第四十四話:兄も王になる
地球旅行から戻り空母の披露と説明が終わってから一ヶ月
開発班は睡眠時間三時間という過酷な環境をみずから申し出て研究に
打ち込んでいる。
「ノア様、アルタイルとキグナスの飛行艇の速度は推定で五百キロ近く
我が国の十三、十四型戦闘機より二百キロ速く、既に中隊規模以上の
編隊行動以外では国内から出れない状況です」
航空機開発で遅れた分のつけが今頃着たか。
「わたしの持ってきた戦闘機は?」
十五歳になったし、僕というのも幼いので
最近では自分の事をわたしというようになった。将来は予のとか言うように
なるのかは疑問だ。
「ノア様から預かった零型戦闘機と零型攻撃機については
それぞれ十機を研究工房へ、二十機を開発工房で改良へ回していますので
残りはそれぞれ十機のみです」
今年になってから持ち込んだ機体だが、王国樹立の去年に製造した事に
したほうが兵士もやる気になるという事で王国建国の年を取って零型と
なって今年出来れば一型になる予定だ。
「上手く使えてるのかな?」
「零型攻撃機は速度千キロ以上で零型戦闘機は速度千八百キロまでは
計測出来ましたが、飛行士がそれ以上の速度に耐えられず
一般兵への発表ではともに最大速度八百キロと公開しております」
巡航速度はそのくらいだし丁度いいかな。
「航空母艦の方の調子は?」
「ノア型空母の事ですね。既に八百名以上の飛行士が着艦に成功
しかし十三型での成功はなく
十四型で熟練の飛行士で何とか着艦が可能な状態です」
十三型はブレーキの効きが悪いからな
それは仕方ないが、十四型で着艦出来るとはいい腕をした飛行士達だな。
「そうなると、大規模な遠征をしたいのかな?」
「大規模ではありますが遠征というほど遠くではなく。我が国にもありますが
東の帝国領の更に東のアルタイル北東部に大規模なミスリル鉱山があるので
それを頂きたいと」
国交のない国から頂くというのは略奪と言うんだよ
ヨハンも宰相らしくなってきたもんだ。
「わたしにその話を持ってくるという事は宛てがあるんだよね?」
「ヤンからの情報だと帝国の最北部は兵が少なく大した戦力もなく
アルタイルの北西部の守備兵は四万程度、飛行艇四隻程度で二週間後に
集めた鉱石を港に集めて船でイシュタル領の北のノワール港に運ぶようです」
「まだノワールの名前を使ってたんだね」
「あの大火事でイシュタル家は旧エクレールより北部を放棄したので
今は大火事で焼けた一帯もロレーヌ領になっております」
まだアレクは生きているのか。困ったもんだ。
旧アレキサンドリア王国の東部まで占領出来れば山に囲まれているから
経営しやすいと思ったけど南への物資輸送に問題がでるのか?
「見張りを続けながら二週間後に襲う事にしよう」
「了解しました。海軍と陸軍を先行させておきます」
建国前は国に取り上げられると思いマジックポーチは僅かな人間にのみ
支給していたが今は違う、出回ってるマジックポーチは最大の容量の物でも
千キロ程度だが俺は調子が良いときで最大で容量五万キロまで成功した。
だがそれ以上はどうしても増えないので何かの制約なんだろうか?
今回は容量五千キロのマジックポーチを千個投入予定だ。
そして、最近はおとなしくしていた姉さんの来襲だ。
「ノア、いつマイクやお父様の仇をとってくれるの?」
「ソフィー姉さん、ここからだとイシュタル領は遠すぎるんだよ
最低でも新型戦闘機が出来る迄は無理だね」
マイクっていうのは確かシュナイダー内務卿のひ孫様だったよな。
「それじゃ王都アレシアは?」
「同じく遠すぎるよ。ある意味、海から距離がある分攻撃しにくいよ」
「ダメダメじゃない。いいわ、私は好きにさせて貰うわ」
そして去って行ってしまう。いつもの展開だな
旦那を殺されて悔しいのは判るけど
今は敵の侵入を防ぐだけで精一杯なんだよな。
予定より一日早い十三日後に先行したマルコやデニスを追いかける形で
十四型爆撃機に乗って出撃だ。
「戦闘機百機及び爆撃機三百機出撃せよ」
先発隊で戦闘機が二百に爆撃機が二百機を既に展開中だから
十四型の全てを吐き出した大作戦で、その数はキグナス北部の空爆を
上回るフリーダム王国の初めての大戦で負けは許されない。
「爆撃機なのに速いじゃないか?」
「当機は新開発したトルネード弾を十発しか積んでませんからね」
「トルネード弾というのは風魔法のトルネードか?」
「はい、それを強化した特級レベルの威力に圧縮した高威力弾頭です」
「それはすごいな、フレア弾でも上級レベルだっただろう」
「フレア弾も現在改良中ですのですぐに特級レベルになるでしょう
今回の作戦は古いフレア弾は全て使い切る位の覚悟で行います」
コンラートも空軍長官になってからの初陣だから気合いが違うな
この戦いで大敗するようなら二年は動けなくなるからな。
「長官、アルタイルの穀倉地帯が見えて来ました」
「よし、十秒間隔でトルネード弾を投下して指定海域まで向かってくれ」
「了解。トルネード弾投下開始」
凄まじいな戦争映画で見た戦略爆撃機並みの威力だ
これは畑を狙っているとはいえ数千人は巻き込まれて死ぬだろうな。
そして俺の乗った機体を含めて二十機を残してフレア弾をまき散らした
機体は戦闘機の護衛の元、フリーダムに補給の為に帰国だ。
「若君、どうでした。ノア型空母への初着艦の感想は?」
「デニス、ぎりぎりで止まったという感じだったよ
もう心臓がドキドキだったよ」
「やはり着艦回数二十回以下の飛行士だときついのか……」
おいおい独り物思いにふけるなよ。
空軍の長官と国王を新人に任せたのか?
「まあ、いいでしょう。若君の買ってきた最上級のコーヒーを用意して
ありますので艦橋へ行きましょう」
随分と荷物の多い艦橋だな。戦闘時は大丈夫なのか?
「マルコ、横にいる爆撃機を積んだ船は空母なのか?」
「あれは機体の輸送と空母が展開時に通路を使って機体を出し入れする
輸送船兼補助の機体収納倉庫といった感じですね」
空母は満載で九十機というから、F-4がいるし、うちの旧式機は多くても
五十機程度しか積めないから仕方ないか。
「問題の鉱石の収集はどうなってる?」
「既に陸軍一個師団の一万五千人が上陸してマジックポーチを駆使して
七十万トンの鉄と二十万トンのミスリル鉱石を奪い帰還中です」
「それじゃ、明日には全軍帰還か?」
「それが推定であと鉄が五十万トン近くとミスリル鉱石が三十万トン近く
あるらしく明日からが本番です」
兵力四万だったな。そうなると空爆で兵士を殺す事になるのか?
艦橋なんかで寝ないで素直に士官用の部屋で寝れば良かったな。
「レーダーに敵影発見。十時の方向、距離三百キロで高度六千メートル
数は四機です」
「よし、零型戦闘機六機をスクランブル発進させろ」
アルタイルの飛行艇は高度六千メートルまで昇れるのか
うちで開発した戦闘機じゃ到底届かないな。
発進してから僅か二十分後に敵機撃墜の報告が来て
艦橋は大騒ぎだ。空対空ミサイルは温存して二十ミリバルカン砲のみで
撃墜したらしい。
鹵獲したかったな。
その翌日に更に六機の大型飛行艇が来襲したがレーダーの索敵範囲が
違うからか、アルタイルの飛行艇部隊は全滅。士気の落ちた陸上兵力四万も
二千人程度の強行派の戦死で投降して現地についてから二週間後には
最後の輸送船が空母随伴で帰還準備に入った。
「若君、今回の作戦で旧アレキサンドリア王国のアルタイル領とワイバーン
地方の畑は焼き尽くし街と港も七つほど全壊させたので当分の間は
アルタイルも攻め込んでこないでしょう」
「そうだな、それに虎の子の大型飛行艇を十六機も撃ち落としたからな」
帰国して十日ほど経った頃に
トレミー帝国からアルタイル王国が倒れたと報告があった。
「ヨハン、今度はロレーヌ王国か?」
「それがアレクが国王となり五日前にイシュタル王国に改名したとの事です」
「アレクが王になったのか?」
あのアレクが王様ね。どこが支援したんだ。
こんなに簡単にロレーヌ家を追い込めるという事はアレクは父さん達を
殺したときからロレーヌを踏み台にする用意をしていたと考えるべきだな。
「それが原因は我々のようでして、アルタイル北部での責任を取らされる形で
ロレーヌ家は没落して農作物を無償提供していたアレクが東大陸の支援を
受けて国王に即位したようです」
こうなると王都の住民の間ではアレクは英雄で俺は本当に魔王という事に
なっているんだろうな。
負け惜しみだけど距離の差が出たか。
エトワールからアルタイルの王都のアレシアまではだいたい六千キロ以上
あるから敵地を制圧して補給を整えないと何も出来ないんだよ。
広すぎる国を得たというのも考え物だな。
「そうなると、アルタイルじゃないイシュタル王国も先がないな」
「そうですね。熱狂している住民は判らないでしょうが
東大陸の国々が一度は戦争を仕掛けた国に無償援助などあり得ないでしょう」
アレクは良くて傀儡政権の王様で都合が悪くなれば責任を取らされるか?
なんか面倒になってきたな。
「ヨハン、何かいい話はないのか?」
「確定情報ではありませんが、北に島があるとの事です」
「島だって?」
「飛行士が航路を間違った際に発見したようですが、大きさも不明で
更に国名すら不明です」
そういえば、不審船は全て十三型爆撃機が問答無用で沈めてるからな。
「悪くないな。よし北の島へ行こうじゃないか」
こうなるとトレミー帝国と戦争中の大陸の呼び名も変更しないと
行けないかも知れない。
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