第百十七話:航空機事故
四月五日にアデルが死亡したというニュースが全国で流れた。問題は映像が
無く死亡を確認した治療師も存在しないという事だ。
「アデルって生きてるじゃないかな?」
「一国の国王が死んだのに葬儀を内密でやるというのもおかしいわね」
「それに次期国王が決まってないんだろう?」
「そうすると、ミカエル王国は今は国王不在になりますね」
「一応はノーラ公爵が政務を行っているようね」
「マリア文部長官が特使としてバベルへ向かったんでしょう?」
「止めたんだけどな、どうしても行きたいそうだ」
母さんにお願いされてとても引き留められる状況ではなかった。
「まあ、ノーラさんが実権を本当に握っているなら
殺されるような事はないでしょう」
「それより問題はミカエル三型戦闘機ですよ」
「時速千七百キロで高度一万二千メートルっていう発表だよな」
「うちの三型を余裕で超えているわね」
「八型攻撃機と爆撃機もうかうかしていると落とされるな」
「この急激な技術の進歩はサン王国の技術供与は確定ね」
「まだ、うちの八型の方が性能は上ですが四型や五型が出たら危ないですね」
「その時は、うちも十二型や十三型が出来てるわよ」
「十一型は?」
「父はファルコンとホーク、それにスワンとスパロウの
改良に専念してますね」
「そうなると十一型は見送りだな」
「すでに八型戦闘機以外は全て千機と予備があるぞ」
「合計で五千六百機以上か……」
「爆撃機と給油機は別ですよ」
八型攻撃機もあるから六千機以上だな。
「工房の規模から推測されるミカエル三型の製造数は月産で百機程度です」
「まだ工業地帯を持ってないのが救いね」
「それでも今年だけで八百機も揃えられるのか」
「あと半月で陸海空の長期休暇も終わるから
攻勢に転じる事も可能だよな」
「私としては今年の穀物の収穫高を落としたくないけどね」
アデルの真意が不明なので会議はそれ以上進まずお開きだ。
防衛衛星も規定数の打ち上げが終わったので宇宙開発局は
暫くは新規研究に移行する事になった。
「今月で原油の製油施設が四件閉鎖か」
「火力発電所の九割が既にLNGを燃料にしており新開発の蒸気タービンと
ガスタービンの併合した十式方式、農作業の収穫機械に例えるなら
新コンバインシステムで熱変換効率も七割近くまで上昇しております」
「石炭方式は完全廃止だと内陸部は石油に頼る事になるのか?」
「いえ、LNGガスの電気網は新たに手に入れた南西部以外の全ての地区に
配備済みです内陸部はアレスガス発電方式に切り替え中です」
アレスガスというのは都市ガスだよな。
内陸部はLNGを冷却するのに大量の魔法師が必要だから仕方ないか。
「それでLNG発電所が四十八カ所で足りるのか?」
「現在八十万キロワットの四基体制で稼働しておりますがフルで使えるのは
年間で三百日程度ですので年間に一兆一千億KWhがLNG発電の限界ですが
去年の電力消費量は既に一兆三千億KWhに到達しております」
「年間で二千億キロワットアワーも足りないのか?」
「今年は去年の七割増しで来年には消費量が大きく伸びて四兆KWhに
到達すると言うのが研究所の見解です」
「今の四倍の電力が必要なのか?」
「一つの発電所では六基程度が限界ですので新設したほうが効率が
いいでしょう。そうなると新たに百五十カ所を新設する必要があります」
「水力と風力発電は?」
「あれは緊急時の予備とお考え下さい」
「天然ガスはどの程度持つ?」
「魔法研究所の試算では三百年以上は持つとの事です」
「一つの発電所の製造コストは?」
「優秀な魔法師を動員すれば六基構造で一カ所で海金貨一万枚程度かと」
「海金貨百五十万枚か……」
「完成すれば五兆KWhの電力を賄えます。現在稼働している分を合わせて
六兆kWhあれば四年は持つでしょう」
電気に頼り切る生活になるが国がデカすぎるんだ
それも仕方ないか。
それに俺は研究者を優遇しているからな。
「しかし、そうなるとジュノー大陸中の海岸線に発電所を建てることに
なるな。都市計画にも支障が出ないか?」
「農作物も取れない畜産も盛んではない、そして商業にも力を入れていない
何もないノルト大陸に集中的に建設しようと思います。既に五百万キロ
ワットを送れる海底ケーブルは設置済みです」
「ノルトに五十カ所でミランに三十カ所にガイアに三十カ所で
本国に四十カ所で行くか?」
「そうですね、各大陸には自分の所は賄って貰って本国は
ノルトから九割をケーブル経由で供給させましょう」
ガイアにもっと建てたいが破壊されたら溜まったもんじゃない。
あとは変電所も大量に必要だな。
四月なのに暑いな。ほんとに困ったもんだ。
「兄貴、クーラーを入れるように言って下さいよ」
「民間にも節電を呼びかけているんだ。国の施設で率先してクーラーを
使うわけには行かないだろう。夜に自分の部屋で使え」
「若様、昼間使わないとクーラーの意味がないですよ」
「来月には発電所が二カ所出来る。それまで我慢するんだな」
「ノルトでちゃちゃっと作ってくれればいいんですけどね」
「魔法師が足りないみたいね。しかし暑いわね」
「ミーア、露出が酷いな」
「いいじゃない」
「仕方ないだろう。海底ケーブルの設置作業に魔法師が多く必要なんだ」
「確かに発電所が完成しても送電出来ないんじゃ悲しいですね」
「ちょっと早いけど明後日から冷やし中華を始めるかな」
「キュウリは五月中旬以降じゃないの?」
「トマトもキュウリも南部から仕入れるよ」
「それならざるラーメンでいいんじゃないか?」
こいつらは麺類が好きだな。俺も好きだけどね。
「何かお腹が減ってきたわね」
「別館の海鮮居酒屋に行くか?」
「「いいですね」」
「ダメですよ!」
「ヒルダ、なにか用なのか?」
「アレス航空のライン行きの旅客機が消息を絶ちました」
「宇宙開発局のレーダーでも場所が特定出来ないのか?」
「依然不明です」
「それは墜落したわね」
「アレス航空は無制限の保険に入ってるからな」
「でも保険会社もアレスグループ系列ですよ」
「アレス航空って馬鹿なのか?」
「危機管理がなってないわね」
「その点シリウスは少々高いけど
よく国営の保険に入っているわね」
ミカエル三型に撃ち落とされた可能性が高いな。二型でも落とせるが。
二日後に空軍機二百機の調査で墜落した機体が西のマーチの街の
東五百キロの林で見つかった。
幸運な事にリキ達の調査で機内に取り付けられていた航路調査機の
記録では飛行士が管制の許可を取らずにマーチに向けて勝手に進路を変えて
同じアレス航空機と衝突したという記録が残っていた。
「マーチに進路を変えたってあり得ないわね」
「それに飛行士は脱出装置を使ったから
生きているんだろう」
「ノア様、乗員乗客合わせて三百六十八名の死亡です。アレス航空には
海金貨五千五百二十枚を遺族への見舞金として更に規則違反と隠蔽工作の
報いとして懲罰金で海金貨三万枚の支払いを命じます」
「リキの好きなようにしてくれ」
「アレス保険も六千枚程度なら余裕で支払えるだろうな」
「でもアレス航空はキャンセルの嵐らしいわよ。長距離便なんて
一割程度しか乗ってないみたいよ」
「でも何で衝突なんだろうな?」
「九式以降の旅客機には給油機能がついてるじゃない
慣れない給油を要請したんでしょうね」
「救命ポットは四機だから助かったのは飛行士二人と運のいい乗務員二人か」
「生き残った人間は空軍警備部が取り調べをしていますから原因はすぐに
解るでしょうが、それでも最低でも懲役十年は固いですね」
「毎日、魔力が尽きるまでトルネード弾の作成をやらさせる訳ね」
「第一級犯罪囚人の死亡率は一割以上だから十年持つのは希だよな」
我が国の主要弾頭はフレア弾とトルネード弾だが一発分の魔力を注ぐのに
一般人で半月程度だが囚人には三日で魔力をかき集めさせる。
「魔力を持ってなかったら処刑よね」
「飛行士なら魔力持ちは確定だろう」
「ここは前倒ししてザンジバル航空の躍進のチャンスが来た感じです」
「ライン行きは辞めておいた方がいいぞ。ミカエル王国に近すぎる」
「コンラート、予定を早めてアレシア行きにしろよ」
「うちの旅客機でアレシアまで無給油で飛べるのは四機しかないんだよ」
「それなら当分はサテライト行きで我慢するんだな」
家も五十九階の使い道を考えないとな。いっそ誰かに貸すか。
「お父様、美味しい?」
「このステーキは美味しいよ」
「それはクレアド商会で扱っている牛なのよ。ソフィーを見習って
私もステーキハウスを開業したの」
「フィーうどん店も値段が安めのどんぶり屋さんを開店させたの」
「ソフィーと客の取り合いにならない最善の策ね」
「そんなに金を使って大丈夫なのか?」
「設備投資をどんどんしないと最高税率の五割を払う事になるわ」
「うちの店にも国税の調査官が二回も来たのよ」
「ノア、ルーカスは海鮮専門店を始めたようよ」
「リリーナ、ルーカスは勉強の方は大丈夫なのか?」
「もう単位は取得したそうよ。あとは論文が通れば卒業確定だって言ってたわ」
経済大学院を一年と少しで卒業か。頭はいいんだな。
「わたしも九月までには単位を取り終わるわ
早めに卒業して商会に専念するの」
「ソフィーも大学院へは行くのは辞める事にしたの」
「どうしてだい?」
「お姉ちゃんがたいした事は学べないって言うの」
「父さんも大学院には通ってないから進学しろと強くは言えないな」
「ソフィーには大学院に行ってもらいたかったわ」
「もう学歴より実績が物を言う時代なのよ」
講義内容を高められないとアリア達も学院だけで大学院へは行かなくなるな。
教師が不足しているんだよな。
「それでお婆さまはいつ帰ってくるの?」
「空軍には明後日の便で帰国すると連絡が来たみたいだよ」
「戦闘機で帰ってくるの?」
「輸送機といって似たようなものだね」
「ノア、護衛は大丈夫なの?」
「西部の第七戦闘師団から二百機が護衛につく事になった」
「それなら安心ね」
実績が全てか、こうなると金持ちが圧倒的に有利になるな。
お読み頂きありがとうございます。




