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第百十三話:酒は人を幸せにする


 遂に俺も二十五才と感慨に耽っている暇もない。

 ノルト大陸の住民の四十代以上の人間は七割以上が死亡した影響で

親アレス派が我が国に恭順の意思を示してきてしまった。


 

「何か、忘れているような気がするんだよな」

「ノア、また、今日は新年なのかって聞くんですか?」


「リリーナ、わたしはそんな事を聞いたのか?」

「はい、一年前の今日にそう言ってましたよ」


 ほんと、なんか変な気分だ

今年は目覚めの犠もないんだが。


「思い出せない事を無理に思い出すのは良くないというしな」

「何ですか?」

「いや、気にしないでくれ。仕事に行ってくるよ」

 

「気をつけてくださいね」

「ああ、わかった」

  

   

 仕事場につくと落ち着くな。


「みんな、ノルト大陸の事か?」

   

        

「そうですよ。金も無いのに併合を希望されても困りますよね」

「でもアレス王国内にもノルト大陸出身者はかなりいるのよね

その人達が署名運動しているんでしょう」

  

「考え方の古い人間は大方が反乱に参加して戦死したようですが

人口は五千万を割っているようです」


「ノア様、ミカエル王国に不穏な動きがありますし

ここは多くのノルト出身者に恩を売っておきましょう」

     

「仕方ない、併合の提案を受けよう」


  

 その日の夜には併合を歓迎する旨を記した手紙が月光便で届いたので

翌日にはノルト入りだ。


 これは酷いな、五百万人以上が死ぬとこうなるのか。

 みんな痩せ細っているじゃないか? これじゃ反乱を起こすとか

無駄な事をする余裕はないだろう。

  


 

 期待している眼ではないが以前の猫三匹だけの式典に比べればマシだな。

   

「それではアレス歴十一年一月三日付けでノルト大陸をアレス王国に

併合する。異議のある者は名乗り出よ」


 

「「「異議などございません」」」

 


「異議無しと認め、ここにノルト大陸の併合を宣言する」


「「「アレス王国万歳」」」


「「「平和万歳」」」

   

「平穏な生活がやっと来るのね」

「長かったな」

「お米が食べきれないほどあるんだって」

 

「「「みんな飯だ」」」


 どうやら我が国への併合を望む人間達が熱望しているのは平和と

安定した食生活だったようだな。

  


「みなさん、八千トン持ってきましたから順番に……」


「「並んで下さいね」」

「横から入るのは禁止!」


「そこ、横割りは禁止だぞ」

   

「ちゃんと並んだ人にはお酒も配りますよ。アレス王国で五年熟成した

ウイスキーですよ」

  

「「「酒か!」」」


 それからは夜まで宴会騒ぎだったが、どんぶり十杯食べる猛者も

酒の誘惑には勝てないようで夜は臨時の新年会となった。


 

「兄貴、帰るんですか?」

「そうだ、北に反乱の兆しがないのは分かった。南に備えないとな」

「ミカエルの新年会も今日ですよ。一ヶ月は大丈夫でしょう」


  

        

 結局、帰国したのは二日後の昼だった。


「金はないですが面白い連中でしたね」

「ボトル半分で泥水するとか、どれだけ断酒してたんでしょうね」

「酒は輸出してなかったからな」


「空母は何隻が警戒に当たってる?」

「東のキングの街の東に二隻、西のマーチの南西に二隻いますよ」


「それなら心配する必要もないか」

  

「どちらもノア型ですけどね」

「案外、アデルに人気が上がってるかも知れませんよ」

「他国の貴族の陞爵情報は中々流れてこないからな」

   

「陞爵ならいいんですけどね」



 ヤンの予言を裏付けするように三日後にはガイア南西部で

反国王派が反乱を起こした。


「反乱の首謀者はラルフ・ロードスター伯爵ですか」

「そんなのがアルタイル王国にもいましたね」


「ヒンメルに領土を持っていた人間ですね」

「どうやらその息子が親の名前を使っているという噂ですよ」


「しかし、ガイアの南西部とは厄介な場所で反乱を起こしてくれたね」

「高速空母でも一週以上かかりますね」


「トレミー地方南部の空港からでも二千キロ以上あります

ミカエルの空港が使えない以上支援のしようがありませんね」


「なんでアデルは空港を貸さないんだ?」

「うちに借りが一つか二つあるから自分の手で決着つけないんじゃないの」

「でも反乱軍は七万以上だって言うぞ」

 

「都市を人質に取るとは、多少は頭に脳みそが詰まっているようね」

「人口は六十万から七十万か、悪くない方法だな」


 

  

 アデルの動きは速かった。

 翌日には二型と推測される攻撃機で都市ごと攻撃を加えた。


「普段おとなしい人間は切れると怖いって言うけど

アデルもやるわね」

「早期決着に持ち込まないと南東部も危ないようだしな」


「若様、多分去年開発した二型と思われる戦闘機に爆撃機を追尾して

性能を計測してみました」

                    

「性能はどうだった?」

   

「戦闘機の方は時速千三百キロ程度でミサイルを装備しており

攻撃機の方は時速千キロ程度でこちらはミサイルと爆弾を装備して

今回は爆弾を投下したようです」


「二年で時速千三百キロまで来たか」

        

「推測ですが高度は一万二千メートル程度で速度も

あと百キロ程度は出せるだろうというのが飛行士からの報告です」

        

「時速千四百キロって言ったら七型以前の航空機より上か?」

「パーツの一部がサン王国製かも知れないという報告があります」


「おいおい、代理戦争はご免だぞ」

「サン王国もうちからの穀物輸送が途絶えて

アデルの所に鞍替えしたと言う訳ね」


「最悪の場合はサン王国とミカエル王国の二カ国と

戦争なんていう事態になりかねませんね」


「ヤン、情報局の職員を多めにミカエルに潜入させてくれ」

「わかりました。転移結界のない国なんてすぐに調べてきますよ」


 サン王国の技術は厄介だな。問題はサン王国の技術レベルだが

オーガス王国並みだったら笑い話にならないぞ。


  

 こうなってくると陸軍はいいが海軍と空軍の休暇も三交代制にするか。


「若君、昨日打ち上げた衛星が所定の軌道に到着したと報告が来ました」

「それで残りは?」


「今回の防衛衛星で最後です。当初の予定より一ヶ月遅れましたが

年末に三基を連日で打ち上げた効果が出ました」


「ここからは私がお話しします」

「デニス、いいのか?」

 

「十日の十二時を持って宇宙開発局に全ての業務を移行しました」

「ではマクベス、出来はどうだ?」


「一昨日の昼に一号発射機で出力の二割で発射してみましたが

南の島に命中して半径二十キロを完全消滅したのを確認しました」

         

「再充填までの時間は?」

「二時間程度ですね。十割で撃ったと仮定しても

三日もあれば充填可能だとスタッフは断言しています」


 

「つまり、最低でも十二時間に一発は全力で撃ち込めるんだな」

 

「肯定です。ケイン兄さんの話では攻撃衛星一基につき四つのエネルギー

集積衛星と制御衛星一基で十二時間後には充填が完了するという事です」


「エネルギー集積衛星は全部で三十六基あるから予備の十二基は

すぐにエネルギーの集積行動に入れる訳か?」  

       

「そうです、一日に三発以上撃ち込む事は全面戦争以外ではあり得ませんが」

「軌道修正用衛星は今はどこを狙っている?」


「中継用に四個が発射用衛星の近くにあり残り四個がサン王国、ミカエル王国

それにオーガス王国の北と南に配置してあります」



「今はいい。防衛衛星は発射用の大型衛星の防衛に専念させてくれ。それと

次の打ち上げは防衛衛星を中心に打ち上げてくれ」

「わかりました」


 集積衛星が三十六に制御衛星が十二と軌道修正用衛星が十に本命が六か

これが核弾頭のミサイルを手にした人間の気持ちか。

 

 実に複雑な心境だ。


   

 これは、ルーカスの靴か。


「父さん、おかえり」

「帰っていたのか?」


「三日間だけ休みが貰えたんだ。それでルース商会の工房を見に来たんだよ」

「アリアとクラウスに任せて平気なのか?」


「重要な所は僕がチェックしているからね」

「どうだ、経済大学院の方は?」


「最初は授業に付いていくのがやっとだったけど

秋には慣れてきて予習を一時間に復習を三時間すればあとは自由時間だよ」

     

「卒業生は取り合いだっていうじゃないか?」

「うちは留年出来ないからね。今年卒業出来るのは僅かに七十七人だって

学院長が嘆いていたよ」

         

「その余裕は進級は決定したんだな?」

 

「うん、単位を八割以上は取ったから今年の春に論文を提出して

合格をもらえば卒業は確定だよ」


 ルーカスも卒業見込み程度までこぎつけたか。


 

「卒業後はどうする?」

 

「まずは二年程度は商会の事業を拡大してみて自分の資質を

試してみるつもりだよ。その後に結婚して父さんの元で内政を学ぶ予定かな」

     

「経済学は大事だが人の命のやり取りも学ばないと国王にはなれないからな」

 

「演習でノルト大陸に行って戦場を見てきたよ。うちの国民には

ああはなってもらいたくないね」 

     

「アデルの所も不穏な動きを見せている。最悪はミカエル王国とも

戦争するつもりでいてくれ」

   

「わかったよ」


 ルーカスが次の国王で決定だな。

俺はのんびり商会の経営でもさせてもらおう。


「「パパ、ご飯だよ」」

「アリア、クラウス、今行くよ」


 

「えっへへ、マキね今日は先生に褒められちゃった」

「何かしたのかい?」

「女の子を泣かしている男の子をやっつけたの」


「それはいい事をしたわね」

「ママもそう思う」


「ご飯は出来ているようね」

「母さん、こんなに早く帰ってくるのは珍しいね」


「ルーカスの休暇はたったの三日よ。話したい事もあるわ」


「ではいただきます」


「「「「「いただきます」」」」」


「今日は魚料理のオンパレードなのね」

「ルーカスの好物だから腕によりをかけて作ったのよ」


「ノン達は?」

「休暇をあげたわ。ご主人達の乗った空母がルミエールに帰港中なんだって」

「ノア、もっと休暇をあげられないの?」


「今はアデルの所が不安定だから南部に空母は必要なんだよ」

「大学院で聞いたけど、上級貴族を十五家も平民に落としたらしいわね」


「アデルはガイア南西部で十万人以上を航空機で殺したらしい」

「ノーラとソフィーは大丈夫かしら?」


「ソフィーは大丈夫だよ」

「ソフィー、ノアのお姉さんにもソフィーというお姉さんがいるのよ」


「ソフィーと同じ名前なの?」

「そうなるな」


「へんなの」

              

「それでミカエル王国へは行けないかしら?」

「最悪は反国王派に捕縛又は処刑されますよ」


「父さん、そんなに危険なの?」

「情報局の報告だと国王派と呼ばれる貴族は二割程度しかいないらしい

反アデル派と中立派が残り四割ずつを占めているようだ」


「大変なんですね」

「「たいへんなの」」

「みんなたいへん」


「アリア達はもう寝ましょうね」

  

 アリアから下はまだ戦争の話は早いか。


「それで経済大学院をエクレールとベル以外にルミエールと東のグランシャリオ

西のマーチと中継拠点のサテライトと南部のクラウディアと南西部のキングの

六都市にも今年から開校する事にしたわ」


「合計で八都市ですか」

「卒業出来る生徒がここまで少ないとは予想出来なかったわ

わたしのミスね。王立学院を改造しただけだから準備は既に出来てるわ」


「文部長官は母さんです。好きにやって下さい」


「お父様、ソフィーはお店を二十四店舗まで増やしたんだよ」

「もうそんなに増えたのか?」


「フィーうどん店はエクレールでも屈指の規模のうどん店になったって

チャンネルセーラでも宣伝してくれていたわ」


「そういえばセーラも明日戻ってくると言ってたわ」

「それじゃアリスも呼び寄せましょう」


 

 これは面倒だから明日で良いか。

                                  

「おい、コンラート、仕事が終わったぞ」

「それじゃ、空軍の出した南部警戒網のチェックをお願いします」

          

「まだあるのかよ」

「反乱があった場合に最初に接敵するのは空軍ですよ」


 二時間もかかったか。


「コンラート、終わったぞ、それじゃ今日は早く帰らせて貰うぞ」

「まあ、いいですよ」


 

『どちらへ向かいますか?』    


「スカイマンション正面だ」

『アイアイサー、スカイマンション書面に向けて発信』 


 もう来てるのか。


 妹達と会うのも一年ぶり以上だな。


お読み頂きありがとうございます。


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