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第十三話:王女のお茶会


 無事に第七食堂研究部は快調な滑り出しをして、知名度も上がり

原価率も四割を切るところまで来た。そして一回の売上げは遂に

黒金貨二枚の大台を超えたが今日からサバイバルキャンプだ。


「なんでキャンプなんてするんですか?」

「人の上にたつものは自衛手段を持つべきという

ありがたい教えのせいですね」


「ニコ、食料は?」

「干し肉が二キロ、野菜が三キロで調味料は塩と各種ハーブのみです」

        

「僕達は問題無いけど、上級貴族だけの班とか大丈夫なのか?」

「自業自得でしょう」

   

「なんか、派閥が八つほどできてますね」

「王女派閥から、ルク、ロレ、イシュ、アッテ、ハイネ、ドナと中立派だな」

 

「しかし王女と二公爵家はわかるが、辺境伯の派閥まで意味があるのか?」

「そうですね、侯爵家の派閥がないので

多くの兵を抱えている家で派閥が構成されているようですね」    


「そういえば王女様って一年生なの?」

「はい、アイリス王女と言って、王妃殿下の実の娘で三女らしいです」

「あの、たまに見かける髪の毛がくりくりしてる女の子か」

   

「コンラート、くりくりって何ですか? 他人に聞かれたら一大事ですよ」

「すまん」

  

 だいぶ夜は涼しくなってきたな

他の班は見かけないし、俺達の班が優秀なのかな?



「どこの班も物資強奪に現れませんね」

「二泊だからな、肉が二キロあれば何とかなるだろう」

    

「それにうちにはヘカテーの申し子がいるって評判だし」

 

「ノア様、シチューが出来ました」

「微妙な色だな」

「牛乳の入ってないスープはシチューと呼べないだろう」

  

 キャベツのみじん切りが入ってるよ、それにタマネギは何故そのまま

入れてあるんだ? それに何故、肉をミンチにするんだ。

リリーナは部活でやらされたように調理したようだが

それならタマネギも切って欲しかったよ。 

   


「俺、昨日の夕食を食べて思ったんだけど、今日は

襲われる班が出ると思うぞ」

「それは同意見だな。野菜の皮むきもした事のない連中だと

ジャガイモもまともに食べられないだろう」


 山登りも荷物があると疲れるな、ヨハンがアイテムポーチを使うなって

言うから手持ちだからな。


 やっと五番目のチェックポイントに到着したか。


「はい、クレア班ですね。順位は八番です」

「七十班中八番ってかなり優秀」

「確か三位までに入るとボーナスで基準点以外に五十ポイントですよね」

「それはお得だな。ポイントは授業免除の他に金にも変えられるし」

  

「コンラート、単位修得試験の点数を買うことも出来るって

マニュアルに書いてあったぞ」

      

「それじゃ、絶対上位入賞を目指さないとな」


 転移魔法を使うヤツが出るんじゃないか? そうなると上位は厳しいか

名誉の問題としてクラスの上位に入れれば十分だけど。


「あと三カ所回って規定時間の明日の十二時から一時の間に

戻れば終了だ」


「そう簡単には終わらないと思うわ」

「なんでだ?」

「考えてみなさいよ? 終了時間とゴールが決まっているのよ

私だったら終了地点で待ち伏せしてチェックシートを強奪して上位を目指すわ」        

「そうだな、殺さなければ何でもありって言ってたからな」

「でも何カ所かで視線を感じたから内申点には別の評価がつくと思うけどね」

          

「とりあえず王道で行こう、邪魔が入ったら相手が公爵家でも手は抜かないぞ」

「「「りょうかい」」」


  

 なんとか終わってゴール地点が見える所まで来たが

百人以上の生徒がテントを張って待ち受けてる。


「どうする?」

「第八ポイントでの順位は四位よね」

「つまり俺達より前に三班いたことになるな」


「くそ、最高でも四位か」

「そういえば、シャルは魔法は?」

「そうね戦争で活躍出来るレベルだと思うわよ」

        

「それじゃ残り五十分だし僕が風の障壁を作るから

他のみんなは魔力障壁を張ってくれ」

  

「わかった」


 上級貴族の子弟はどの程度の力があるのかな?


 囲まれちゃったじゃん、普通のやつじゃ俺の結界は通り抜けられないと

思うけどね。


「貴様ら、スタンプカードを置いていけ」

「無視するわよ」


「お前ら、【ファイアーアロー】」

「【ウィンドアロー】」

 こいつら手加減無しだよ。どれだけ焦ってるんだか。


        

「ゴール!」


「おめでとう、クレア班が一位ですよ」

「他の班はどうしたんです?」


「後ろを見て下さい」

「うぁ、乱戦じゃないか」

「醜いですね」

    

  

「入賞した班は集まって」


「それではクレア班は一位だからそれぞれ百ポイントと

ボーナスで五十ポイントね。一部を譲渡する事も可能だけど」

  

「コンラートにボーナスポイントを譲渡します」

「おぉ、心の友だったんだな」

「私もボーナスポイントはコンラートに譲渡するわ」

   

「わたしは……」

「シャルは自分で取っておけよ。僕達は同室だからな」

「ありがとう」


「おぉ、これで合計三百五十ポイントだ

苦手な六教科に五十ポイントずつ振ってもまだ余る」

     

「コンラート、単位修得試験の点数に割り振る時はポイントの半分だから

五十ポイント振ると二十五点加算だぞ」


「ちょっと残念だけど、六十五点取れた時に振ってもいいんだよな?」

「マニュアルにはテストにポイントを振るときは試験終了時に申告とある」

「つまり自己採点して結果が良かったらポイントを振るのか?」


     

「そんな事より寮に戻って休憩にしましょう」

 

「そんな事…………どうせ、そんな事だよ」

「それじゃシャル、リリーナ、また来週」


「コンラート、いじけるなよ。そんなに悪気はないと思うぞ

女子が三日も風呂に入れなかったんだ。気にするな」   



 ふぅ、さっぱりするな。やはり住む場所は変わっても風呂はいいよな

どうしたんだヨハンのやつは黙ったまんまだな。


「ヨハン、心配事か?」

「いえ、ノア様、金貨の事を考えていました」

「あぁ。僕も見たよ。星金貨を渡してスタンプカードを

買い取っている奴がいたな」

     

「コンラートの件がなければ売っても良かったんだけどな」

「いえ、あのような不正に手を染めては将来的にマイナスです」

  

「そうですよ、貴族とは言え誰しも裕福とは限りませんし

苦労を知らない人間が当主になったら親が死んだ後は没落するでしょうね」 

 伯爵家のシャルでも仕送りが黒金貨二枚だもんな

騎士爵や男爵家だと大変だろうな。俺は商売もやってるけど。


  

「風呂上がりはやはり牛乳だな」

「ノア様、アイテムポーチを使うのは……」


「そうだぞ、もうサバイバルは終わったんだから遠慮する必要はないのさ」

 

「ノア様、来週末のダンスパーティはどうされますか?」

「欠席だな」


「理由を聞いてもよろしいですか?」

「たしかあの大ホールなら並べば千人以上入るだろう

しかしダンスするスペースと食べ物や飲み物を置くテーブルを考えると

踊れるのは精々二百組程度だろう」


「なるほど、全生徒対象でしたね。新入生は自粛しろという訳ですか」

「そこまでは言わないけど、婚約者がいる人間には必要ないイベントだろう」


 ヨハンは二枚目だから問題ないけど、コンラートとニコラウスは

結婚相手はどうするんだろうな?


 武術が得意な男性が好きっていう変わり者もいるだろう。


  

 領地に戻って街道整備するだけで週末は終わってしまったな

九歳にして仕事人間というのは不味いな。

 でもクレアの街は完成したし治水工事もほとんど終了した

あとは市場規模の拡大なんだが、誘致すると言ってもな。


 

「ノア様、アイリス王女から明日の午後のお茶会への招待状が来ております」

「僕はアイリス王女と会話すらしたことがないぞ」


「きっとアレク様関連で呼ばれたのでは」

「行かないと角が立つな」


               

 さすがは王女の護衛というだけはあるな、あの紋章は近衛兵か

我が儘お嬢様だったら困るんだけどな。


「お茶会への参加でしょうか? 招待状を拝見します」


「ノア・クレア男爵ですね。聞いております。中へどうぞ」


「やあノア、こうやってゆっくり会うのも久しぶりだね」

「アレク兄さん、お久しぶりです」

        

 王女様は最後に登場予定か。


 男は兄さんと公爵のところのボンボンが二名だけか。


「ノアと言ったか。アイリス様にちょっかいだしたらタダでは済まさんぞ」

「僕にはもう決まった婚約者がいますのでご忠告無用です」

 こいつらに『もう結婚が決まってるんだから馬鹿が俺に話しかけるな』と

いう事が理解出来るといいんだが。


     

「みなさま、アイリスのお茶会へ参加頂きありがとうございます」


「アイリス様、今日も素敵ですわ」

「本当にかわいらしいです」

「アイリス様、今日も素敵です」

 

 おい馬鹿息子、人の会話をそのまま繰り返すなよ、お前はオウムか

そうか、ここにいるのは王女派と言われる人間か。


「クレア男爵、初めまして。第三王女のアイリスと申します」

「こちらこそご挨拶が遅れました。イシュタル辺境伯次男のノアと申します」


「まあアレク兄様によく似ていらっしゃる」

 アレク兄様だと、ノーラ姉さんとは王子はそんなに進展してるのか?

 これは会って確認しておくべきかな。


「ノア君、君がチェスを考案したんだよな、私と一局どうだ

考案者だ、負ける事などあり得まい」

          

「おっしゃっている事が矛盾だらけですよ。今の言葉を言い換えれば

屈強な近衛兵も優秀な指揮官には勝てないという事になりますよ」


「なまいきな口を利きおって。わたしはゴッドフリート・ルクセンブルクだぞ」

「この学園に通っている生徒ならルクセンブルク公爵様のご子息の名前を

知らない人間はいませんよ」


「そうか」


「僕はラインハルトと言うんだ。よろしくね」

「はい、よろしくおねがいします」

 ロレーヌ公爵のご子息は温厚そうだな、俺がイシュタル家の人間だからかも

知れないが、馬鹿が二人だったら大変だ。

        

「ノア様は週末のダンスパーティは誰と踊るのですか?」

「僕には陛下の決めた婚約相手が既にいるので

会場の広さを考慮すると参加を取りやめる事にしました」


「相手は誰ですの?」

「新入生総代のリリーナ・オーブ様ですが」

     

「(……あのチビですか)」

 おいおい聞こえてるぞ、確かにリリーナは身長でいうと俺より頭一つ低いが。


 ここはちょっと本心を探ってみるか?

 

「アレク兄さんはどうされるんですか?」

「まだ決まっていないよ」


「それでは、ぜひわたくしと」

「いえ、わたくしと」


「兄様の最初のパートナーは、このアイリスが務めますわ」

 そうきたか、確か第二王女がアレク兄さんと同じ年だったはずだけど。

 アイリスも見た目は美少女なんだけど、兄さんは大きな胸の女性が好みの

ようだからちょっと残念かな、でもそこは王家補正で多少は賄えるが。


「そういえば、三年生には第二王女がいらっしゃいませんでしたか?」

「父の娘のエリザベスは病気がちなので自室で休んでいますわ」


 お姉様じゃなくて、エリザベスと呼ぶのか

それに父の娘って言われなくても間違う人間はいないだろう。

          

「兄さんはエリザベス様とはお知り合いですか?」

「あああ、も、もちろん、ほんのちょっとだけね」


 わかりやすいな、アレックス先生が兄さんには想い人がいるというのは

本当だったんだな。


「兄さん、お願いがあるのですが?」

「なんだい?」

「僕とリリーナをエリザベス様に会わせてくれるよう

お願いできないでしょうか?」

 本来ならアイリスにお願いする所だが、仲がそれほどよくなさそうだし

こんな事で借りを作りたくない。ラインハルトに恩も売れるしな。


 一石三鳥だな。

「うん、一応聞いておくよ」

「ありがとうございます」


 結局、アイリスが不機嫌になったのが原因でお茶会はお開きだ

ラインハルトが数回に渡ってゴットフリートと俺の仲を取り持とうと

フォローしていたがアイリス殿下の機嫌が直ることはなかった。 

 

 ラインハルト君はあまり気を遣うと禿げてしまうぞ。


  


お読み頂きありがとうございます。


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