第百六話:宰相様の暴走
今日は五月末で明日からはリリーナの通信監理局もスタートする。
しかし、お隣の内戦は未だに終わる気配が見えない泥沼状態だ。
「コリーン、悪かったな、ワンフロアーを通信監理局に貰ってしまって」
「良いんですよ、商務の仕事も減りますから
それにフロアーをそのまま別館に移動しただけですよ」
「別館もまだ埋まってないフロアーがあるのか?」
「通信監理局が増えても三十一階から四十七階までが埋まりませんね」
本館が十フロアーに別館が十七フロアーも空いているのか。
別館も賃貸料がネックのようだな。
現に二十九階までの半分は国の施設だが埋まっているしな。
この後は食事会か。
「みんな早いな」
「六十階の食堂が混んでるから来てみましたが三十階は空いてますね」
「そうね、困った物ね」
「この上は宇宙開発部門でしょう。きっと食事を摂る暇もないのよ」
「下は十九階の会議室まで何も無いからな」
「実質的に国以外の施設は十四階の農業連合までだろう」
「三十一階から価格が大幅に上がるけど
二十階からも上がるのが響いてるよな」
「保証金の金額を下げてみるか?」
「そうですね、保証金で海金貨二百枚は痛いでしょうね」
「よし、保証金を海金貨五十枚に下げて
代わりに強制的に無制限の火災保険に入って貰おう」
「ついでに声をかけてない部署にも声を掛けてみましょう」
「悪くないわね」
「夏になっても一割以上空いてたらかっこが付かないよな」
「バベルでは七百メートルの高層ビルを建築中らしいからな」
「でも七百メートルで百七十階建てとなるとこのビルより狭いわよね」
「一番になるのが目的なんだろう」
「一番といえばノルトでは国王候補が一挙に四人も現れてノルトで
一番由緒ある家柄だとか争っているようですね」
「古ければ良いという物じゃないけどな」
「醜いわね、要するに王様になりたいだけでしょう」
「放っておいていいんじゃないか?」
「それがLNG施設がガスが止まって休業に追い込まれてしまったんですよ」
「LNGって液化天然ガスの事よね。無くなっても発電なら原油があるでしょう」
「LNGはマイナス百六十二度に冷やしたガスですが、体積が六百分の一に
なるので貯蔵にはうってつけなんです。それに既にある天然ガス施設や
専用タンカーと専用輸送車をどう処理するか問題です」
LNGタンカーの製造許可なんてだしたっけ?
「国内じゃ採掘出来ないのか?」
「本国でも探せば存在するでしょうが既にミランでは国内消費量の六割を
確保出来る施設が稼働しておりミランとガイアの電力を賄っています。しかし
主な産出場所はノルト大陸とミカエル王国の領土なんですよ・それに消費量は
増加の一途を辿っていますし、まったく困った物です」
昔はエンジェルの南では結構な量の油田があったよな
ガイア大陸の南部も採掘出来たはずなんだがアデルの所有物なんだよな。
「ミランからパイプラインを引けば安定するだろう」
「パイプラインをガイア大陸を経由して本国まで引くんですか?」
「うぁ、面倒そうね。破壊されたら大変じゃない」
「その通りです。正確に言えば旧アレス領以外は未だに安定していませんからね」
天然ガスは不純物が少ない分クリーンだと言われているしな
「ヨハン、何でそんなに天然ガスに拘るんだ。オーガス王国でも
原油は沢山採れるんだろう」
「そうですね、原油の方が使い道が多いですよ」
「ヨハン、まさかLNG事業に出資しているの?」
「当然です、勿論出資してますよ」
「「「それでかよ」」」
「ダメですよ、私欲に走っちゃ」
「冗談は置いておいて、天然ガスを主力エネルギーとして活用しているのが
我が国だけという事情があります。何と原油の十分の一で購入出来るんです
現在の原油価格は高騰中で百リットルで銀貨五枚ですが、オーガスが定めた
本来の国際価格では百リットルで銀貨四枚です」
国際価格という事は通常銀貨だから百キロで四千アルか。
「天然ガスがそんなに安いなら買えば良いじゃないか?」
「ヨハン、ケチるなよ」
「それは言えるわね」
「大量に買ったら用途を探られるじゃないですか」
「「「呆れた」」」
他の国もガスは使っているはずだがLPGしか使ってないのか
それにしても効率じゃなくて価格が原因だったか。
「確かノルト大陸の北東部分が主な原産地だったよな?」
「ノア様、よくご存じですね」
「北東部分の有力者に賄賂を送って利用価値のない
天然ガスの権利を買い取ろうじゃないか」
「それが妥当ね」
「使わない物は安く売ってくれるよな」
「鉄鉱石を運んでいると言えば信じるでしょう」
「わかりました、明日にでも交渉に出向いてきます」
一週間後。
食事会で話した保証金の値下げと今まで声を掛けるのを見合わせていた
部署への勧誘で三日でスカイタワーの全フロアーは埋まってしまった。
「引っ越してきてまだ三ヶ月よ。引っ越しが多すぎるわ」
「航空、造船、車両、特殊機械、兵器、魔法の六つの開発工房が設計図を
上層階で管理したいって言うんですから諦めましょうよ」
「こうなってみると、先に引っ越したコリーンが羨ましいわ」
「「おい、エレベータが来てるぞ」」
「さっさと乗れ」
「みんな、頑張ってくれ」
「「ノアの馬鹿!」」
結局は宇宙開発局を新規に作り、それの上層階への移転要求に端を発し
造船、車両、特殊機械が二フロアーを兵器部門が三フロアーの要求をしてきて
更には宇宙開発局と航空と魔法部門に至って四フロアーを要求してきた。
その結果は内務、農務、総務、林野、文部、軍務、加工、国土、海運、工部の 十部門がワンフロアーを本館上層から低層階に移転する事になった。
宇宙開発局が本館の上層階に三フロアー取得出来るのは俺の後押しの結果だ。
荷電粒子砲の秘密が漏れたら国の一大事だ。
「若様、余ったワンフロアーは如何されるのですか?」
「建設局を立ち上げようと思う
今までは各省で相談しながら建設していたんだろう」
「そうですね、建設事業はビルの高層化に伴って利権が複雑ですからね」
「それだと長官が必要ですね」
「これだっていう人間はそうはいないよな」
「リリーナの通信管理局と同様だ
とりあえずトップがいれば運営は可能だろう」
「考えておきましょう」
「荷物運びだけはやっとかないとな」
「本館の上層階に今まで通りに居座ったのは財務のヒルダだけか」
「まあ、そうぼやくな」
高層階に二フロアー以上持っているのは宇宙開発局と財務省だけだ。
三日後にやっと引っ越しが終わったと最後の内務から連絡が届いた。
「ノア様、職員も不満のようですよ」
「ガイア南部では遂に高さ八百五十メートルで二百階建ての高層ビルを
建築しているらしいじゃないか。我が国も来年には出来るんじゃないか」
「建設すると仮定するならシリウスならサテライトに本社を
アレスならクラウディアに本社を建てるでしょうね」
「一度外に出ないで済む分、かなり手間が省けているはずだ」
「まあ、納得してももらうしかないんですけどね」
「若君、仕事が出来るレベルまで整理が終わりました」
「こっちも何件か書類が無くなってますが仕事は出来そうです」
「早くコンピューターに慣れてくれよ」
「サカエ言語は難しいんですよね」
「「終わったわ」」
「結局の所、どうなったの?」
「本館上層階は宇宙開発局が三フロアー、財務と情報局が二フロアーでそれ以外が
陸軍以外はワンフロアーです。宇宙開発部門の三十一階から三階分には
資源管理部とガイア開発部とミラン開発部が入りました」
「え――、それじゃノルトを取ったら、またどこかが引っ越しするの?」
「ノルト大陸を取ったとしても資源管理部かガイア開発部に兼任させるよ」
「それは助かるわ」
「それで二十階のホールに会議室を加えて十五階から二十九階まで全て
国の関連施設で埋まりました
別館も残すは三十一階から三十三階までの三階分だけとなりました」
「おつかれさま」
「「「どういたしまして!?」
その翌日にはヨハンが交渉を終えて戻ってきた。
「天然ガスの油田地帯になり得る地域を星金貨四千枚相当の
取引と引き換えで買い取って来ました」
「随分と切りのいい数字だな」
「四千枚って微妙な価格ですね」
「大丈夫なの?」
「問題無いよ。農作物の栽培も出来ない海峡で区切られた何も無い土地を
援助の名目で米二十万トンと引き換えに交換してきただけだからね」
「ヨハン、海峡で区切られたというと、この旧アレス領の八倍以上ある
ノルト大陸の東側から北部の一帯の事を言ってるのか?」
「コンラートはよく知ってるね。そうだよ既に工房の職員と
海軍を派遣してある。海峡の封鎖が終わったら陸軍も入れないとね」
地図で見る限り、海峡部分は南だけで北部は繋がっているが
国土は日本の二倍以上の大きさだな。
これだけの土地を米二十万トンのみで売ったのか。
「こうなってしまうと、もうノルト大陸に未練はないわね」
「油田も鉱物資源の集積地帯も手に入れてしまったね」
「ノアの好きな昆布とノルトかにも取れるしね」
「地図で見るだけでも白くて寒そうな土地だね」
「アヒル族って寒いのに強いのかしら」
「そもそも北の一帯はアヒル族が支配してきた土地だからね」
さて、次はガイアの農作物の収穫高の報告か。
「兄貴、飯を食いに行きましょうよ」
「いいですね」
「おい、行くのは決定しているのかよ
並んでまで満腹亭で食べる気力はないぞ」
「大丈夫ですよ、まだ新装開店したばかりの店ですから」
「穴場を見つけたのか、それなら行ってみるか」
ここって別館の四十八階じゃないか。
「ここですよ」
「おい、居酒屋じゃないか」
「ランチはやってますし夜も定食を出してますよ」
「いらっしゃいませ、誰かと思ったら統括じゃないですか」
「赤マグロの刺身定食のXセットを三人前頼むよ」
「はい、喜んで」
「ここの経営に参加してるのか?」
「前に事業を始めるようと誘ってくれたじゃないですか、最初は酒蔵に
投資していたんですが、この店が借金で苦しいと聞いて即座に買収して
レストランから海鮮居酒屋に変更して今では嫁のリンダが会長をやってます」
「よく牛乳で失敗したのに踏み切ったな」
「リンダに尻を叩かれた感じですよ」
「Xセットおまちどおさま」
「お――、来た来た」
「相変わらず大盛りなんだね」
冷凍物だろうが厚切りの刺身が二十切れ以上に
イサキとかんぱちの刺身付きか。これで銀貨三枚とは安いな」
「美味いじゃないか」
「やはり、そう思いますか」
「わたしの所も空港のある街への手紙の配送料金を
銀貨二枚にしたんですよ。ぜひ利用して下さいよ」
「クレアグループの半額か、随分と思い切ったな」
「ラインまででも銀貨二枚ですよ。それも最短で翌日配送です」
「兄貴、コンラートの店の売りは
警戒中の空母にも銀貨三枚で手紙を出せるんですよ」
かなりの職権乱用だがいいだろう。
「美味かったな。ご飯三杯までのお替わり無料を復活させたんだな」
「アレス領の原点ですからね。評判になると思ったんですよ。昼間は集客で
夜で儲けを出すシステムです」
「この新鮮な魚は丸ごと買い取りか?」
「漁船を四隻買い取って漁師に雨以外の日は漁に出て貰ってます」
ヤンも成長したもんだ。長女のクレアにも商売をさせてみて今の内に
失敗を味合わさせておくのも良いかも知れないな。
ガイアの麦の次は本国の麦の番だな。
お読み頂きありがとうございます。




