第三十七話:魔王伝説って何ですか
俺も十三才になる頃に分家のマーチさんとの取引も良い感じに進んで
いるが南の帝国の地方領主の軍が二万五千にまで膨れ上がった。
今は久しぶりの王都アレシアだ。
「陛下、それにシュナイダー内務卿とお爺さまも健康な
ご様子でなによりです」
「魔王殿か、ノアの悪名は王都にも響いているぞ」
「まったく、うちの兄も侯爵家の嫡男なのに何を考えているのか
私にも判りません」
「ハインツ、放っておいて良いのか?」
「現在のイシュタル家の当主は息子のルッツですので」
「そのルッツもノアの事を王宮で噂の種にしておったぞ」
「外務卿、とりあえずは今日は北に野心を見せる帝国貴族の問題を
片付けましょう」
「キグナスもアルタイルの五割程度の土地があるのだ
素直にバルバロッサと和睦すればよいものを」
「キングダムは今月中にも兵を引く構えをみせていますぞ」
「そうなると儂が中にはいって仲裁、四カ国でジュノー大陸を平定という
政策が妥当かの」
「キングダムは我が国の六割程度の土地を手に入れております
キグナスが引くとは思えませんな」
「そもそもアレキサンドリア攻略の際に我が国を襲うために兵を引いたのが
原因であろう」
「もう銃の優位性はほとんどございません。今年は飛行艇の開発に
アルタイルの予算の五割をつぎ込む予定です。出来れば戦争は
さけたいですな」
「とりあえず、ノアには開戦する権利のような物を与えよう
攻める様子を示した段階で攻撃して構わぬぞ」
「それではもう一つ確認でございますが
同じ辺境伯が同様の行為をしてきた場合も同じ対処でよろしいでしょうか?」
「マイケル・ドナルドか、東の山はノアの領地じゃ
山へ軍を入れるか、海から攻めてくるかの行為に手を貸したら構わぬ」
「ありがとうございます」
「ノア殿、船で獣人を少し送っておいた。上手く使ってやってくれ」
「内務卿、かしこまりました」
問題は東と南からの同時攻撃なんだよな。
それで秘密会談は終わり
アレク兄さんがいないというので久しぶりに王都のイシュタル屋敷へ。
「ノア、儂も現役でいられるのはもう五年もない、そしてシュナイダーは
その前に引退するだろう。イシュタル家の全権はルッツに委譲しているが
名義上は一応、儂が当主じゃ。最悪の事が起きたらアデルとその下の
妹を守ってくれ」
まるで遺言だな。そんなに父さんが頼りないんだろうか。
「それでは僕はこれで」
「まあ待て、みな入って参れ」
「お久しぶりでございます」
「ノア、久しぶりだな」
「ミーナにアレックス先生」
「アレクを上手く丸め込んで引き離す事に成功した
家の事、そして軍事で二人は役に立つだろう。連れて行け」
「ヘルミーナ、アレックス先生、いいんですか?」
「ああ、もうアレクはダメだ。イシュタル領にも愛想が尽きたし
寒いのは嫌いだが余生は美味い物を食って過ごすのも良いと思ってな」
「イシュタル領も大穀倉地帯ですよ」
「あそこはもうダンジョンみたいな状況だ。そうだろうヘルミーナ」
「アリス様は定期的に暴力を受けていてお助けすることも
かないません。あとはノア様の側で子供と共に暮らしたいと思います」
「お爺さまの推薦だ。断るつもりはないよ
ヘルミーナ、アレックス先生、又よろしくお願いします」
「任せとけ」
ミーナももう二十七才か。このジュノー大陸だと主婦業に専念する頃だな。
アレックス先生は年齢を教えてくれないから不明だ。
「ノア様、主人と子供達も一緒に良いですか?」
「当たり前じゃないか。ヘルミーナがいなかったら誰が面倒見るの」
「あなた、中へ」
「ノア殿、ヘルミーナの夫でギュンターと申す。
粉骨砕身で働く所存でございます。なにとぞよしなに」
来た、思考が騎士の人が来ちゃったよ。
「よろしくおねがいします」
「辺境伯にねぎらいの言葉を頂くとは名誉でございます」
「ヘルミーナ、たしか男爵家のお嬢さんだったよね」
「覚えていてくれたんですね。あの家はもうダメです。兄はアレク様の
取り巻きになってしまいました」
取り巻きを絶賛増殖中か。
「わかったよ。それじゃ家臣と同列に扱うよ。まずはエクレールという
都市があるんだけどそこに住んでもらうよ。食べ物は豊富だけど
娯楽が無いから退屈だと思うけど」
「大丈夫でございます」
「そうそう、僕は飲まないけど、最近は酒の増産に力を入れてるから
お酒なら何でもいいなら銀貨一枚で毎晩飲めるよ」
「拙者、今から向かうのが待ち遠しくござる」
「ではお爺さま、お元気で」
領内に戻りまったりと政務をこなす
平和はいいな、キングダム王国は兵を引いたみたいだし。
そういえばギュンターは軍人かと思ったらまともな内政官だった
ミーナの方が優秀だと思うけど仕事をさせている。
「ノア?」
「なんですか先生」
「アレックス先生と呼んでくれないのか?」
「先生と呼ぶのは一人だけなんだから、いいじゃないですか」
「そうか、南のやつらが三日前にドナルド家の領内に攻め込んだらしい」
「うちはセーヌ川がありますからね。どうしますか?」
「救援要請は来てないし暫くは様子見だな」
「そうですね」
旧アレキサンドリア王国の旧王都の南側は平地になっていて
小さな川が五つほど流れているけど石の橋が複数架かっているから
大軍での通行も容易なんだよな。
「ノア、行くと言わないのか?」
「ドナルド家はうちより兵士が多いんですよ。それにうちとは友好的じゃない
どころか敵対してますからね」
「それじゃ俺は東の国境線を見張っておくぞ」
「おねがいします」
お隣さんは正規兵だけで五万近くいたはずだけど
敵の指令官はだれだろう。
そして、サザンクロスの街に温泉を見つけたと報告が来て
千人で温泉を開発中に面倒な報告が来た。
「若君、ドナルド家の領都が包囲されました」
「敵はそんなに居たの?」
「飼っていた野良犬に手を噛まれたようです」
「素性も判らない傭兵を多く登用していたからね」
「どうしますか?」
「海に逃げられるし
うちに援軍要請するくらいの余裕はあるはずだけど」
「援軍要請はないですが、逆に帝国軍からは援助要請がありましたが」
「アルタイル王国貴族としては見捨ててもおけないね
兵を一万五千を東の山に、それ以外の精鋭は船で救援に行こう」
そして、さすがアレックス先生だ。船の用意と既に部隊を一万を連れて
東の国境へ向かっていた。正確には領境かな。
「ノア様、どうも遅かったようです」
「燃えてるね」
「まさに真っ赤に燃えていますね」
「これは今日燃え始めた訳じゃなさそうですね」
「連れてきた兵数は?」
「五千だけです」
「上陸させたら後世の笑い者だね」
結局、暗くなったので船の中で休んで翌日だ。
そして二日後。
キグナス帝国旗が立ってるよ。皇帝の命令だったのか?
「ブルームハルト家、アッテンボロー家、双方の軍司令官がお見えです」
「会いましょう」
「みなさんお早いお着きですね」
「ノア殿、やはり落ちていましたか?」
「三日前には味方の傭兵の手引きで旧王都に侵入を許し
そのまま火を放ったようです」
「私どもも五千しか兵がいませんが」
「一昨日と昨日の偵察の結果。敵兵は七万以上だそうです」
さて、こちらは一万五千か。最初より厳しいな。
「東より援軍です。数は四万程度かと」
「やれやれ、俺達に死んでこいと言ってるのか」
「敵が迎撃に出るなら少々僕が相手をしてきましょう
形勢が有利になったらご助力お願いします」
「あいわかった」
「ノア様はヘカテーの申し子ですからね」
そういえば、最後に戦ったのもここだったな
奴隷の状態が心配だ。
真面目に迎撃に出るという事は恒久的に占領するつもりか?
「闇と炎の精霊にノアが懇願する。我と精霊達の力を合わせ目の前の
愚か者共に裁きの刃を与えたまえ、【魔力五割、対象前方広範囲、暗黒爆炎波】
今回は三十分ほどで魔力が収束するのが体感できた。
よし、来た。前よりかなり速い。
「食い尽くせ!」
黒い爆煙は時速十キロ程度でゆっくり敵を飲み込む
しかし遅すぎるのか、あまり巻き込めない。
二万ちょっとを巻き込み混乱した敵に
ブルームハルト家の兵が果敢に突撃。敵は前方の敵を警戒していたので
かなり暴れ回ったようだ。
「うなれ、【インフェルノ】」
「「「「「【サンダーストーム】」」」」」
俺の魔法の後にアッテンボロー家の兵士と
俺の部隊も突撃殲滅戦に入った。
今回はコンラートに指揮を任せたが危なげなく敵を討ち取るんじゃなく
追い払うことを優先して敵を撃退。
「コンラート、やれば出来るじゃないか」
「もっと褒めて良いですよ。俺も貴族ですから」
「若君、港は無事ですが……もうこの街は……」
「ここまで徹底的に燃やすとは執念を感じるね」
みんなのため息が聞こえるような跡地を後にみんな引き上げだ。
畑は荒らされ、至る所に死体が放置されている状態なので
我ら遠征軍はほとんど死体処理だけを二日間も黙々と続けた。
うちは全軍二万二千のうち、五千を東の山に残し五千を南の国境線に
そして二千を西部のルミエールに更に三千を中央のサザンクロスへ配置。
「ノア様、月光便が来ました」
「内容は?」
「既にドナルド家が包囲された翌日には攻め込んだ家の貴族家の当主と将軍の
首が国王陛下に献上され、見舞金の星金貨一万枚と共にドナルド辺境伯家の
遺族が受け取ってしまったそうです」
「最悪じゃないか。これで文句を言えなくなったな」
「どうやら、最初から死兵だったようですね」
「最悪はここも攻め込まれる可能性があるからデニスには残って貰って
ヨハンとコンラートの三人で行ってくるよ」
翌日、王都へいくと既に葬儀が終わっており
ドナルド家の人間は本領の旧アルタイル領に籠もってしまった。
「陛下、誰かを赴任させねばなりません」
「はっきり申し上げる。私の見てきた状況では街の復興には星金貨四万枚以上
更に農地の再開発、住民への見舞金、そして最悪なのが大きな機動兵力が
なければいつ攻め込まれても落ちそうな領地を欲しがる方はいないかと」
「星金貨一万枚でなんとかならないのか?」
「そもそもあれは既にドナルド家の物です」
「この財政難の時に」
「これはそれを狙っての敵の作戦かと」
「卿に言われんでもそんな事はわかるわ」
「誰か自分が行くという者はおらんのか?」
「そんなにいうなら軍務卿が行かれては」
「そうですな」
「素晴らしい戦功をお持ちだ」
「アレス殿はどうだ?」
「無理です。うちは兵が少ないですし今の領地を守るだけで精一杯です」
兵を増やさないでおいて良かったよ
アレク兄さんを警戒して増やさなかったのがいい結果を生むとは。
「儂はアレス伯の治める西部以外の全ての旧アレキサンドリア領土を頂けるなら
行っても構わんぞ」
「軍務卿、それは……」
結局決まらなかったか、ドナルド家、どうにかしてくれよ。
お読み頂きありがとうございます。