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第百十六話:夢見る君


 クレアの言っていたように買い取りを農業連合に依存していた農家は

参入してきた商会に言い値で買い取られ深刻な打撃を受けていたようだ。

 

 農地が荒れている農家は今年の固定申告税を免れる為に多くの商会に

土地を売って何とかしのいでいる状態だ。


「自重を知らない子供というのは怖いわね」


「俺でも一万六千ヘクタール程度しか買わなかったよ」

「僕も二万千二千ヘクタールだけだね」

「うちは農家二十件分で三万千五ヘクタールだけ買ったわ」


「兄貴の所は百万ヘクタール買ったんですよね」


「シリウスが二千万ヘクタール程度買ったというから

その二十分一も買ったんですよ」


「ニコもピリピリしてたわね」

 

「残念だが買ったみたいだね。ルーカスの持っているトラクターを

全て使って農地認定の為の農地作りをやっているはずだよ」


「うちも一週間前にやっと認定して貰ったのよ」

「ヨハンの土地なら内務以外の職員でも文句は言わないだろう」


 

「内務省でやってくれれば十万ヘクタールは買えたんだけど」

「所有者の親族のいる監督官庁の職員は検査に入れないからな」


「俺の所はニコにやってもらったよ」

  

「僕の所はフレッドだったから、ギリギリで審査に通った感じだね」


 友人がトップを務める所の職員から認定をもらうというのも

不味い気がするが、今度ヒルダに相談してみるか。

  

「コンラートの所は七割以上を飛行場にするんだろう。厳しくて当たり前だ」


 

「ザンジバル航空は来月からエクレールとルミエールから

サテライトの間にも定期便を一日一便出す予定なんだよ」


「買うのはみんなの自由だが

来年になって固定資産税が払えないなんていう馬鹿な事は言うなよ」 

  

「稼いでいるから大丈夫よ」

「俺達もボチボチ稼いでる」

「来年の春にはアレシアまで路線を伸ばせるといいな」

  

 みんな商会に力を入れすぎて仕事を忘れないで欲しいな

あの子達にはきつく言わないとな。



   

 今日はダンの息子が新製品をみせてくれるというのでお邪魔する事になった。

  

「マクベスが私達に何をみせたいのかしら?」

「息子と言っても長男のケインの方だよ」

「出産も終わったので久々に出かけられるわ」


「そうか、シャルも子供を産んだばかりか?」

「あの苦しみを世の男達に理解して貰いたいわね」

「なんでわたしまで」


「ニコもたまには刺激が必要だぞ」


「まさか十一型なんてことはないよな」

「去年は春だったけどな」

 

「ブルームの街も発展してるわね」

「わたしはブルームに来るのは初めてですね」


「僕は年に四回は来るよ」

「昔は東のブルームに西のドロシーと言われたんだけどね」

「ブルームより東はサンドリアまでは大きな街がないんだよな」


「交通も南東のデルタに拠点を奪われちゃったものね」

 

「昔はエクレールと西のルミエールにブルームとドロシーに

中央のサザンクロスだけだったのに都市も増えたよな」

「もう学院を卒業して十三年よ。アレス領の頃と変わって当然よ」


     

「ここね」

「マイスター技術研究所だったよな」

   

「そうだよ。ダンのファミリーネームがマイスターだからな」


「みなさんいらっしゃい」

「良く来たわね。我が商会の研究室に」


「おい、アリス、お客様に失礼だぞ」

            

 これが設計事務所なのか。それにしても随分と大規模な施設だな。


  

「今日見て頂きたいのは偶然出来た副産物なんですが

人によっては考え方すら変える商品になると思ってます」


「見てご覧なさい。これが夢見る君一号よ」

「アリス、さっきから態度がデカいぞ

それじゃお客が逃げるぞ」


「まあまあ、これは夢を人為的に発生させる装置なんですよ。例えば死んだ

お爺さんに会いたいとかの希望を叶えてくれます」


「つまり死んだ人間に夢を通して会えるという訳ね」


「はい、覚えていない人でも会った経験さえあればこの夢見る君が

記憶からその人物を生成して夢の中で会う事が出来ます。夢とはいえ

現実との区別はつきませんから感動的な体験が出来ますよ」



「わたしから試させて下さい」


 夢見る君一号は六台しかなかったので

四時間かけて一人一時間ずつ体験した。


 

「お父さんに会って一緒にお風呂に入る夢を見れたわ

夢の中だと本当に現実との区別がつかないのね」


「僕も死んだ姪が成長した女性になっていて、一緒にお茶が出来たよ

これは凄い機械だね」


「これは凄いぞ、女性六人と酒池肉林の世界だった」


「「「ヤンの馬鹿」」」


 俺もルッツ父さんと一緒にチェスをする夢を見れた

少々泣いてしまったな。


「ケイン、これは絶対売れるぞ」

「わたしも自宅に設置可能なら海金貨二十枚までなら出せるわ」


                   

「でもこれに依存する人間が出るんじゃないかな?」

 

「その通りです。技術者の中でも四人ほどが仕事を忘れて籠もりっきりに

なってしましました」


「これはフルダイブ用だから高いけど六月には価格を海金貨二枚に落とした

制限時間三十分の量産機を販売開始するわ」


「予約しておくぜ」

「うちも予約しておくわ」


「ありがとうございます。皆さんにはハイグレード版を

五月にはお送りできると思います」


「高性能は望むところだ」



     

「そうだ、ブルームまで来たんだし燃料工房も見ていくか」

「いい燃料が出来てるといいですね」

 

       

 まだ冬だというのに暑いな。


「みなさんようこそ」

       

「これって十三型だよ」

「こうしてみると八型よりデカかったんだな」

 

「速度が三百二十キロで高度はたったの

四千メートルまでしか上昇出来ないのよね」

               

「今の熟練兵はこれに鍛えられたんだよな」

            

「高速分離機をみせてもらえるかな?」


「今は新型高速魔道圧縮炉での製造も終了しており超高熱魔道プラズマ

分解炉でアレス液を分離精製しております。空軍と海軍に納めている

アレス液は既にジェット燃料に劣らない性能でスパロウ型でも

最高速度を維持していると聞いています」


       

「凄いんだな」

「なかなか進歩してるのね」


「これの利点は廃棄物さえ溶解してエネルギーに変換出来る点です

コストは原油から精製したジェット燃料の二割以下です。そして更に

エンジンに優しい設計です。これならエンジンの耐用年数を倍に

延ばせるでしょう」


 

「コンラート、トム、そうなるとアレス液に

全面変更した方がいいんじゃないのか?」

  

「そうするとジェット燃料の使い道が無くなりますね」

「民間の航空会社に売ればいいじゃないか」


「そうですね、マルコと繊細を詰めてみます」

   

 こうなってくると原油自体の使い道も考えた方がいいか

電気はLNGで作れるしLPGガスさえ切り替えられれば残るは

ディーゼル機関のみか。


「これを船や重機の燃料としても実用可能なのか?」

        

「可能です。設備投資に海金貨五万枚の予算を頂ければ

国内の全てのLNG発電所に隣接した場所に四基ずつ併設可能です」


「ヨハン、現在のLNG発電所の数は?」

「全部で四十八カ所です」


 一カ所で海金貨千枚の投資か。

    

「もしかしてディーゼル自動車にも使えるのか?」

「勿論です、このアレス液なら全てのエンジンに合わせた調合が可能です」


「よし、五万枚の予算を計上しよう。増設を開始してくれ」


「ご理解頂けて感謝致します。来年には石油精製施設を

駆逐する気持ちで国内に広げたいと思います」    


 駆逐する必要はないが石油施設が要らなくなればタンカーも

必要無くなるし設備投資してもすぐに元は取れるだろう。



 

昨日はいい投資先が出来たな。

 

『こちらはチャンネルセーラです。本日はサンドリア湖に完成した超巨大

水力発電装置のレポートです。この反重力装置で再循環された水による

四十二基の最大発電量は四千万キロワットに達しアレス最大規模の……』

   

「若様、よろしいですか?」

「どうした?」


「ミカエルの国営放送によるとアデルは明日をも知れぬ身のようで

ガイア南部が再び反乱を計画しているとの事です」


「そうは言ってもな、私がアデルの見舞いに行く事は不可能だしな」


  

「実権はマイクが握ることになるのでソフィー様との間に出来た子が

次期国王となる見込みが強いとみております」


「そうなるとノーラ姉さんの子供も王位継承権を持つのか?」

 

「ノーラ様はご主人を亡くされたそうですが二人のお子さんがおり

現在は公爵の地位です。継承権はあるでしょうね」


「ヤンと三軍の情報部で細かい情報を集めてくれ」

「わかりました」


 なんか気が滅入るな、家に帰って休むか。



「ノア様、今日はお早いお帰りですね」

「ラン、食事を頼むよ」


「すいません、二階の食料品売り場が改装工事中で

簡単な物しかお出しできません」               


「それじゃ寿司でも食べに行ってくるよ」


「「お父様、一緒に行く」」


「そうか、それじゃリリーナとみんなで行こうか?」

「お姉ちゃん、お寿司屋さんだよ」

 

「ノア、わたしはケイトが少し熱があるから残ります」

「わかった」

   

   

 ここに来るのも久しぶりだな。


「いらっしゃいませ」

「六人で予約したアレスだ」


「ノア様、いらっしゃいませ」

「ミランダじゃないか、修行を終えたのか?」


「はい、今は巻物を担当させてもらってます」


「うんとね、ぼたんエビ!」

「僕は大トロ」


「わたしは鯛をお願い」

「僕はトリ貝で」

「えっとね、マキは甘い卵焼きがいい」

「わたしはお任せで頼むよ」


  

「すぐに握りますね」

  

「親父さんは?」

「風邪なんですよ。かなり流行っているようですよ」

「そうなのか」


「この鯛は美味しいわ」

「近海ものですからね」


「海老は最強なの。お父様の味覚が理解できないです」

「それぞれ好みがあるんだよ」

     

「そうだ、昨日何とか全ての土地の認可が下りたわ」

「お前達、土地を買いすぎだぞ。どうするんだ百万ヘクタールも」


「シリウスとアレスとクレアグループが遠慮していたから

ちょっと強引に交渉したら安く売ってくれるもんだから調子に乗っちゃったわ」


「何を育てるんだ?」

「二割は街に近いから工房を移転するとして

穀物は小麦を主力にして畜産にも力をいれるつもり」


「もう牛さんを二千頭仕入れる契約をしたんだよ」

「クラウスが契約したのか?」

「そうなんだ」


「わたしは鳥さんと豚さんの仕入れる契約をしたの」

「アリアも頑張ったね」

「そうでもあるかな」


「そうだ、次世代燃料はアレス液が主流になりそうだぞ」

「そうなると既存のスタンドも盛り返すチャンスね」

 

「LNG車も無くなる訳じゃないが軽めの車体は電気になって

中型車はLNGで大型車はアレス液になるだろう」

  

「最近の情報なのよね?」

「昨日決まった情報だ」

    

「ソフィー、ガソリンスタンドを買いたたくわよ」

「任せてよ」


 お願いだから買いたたくという発想はどうにかして欲しいな。



お読み頂きありがとうございます。


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