第百二十三話:息子と入れ替わり
あれ、ここはどこだ。
確か荷電粒子砲を撃ったんだよな。
あれあれ、ベッドの前に居るのは俺じゃないか?
「ルーカス、心配したぞ。一ヶ月以上意識がなかったんだぞ」
「本当に良かったわ。もうダメだと思ったわ」
「今日はいつですか?」
「何を言っている。アレス歴十年の一月一日に決まってるじゃないか」
「あなた、一ヶ月以上も意識がなかったのよ。混乱していて当たり前よ」
「そうだったな。お婆さまも喜ぶだろう」
どうなってるんだ! 俺がルーカスだと?
俺の最後の記憶はアレス歴なら十一年の十一月だぞ。
「お母様、鏡はお持ちですか?」
「またお母様と呼んでくれるのね。持っているわよ」
マジですか。俺ってルーカスのそっくりさんに再び転生したのか?
両手に腕輪は装着されたままなんだな。
「お父様、僕のように意識がなくなっていた人間に心当たりはありませんか?」
「そうだな、……ヒルダの娘さんのマーガレット嬢が
同じ日に倒れたと聞いているぞ」
転生者がいるのか?
まずは気持ちの整理だよな。今度は赤ちゃんではない。
「少し休んで良いでしょうか?」
「悪かったな、父さんは政務があるから出かけるよ」
「母さんもルーカスの好きなお魚を調理してきますね」
二人とも出て行ったか。
それで俺って本当にルーカスなのか?
この顔はルーカスだよな。
政務があるという事は国の要職に就いているんだろう。
やっぱり国王なんだろうか?
日記があるぞ、最後に日付はアレス歴の九年の十一月十五日か。
『酷い目眩がする。もう僕の命が尽きようとしているかのようだ
メグとの約束も守れそうにない。僕は父さんの跡を継ぎたかった
合い言葉は『牡蠣フライは最高だったよ。それもレモン汁が最高だ』
よく分からん日記だが、これ以降に書かれた形跡はないな。
ルーカスもよく牡蠣フライを食べていたんだな。
「ルーカス、ご飯が出来たわよ」
さて、どうするか? マーガレット嬢っていうのはヒルダの娘だよな。
「ルーカス、しっかりしなさい」
「わ、いや、僕の事ですね」
「当たり前じゃない、何度も呼んだのよ」
「すいません、今日のおかずは何ですか?」
「牡蠣フライに赤マグロのお刺身にちょっと季節は外れているけど松茸と
ホタテのバター焼きとあさりのお味噌汁とお新香にご飯よ」
俺の好きな物が揃っている感じだな。
「「お兄ちゃん、遅いよ」」
「ごめん」
「お兄様、遅いですわ」
「本当です、お腹が減ってるんですよ」
「みんなごめんね」
アリアにクラウスとクレアとソフィーで反対側にマキ、ケイト
あれ、クラリスとディアナとトレーシがいないぞ。
そうか、十年の一月というと俺は二十四才でトレーシが産まれるのは
来年の三月になるのか。
それでクラリスとディアナはリリーナのお腹の中で待機中か。
待てよ、本当に生まれるのか?
まだ一年以上先だぞ、今、妊娠九ヶ月目なんだからな
トレーシーは運次第という事か。妊娠するのも今年の四月頃か。
「どうしたの、ルーカス、牡蠣フライが冷めるわよ」
「すぐ食べるよ……美味しいね」
「お兄様、何か変!」
「ソフィー、何でもないぞ」
何て感の良い奴なんだ。
リリーナがトレーシを妊娠するまでは変な行動は慎まないとな。
しかし、もうリリーナとエッチな事は出来ないのか
そんな些細な事はどうでもいい。まずは図書館だな。
「ご馳走様でした」
クラウスが九才の時って何してたっけ?
一年と十ヶ月前だから経済大学院に入学を切り出す少し前か
知識と記憶はあるな。問題は学力の低下だよな。
「この問題は分かる」
それなりには出来る子だったんだな
さすが俺の遺伝子を受け継いでいるだけあるな。
そうすると俺の親が俺? 鶏が先か、卵が先か状態なのか。
とりあえず一日寝れば、元に戻る可能性もあるな。
朝か、そうか、一人で寝ていたんだな。
「手が小さいままだ」
俺ってルーカスのままなのか。
経済大学院なんて行きたくないぞ
一日に十五時間も勉強なんて出来る訳がない。
とにかく、学院に行こう。
子供ってこの程度歩くだけで疲れるのか。
「兄貴、久しぶりです」
「質問だ。お前の父親の出身地は?」
「何だよいきなり。アルタイル王国に決まってるだろう」
ルーカスの友達で同年代でアルタイル出身者だと。ヒルダの息子か?
いや、兄貴って呼んでたな。
「質問その二だ。父親の役職は?」
「一ヶ月も意識がなかったって本当だったんだな
情報局長官に決まってるだろう」
「お前、まさか、ヤンなのか?」
「何だ記憶はあるのか?」
待て待て待て、何でヤンの息子がヤンなんだ。
「母君のお名前はリンダさんか?」
「気持ち悪いしゃべり方するなよ。違ったら大変だろう」
ヤンとリンダさんの息子で名前がヤンね。
神様が俺の都合がどうとか、望みを叶えるとか言ってたな。
こいつはヤン・Jrという訳か?
「本名をフルネームで言ってみてくれないか?」
「いいぞ、ヤン・フィフス・アンダーソンだぞ」
「デニスの名前は?」
「デニス・フォース・アンダーソンに決まってるだろう。お前大丈夫か?」
数字を組み込んで子供の名前を区別しているのか。
いや、それだとデニスもヤン・フォースになるはずだ
その辺りは神様効果で運命の強い人間の名前は保留といった感じなんだろうか?
「若様、お久しぶりです」
「コンラート、久しぶりだな」
「昨日の宿題をみせて貰って良いですか?」
「ごめん、コンラート、僕は意識がなかったんだよ」
「そうだったね」
コンラートで間違いないのか。何故九才の俺の事を若様と呼ぶのか疑問だが
王太子なら珍しくないのか?
退屈な授業だった。ルーカスが中退して経済大学院に
進学した気持ちが分かるな。
でもあそこへの進学はヤンとコンラートには無理だよな。
そもそも宿題をやってこない段階で親と同じ程度と思った方がいいだろう。
「ルーカス君ですよね?」
「君、誰?」
「マーガレットですよ」
「ヒルダさんの娘さんだね」
「サイトウっていう名前を知ってますか?」
「お前……まさか……里奈か?」
「えーん、会いたかったです。やっぱりご主人様だったんですね」
「今から数字を七つ言う。里奈の年齢の所でストップといえ」
「十七、十八、二十九、三十、「ストップです」
「最後の質問だ。俺と転移した時に注文したメニューは?」
「そんな昔の事は忘れました」
「一瞬の付き合いだったな」
「待ってください。キャンセルされた注文は覚えています。天ぷら蕎麦です」
「信じられん、本物のタマコなのか?」
「そうです、タマコは猫でした」
来世で巡り会うというのはロマンがあるが
来世の更に来世って何て言うんだ。
タマコが俺を愛していると言うのは本当だったのか? いやいや
そもそも思ってなかったら子供を十人も産んでくれないだろう。
「リリーナ、じゃないな、メグか、最後の記憶は何年の何月だ?」
「アレス歴十一年の十一月です」
ほんとに同じか。
「図書室へ行くぞ」
「どこでしょうか?」
「そうだな、私も知らないな」
「すいません、図書室はどこでしょうか?」
「変わり者だの、図書室の場所を知らないとは。そこの三階じゃ」
「ありがとうございます」
ここが第三学院の図書室か。
「タマコは左の棚を探せ」
「はい、ご主人様」
「わたしの事はルーカスと呼べ」
「それなら、わたしの事はメグと呼んでください」
「メグ、自分の覚えている歴史と違うところを探すんだ」
去年の八月二十六日にバルバロッサに勝利しているし
存在する国はアレスとミカエルだ。二回目の世界と同じだな
アレスグループがフリーダムグループになっているんだな。
俺が参謀になって天界に殴り込みをかける前に戻っているのか?
アヒル族の来襲は済んでいるな、流石にファルコンやホークの情報は
載っていないが八型が最新とあるな。つまり八型が千六百機あるのか?
「タマ、リリじゃない、メグ、どうだった?」
「ルーカス、覚えてくださいよ。本国の情報は同じでしたけどオーガス王国の
人口は十四億ですが、旅客機はプロペラ機でジェットエンジンの機体が
ないようです。王都でも車は貴族のみしか使っていないとあります」
「それだけか?」
「残念ですが飛行艇の進歩が目覚ましいようです。全長二百メートル級の
戦闘飛行艇を公式だけでも四万機以上保有しているようで武装は千発積める
大型爆弾で方式は火薬式爆弾でレーダー装置は貧弱ですが月産千機を
生産可能な工業地帯を持っているようです」
全ての労力を飛行艇開発につぎ込んでいるのか?
それにしても学院の図書館に合っていいような情報じゃないな。きっと
意図的に情報を流しているんだろう。そうなると余り当てにならないか?
「科学技術が低いのは助かるが大型飛行艇は厄介だな」
「それと、サン王国はオーガス王国と既に戦争に入って八年目とあります
こちらは航空機の開発は遅れている代わりに四万トン級の戦艦を五千隻以上
と巡洋艦に駆逐艦を合わせると三万隻以上の艦船を持っているようです。魔法
が使われているような記述は全くありませんね」
「そうか、海軍主体の国として躍進しているんだな」
「両国は疲弊しているようです。今ならもう一度世界制覇も簡単そうですよ」
「痛っ」
「九才の女の子が世界制覇とか言うんじゃありません」
「そうだ、同じクラスにシャルロットとミーアが居ましたよ
二人とも両親が健在みたいです。でも名前がちょっと変わってました」
「何ていう名前だ?」
「シャルがシャルロットじゃなくてシャルロッテでミーアがミリアです」
「うちのクラスにはヤン、コンラート、ヨハン、ニコ、デニスが居たぞ
ミドルネームに数字を入れて判別しているみたいだ」
「それじゃ第七食堂研究部のみんなは揃っているんですね」
「そうだ、メグのフルネームは何て言うのだ?」
「マーガレット・セカンド・フロイライン・クリントンですよ」
俺はドイツの名前が大好きだからな。フロイラインは既に
ほとんど使われていないと聞いた事があるが、女性にはフロイラインを付けて
多分だが既婚女性はフラウなんだろう。
「分かった。最大の問題はわたしの本体のノアとお前の本体のリリーナ
そして今のメグの親のヒルダとユリアンの存在だ」
「お父様もお母様も優しかったですよ」
「いいか、リリーナが二十四才で妊娠しているのは問題ない
今年に双子を産んで来年にはトレーシを産む予定だ。問題はノアとリリーナの
考え方が分からない事とヒルダの存在の代わりが居ない事だ」
「私がヒルダお母様の代わりにはなれないんですか?」
「お前に財務長官が務まるのか?」
「……無理かもです」
俺とルーカスが入れ替わっただけならたいした問題じゃないが
別人となると国王の行動で大きく歴史が変わってしまう。
それに今のルーカスは星金貨一枚すら持ってないはずだ。
「一応聞いておこう。メグの頭で経済大学院へは進学できそうか?」
「多分ですが……無理です」
「良し、それなら経済大学院は諦めて大学院への進学が希望だと言っておけ
あそこならヤンやコンラートでも入学出来るだろう」
「それとお金も貯めておかないといけませんね」
「そうだな、農業連合が崩壊するのは今年の秋だったな」
「それもルーカスのお父様次第ですが」
「それだけじゃない、メグの父親と母親の影響もかなり大きいぞ」
今の内に海金貨を手に入れる手段か。
「そうでした、この時期は妊娠していて暇だったので一月に発売される
新年特別宝くじの当選番号を覚えています」
「偉いぞ」
「十桁の数字を自分で選べる奴です」
ロトⅩか、これでかなり稼ぐ事が可能だな。
キャリーオーバーが続いていてかなりの金額がプールされていたはずだ。
スカイマンションに引っ越すのは来月だったな。
お読み頂きありがとうございます。




