第十二話:第七食堂研究部発足
どうなのかな? おかしくないよね。
「イシュタル家の名前を使うのはダメね。それと研究を中心に目的を明確に
するなら顧問の件を引き受けてもいいわ」
「そうすると、アルタイル研究会……」
「そういう名前の組織は既にあると思います」
「若様、お肉研究会というのは」
「クレアの会は」
「もう、あなた方は発想が貧困よ。第七食堂研究部で
いいんじゃないの」
「何故、第七なんですか?」
「それは各部隊でも、兵站部隊は第七部隊が行うのが一般的だからじゃ
ないかな」
「そうなんだ」
「悪くないな」
「それで問題ないわね。それじゃ第五キッチンを貸してあげるから
そこで料理を作って、それを学生指導委員会へ提出して半数以上の賛成が
あれば活動を認められるわ」
「サリバン先生、指導マニュアルには顧問がいれば書類審査だけで
通るとありますが」
「あなた方、ここは貴族の子弟の通う王立学院で料理を出そうというんだから
どうしても実績が必要なのよ。提供する相手は毒味役を抱える貴族なのよ」
「わかりました。やってみます」
「それじゃ材料はあるという話だったし、料理を三点提供して頂戴
料理は三十人前で試験日は明日の午後四時でどうかしら?」
「それで結構です」
先生の相手は疲れるな、第七食堂研究部か悪くないな
王都で出店中のシリウス商会の新メニューをここで確立するか。
そして翌日のお昼過ぎにタマコの使えなさにビックリだ。
「リリーナ、料理をした事がないだと。コンラートですら簡単な
炒め物料理なら作れるんだぞ」
「そういえば、マーチさんはどうですか?」
「シャルでいいわ。一通りは作れるわ」
「そうなると今日は五人か。目玉焼きハンバーグと濃厚クラムチャウダーに
ヒラメのパイ包みにしよう」
「それはなに?」
「牛肉と豚肉を一旦細かく切った後に練り合わせて焼いた物をハンバーグ
アサリを混ぜたミルク味のスープがクラムチャウダーで
ヒラメをパイで包んでパイと一緒に身を食べるのがパイ包み焼きです」
「ノア様、全てクレアで作った事があるので大丈夫です」
「豚肉も混ぜれるから安くなりますね」
「それじゃリリーナはタマネギの皮むきと野菜の水洗い、シャルは
クラムチャウダー作りでコンラートはヒラメの下処理で
ニコはタマネギのみじん切りと野菜のカットを任せる
残りを僕とヨハンでやろう」
「「「「「はい」」」」」
「ノア様、タマネギは何個使うんですか?」
「中タマネギだから五個と他の料理用に三個追加だ」
バターを加えてからホイップする作業が面倒だな
店で出すなら焦げないように焼き専門の料理人が必要だな。
「もう三時半を過ぎました」
「こっちもあとはオーブンで焼くだけだ」
「ハンバーグもあとは焼くだけです」
「スープが出来たわ。味見して」
「まーじゃなかった、シャル、良いセンスしてるよ。美味しいよ」
後は目玉焼きを焼いて上に乗せて出来上がりだ。
「ハンバーグも二十個焼くとなるとオーブンの方が上手く出来ましたね」
「みんなお皿に盛り付けて、残り八分よ」
うゎ、三時五十八分かぎりぎりだな。
「おまたせしました」
「すぐに列べますね」
「みなさんぎりぎりですよ」
「すいません、今回の料理は冷めると美味しくない物ばかりなので」
なんで大人が十五人もいるんだ。
「では頂こうかな」
「会長、毒味をしてから……」
「ノアは僕の弟だよ。そんな必要はないよ」
「美味しいかも」
「ほんとだ食べた事のない味付けね」
「柔らかい肉ね」
「学院のランチよりいけますな」
評価は味なのか、独創性なのかな?
「クレア君、今回の材料費と調理時間は判るかな?」
「材料費はシリウス商会での購入金額を参考にするとヒラメを除いて
金貨一枚程度で、ヒラメは三匹で金貨二枚で
調理時間は一時間半程度です」
「それならヒラメを出さなければ銀貨五枚で提供しても採算が取れるな」
「よし、来週からここで週に二日ランチを提供してくれ
最初は百人分、量はランチと同程度で品数は五品までで価格は銀貨五枚以下」
「みんなはどう?」
「やるわ」
「俺も」
「わたしも」
「では火曜と金曜のランチを提供する事でよろしいでしょうか?」
「それで構わないよ。第一食堂は余裕があるんだけど
第二食堂がキャパを既にオーバーしていたんだよ」
「それでは終了だ。名前は第七食堂としよう」
なんとか上手くいったか、確かに毎日戦争だからな
第三食堂がオープンしなかったのが不思議な位だよ。
◇
「結局、先週は部員が一人も来なかったわね」
「まだ知名度はゼロに等しいですし学院の八割は貴族ですから」
「それよりノア、試験はどうだった?」
「全問正解間違いなしだな」
「わたしも九十点は取る自信があります」
「俺は良くて八十点だな。それも半分程度だけだ」
「三回連続で八十点取れれば先生の判断で単位修得は可能よ」
「シャル、真面目に全教科の授業に出てる生徒はどのくらいいるんだ?」
「真面目かそうでないかは別にして。全てとなると全体の三割程度ね
一年生だけで見ると八割以上だけど、二年生以上は基本的に二限目から
三年生は午後の選択科目だけよ」
「みんな無理にとは言わないけど、火曜と金曜は三限目の授業に出なくても
済むように受講する科目を選んでくれよ」
「わかった」
さて、五千アルで売るとなると通常なら原価は二千アル程度だが
シリウス商会なら卸値で買える
ここは王都で王都の物価と味を考慮すると原価率六割として銀貨三枚
それで五品か。
俺の材料はクレア価格だから更に半分で
オリオンでの仕入れ値も銀貨二枚といったところか。
「ヒラメはクレアの市場で売ってるカレイにするんだよな」
「そうだね、王都で売っているヒラメなんて出したら赤字間違いなしだ」
「そのマジックポーチって便利そうね」
「俺達、臣下の証だからな」
シャルやリリーナに作ってあげても良いんだけどね。女の子に
高級な魔道具をプレゼントするのは変な意味に取られそうなんだよね。
「今日のランチの三点は前回と同じ。だけど使う魚は安物のカレイに変更
残りはお好み焼きとチーズバーガーで行く」
「お好み焼きというのが不明だけどお任せするわ」
「ノア様、わたしは何をすればいいですか?」
「野菜の水洗いとあとはひたすら野菜を切る練習からだな
今月中に目玉焼き程度を焼けなければ給金は出ないぞ」
「あれ若様、給金が出るんですか?」
「当たり前だろう。材料の調達を僕がしているとはいえ
調理に一時間に配膳と後片付けに三十分以上かかるんだ
そうだな、一回で一人につき小金貨一枚出すか」
食中毒をだしたら退学だ、ちょっと給金が高いが貴族なら仕方ないな。
「それで僕達はただで食べれるんですよね」
「問題無いぞ」
「毎月小金貨八枚も節約出来るな」
「ランチ代を考えれば十四枚は節約ですね」
「それなら仕送りが月に黒金貨二枚だから私も助かるわ」
「(リリーナ、仕送りはいくらだ)」
「(星金貨二枚です)」
「痛っ、酷いです」
「なんか殴りたくなった」
「しかし、よくよく考えてみると三食食べると月に食費だけで
黒金貨一枚と金貨四枚もかかるんですね」
「そうだな、領内にいたら給料全てをつぎ込んでも赤字だな」
「三年間の学費だけでも星金貨で二十枚よ。夕食を取らない学生も多いわ」
「なんか世知辛いですね」
夏休みが二ヶ月に冬休みが一ヶ月あるとはいえ
貴族っていうのは何で見栄を張るのかな?
「それなら銀貨三枚で提供出来る料理に変更した方がいいか?」
「出来るの?」
「可能だぞ」
「それなら、その案で行きましょう」
シャルは随分と乗り気だな、そうなると給金も見直したいが
部長としては一度口にした事を撤回出来ないな。
「白身魚はティラピアに変更するぞ」
「ノア様、ティラピアの在庫は少ないですが」
「今度、クレアに買い出しに行くよ」
俺達四人は俺の作った容量二百キロ、時間停止機能付きの
マジックポーチを持ってるから材料管理はお手の物だ。
俺、俺は容量不明のランドセル型の次元倉庫を持ってるよ。
何故、ランドセルタイプかというとまだ子供だから。
『コネコネ』、『ドンドン』
「リリーナ泣くな。まだタマネギを六個しか
みじん切りに出来てないじゃないか」
「せめてスープを任せられるようになったら
野菜を切るのも分担出来るのだけど」
「がんばるの」
クラムチャウダーはスープ扱いだから、実質は四品で売れきったとしても
四百食で金貨十二枚か、どうしても原価率が五割は超えるから利益は
金貨六枚以下になるな。
「ジュヮ――」
「トントントン」
「出来ましたね」
「これでお客が来なかったら、金貨六枚は損をしますね」
初日だから半分売れれば上々だろう。
俺的にはこのチーズバーガーは力作だが、まず見かけないからな。
「お好み焼きというのは美味しいですね」
「鰹節とマヨネーズをつかってるからな」
「材料は?」
「それはクレア家の秘伝レシピだから言えないな」
ジュノー大陸では食文化が日本の明治時代と良い勝負なんだよな
大量の油で揚げるという発想がないし、調味料もソース作りからが基本だ
そして和食や中華料理系統の料理が全くない。
「若、料理のイラストが描けました」
「ニコ、それに営業日と値段を記入して表に貼りだしてくれ」
「わかりました」
「何が一番売れるかな?」
「見た目としてはチーズバーガーですが、今朝は肉料理だけでしたから
パイ包みもいい線いくのでは」
「えっと、チーズバーガー六個とスープ入りました」
「食券をボックスに投入すると、このアルミ板のような物に表示されるのか?」
「なんかハイテクです」
「よし料理を出すのはコンラートとリリーナに任せる。僕たちは盛り付けだ」
「えっと、お好み焼き三個とスープです」
ふぅ、目まぐるしかったな、もう材料ないじゃん
まさか売り切れるとはな、やはり値段が安かったからか。
お読み頂きありがとうございます。