第四十六話:羊飼いの少女ラライラちゃん
北の大陸から戻ってきてマルコと相談していたら、爺ちゃんが現れて
元外務卿の力も見せてやると言ってデニスとマルコ達を連れて
北の大陸へ機関銃装備の精鋭四百名を連れて飛行艇で行ってしまった。
そして随伴するのはノア型空母を旗艦に十四型戦闘機五十機に爆撃機百機
更に絶対売ってくると言うので、その四日後に小麦三万トンと米三万トン
を乗せた輸送船千二百隻がゾロゾロと羊二十頭を乗せて旅立って行った。
「やっぱり煩悩を忘れるには子供と戯れるのが一番ですね」
「お兄ちゃん、ラライチとララヨンが群れからはぐれてるよ
ララハチの所までまで連れてきて」
「コンラート、お嬢様のお言葉だ。捕まえてきたまえ」
「ヤンが行けよ。俺は動きたくない」
俺達は羊飼いの仕事をしているラライラちゃん六歳と一緒に
春の訪れた放牧地で三人で休暇中だ。
仕方ないから、俺がやるか。
「ララヨン、そっちへいっちゃダメだぞ」
『メエメエ~』
「ラライラちゃんは三百頭もの羊を毎日一人で連れ歩いてるの?」
「雨の日はお休みだし、土曜と日曜は学校があるから家族の誰かが
代わりにやってくれるの。それに私にはクロとシロがいるから」
『ワンワン、ワンワンワン』
「ところで一ヶ月にいくらもらってるの?」
「うんとね……お酒なんとか通貨って言うのを月に十二枚貰ってるよ
お父さんとお爺ちゃんが凄く褒めてくれるの」
アレス酒通貨は十五歳未満の子供に優先的に配布するように言ってあるが
月に十二枚あれば家族が自宅で飲む分なら充分だな。
二十日働くと考えるとかなり少ないが。
「ヤン、お前の給料の三千分の一だぞ。お前も情報を持ってこい」
「情報ならありますよ。小麦の予想収穫高ですがイシュタルが二千万トンで
帝国が五百万トン程度らしいですよ」
「帝国は去年、イシュタルは今年に空爆してますからね」
俺達が建国した時の人口でアルタイルが三億人程度で帝国が二億人程度と
公式発表していたからキグナス帝国はかなり厳しいようだな。
公式発表なんていう物で正確な数字を言うとも思えないけどね。
それにイシュタルは俺達が送った食料もあるからな。それなりに
余裕があると思って良いだろう。
「お兄ちゃん達は戦争してるの?」
「そうだね。一応してるかな」
「兵隊さんは来ないしこんなに平和なのに」
「ノアの兄貴が頑張ってるから。一応は王様だから」
一応はいらないぞ。
「ノアお兄ちゃんは本当に国王陛下だったんだ」
「去年出来たばかりの国だけどね」
「それでも凄いよ。前は一日中施設の中で針仕事だったんだよ
今はお昼もお弁当があるんだよ」
施設は一日一食とか言ってたな。それも固いパンと水だけだとか。
「ラライラちゃんに、俺が前に使ってたマジックポーチをあげよう
容量二百キロだから羊も入るぞ」
「いいの、魔法の袋って黒金貨っていうお金がいるって聞いたよ」
「小さい子は気にしなくて良いよ」
時間停止に重さ一律百グラムにする機能付きだ。確実に星金貨だぞ
子供に使って貰うのも悪くないか。
「ありがとう」
「それじゃお昼にしようか?」
「兄貴、そういえば久しぶりに若い天使アヒルが食いたいです」
「あれは何故か母さんとヒルダに管理されてて手が出せない」
「兄貴、リリーナと結婚式挙げれば食べる口実が出来ますよ」
「もうお腹は大きいからな。男の子が生まれたら相談してみるよ」
「クロ、シロ、おいで。お前たちは塩抜きの肉入りのおにぎりね」
「若様、おにぎりは普及してますね」
「海苔が取れるようになったし、崩れにくくなったからな
それに犬には塩分の入ったパンより米の方がいいらしいぞ」
「老人じゃないのに塩分を抑えるとか大変ですね」
「兄貴、俺達は?」
「わたし達もおにぎりだ。具材はあぶりマグロに焼き塩鮭と新開発のたらこ
が二個ずつだ」
「ありがたいっす。ラライラちゃん、あぶりマグロを一個食べてみるかい?」
「いいの?」
「もちろん、構わないよ」
ヤン、十歳年下の女の子を狙うのはさすがに危険だぞ。
「凄く、美味しいです」
「若様、ちょっと雲が出てきましたね」
「シロ、クロ。家に戻るわよ」
かしこい犬だな。杖を振り下ろしただけで羊を集め始めるとは
犬もいいな。そういえばタマコの猫の諜報部隊は機能してるのかな?
「もうすぐ家ですからここまでで大丈夫です」
「それじゃこれはお土産ね。お肉を食べる時に使ってね」
「ありがとうございます」
お金をあげるのは変だし胡椒でいいだろう。
そして爺ちゃんは出発してから二週間後に上機嫌で帰って来た。
ヒルダは悲しげな顔でデニスもニコニコ顔なのが怖いが。
ここは一応フリーダムの公務用のお屋敷の大広間。俺とリリーナの
新居でもあるが、基本的に第七食堂研究部の人間もここで仕事をして
寝泊まりもだいたいここで済ませてる。
「お爺さま、ご機嫌のご様子ですね」
「ミラン帝国とかいうのが、輸送船五千隻でやってきたから
旧式のフレア弾をお見舞いして二千隻を海の藻屑にしてやったわ」
ヒルダは船を全て鹵獲したかったのか?
「残りの船は?」
「生意気にも投降してきおったので
船は儂がもらい受けて兵は大陸に置いてきたわ」
新たに三千隻獲得したのにヒルダの浮かない顔は戦闘艦は
撃沈してしまったんだな。それに港問題か。
「それで交渉は如何でした?」
「うむ、純度の高い金のインゴット一キロで小麦五トンに銀のインゴット
百キロで米五トン、それに次回は木材、鉄鉱石、ミスリル鉱石、ガラスの材料の
取引をする約束を取り付けてきたし、今回の帝国討伐の礼と言って
ヒヒイロカネを一万トン程もらってきたわ」
おいおい伝説の金属か、そうなるとオリハルコンもありそうだな
『オリハルコン』と叫びながらイルカに乗って海で戦いたいものだ。
「あの決して錆びずにしかも軽いという希少な金属ですか?」
「そうじゃ。銀も純度が高いし高度な技術でインゴットに精製してあるから
売れば我が国の銀の二倍はするだろう」
だから百キロで米五トンか。それでも大儲けだけど。
今は先方も取引先がないようだが、あまり安く買うと後で恨まれるからな。
「それは大成果ですね」
「まだあるぞ。搾取しない約束なら向こうはフリーダムの一部になっても
いいと言ってきおった。国王はお前だからな保留にしておいたがな」
保守的な人間を数多く抱えるのはうちにとっては負担になるか
それとも若い奴は見込みがあるのか?
「ヒルダ、向こうの国の概要はどんな感じだった?」
「はい、零式戦闘機で計測した結果。東西千五百キロ程度ですが、南北が長く
三千五百キロ程度で人口が約九千万以上。形は長方形のような感じで
食糧自給率は三割程度で北部地方の三割以上は冬は気温が零度以下ですが
資源はほぼ無尽蔵にあり機械化すれば豊かな国になると思われます」
広さはうちより狭いが人口は七倍で
北端はきっと北海道の網走よりも寒そうだな。夏でも泳ぐのは
無理だと思った方がいいかも知れない。
「ノア、悩むのは分かるぞ。イシュタルの加護を受けられるのはイシュタル家の
直系の男子のみ。儂とノアが居なくなれば現状の小麦と米だけでは
足りなくなる」
「そうですね。全面支援するとトレミー帝国に回す分を考えると
なくなりそうですね」
米と小麦を全て主食に回せばたりるが、かなり豊かになってきた
フリーダムでは民間でもかなりの食べ物が裏で国外に流れているからな。
「兄貴、酒に回せなくなるんですか?」
「全部抱えればな」
「我が国は二カ国と戦争中でイシュタルかキグナスが勢力を伸ばせば
我らもジュノー大陸で領土を増やす決断をする時に足かせとなるやも知れぬ」
無尽蔵と呼ばれる鉱物資源は諦めた方が良いか?
「お話中にすいませんがよろしいでしょうか?」
「ユリアン、なんだい?」
「ノア様の持ち帰った一部の種籾はかなり寒い地域でも苗になる事が
実証済みです。それに加えてあの地域には飢饉用として一般の民は
食べませんがライ麦が少し栽培されています」
「ユリアン、ライ麦パンってあの酸っぱいやつよね
最初は腐ってるんじゃないかと思ったわよ」
毎年、餓死者を出しているという話の割にはパンをえり好みするとは
まともな指導者がいないのか?
「ライ麦パンは栄養は充分ありますし真剣に栽培すれば六百万トン
くらいの収穫は見込めるでしょう、それに食べ方を工夫すれば決して不味い
パンではありません。それにノア様の苗もかなりあります」
我が国の北部地域用に北海道で有名な、ななつぼしときららとゆめぴりかの
種籾を持ってきたが、うちなら畑の用意が出来てるが、一から作ったら
今年は間に合わないか。それに 領土編入しないとイシュタルの加護の
効果はないんだよな。
蕎麦もあるが、作付面積当たりの収穫高が低いんだよな。
「よし、わたしの持ち帰った苗は今年は我が国で植えて秋に大量の種籾を手に
入れて、こちらの指示に従ってライ麦を丁寧に収穫するようなら
夏頃に農業指導をして様子を見てみよう」
「様子を見るだけですか?」
「わたしが言うのも変だけど保守的な年配者の意見だけで大国の意見が
決まるようじゃこちらも被害を受けかねない」
そこで面倒な会議は終了して我が国も春野菜の収穫作業だ
ここから大豆の収穫までは国民の八割以上が農作業に専念する事になる。
「何と言ってもイチゴの砂糖ミルクつけは最高だな」
「俺は砂糖だけの方が好きだけどな」
「それにしてもニコは忙しそうね」
「農務長官だからな。春から秋は地獄だろう
ある意味フリーダムで一番忙しい役職だな」
「その点空軍は暇ですよ」
「新型はまだ目処が立たないのか?」
「零式はほとんど改良が終わったようですが、このまま行くと一式じゃなくて
二式か三式戦闘機になりそうですね」
「うちは置いといて、確認されているだけでイシュタルとキグナスは飛行艇の
組み立て工場が十カ所くらいあるそうですよ」
「一ヶ月に一隻出来れば年間で百二十隻か。考えたくないな」
「でも一斉に攻め込まれたら零式以外では対処出来ませんよ」
F-4とA-7の通常版と改良版を合わせても六十機か
アルタイル砲十二門で暴れ回られたら、それ以上の武装の可能性もあるか。
攻められたら街の二つや三つが灰になるのを覚悟しないといけないのか?
お読み頂きありがとうございます。