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第四十五話:水龍への貢ぎ物


 北の島を探すのにはかなり手間取ったが北北西に船で二日ほどの

場所にあった。

 今回はリリーナとシャルが妊娠中なので

デニスも留守番にして残り六名で上陸だ。


「しかし、思ったよりもかなり近かったな」

 

「漁師達もフリーダムの北西は大きな渦があって、その先は海の終わりだ

という伝承があるそうで近づく者はいなかったようです」

 

 海の終わりね。そういえば昔は海の先は大きな滝になっているとか

そんな話をしていたとかいないとか。

  

「近かったんだからいいじゃないですか」

「そうそう。問題なのは王妃問題ですね」

  

     

「そうですよ兄貴、リリーナを妊娠させてるならはっきり言って下さいよ」

「妊娠しているかなんて判らないだろう」

      

「男の子が生まれれば王太子候補ですよ」

「その時は考えるさ」

 独身は結婚話になると食いつきがいいな。


  

「若様、ヨハンとミーアが戻ってきませんね

また交渉で揉めてるんですかね?」


「前回、トレミー帝国では買いたたかれたからな」


 銀のインゴットを十キロ程度売れれば良いんだけどな。


 

      

戻ってきたようだな。随分と身なりが変わっているが

盗賊にでも出くわしたのか?


「ミーア、どうしたんだ農民みたいな格好で」

「ヤン、大量の小麦と米を売るのに普段着じゃおかしいでしょう」

    

「食糧を売ってきたのか?」

「はい、金と銀は安かったので小麦と米とバーボンを試しに飲んで頂き

全て売ってきました」


 金と銀が安いのか。大規模な鉱山でも抱えてるのか?


「それで幾らになった?」

「黒金貨六枚と金貨八枚ですね」

「通貨は同じなんだな」

             

「ヨハン、他の大陸の通貨は無かったのか?」

「価値は下がると念を押された後に西のミラン帝国の通貨なら

扱っていると言われました」


「多分、それってトレミー帝国の交戦相手ね」

「兄貴、よれより飯にしましょうよ。飯を食べればお国事情も

判るってよく言ってるじゃないですか」


 確かにそんな事を言った気もするけどな。



 

 しかし、活気の無い国だな。内戦でも起きてるのか?


「兄貴、あそこは食堂のようですよ」

    

「いらっしゃい。お食事? それともお泊まりですか?」

「食事ですよ」

「では奥のテーブルへどうぞ」


 八人用のテーブルが四個に四人用のテーブルが六個もあるのに

埋まってるのは四人用が一つだけか。


       

「若様、イノシシのステーキとパンのセットが小金貨二枚ですよ」

「それに冬なのにスープもついてないみたいね」

  

 通貨の価値が違うのか? それともインフレ?


「ミーア、イノシシってそんなに高いのか?」 

   

「高いのはイノシシだけじゃなくてパンとかも高いみたいよ」


「とりあえず、肉料理はこれだけみたいだし

お姉さん、イノシシのセットを六人分お願いします」

   

「少々お待ちください」


 

 二百グラム程度のステーキとメロンパンのようなパンが一個に

緑の野菜か。お客用に鉄板を使っているんだな

これなら熱々の間に食べれる。


「兄貴、熱々ですよ」

「まあまあ、美味しいわね」

「くさみはないですね」


「このパン、かなりジャガイモが入ってますよ」

「このサラダはキャベツとタマネギですね」


「ヨハン、小麦は一キロ幾らで売れたんだ?」

「それが五キロで小金貨三枚で買い取ってくれました」

      

 うちの輸出向けが一トンで金貨二枚だから、生産者の販売価格と

問屋の買値で違いはあれど一トンで黒金貨六枚か。

  

「お姉さん、お酒を四人分下さい」

 

「ヤン、どうして四人分なのよ?」

「兄貴は飲まないし、ミーアは妊娠している可能性があるだろう」

「それもそうね……」


「ヤン、一杯で小金貨三枚だぞ」

「ニコ、気にするなよ。給料は使い道がなくて余ってるんだ

気にせずどんどん飲もうぜ」


 やはり、フリーダムだと服に興味がない人間は金の使い道がないのが

問題だよな。不満が溜まる前に賭博場でも作るか?


    

 そして案の定、ヤンとコンラートが飲み過ぎたのでそのまま宿泊

一部屋で銀貨三枚という格安価格だった。



 

「若様、そろそろ昼ですよ」

「もう昼なのか?」


「ノア兄、起きた?」

「ミーアは元気だな」

 

「それがね聞いてよ。下へ行ったら食堂は朝と晩だけだって言うのよ

それで色々聞いてきたのよ」


 俺のせいじゃないから、睨まないで欲しいな。


「それで相手はあのお姉さんか?」

       

「そうなの。まずはこの国じゃ、じゃなかった。この都市国家群っていうのが

もう二十年前にミラン帝国に攻め込まれて百万人以上の死者を出して降伏

王族や貴族は皆殺しになって今では毎年物資と人を供出させてるんだって」

  

「ミーア、水でも飲むか?」

「ありがとう、頂くわ。……この水って美味しいわ」

 

 確かに寒そうな地方だから水は美味いが

別に慌てて話すような事じゃないような気もするが。


「それでね……どこまで話したっけ?」

「人を強制的に働かせてるあたりだ」


「そうそう、供出って言うと対価をきちんと払っていそうだけど、毎年小麦

六百万トンと男性十万人で、たったの星金貨百枚でね

収めないと千人ずつ殺していくんだって」


 この大して収穫の多く無さそうな土地で小麦が六百万トンか

うちの二割と考えるとそうでもないが、うちは農業大国だからな。


「ミーア、王様が居ないって言ったな。それじゃ誰が払ってるんだよ?」

「それがね、都市連合とかいう組織が払ってるんだって

それであのお姉さんは都市連合の一員の姪なんだって」


 国が崩壊して街同士を繋ぐギルドのような組織が出来て

そこが外交もおこなっている? そもそも外交交渉する力があるのか?



「でも変じゃねえか」

「なにがよ」

     

「たぶん、ヤンは毎年、人間を十万も送るくらいなら

何故、戦わないのかと言いたいんじゃないかな」

「ニコ、その通りだ」


「若い人間は戦いたいらしいけど

三十代以上の大人が許してくれないって言ってたわよ」

「ほう、徴兵される若者の意見を無視して自分達はささやかな平穏を

守りたいとは随分と臆病な人間の多い土地のようですね」


「絶対、最前線行きだよな」

「戦争中なのにそれ以外があったらジュノー七不思議の仲間入りも可能ですよ」

      

「わたしも南の国の王様がそろそろ来るって言ったんだけど

信じて貰えなかったよ」


「ノア様は子供と言っても不思議じゃありませんからね」


 俺はどうせ子供だよ。酒も飲めないしな

日本に転移した時みたいに三十歳を超えていればな。


「でも食糧を分けてくれれば半分の重さの銀と交換してくれるって

あとは金とか色々な鉱石とか木材とかあるらしいよ」


 きっと、あまり質の良い銀じゃないとしても売値で小麦が一トンで金貨二枚

として、銀は一キロで小金貨五枚だから、その半値としても

単純に考えれば一トン売れば百二十倍の儲けが出るのか。

 税で入ってくる小麦なら経費を差し引けばタダだし

銀がいくらあるかわからないが小麦一トンで星金貨二枚以上の利益か。


「若様、よくわからないけど凄く儲かる気がするんですが」

「銀を売りさばくルートが必要だろうが、確かに儲かるな」

「ヨハン、もったいつけるなよ。どの程度の酒が飲めるんだ」


「酒か……そうだな……小麦を一トン売る度に熟成前のバーボンをボトルで

一万本程度かな。銀の純度にもよるけどな」


「兄貴、いや陛下、ぜひ売りましょう

来世まで着いていきますよ」

 前にその言葉は聞いた気がするが。

 

「僕が行くと足下を見られそうだからマルコ達に頼むか?」


「それがいいと思うわ。この国の人間は若い奴には

従わないみたいだし」


「ミーア、手紙を書くからその姪御さんとやらに渡してくれ

そうだな……帝国の催促もありそうだし一週間後でいいだろう」


「いいけど、南の海には竜がいて

通過するには羊を一頭要求するって言ってたわ」


 水竜かSランク指定の魔物だけど話が出来るならなんとかなるか。

 それで港があるのに魚料理が無かったのか。


「それじゃ水竜と交渉して値引きしてもらおう」

「いっちょう行きますか」


   


 

 それから儲けの事で頭が一杯になった俺達は小舟で転移を繰り返す事

四十二回目でやっと水竜とご対面だ。

       

『人の子よ。貢ぎ物の羊は持って参っただろうな』

   

「海岸から五キロ程度しか離れてないじゃないですか? 若が高速転移

するから余計に時間かかっちゃいましたよ」


「この竜って弱そうね」

「もしかして子供じゃないの」

「あれ、角が凄く小さいぜ」


 鑑定で見ると三百才と幼いが、龍じゃないか!。

             

「水龍殿、部下が失礼な事を申し上げたが、交渉をしたい

年間で羊を百頭ではいかがかな?」


 

『百頭であるか……一年間であるな……よし、その殊勝な心構え気に入った

一年で二百頭ならば、この海域全域でお主の管理する船の通行を許そう』

           

「この竜、条件を引き上げましたよ」

「水龍殿の申されることはまさに道理。一年で二百頭の羊を届ける事を

お約束致す。しかし、この海域を通る事がなくなったらご容赦願いたい」


  

『人の子達は戦が好きであるから致し方あるまい

それで最初の供物は?』

   

「今より十日後にまず十頭の羊を捧げましょう」

 

『よい心がけじゃ。お主に我が加護を与えよう

お主の管理する船だけを通すというのを忘れるでないぞ』


俺は王様だから国の船は俺の船だが……そうか商人の船は

弾かれるのか、さすが三百年生きてるだけはあるな。中々商売が上手い。

 子羊は需要があるが成長してしまうと価格が一気に下がるから

お供え物には丁度いいだろう。   


「それでは失礼する」



 陸の上ならギリギリで勝てそうだけど海の上じゃ分が悪いな

さっさと帰るか。


  

お読み頂きありがとうございます。


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