第四十三話:原子力空母入手
日本に転移したが、どうやら湾岸戦争への参加を憲法九条を理由に反対した
人間の集会を武装した学生達が襲い、それに乗じて賛成派が九条放棄と
陸海空の三軍への変更、そして湾岸戦争での活躍でかなりの軍事費を抱える
国家に変貌しているようだ。
「今年の軍事費は二十兆円だって書いてありますね」
「F-18を大量発注か、悪くない。そうなると空母か……」
俺達は日本政府の機密文書を拝見中だ。ハイテク満載といえど
魔法というローテクの前には意味がない。
「もう丸一日も読書ですよ」
「まだ二日目だし、ウナギでも食べに行くか」
「うなぎってなんですか?」
「今、アレス湖で養殖している魚みたいな物だ。今年の夏には食べ頃の
大きさになっているだろう」
まさにうなぎ専門店といった感じだ。
「えーと、それじゃうな重セットで」
「シャラープ、うなぎはうな丼だよ。うな重なんて邪道なんだ
店員さん、うな丼の松を四人前お願いしますよ」
「か、かしこまりました」
熱々のうな丼は美味いな。ご飯の炊き具合もいい
遠赤外線に良いって言う備長炭に似た炭とかはないんだよな。
「ご主人様、これは鰹節と良い勝負です」
「せめてマグロと良い勝負と言ってくれよ」
出来ればF/A-18が欲しいがどうなんだろうな。
それから三日間は大人買いならぬ王様買いをしながら
日本各地を回った。
各種、品種改良を加えた作物から工業製品まで
軽く五千億円を超えてしまったが、一緒にあったカードに入金
出来たお陰で軽いパニックですんだ。
「ご主人様、雲の上ですよ」
「しばらくは景色は変わらないからな」
今日はアメリカに渡る日だ。
良い買い物が出来るといいが。
アメリカ東部はフリーダムより寒いんだな。
「凄く高いビルが一杯ですよ」
「もう着いたのか」
まずは兵器を見せて貰わないとな
さて最新鋭の戦闘機と爆撃機は手に入るかな?
「運転手さん、その角を曲がった先の建物の前で降ろして下さい」
「あそこは海軍のお偉いさんが使ってるビルですぜ」
「構いませんよ」
さて交渉開始だ。
「すいません、アレックス元海軍大将と約束をしている斉藤と申します」
「斉藤様ですね。お話は聞いております。エレベーターで四十階へ
どうぞ。護衛をおつけします」
護衛という名前の監視だろう。
この時代のコンピューターをハッキングするなど造作もない
機密コードを使って新設された日本海軍の少将という肩書きを手に入れて
艦載機の買い取りの面会の申し込みは済んでいる。
「これは閣下、お初にお目にかかります。日本海軍の兵器購入の責任者の
斉藤と申します」
「ミスターサイトウ、よくきた。予算は百億ドル程度と聞いた
何を希望だい」
「そうですね、できればF/A-18を二百機欲しいですね」
「それはきついね。F-14とA-10じゃダメなのかい」
トムキャットなんていう大食いどうするんだよ
防空専用戦闘機なんていらんわ。
「日本政府はここで眠っている空母がある事を既に掴んでおりますが」
「日本もついに情報戦に本格適に力を入れてきたか
確かに冷戦が終わって慣熟航行前の原子力空母があるが……」
「予算を増やすのでそれを譲っていただけませんか
解体するにしても保存するにしても金がかかるのでは?」
「……あれは製造費だけでも百億ドルはかかるんだが」
「いやいや、六十億程度のお間違えでは、それに今となってはスクラップに
近い状態で日の目を見ることもありますまい」
「仕方ないか。そこまでいうなら百三十億ドルでニミッツと
一モデル前のF-4を四十機とA-7を四十機つけようじゃないか」
旧式のF-4戦闘機と退役が決まったA-7攻撃機か
あまり強く出ても不味いしな。
「わかりました。一週間で燃料満載の状態で引き渡して頂けるなら
百五十億ドルで買い取りましょう」
「一週間だって!」
「日本政府の話では、緊急時には三日で就航出来るように整備済みとか
あとは燃料を積んで機体を乗せるだけですよ」
「……百五十億ドルか」
「日本政府を信用できないなら、今、この場で現金でお出ししますよ」
「随員は横のお嬢さん一人と聞いているが」
「となりの会議室をお貸し下さい。現物をお見せしますよ」
「わかった。そうしてもらおう」
「そうでした。閣下には仲介手数料として個人的に
十億ドルをお受け取り下さい」
よし、ちゃんとアメリカドルで取り出せるな。
隠蔽魔法で監視カメラの目をごまかして。
「ご主人様、疲れました」
「ご苦労様、お札も量があると重たいもんだね」
「閣下、如何ですか?」
「契約書を書いておいたよ。素晴らしい、日本人は現金払いを好むと聞くが
これほどまでとは思わなかった」
「同盟国のよしみで空中給油機四機と対潜ヘリを八機つけておくよ
有効に使ってくれたまえ」
「お心遣いありがとうございます」
そこはおまけで潜水艦でもつけてくれよ。
あまり欲をだすとバレるから仕方ないか
あくまで新設された海軍の航空戦力の獲得という名目だからな。
「ご主人様、あのお爺ちゃんの笑顔が怖かったです」
「相手は軍一筋四十年の化け物だ。仕方ないよ」
「隣にいた猫ちゃんも、大将は化け物って言ってましたよ」
「猫の感情が読めるのか、凄いじゃないか」
「読めるんじゃなくて、はっきりと言葉がわかるんです」
猫の言葉がわかるだと! つまり猫と会話が成立するという事か
この駄猫め、何故そんな大事なことを今まで言わなかった。
「リリーナ、帰ったら猫の諜報部隊を作るぞ
お前も頑張って働け」
「わたしは奥さんじゃなかったんですか?」
「貴族のつきあいはないんだ。四の五の言わずに働け」
そして宿だ、安いところがいいんだが海軍の方から連絡があると
困るので高級ホテルにした。
「ご主人様、広いベッドですよ」
「タマコ、それは今夜、可愛がって欲しいというおねだりか?」
「ち、ちがうもん」
俺もつかれていたし、そのまま寝た。ほんとだよ。
「ここのハンバーガーも美味しいですね」
「そうだろう。穴場らしいぞ」
俺達がなんでバーガーショップで食事をしているかというと
バブル景気での日本人のアメリカへの進出でかなり日本人の印象は
悪くなっているのが原因だ。
「でもこれや昨日のステーキーよりも鰹節をかけたご飯の方がおいしいです」
なんて、安上がりな嫁なんだ。千ドルのステーキより
鰹節ご飯の方がいいとは。
その後、東部海岸一帯を買い物旋風という台風で荒らし回り
更に日本人のイメージを悪化させた頃、空母の引き渡しが可能との連絡が
来たのでアレックス大将の元を訪れた。
「ミスターサイトウ、原子炉は軽快な音を鳴らしているし
燃料はこれ以上積めないレベルで搭載済みだ。これでアラブ地域と日本を
繋ぐ海域の制海権の確保に貴国も加われるだろう」
「閣下、ご配慮感謝いたします。整備点検要員は全て退艦済みでしょうね」
「もちろんだ、契約だからな。でも本当に日本人だけで運用出来るのかね?」
「その事については数年前より訓練してありますのでご心配なく
我が国もこれでタンカーの航路の安全を保証できます」
あくまで太平洋には興味がないという事を示しておかないと。
「頑張ってくれたまえ、日本の軍事貢献に期待しているぞ」
「かしこまりました。それでは失礼致します」
その夜に空母を異次元空間にしまい込み
そばに置いてあった燃料もついでに頂いておいた。
そして、転移してから半月後にフリーダムに転移した。
「ご主人様、やはりこちらの世界の方が空気が美味しいです」
「科学の世界と魔法の世界の差かな」
あれ、アレシアに偵察に行こうと思ったが転移出来ないぞ。
結局、エクレールの屋敷に戻ってみんなと打ち合わせだ。
「ノア様、よく戻れましたね」
「転移結界を強化したのはやはりデニスの仕業か?」
「十日ほど前からアレス領から逃げ出した領民の大量処刑シーンが
映像としてフリーダム全土に送られて来たので
その対策に国境線に配備中の魔道増幅装置の出力を最大にした結果
映像の流入はなくなりましたが、ノア様の張った魔力障壁も強化され
転移魔法で国外に行けなくなりました」
虐殺シーンを映像で送り込むなんてよく出来たもんだ
うちの国民も心労が大きかっただろうな。
「それで、外に出るにはどうしたらいいんだ?」
「やはり、一番簡単なのは船で物理的に魔力障壁を突破して
その後に船を待機させておいて転移魔法が有効かと」
そうか、帰りの船も用意しておかないといけないのか。
「それはいいとして、戦況に変化はあったか?」
「はい、アルタイルの飛行艇技術がキグナスにも亡命した兵士の手によって
渡ってしまったようで両国ともに更にエンジンの巨大化と機体の大型化により
速さと防御力の上昇を手に入れて、既に我が方も数機撃墜されております」
大型化に加えて速さと防御力の向上か。太平洋戦争時のアメリカの
ような発想だな。これに対抗するには更に上の速さと攻撃力か?
「わかった、星金貨で二十万枚ほどかかったが
この世界で最強の戦闘機と攻撃機とその母艦を手に入れてきたので
技術者を集めてくれ」
「最強ですか……わかりました」
最強という言葉に技術者魂が動かされたのか翌日にエクレールの北の海に
技術者と精鋭の兵士と主要官僚が集まった。
「よく見ておけ、波に気をつけろよ」
そして十万トンの鉄の塊を海に放り出した
その波は凄まじく波が引くまでみんな動けなかった。
「まさに城が浮いているような船ですね」
「これが航空母艦というものですか……」
「我々の小型機による高威力攻撃の思想は間違っていなかったんですね」
それから兵士六千人が乗り込み基本概念を教え込むだけで
三週間がかかったが
開発チームは造船チームと飛行機開発チームに別れて工房に戻っていった。
当分は開発だけで終わりだな。
お読み頂きありがとうございます。