第二十六話:銃の時代
ここはワイバーン連邦という名前の通り、精鋭の竜騎士部隊を多数抱える
武闘派国家だ。標高二千メートル級の山々に囲まれている空気のおいしい国。
「なんで、第七食堂研究部だけでワイバーンを相手にするんですか?」
「ミーアが魔法兵に喧嘩を売ったのが原因なんだから仕方ないだろう」
「精鋭の魔法兵二百と一緒なら心強かったのに」
「コンラート、うるさいよ。未来の旦那を成り上がり風情と呼ばれて
黙っていられる程、出来た人間じゃ無いんだよ」
そう、思えば俺の紹介の仕方も悪かった。
俺の筆頭家臣のヨハンだと、ここまでは良かったんだが
その後に『ラズベリー家が兵を出さなかったが、ヨハンがいたから大丈夫』と
あれがいけなかった。
貴族家のお抱えの魔法師があそこまで貴族に毒されているとは予想外だ。
「ヨハンを成り上がり扱いしたバカどもを見返すのよ」
「そうですね。アレス伯の腰巾着と言われては
武功を立てて証明しなければ貴族家の当主として終わりです」
ヨハンも怒っているのか、珍しい。
「それじゃ僕の補佐がリリーナ、シャル、コンラートで他はデニスの班だ」
「魔法攻撃はしないんですか?」
「必要とあればするが、今回の目的は銃の威力、そして恐怖を連邦のやつらに
刻み込むのが第一目標だ。弾は有限だからサクサク倒すように」
「我々は王城の兵舎を襲いますね」
「僕たちは竜騎士の兵舎を襲う、その後は弾丸が二割を切るか。窮地に
陥らない限り狩りまくる。撤退ポイントはここで、追って来た場合は
アルタイルまで撤退だ」
「デニス分隊、突撃、転移」
「僕達も行くぞ。転移」
「貴様ら誰だ?」
『パーンパーンパーン』
「ふぅ、快感……」
あれ、機関銃じゃなかったのか?
これじゃ連射出来るライフルじゃないか、囲まれたら死ぬぞ。
「あの世で女神に会ってこい」
「こいつら、アルタイルのやつらだ……」
「死になさい」
「小銃が動作不良よ」
「拳銃に持ち替えろ」
「焼き尽くせ、【インフェルノ】」
重量は八キロと重いがマガジンの装填数三十発。威力が上半身に
当たれば一発で射殺可能だ、移動しながらでもマガジンの交換が可能だが
機関銃じゃないから無双は出来ない。
「デニス、金庫はどうだった?」
「少量の金貨と金塊だけ奪ってきました。残弾は一割を切ったかな
二時間も使うと銃身を魔法で冷やしても熱が凄いですね」
「今日は撤退だ、転移、王都イシュタル屋敷」
「私達は先にお風呂を頂くわね」
「ゆっくりどうぞ」
威力は五十口径並みなんだが、みんなにとっては連射なんだろうけど
実際は連射なんていう上等な物じゃないからな
やはり百人単位の部隊で運用しないと実力を発揮しないか。
銃弾の表面は鋼だが火薬が使われている部分は一部で
中は炎魔法でコーティングされている。
一人で百発程度の銃弾を加工する事が可能で威力は地球の拳銃の
二倍程度だろうか、工場で大量生産されるようになれば威力は劣るが
魔法師が必要のない銃弾が出来るだろう。
「金貨と金塊を渡しておきますね」
「デニスのマジックポーチに入れておいてくれ」
「何故ですか?」
「僕はデニスが金塊を奪ってきたなんて報告は受けていないよ」
「さっき言いましたよ」
「誰かに追求されたら言えばいいじゃないか、今回のアルタイルの目標は
ラウス共和国だよ」
「まさか着服とかをお考えで」
「運がよければ報酬として頂くというだけだよ。不正はしてないよ」
「そうですね、かなりの殺人を犯したんだ正当な報酬が無ければ
そのまま頂きましょう」
「ヨハンまで賛成ですか?」
「私だけでも今日一日で二百人は殺しましたよ
普通の学生だったら気が狂ってますよ」
魔法や拳銃はあまり人を殺したという罪悪感が無いんだよな
そこが良いところだ、これが剣とかだったら凄く気持ちが悪いだろう。
「実戦での銃の改善点についてのレポートを書き終わりました」
「やはり問題点は連射速度だな」
「射程は三百メートル程度あるんですが、囲まれると逃げ撃ち以外の
方法しかありませんね」
逃げ撃ちか、面白い表現だが、要するに後退するしかないという事だよな。
さすがに昨日の奇襲で兵士の数が多いな。
白旗は出てないか、さすがに一日程度じゃ
武器を放棄しろと言っても無視するよな。
「今日はこの街で暴れるぞ。罠があるかも知れないから全員で行動する」
「王城へ行かないんですか?」
「相手次第かな」
「レッツゴー」
『パーンパーンパーン』
「敵襲」
「アルタイルの奇襲部隊だ……」
改良型の方がマガジンの装填時間が半分程度で済むな
これは有り難い。
マガジンが空の時が一番危ないからな。
「集まれ、転移、王都イシュタル屋敷」
さすがに初見の部隊だと混乱していたようだったな。
「ノア様、やはり現在の完成度では三十人程度の小隊での運用が適切ですね」
「そうだな、最前線だと五人で六丁程度を持った方がいいだろう」
「そうですね、動作不良品は五十丁に一丁程度でしょうか」
夜の九時か。
「みんな寝る前の体操に行くぞ」
「お風呂に入った後に体操するの?」
「目標は一人百人だ、転移、ワイバーン連邦」
「ちょっと――――」
「いたぞ、撃て」
『パーンパーンパーン』
まだ五十人程度だが、この辺が潮時か。
「集まれ撤退するぞ…………転移、王都イシュタル屋敷」
「確かにノア様のおっしゃった正当な報酬という意味が理解できました」
「そうだろう、そもそも学生が十人以下で国相手にゲリラ活動するのが
おかしいんだよ」
「明日は朝から行くの?」
「いや、明日は休養日にしよう。買い物でもしてリフレッシュしてくれ」
「助かるわ」
毎日、人殺しをしていたら心を病むからな。
「それじゃ買い物に行ってくるわ」
「のんびりしてきてくれ」
やはり牡蠣フライは最高だな。夏場だから王都で売れないのが残念だ
そういえばシリウス商会の売上げはどの程度あるんだ
既にアルタイルに五十店舗以上は展開しているはずだけど。
その翌日からもワイバーン連邦の街をランダムに
日に二度のペースで襲った。
だいたい一人、五百人程度を射殺したか。
三週間後に敵の王都へ行くと、アルタイルの王国軍四万が王都を囲みながら
狙撃を繰り返していた。
「みなさん、ラウス共和国の方はどうなったんですか?」
「ノア君か、ラウス共和国はもう無いぞ。今は混成軍六万を警備に当てて
地方を制圧中だ。我々四万は先発部隊で明後日には更に八万が到着予定だ」
公式の場以外では、だいたい俺の呼び方はノア君が定着しているようだな。
負傷者も見たところいないし、連戦だっていうのにみんな笑顔だ
かなり一方的な戦いだったようだな。
「こちらの損害はどの程度だったんですか?」
「百人以下だな。ドラド王国との戦争の時に、この銃が配備されてれば
対等以上に戦えたんだが」
「ノア君達が暗躍してくれたお陰か、敵の疲労はかなり激しいし
敵は完全に防御に徹している
魔法兵の射程は精々百メートル程度だ。魔力障壁も意味がない
この街も一週間あれば落ちるだろう」
問題は銃を鹵獲されないように気をつけながら戦わないといけない事だ
誰でも扱える点が優れた点であり弱点でもある。
「隊長、ワイバーンに騎乗した竜騎士部隊がこちらへ来ます」
「よし、対物ライフル部隊に狙撃準備をさせろ」
うぁ、重そうなライフルだな。対物ライフルなんてあったのか
第一次大戦ではヨーロッパで戦車の装甲を撃ち抜いたと聞いた事があるけど
どの程度の威力なんだろうな?
一発ずつ弾を込めないといけないのか? でも威力は俺達の銃の三倍程度
の威力がありそうだ。
「隊長、ワイバーン一体を撃ち落とすのに二十発程度が必要な模様です」
「開発班に改良の余地ありと月光便で連絡しておけ」
しかし、対物ライフルという名前に自動小銃という名前は
どう考えても転生者の発想だよな。
知識チートで儲けてる転生者がいるのか? 少なくてもヘンドラーに
忠誠を誓った人間ではないようだな。
「ノア様、我々はどうしますか?」
「四万も兵がいるんだ、王都アレシアに帰ろう」
戦争中だっていうのに、王都は物資で溢れているな。
「さあ、今日届いたラウス地方産のアスパラだよ
一束銀貨一枚にオマケしておくよ」
もう新領土の野菜が流通を始めているのか?
「ノア様、ご帰還されていたんですか?」
「昨日もどってきた。商売の方はどうだ?」
「王都に出店中の四店舗だけでも一日の利益が星金貨六枚になります
さすがに物価が高いので利益も大きいです」
「売れ行きのいい商品は?」
「そうですね魚料理の売上げが一番ですが、アレス領から産出する
ガラスを使った器や服にノア様が考案された魔道具が売れていますね
ワイバーン連邦を制圧すれば北は海ですから、今度は北からも魚が
供給されて売上げは一時的に落ちそうですが」
そうんだよな、ワイバーン連邦はジュノー大陸の北東部に君臨する広い
領土と海を持った大国だ。
これを制圧出来れば、東部の貴族が独占してきた海産物を北部でも
魚が捕れるようになる。
ラウス共和国も海に面しているが山が多くて南に線路を敷設するのは
かなりの困難を極めるだろう。
そして次は西に向かって侵攻だ。
うかうかしてるとキグナス帝国と取り合いになってしまう。
「兄貴、キングダムが双子の子供の魔法兵に大敗したって噂が流れてます」
「ヤン、それは本当か?」
「わたしも聞いたよ。近衛兵が話していたから真実だと思いますよ」
「デニスも聞いていたのか。だとしても我が国は戦力の八割以上が
北に展開中だからな」
どう考えてもメディア絡みだよな、今度は双子か。
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