第十話:王立アルタイル学院入学
王都へ着いたが金銭感覚が狂い始めています
お金を不当に搾取されると切れてしまう性格なのです。
洒落た店だな
とてもあんな宿に併設された食堂で夕飯をとるなんて出来ないからな。
「見ろ、鯛の塩焼きが金貨二枚、赤マグロのステーキに至っては二百グラムで
金貨四枚だと」
「若様、お肉にしておきましょうよ」
「それしかないな」
「俺は牛肉のステーキのDセットで」
「僕は鳥のソテーのAセットで」
「「わたしたちも鳥のソテーで」」
「別にすきな食べ物を選んで良いんだぞ」
「毒味も兼ねてますので」
凄い早さだな。これって作り置きじゃないか。
味はまあまあだな。
「微妙な味ですね」
「クレアの食堂が懐かしいですね」
「お代は金貨一枚と小金貨二枚です」
まさか食堂までぼったくりじゃないだろうな。
「何か、王都巡りする気力が失せた。明日はコンラートの勉強の特訓にしよう」
「特訓ですか?」
「良い成績じゃないと同じクラスになれないだろう」
「若様が手を抜いて頂くという案は」
「それは無いな」
結局、翌日は泣きわめくコンラートに六時間の特訓を施して
ついに決戦当日だ。
「ヨハン、コンラート、ニコ、頑張ろう」
「若、私は宿屋で待っております」
「ニコ、何を言ってるんだ? もうニコの分の願書も出してあるぞ」
「しかし、わたしは平民ですよ」
「ニコはシリウス商会のクレア支店長だろう。商会の子息が入学するのは
一般的な話しだぞ」
「ニコラウス、諦めてお供しましょう」
「わかりました」
五階建ての石造りか、別館と訓練場もあるのか
教室の数はだいたい四十程度ということは一学年で三百人以上か。
「それでは筆記試験を始める。カンニングは即退場の上、ご両親にも伝える」
簡単じゃないか。王国史、地理、魔法理論、算数に感想文か。
「若様は着替えないんですか?」
「僕とヨハンは午後は魔法実技だけ受けるからね」
「そうですか。ニコ、着替えようぜ。お前は槍だろう」
「では後ほど」
俺達は中庭で試験か。
「では名前を呼ばれたら前に出て、あの的に向けて魔法を撃ち込むように」
「一番、シャルロット・マーチ」
「はい」
「【ファイアランス】」
「すげえ、炎の槍を三発同時に撃ち込んだぞ」
まあまあの威力だな、余り強すぎると校舎が壊れるからな
手加減が上手だな。
「二番、ヴァイス・コットン」
「はい」
「(あれってコットン伯爵の息子じゃないか)」
「【ウィンドボール】」
こいつも更に手加減上手だな、俺もこういう手加減が出来ればいいんだが。
「俺様の実力を見たか!」
教師へのアピールというやつか、抜け目がないな、こやつ出来る。
さて俺は何の魔法にしようかな、被害を抑えるならやはり水か土かな。
「二十九番、ヨハン・ラズベリー」
「はい」
「【ウィンドアロー】」
ダメだな、もう少しで校舎に被害を出すところだったじゃないか
ヨハンも緊張してたのかな?
ほら、みんなも呆れて声も出ないぞ。
「つ、次、三十番、ノア・クレア」
「行きます、【ウォーターボール】」
ちょっと水が多かったが校舎への被害はほとんど無いな。
「それでは明後日の八時半には集合。九時から入学式だ。解散」
不合格者はいないのか、なんとも緩い試験だな。
「文句を言われたから来てみたが、あまり驚くような商品は無いな」
「この氷の魔道具は如何ですか?」
「自分で凍らせられるし、いらないよ。それに黒金貨二枚だよ」
「俺は、なんか買おうかな」
「そういえば、クレアを出てから給金を払ってなかったね
ヨハンは月に金貨十枚で二人は金貨八枚ね」
「本当は一年分を前渡ししたいんだけど、コンラートに星金貨は危ないから」
「若様、信用して下さいよ」
「来年までに収支報告書を書けたらね」
結局みんな魔道具は買わなかったか。
あーあ朝か、ここの太陽ってどのくらい離れてるんだろう
マイクロブラックホールをたたき込んで三日くらい営業停止にしてやりたいな。
「眠い」
「ノア様、出発しますよ」
「集合は八時半じゃなかったのか?」
「それではぎりぎりになってしまいます」
「まだ八時前だっていうのに随分いるな」
「しかし、あのパン屋、ライ麦パンしか売ってないなんてあり得ないですね」
「コンラートは四個も食べてたじゃないか」
「今日から戦争ですからね」
うーん、よく見えない、もう少し大きな字で書けないもんかな
これが文学少女だったら『わたしのクラスはどこ』って感じになるぞ。
「みんな二組ですね」
「リリーナ様も二組ですね」
「何だよ一組じゃないのか」
二組か、そういえば高校も入学した時は二組だったな
良い出会いがあるといいが。
「皆さんよろしくね、わたしはこのクラスの担任のサリバンよ。今年で
二十歳で二児の母親よ。自己紹介は入学式の後で、式典の間は騒が
ないようにね。終わったらここへすぐに戻ってくる事。いいかな?」
「はい」
「それじゃ、新入生代表はリリーナ・オーブさんだから、頑張ってね」
「やっぱりわたしなんですか?」
「昨日、連絡したはずよ。健闘を祈っちゃうぞ」
本当に二十歳なんだろうか?
ちょっと一年間が不安に思えてくるな。
なんで式典が始まらないんだ。もう生徒は集まっているようだし
九時半過ぎてるぞ。
「(おい、ルクセンブルグ公爵とロレーヌ公爵が入ってきたぞ)」
「それでは第八十回。王立アルタイル学院入学式を開始致します」
「学園指導委員長、アレク・イシュタル」
アレク兄さんか、風紀委員長でもやってるのか
三年生だもんな、委員会に入っていてもおかしくないか。
「生徒諸君。今回は入学した生徒四百二十名は優秀と聞くが
学園には今までに暮らしてきた環境とは違う明確なルールがある
先生や先輩に対しては礼儀を重んじ、よりよい学園生活を送って下さい」
簡潔な挨拶だな、五分以上の挨拶は嫌われるって言うしな
次はリリーナか。
「一年、リリーナ・オーブ、前へ」
タマコはガチガチじゃないか、大丈夫か?
「みなさん、新緑の季節を迎え栄えある王立学院に入学出来た事を
誇りに思います……」
ちゃんと挨拶出来たか。
既に季節は秋でとても新緑の季節じゃないが
誰も文句は言わないようだな。
「ではルクセンブルク公から挨拶を」
結局ルクセンブルク公爵とロレーヌ公爵の挨拶はあったが
校長の挨拶は無かったな、時間切れか?
ルクセンブルク公は『力は正義だと』言ってたし
ロレーヌ公は『公正であれ』と武官と文官の差が出た挨拶だったな。
リリーナは人気者だな、もう生徒に囲まれてるぞ。
「コンラート、寝てなかったか?」
「ちょっとウトウトしてただけですよ」
「はい、みんな席について。そうね二週間後に席替えするから
今は適当な席でいいわ」
「うしろの席を確保だ」
「「「了解」」」
リリーナは前の席か、あれだけまとわりつかれていては
振り切ってこちらへ来るのは無理か。
「えっと、本当は自己紹介だったんだけど、時間を一時間以上ロスしたから
授業と寮の説明をするわね」
「先生、平民が何名か居ますが、同室になる可能性はありますか?」
「その辺は考慮するわ」
やな女だな、名前はなんていったっけ?
「授業は午前に三教科、午後に選択科目を二教科で開始は八時半で
午後の三時で終了ね。見て判る思うけど一クラス四十二名ね
二週間後に六名で班を作ってもらうわ。強引な勧誘は禁止よ」
「寮は基本は二名一部屋で特別生は一人一部屋で六時からビッフェ形式の
朝食を食べられて八時半まで。夕食は六時半から七時半の間で入浴は女性徒が
食事前で男子生徒が食事の後で十時就寝よ」
「そうそう、女子生徒は男子寮の食堂までは入れるけど。逆はダメだから」
俺達四人とリリーナを入れても五人か
残りの一名をどうするか、やっぱり女の子の方がいいか
それともリリーナとは別の班にするか?
「……以上、質問は?」
「班は絶対六名じゃないといけないんでしょうか?」
「絶対じゃ無いけど、六名以上でも六名以下でも後々苦労する事になるわよ」
「昼食はどこで食べるんですか?」
「お昼は一時間で一階に食堂が二つあるわ。学生課へ行ってカードに入金して
おけば学園内でお金を持ち歩く必要がなくなるわ」
クレジットカード、いやデビッドカードか
四人分作らないとな。
「他にはないようね、では特別生以外は二人のグループを作ってから寮に行ってね
勿論、同じ学年ならクラスは関係ないわ」
「どうする、たまには僕とニコで同室にするか?」
「いえいえ、わたしはコンラートと同室で大丈夫です」
「それじゃヨハン。三年間よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします」
「俺も男と三年間も同室?」
「男子寮なんだから相手が変わるだけで女子に変わることはあり得ないぞ」
「くそ、無念残念また来年か」
来年になっても女子になる事はないと思うけど。
「みんな混む前にカードを作りにいくぞ」
「カードですか?」
「貴族の子弟とはいえ金に無頓着とも思えない
逆に金を持ってると金を盗んだとか言う馬鹿もいそうだ」
「それは怖いですね」
「だからカードだ。金は部屋に置いておくんだな」
なんか公爵家の子供が一組にいるとか言ってたし危険回避は必須だな。
「カードを四人分作りたいんですが?」
「名前と金額を書いて」
「お金を払わなくて良いんですか?」
「だいたいは後から執事が払いに来るんだよ」
「僕は金を持ってるので四人分払います。貴族の相場は幾らくらいですか?」
「そうだね、伯爵の子弟で星金貨十枚、子爵で黒金貨五枚、男爵で黒金貨一枚
あたりが相場かね」
「学校内でしか使えないのに星金貨ですか?」
「言ってなかったのかな。制服を着て王都で買い物する場合は中規模以上の
商会ならだいたいうちのカードを使えるよ。それに割引きもあるよ」
「よし、三年分の給金を前払いしておくぞ。コンラート、無駄使いして
金が無くなったら昼食は抜きだからな」
「え――――!」
「では僕は星金貨で三十枚、他のみんなは星金貨で三枚でお願いします」
「男爵家なのに太っ腹だね」
「いいんですよ」
「無くしたらすぐにここへ来るんだよ。魔力感知の機能があるからまず他人は
使えないけど、絶対じゃないからね」
割引きがあるのか。やはり二割引き程度は期待して良いのかな
割引き店舗の様子はアレク兄さんに聞いた方が早いか。
とりあえず、食事には期待して良いだろうな。
お読み頂きありがとうございます。