第二話:目覚めの儀
今日は一月の十五日、戦争中以外の国のジュノー大陸に生きる
全ての三歳児は目覚めの儀が執り行われる。
俺に取っては初のお出かけだ。
「凄い人だね。こんなに沢山の人を見たのは初めてだよ」
「屋敷からは丘を挟んでいるから、領都オリオンの一部しか見えないからね」
「ノア、このオリオンだけで百万人が住んでいるのよ」
「すごーい」
何が凄いかっていうと街並みが凄い。建物の色がカラフルで
通り別に建物の階数が決まっている。その中でも五階建ての建物が一番多い。
「イシュタル卿、本日はよろしくお願いします」
「オーブ卿もお嬢さんが三歳でしたな」
「お転婆で困っている所ですよ」
「ハハハ、元気があって何よりです」
「初めまして、僕はイシュタル辺境伯家次男
ノア・ブルーム・イシュタルと申します」
「初めまして、私はアクセル・オーブ
そしてうちの長女のリリーナ、オーブです」
ミドルネームは名乗らないのが普通なのか?
「こんにちは、リリーナと言います」
「よろしくね」
「みなさま、目覚めの儀の用意が出来ております。中へお進み下さい」
神父じゃないんだ、こういう時は神殿で儀式を行うのかと思ったけど。
長い! 普通はオリオンで一番の辺境伯の一族から始めないか?
もう二時間は経ってるぞ。
「リリーナ・オーブ様、前へお進み下さい」
あの娘も最後の方に回されたのか。
もう二十分位経ってるぞ。
「最後にノア・イシュタル様、前へお進み下さい」
最後か、今日はお昼ご飯は遅くなりそうだな。
「それでは右手を前にお出し下さい」
それはもしかして注射では、それも使い回しですか?
血が欲しいなら指をナイフで切って一滴垂らせばいいのでは?
「腕を引っ込めないで下さい。ルッツ様、腕を押さえておいて下さい」
「了解した」
人でなし、子不幸者、そんな言葉は無いって。
随分と採血されたな、何に使うんだ?
「女神ヘカテーよ、この者の道を示し給え。血の道を示せ」
ヘカテーって言ったら冥府の女神じゃなかったか?
――――――――――
名前:ノア・イシュタル
年齢:三歳
種族性別:人族:男
所属:アルタイル王国
賞罰:無し
加護:ヘカテーの加護(神話級)
:アテナの加護(神話級)
:クロノスの加護(神話級)
:イシュタルの加護(伝説級)
――――――――――
これはステータスみたいな物か、ミドルネームが入ってないじゃん。
ヘカテーの加護貰っちゃったよ、もしかして冥府の王とか呼ばれないよね
イシュタルあったよ、こっちは悪くない響きだな。
「イシュタル卿、わたしは二つ以上の神話級の加護を見たのは初めてですよ」
「そうですね、キングダム王国の英雄がアテナの加護を授かったという話は
聞いた事がありますが……」
「予想通り、イシュタルの加護はありましたな」
「父と私は王級でアレクは災害級でしたが、ノアは伝説級か……」
もしかして、お爺さまより高いのかな?
「伝説級というのはどの位なんですか?」
「魔法のランク訳と同じだね。下から下級、中級、上級、特級、王級
災害級、伝説級、神話級とあるんだよ」
「坊ちゃん、ヘカテー様は魔術、アテナ様は戦争、クロノス様は時間、そして
イシュタル様が豊穣に重きを置いています」
そうすると戦いに関しては万能なのか?
「ここだけの話ですが、ノア様の前のリリーナ様はアスクレーピオス様の
加護の神話級をお持ちでした」
「医神ですか。どうせ目覚めの儀の結果は
王宮には知られてしまいますからね」
「とにかく、王都の本部には月光便を出しておきます
オリオンにいる他の者には決して漏らしませんのでご安心を」
「それでお願いします。ノア、行くぞ」
「ありがとうございました」
俺と父さんはそのまま目覚めの儀の会場から去った。
そのまま帰りの馬車では終始無言で最後に家の人間に聞かれたら
『イシュタルの加護が災害級』とだけ言っておけと言われただけで
そのまま家族会議(大人限定)に入ってしまった。
その日から何故か魔法が上達するようになって
火、風、土、水、雷、氷、光、闇、時、無の全ての中級魔法を二週間で覚えて
ヘルミーナと一緒という条件なら外出も許可された。
目覚めの儀に関しては結局誰にも聞かれなかった。
◇
そして二年が経った。
ノーラ姉さんは夏から学院だし、そしてオーブ子爵家のリリーナが定期的に
遊びに来るようになった。
「ソフィー姉さん、もう少し手加減してよ」
「ノアはアテナ様の加護持ちなんでしょう。本気になりなさい」
アテナの加護は加護でも戦略といった感じで武器の腕前は頑張っても
ソフィー姉さんと同じくらいだ、体格が姉さんの方が上だから不利がある。
「終わった。ソフィー姉さん、ノーラ姉さんとやればいいじゃん」
「姉様は礼儀作法の指導で忙しいのよ」
「来年はソフィー姉さんも学院へ行くんだから一緒に練習すれば」
「わたしはカタッ苦しいのが苦手なの」
「ソフィー、ノア、たまにはアデルと遊んであげてよ」
「ソフィー姉ちゃま、ノア兄ちゃま、あそぼ」
「四人なら、それじゃ光金貨すごろくでもしようか?」
「うん、今日は勝つの」
「ノアは色々な遊びを考えるのね」
四歳になった時にリバーシを、その半年後にトランプ、そしてチェスと
将棋を世にだしたが、リバーシ旋風は巻き起こらなかった
今では子供向けの遊びとして定着していて、数を覚えさせるのに好都合だと
貴族から平民まで人気があるが大人は飽きてしまったようだ。
「アデルが一番ね」
「子供が事故にあって三回休みとか変じゃない」
「ソフィー、勝ち負けは時の運だよ」
「アレクはいつも二位ね」
「堅実と言って欲しいね」
「みんな、それじゃ夕食にしましょう」
「「「はーい」」」
「階段を降りるのは面倒だな」
「そうだね、もう少し家が狭かったら楽だったね」
「ノア、アレク、ぶつぶつ文句は言わない」
アデル以外は現在、四階へ引っ越し、三階は両親が使っており
二階は爺ちゃんと婆ちゃんの寝室がある。四階といえど子供にはかなり面倒だ
特にアデルは四階からだと下に降りるまでに五分程度かかってしまう。
「リリーナ、来てたんだね」
「みなさん、おじゃましています」
「ご両親は王都でしょう。ゆっくりしていってね」
「みなさん座って下さい。今日はとっておきのデザートをご用意致しました」
「キリング、勿体付けないで、何を用意したの?」
「それはデザートまでお楽しみに」
キリングはイシュタル家の執事で
お爺さまとは学院で知り合って以来の旧知の仲らしい。
「今日は天使アヒルの丸焼きが2羽か。それも若い天使アヒルだ
中々のご馳走じゃないか」
「本日はルッツ様とマリア様の結婚十周年ですので」
「「「「お母様、おめでとうございます」」」
「マリアだけかい、父さんも祝ってくれよ」
「「おめでとう」」
父さんは最近かなり丸くなってきた感じがする。
天使アヒルは毎日卵を五個も産み、卵一個の大きさが鶏の二倍あり
産卵期間はは二十年以上、加えて滋養効果があり薬としても出回っていて
若い天使アヒルは黒金貨二枚以上とも言われる。
ちなみにアルタイル王国の通貨は銅貨が百枚で銀貨、銀貨が十枚で小金貨
小金貨が十枚で金貨、金貨が十枚で黒金貨、黒金貨が十枚で星金貨
そして星金貨が百枚で光金貨になり、実に日本円にすると十億円硬貨だ。
ちなみにタマネギが一個で銅貨五枚程度、サンドイッチが銅貨十枚
庶民の宿の宿泊費が一晩につき銀貨五枚程度だから銅貨一枚で十円程度だ。
ちなみに通貨単位はアル。
「やっぱり若い天使アヒルは美味しいね」
「これは、子供を産んだばかりの二年目のアヒルのみたいね」
「若い天使アヒルは最高です!」
「それではデザートは天使アヒルの初卵を使用して
蜂蜜を使ったホットケーキです」
「あまーい」
「ほんとだね」
「美味しかったわ」
「リリーナ、美味しいと言えば味噌の研究は進んでる?」
「お爺さまに伝えておいたけど、まだ完成してないそうです」
「そうか、残念。僕の全財産を投資してるのに」
「ノア、全財産と言っても全部で金貨七枚じゃないか」
「それでも全財産ですよ」
「わかったよ、そういえばアリソン商会の商会長が近々来ると言ってたぞ」
「そうですか、あの人は面白いから楽しみですね」
疲れたな、魔法の訓練はこの辺にしておくか。
アリソンさんは、また料理のレシピでも聞きに来るのかな
それともヒンメル王国の近況でも報せに来るのかな?
お読み頂きありがとうございます。