第百二十七話:小学生の給料は二千万
三月に入って軒並み小麦の値段が二割も上昇したので小売店は四割の
値上げに踏切り食堂でも三割以上の値上げに踏み切る中、グラン亭は
単価は高めだが価格据え置きで、大盛りご飯が食べれるという事で大盛況だ。
「カツ丼特盛り、十二人前」
「こっちは豚丼特盛りを八人前だ」
「私達は鉄火丼の大盛りを六人前ね」
「俺達は天ぷらうどんのメガ盛り八人前よろしく」
「あさりピザをキングサイズで四枚ね」
「俺達は鶏丼のギガ盛りを四人前頼むぜ」
凄い売れ行きだな。一般人がメガ盛りを注文するとは予想外だ。
「ルーカス様、一店舗の利用客は一日九百名を超えています。売上げも
一店舗で平均金貨五枚ですよ。経費を差し引いても利益は金貨三枚です。
丼物を中心に揃えたのが回転率を上げる要因になりました」
「二十店舗で月に海金貨十八枚の儲けか。凄いじゃないか」
「普通のご飯で八百グラムでそこから二百グラムずつ多くする中盛り
次が大盛り、特盛り、メガ盛り、ギガ盛りの六種類ですが、ご飯少なめの
小盛りを注文した客は全店舗でも僅か八人だけだったそうです」
「ご飯千八百グラムか、僕は昼ご飯を抜いても無理だね」
「しかし、月に三百トンの米が無くなるのかと思うと怖いですよ」
「小麦料理を一日五十食限定にしたのは正解だったね」
「街では小麦が五キロで銀貨一枚と大銅貨二枚にまで上がってますよ。
事前に仕入れてなかったら小麦を使った料理は出せませんでした」
「喜んで貰って儲けられるなら
プロキオン商会の名前も売れるという物だよ」
「どんどん店を増やしますか?」
「少し増やすだけにしておこう。内密だけどね今年の夏に小麦の価格が
超高騰して米の価格も高騰するんだ。特に小麦は収穫する前に農家で
買いまくるよ。そして九月中にアレスの各地で売りさばく予定だよ」
「そんなに価格が上がるなら今から規制しておいては如何ですか?」
「今は商会の知名度を上げるチャンスだからね」
「超高騰というと農業連合が絡んでいるという事ですよね」
「ルイは頭の回転が早いね。父さん達は農業連合を解体するつもりだ
十一月まで必要以上の穀物を持っていたら逆に大損だよ」
「陛下が農業連合と対立するんですね。今の内に小麦農家を回っておきます」
「よろしく頼むよ」
父さんが予定通りお金を貸してくれると有り難いんだけどな。
クレアの交渉次第だよな。
学生諸君は教師が不在だと目つきが悪いな。
「ルーカス、食堂を経営しているそうだな?」
「そうだよ」
「国王の息子が食堂経営なんてやってって良いのか?」
「余計なお世話だよ」
「貴様、年下のくせに生意気だぞ」
「ご希望なら決闘でもするかい。僕の魔力量は半端じゃないよ」
「みんな行こうぜ」
「ほんと生意気なガキだ」
困ったもんだ、こういう馬鹿が学院に在籍していると思うと気が重いよ。
我が学院にはイジメなんていう言葉はない。敵意を示せば
決闘で勝負を決めるのがアレス王国の規則だからな。
「若君、また絡まれていたようですね」
「ミカエルの留学生には困ったもんだよ」
「貴族の子弟というのはああいうものなのでしょう」
「あれで十二才というんだからミカエル王国も先は長くないわね」
「ミリア、今日は僕たちは掃除当番じゃないよ」
「さっき先生に秋から新設される商業大学院に
進学する気があるか聞かれたのよ」
「商務省が提案した大学院だよね」
「うちのお爺ちゃんも商会の経営でのし上がった人間だからね」
商業大学院は裏でシリウスとアレスの二大コンツエルンが援助している
ようだから、成績が良ければ将来は明るそうだな。
「俺も聞いたぜ、厚生省の大学院よりレベルが高いらしいな」
「商業の基礎を徹底的にたたき込む学院ですか」
「ニコの家は農務一筋なんじゃないのか?」
「今や経営の才能の無い農家は淘汰される時代ですよ
学歴だけの大学院より面白いかも知れません」
「俺も技術大学院や経済大学院に入学する学力はないからな」
「みんなで商業大学院に行ってみない?」
ミリアは親と同じで挑戦者だな。
「ランチを食べに行くのとは違うんだよ」
「でも大学院は入学金が一律で海金貨一枚だけど商業大学院は
黒金貨四枚よ。それに入学試験で上位二割に入れれば入学金が
黒金貨一枚で授業料が黒金貨四枚なんですって」
「多分だが俺は入学金も授業料も黒金貨四枚払う事になるな」
「それでも黒金貨二枚分安いよ」
ヤンが上位二割に入れるなら授業内容も高が知れているだろう
僕も政務は当分先の話だし商会の勉強にもなるな。
「一日に授業は何時間なんだ?」
「それがね、授業は週に二日の十時間だけで
残りの三日は実際に商売をやりながら学ぶんだって」
「ミリア、つまり生徒は実際に商会を立ち上げて経営をするって事?」
「先生はそう言ってたわ」
「商務省も考えたね。それならたいした授業料も掛からないじゃないか」
「新設校だから就職先の斡旋もあまりないだろうね」
「国の職員を目指す人間の進学はあまりないだろうね」
「僕は進学してみてもいいと思う」
「王太子殿下が行かれるなら箔が付くというものですね」
「僕も行ってみようかな」
「俺も行ってみるか」
「わたしもあちこちに声を掛けてみるわ」
この程度の変化なら歴史が狂うことはないだろう。
そして四月になったので少々小麦を放出だ。
「ルーカス、小麦を百五十万トンも売っちゃって良かったの?」
「小麦の価格は五キロで銀貨三枚まで上がっているからね
グラン亭で使う分と職員の食べる分を除いて売ったんだよ」
まだまだ余分に一千万トンはある。
「各商会が売り渋る中で大量に売り出した
プロキオン商会の名声はうなぎ登りですよ」
「そうですね小麦十キロを銀貨四枚で売りましたから住民が
こぞって買っていきました。それでも海金貨六万枚ですよ」
「九月には通常価格の五十倍程度まで上がる予定だよ」
「そうすると五キロで小金貨四枚以上ですね」
「既に二千件以上の小麦農家と仮契約を結ぶ段階まで来ています
買い取り金額が一トンで通常の二倍の十二万アルです」
「ルイ、何トンくらい手に入る見込みなの?」
「フラン、まだ仮契約だよ。だけど八百五十万トンは手に入るかな」
「海金貨が五万一千枚もあるの?」
「今のプロキオングループの運転資金は海金貨十万枚で三月の利益が
海金貨で十九枚で今月の予想が二十四枚だよ。先月の固定資産税は
痛かったけど来月末で天然ガス事業につぎ込んでいる。投資額も一割に
減るからギリギリだね」
「俺からも言わせて貰えば五月の上旬にはLNGタンクが四十基完成するぞ
それに中旬には第一便のLNG輸送船がルミエールの受け入れ工房に
運ばれて売れるぞ」
「今、電力事業に参加している商会は二百以上あるわよ」
「天然ガス事業はシリウス、フリーダム、クレアの三大財閥の独占市場だ
そこに殴り込みをかけるんだ。坊っちゃんみたいに親に力がある人間以外は
参入できないから旨みは十分に見込めるぞ」
「先月末の原油百リットルの相場が銀貨四枚よね
そうすると小金貨一枚以上で売りたいわね」
「LNGの国の買い上げ価格は一トンで銀貨二枚だぞ」
「それじゃ大損じゃない。原油を輸送した方がいいんじゃないの?」
「大資本の独占状態のLNGは一トンで銀貨八枚だが
うちの輸送船は八万トン積み見込めるからな
国の価格で売っても海金貨十六枚になる」
「大損ね。LNG事業に既に海金貨十万枚以上を投資しているのよ」
「そこは国も考えているんだよ」
「ルイ、勿体付けずに白状しなさいよ」
「国は天然ガスのLNG以外は国営だって知ってるよね
そこでLNGを国の指定する金額で売った商会には上限を海金貨十万枚に
限定して売った金額と同等の金額まで税を免除してくれるんだよ」
「つまりグラン亭で幾ら売っても十一月に税金は取られないのね」
「簡単に言うとそうなるね」
「このままいけば最低でも二等級の四割は持って行かれると思ったのに」
「LNG船は既に八隻ある。経費を考えなければ
月に六往復で海金貨で七百六十八枚にはなるな」
「三大グループが独占している理由が分かったわ」
「グラン亭も来年には全国で五百店舗を目指しましょう」
「それも農業連合の動向次第ですね」
「あたい思うんだけど。本当に小麦を買い占めるの?」
「俺達は農業連合の幹部じゃないらな。神のみぞ知るってやつだろう」
さすがに戦争が起こるとは言えないからな
夢を語るのは自由だしタダだ。
今日の先生の授業は当たりだったな。サカエ言語の応用は面白い。
「兄貴、俺には最後の授業が理解出来ませんでしたよ」
「ヤン、商業大学院の上位二割に入るんだろう」
「若様、僕も半分くらいしか分かりませんでした」
「ヤン、商業大学院の入試は初年度という事で第一次試験が七月だぞ」
「デニス兄さん、俺は商会で多少は利益があるから黒金貨四枚払うさ」
「コンラート、商業大学院に行くなら
今の内に商会を設立しておいたいいんじゃないか?」
「そうなんですが、業種を記入する所があるじゃないですか
それをどうするか迷ってるんですよ」
「俺は食品販売で審査に通ったぞ」
「僕はエネルギー事業で通したぞ」
「安全に輸送業務として審査を受けてみます」
「わたしは何にするかな?」
「デニスだと技術開発当たりが安全じゃないのか?」
「ここは機械製造で審査を受けてみますよ」
「工房への部品供給は難しいぞ」
「最初は日用品の製造から初めてみます」
メグにも何か考えてやらないといけないな。
みんな帰りが早いな。僕が遅いのか。
「ただいま」
「ルーカス様、おかえりなさい」
「ノン、みんなは?」
「第二シアターで映画を見ていらっしゃいます」
「そうなんだ」
今は僕の子供じゃなくて兄弟だけど弛んでいるな。
「兄さん、帰っていたんですね」
「クレア、ソフィー、余裕だね」
「大学院の試験なんて余裕よ」
「学院の試験なんて余裕ですよ」
「「私達も学院なんて余裕なの」」
「そうか、アリア達もソフィーと同学年になるんだね」
「わたしは一年で単位を取って卒業するわよ」
「クレア、僕は商業大学院に進学する事にしたよ」
「兄さん、あの話題の新設校に進学するのね」
「商務のぼったくり大学院という噂よ」
「友達で技術大学院に行けるレベルの人間は半分もいないからね」
「なんだルーカスは本格的に金儲けをするのか?」
「お父様、今年は飛躍の年ですよ」
「確かにな」
「今日はシチューで我慢してね」
「買い物を忘れたのか?」
「ノン達が二階のショッピングセンターに買い物に行ったら
電力不足で冷蔵庫の中身が全滅していたそうよ」
「お父様、電力不足は深刻ね」
「クレア、そうは言うがな。燃料の確保が大変なんだ」
「「たいへんなの」」
「そう、たいへん」
この妹に月に二千万アルも渡していたとは。かなり綱渡りだったんだな。
「アリアとクラウスとマキもご飯にしましょうね」
「ケイト達は?」
「マミとエミが見ていてくれてますよ」
「お母様、お肉が入ってないよ」
「ごめんなさいね。うちの冷蔵庫も止まってしまったのよ」
野菜のみのシチューというのも久しぶりだな
炊飯器も止まったからパンなんだな。
父さんがエネルギー事業に興味を持ってくれるのはいい事だ。
お読み頂きありがとうございます。




