア兄ちゃん、がんばれ」
「ルッツの側を離れてはいけませんよ」
「母さん、わかってますよ」
五日後、イシュタル辺境伯軍。総勢一万二千がオリオンの南に集結。
「第三、第四連隊出動する」
「「「おおおぉぉぉ」」」
◇
それから二十日でキングダム王国の南部のカナリアの街へ到着
既に到着していたキングダム王国軍九万とアルタイル王国軍四万に
東と西からの我ら諸侯軍二万を合わせて総勢十五万。
「ハイネ卿、既に一当てしたそうですが、兵の士気は如何ですか?」
「ダリアンの兵数は約十二万、実働部隊十万と今まで互角程度でしたが
本日二万を加えた事で
チャンスがあれば討って出ることが可能になり申した」
「敵の士気は高く、カナリア南部の砦の周辺には敵兵の死体だけでも五千以上
我々も千人程度の損害を出している状態です」
「そこまで死傷者が出るという事はかなり優秀な魔法兵がいるのですか?」
「敵には王級クラスの攻撃魔法を使う魔法兵が最低八人いると推測しています
我が方の王級の魔法師は六人です」
「アッテンボロー家は王級クラス以上の魔法師は何名ほど居ますか?」
「三名じゃな」
「我が軍に五名ですから、合計で十四名ですね」
「キングダムは剣の一族だから魔法師が少ないのは仕方ないの」
「ではみなさん、明日は期待しております」
父さんの護衛として参加したけど、さすがは名だたる将軍ばかりだ。
いい天気だ、よく燃えそうだ
油断大敵、悪・即・斬だ、遂に戦争か、もう後悔はしないと決めたはずだ
直接的な恨みは無いが、こちらも賭けるチップは自分の命だ。
「敵軍、魚鱗の陣で突撃してきます」
敵の大将の頭は筋肉で出来てるのか? 援軍が来たのは知ってるだろうに。
「右翼のジラローン伯爵の軍が裏切りました」
まいったな初陣で味方に裏切りか
知らない名前だからキングダムの人間だよな。
「裏切り者の数は?」
「兵数はおよそ一万二千程度と思われます」
関ヶ原で小早川が裏切ったような状態か、これで実質こちらの兵力は
十万程度だからほぼ互角。命令系統が混乱している分不利か?
「ノア、突っ込んでくる敵軍の本陣に
今使える一番威力のある魔法をたたき込め」
「その言葉を待ってました」
敵と味方の先陣の間は約三百メートル。
「闇と炎の精霊にノアが懇願する。我と精霊達の力を合わせ目の前の
愚か者共に裁きの刃を与えたまえ、加えてノアが懇願する
深淵よりも暗き闇、冥府の王の力を貸し与えよ。我の求めるは深淵の龍
噛み砕け暗黒龍、【魔力九割、対象前方広範囲、暗黒爆炎波】」
そして俺の体から大きな闇の波が敵の先頭部隊に直撃する
黒い波は徐々に大きくなり敵を静かに飲み込んでいく。
この世界の魔法はイメージが九割を占めると言われている
よって、大事なのは放出する魔力と対象と言葉なのだが
何度も同じ言葉を唱えて自分の記憶に刻み込むと威力が飛躍的に増す
今回はブーストを意識して五日間の間刻み込んだ詠唱だ。
「て、敵軍の約八割が消滅……」
「敵、後退、いえ、敗走状態です」
「全軍、追撃戦に移行する。俺に続け」
「「「おおお」」」
そのままキングダム、アルタイル連合軍は追撃を開始した。
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