表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/145

第二十七話:アデルの入学


 キングダム王国大敗の報告はアルタイルの全土に行き渡ったが

俺が想像していたような混乱はなく、南に拡張を進めるキングダムの侵攻が

低下したとして逆に歓迎ムードだ。


そして前半は戦争、後半は領地開発に没頭した夏休みも終わり

今日から三年生だ。


「……それでは三年生、ラインハルト・ロレーヌ君の挨拶に続いて

新入生総代、アデル・イシュタル、壇上へ」


「はい」

 アデルが新入生のトップか。


「新入生総代アデル・イシュタルです。本日は大国アルタイル王国の

王立学院への入学に際し多数の方の列席、そして祝福を頂ける事に感謝を

そして我々は……」


 アデルは張り切っていたのか、二十分に渡って挨拶が続き

貧血で倒れる生徒が二名も出てしまった。


 しかし入学生も遂に八百人を超えたか

学院も拡張工事を行っているが、一クラス五十名で十六クラスだ。


「みんな、今年は三年生ね。担任のサリバンよ。よろしくね」

 あいかわらず軽い先生だな。


 俺達、上級貴族は基本的に担任は同じだが、それ以外は学院の

教師による生徒争奪戦だ。クラス単位の成績が上位に入れば教師の給料も

上がる仕組みだから仕方ない。


     

「ノア、わたし達は航空学と戦術学と銃の実技だけで良かったの?」

「そうだね。コンラートとヤン以外は単位を取り終わったし

騎士学校も今年から新入生の受け入れを停止したし、銃の学習は必須だよ」

              

「最後の剣豪と呼ばれたかったな」

「生まれるのが十年遅かったな」


「騎士学校も今年の新入生を採らなかったから二年後には廃校か」

「時代は剣から銃だよな。でも飛行艇はまだテスト飛行中だろう」

       

「だから学生に指導するんだよ。国費の三割の予算をかけて開発してるんだ

時代は陸から海と言ってたのは既に古いよ」


「そうだね大量輸送の艦隊に、戦地では新しく発足した空軍が主力に

なっていくだろうね」

    

「なんか余計に剣士が必要なくなっていくな」

「要人護衛には必要だし、警備兵もまだ剣を使ってるから

あと五年は現役だと思うよ」


「五年以内に銃の習熟度を上げないと最悪は失業か」


「そうなるね。僕たちはまだ十一才だから学習にも抵抗がないけど

父さん達の世代は大変みたいだよ」


「剣と槍が主流だったから大変そうだね」

「弓も無くなるのかな?」

 

「新規に射程三百メートルの長弓が実践テストで好評みたいだから

銃の命中精度が今の状態なら優秀な弓兵は貴重な存在になるだろうね」


「俺も弓なら自信があるんだけどな」


 列強国は銃の出現でコストのかかる盾の開発を諦めて

貫通力に優れた銃の開発、同時に射程と汎用性が高く不良品の無い

新型の長弓の製造に力を入れている。


「空き時間はどうする?」

「銃と弓の訓練と部活動に……ソフィー姉さんの結婚式が十日後だから

その準備かな」


「相手はあの『いつまで現役』のシュナイダー内務卿のひ孫よね?」


「ノーラ姉さんと同じ年だから、今年で十五才か」

「私達も婚約相手を探さないと行き遅れになるわね」


 悲しいが、この世界だと十五才で婚約相手がいない女性は

捨てられた子猫を見るような目で見られる。


 俺もそろそろ、ヨハンの持ってくるお見合い話に飽きてきた所だ

婚約相手を探さないと。

 

 この国で裕福な人間なら妾の二人や三人は当たり前だ

去年は父さんに二人の愛人がいるのが発覚してマリア母さんの追求の末

俺には半分、血の繋がった兄弟が八人いるらしいが

このジュノー大陸では妾や愛人の子供を認知するのは希で三十代で

手切れ金を渡して縁を切るのが普通らしい。


「相手がいるのはヨハンとミーアだけだからな」

「ミーア、早く結婚して子供を産めよ」

「デニス兄さん酷い。まだ生理が始まったばかりだから大変なんだよ」


「生理ってなんだ?」

「「「知らなくていいの」」」


 

 十日後にシュナイダー侯爵家のマイクとイシュタル辺境伯家のソフィーの

結婚式とあって、お祝いに訪れた客は八百人以上。侯爵家と辺境伯家は同格

更にイシュタル家の躍進は目覚ましくアレク兄さんが跡を継ぐ頃には

公爵家に陞爵するのではと噂が飛び交っているから尚更だ。


「天使アヒルの丸焼きが六羽分上がるぞ」

「こっちはスープができました。持っていって下さい」

 

 俺は新婦の弟なんだが、何故か第七食堂研究部のみんなと給仕をしている

毒殺を恐れての配置らしい。料理に精通している貴族の子弟には定期的に

回ってくるお役目らしい。


 結局、厨房と会場の往復をするだけで結婚式は終わってしまった。


「最高ね。まだ若い熱々の天使アヒルは美味しいわ」

「買ったら、黒金貨数枚が軽く飛ぶからね」


「こんな役得があるなら次のパーティにも参加したいわね」

「若い天使アヒルが大量に出そうなパーティとなると裕福な伯爵家以上の

結婚式になるな」


「そういえば、アレクさんの結婚式は?」

「兄さんの結婚式は領土が確定した後にやるって言ってた」


「アルタイルも既に四カ国を併合して更に北部方面は西へ進撃中だもんな」

「それじゃあと一年は確定しないわね」

「なんで一年なの?」

「一年もすればキグナス帝国との取り合いも終わるんじゃないかな」

「その後は侵攻しないの?」


「現状でも各地を治める人材が足りない状況だから、侵攻を終えて三年は

じっくり内政に取り組まないと飢える事になるよ」


「景気がこんなに良いのに飢えるなんてあり得るの?」

「ラウス地方は資源を売って国の食料の九割を他国からの輸入頼み

だったから農地開発が急務なんだよ」

                 

「今まで買ってたなら、また買えばいいんじゃないの?」

「北西の大国から大量の小麦を輸入していたみたいだけど

アルタイルの躍進を警戒して輸出を中止したらしいから開発が必要なんだ」

               

「そうだよ。イシュタル領やアレス領を見ていると気づかないかも

知れないけど他の国は自国の食料を賄うのがやっとなんだよ」


 バカな住民のお陰で農地開発が遅れたせいでアレス領の小麦の収穫高は

僅か十万トンだ。北海道より広いのにその二割にも満たなかった。

 しかし予想だが米の収穫高は二十万トンを予測しているので

こちらは北海道の四割近くになるので領内の食糧供給はなんとかなる。


「うちも豊作だったようだけど、来年に向けて農地の開発に力をいれる訳ね」

「まだアレス領には九割以上の未開拓の農地になり得る土地があるからね」

    

「ということは農地開発が成功すれば小麦が百万トンにお米が二百万トン

収穫出来るという事?」


「ノア様のイシュタルの加護があるから、更に多くなるだろうね」


「それじゃ、僕達の食料は安心だな」

「そうとも言えないよ。コンラートは毎食どんぶり二杯は食べるだろう

それだと一日に六百グラム程度の米がかかるから、単純計算でも

一年に二百キロの米を食べるんだ」


「僕と同じ量を百万の領民が食べれば今年の米は無くなるのか?

結構、食べてるんだな。でもパンも食べるぜ」

     

 俺達は六十キロ程度しか消費しなかったが、過去の日本での米の消費量は

一人で年間に百二十キロ弱と言われていたから

アルタイルの消費量もかなりの物だ。   

  

 飢えで一度死んだ身としては慕ってくれる人間には思いっきり食べさせて

やりたい所だ。特に子供と老人には。


「それも問題だよ。米より収穫高が悪いのに、アルタイルの国民の七割の

主食がアルタイルロールで一個につき小麦を四十グラム使うんだよ」


「それって私でも四個は食べてるわよ」

「コンラートやヤンは八個食べるけどね」

「それでノア様のうどん開発なんですね」

「そうだね。アルタイルロール四個分の小麦があれば大人の男性でも

充分な量のうどんになるよ」


「つるつるしていて、冷やしうどんはいいよな」

「出来ればスープと一緒に食べられるきつねうどんをメインに売り込みたいん

だけどね」


「油揚げは一部で好評だけど、まだ醤油の普及も始まったばかりですから

まだ大きな売上げには繋がりませんね」


「でも東部の大陸では既にうどん料理が幅を利かせてるって言うよ」

「東部の大陸でも同時期にうどんを開発した人間がいるんでしょう」

 

「でもアレス領の乾燥うどんは、まだ他の大陸でも出回っていませんから

当家が本家を名乗っても問題はないかと」

     

 本家とか元祖とかはどうでもいいが、東大陸にも転生者がいると考えて

いいとして、きっと俺ほどの経済力はないんだろう?



                        

 俺達が食料議論をしてから一ヶ月後、北部侵攻軍十五万は西方の

大国アレキサンドリア王国へ侵攻を開始。全部隊の八割の武装が銃という

近代装備の軍勢だ。


「しかし、広い国ね」

「旧アルタイル領の軽く十倍以上だもんな」

「陛下も自分が国王でいる間にこの国へ侵攻出来るとは思っていなかった

みたいだし、戦功次第では貴族になれるチャンスとみんな張り切ってますよ」  

  

「それより俺の単位が」

「諦めろ」

「そんな……」

   

「このアレキサンドリア王国に銃の設計図が流れたようだから早期侵攻は

やむを得ない選択だよ」


「どこからもれたんでしょう?」

「たぶん、キグナス帝国だろう。今は西への侵攻の勢いが低下したから

我が国の進撃も弱めたいんだろう」


「足の引っ張り合いか。面倒な事をしてくれるわね」

「この国を平定すれば、侵攻作戦も終了だ」

 

 旧アルタイル王国の領土はパキスタンより狭い程度だが

この農業大国のアレクサンドリア王国はアメリカ本土より広い

ここを落とせば北は海、北西部が突き出たブラジルのような国家になる。


「そうね西は帝国で南はキングダムで両国とも内政で手一杯で平和条約を

結んだ国へ出兵する余裕はないだろうね」


「そういえば、キングダムは大敗した後はどうなったの?」

「優秀な双子の魔法兵の一人を狙撃で討ち取ったらしいよ

今は南に南下を再開しているようだね」


「それじゃ、武勲を立てる本当の最後の機会なのね」

 

「マーチ家やオーブ家の再興は無理だけど。武勲次第では貴族として新たに

家を興すことは可能だよ」


「アレスも兵を一万も連れてきたんでしょう。領土を狙ってるんじゃないの?」

「狙ってないと言えば嘘になるかな。とにかく広いからね

今のアルタイル王国と比べても二倍以上の広さだよ。本音は一割ほど欲しいよ」


「エクレールはまだ開発が始まったばかりですから

確かに頂ける物なら欲しいですね」

     

 このアメリカのような農業国が手に入れば、俺の加護で食料の大生産も可能

だろう。せめて今の領地を広げる位の武功はあげたい。


                      


お読み頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ