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第百話:アヒル族は大食いらしい


 十月の終わりに我がアレス王国を初めて訪れた北方民族の方達は

五日間の滞在で我が国の豊かさを十分に実感したようだ。


 それにしても初めて見たときは背中の黄色い羽を見てチョコボかと思った。


「それでアレス王国に移民したいと」

 

「私の父がミラン帝国の要求に激怒して縁を切るために、

寒さの厳しい北方地方に籠もったがそれも限界だ。食糧不足は深刻なのだ」


「我々も先ほどおっしゃった高度な製鉄技術や金や銀にヒヒイロカネの

加工技術が本当であれば異存はありませんよ」


「儂の言う事に嘘偽りはない。我々には主食という概念が無かった。

山で獲れる獲物と南の住民が金一キロで百キロだけ分けてくれる

僅かなライ麦だけで生活しておった」


 この高度に精製された芸術的な紋様を刻み込んだ金一キロで

ライ麦百キロって、どれだけ搾取されて真実に気づいたんだ。


「そうだ、兄じゃのいうことに嘘はない。一月前に南の村に白パンが

銀貨一枚で四個も買えるという噂を聞いて山を下りる決心をしたんだ」

         

「私は宰相のヨハンと申しますが、お二人の言っている事は真実でしょう

ノア様、この方々を受け入れても問題はないとヒルダも言っていました」

 

 内務と財務のトップが問題なしと判断したなら大丈夫だろう。


  

「既にミランの民とは友好関係を築いておりますが、それで宜しければ皆さん

の移民を家族も含めてお引き受けしましょう」


「それは有り難い」

   

「それで申し上げにくいのだが……船を数千隻貸して頂けないだろうか?」

「全部で何名ほどいらっしゃるんですか?」


「九月の終わりの時点で三百六十五万四千九百九十九人じゃ」

    

 少数部族じゃないじゃん。よく生きてこられたな。


「ヨハン、輸送船はどの程度の数なら都合がつく?」

「そうですね、五十トンクラスなら千隻程度

千トン暮らすなら二百隻程度なら都合がつきます」

 

「新規に設計した輸送船があるだろう」


「あれですか、確かに四百隻ありますね。でも新品ですよ」

「人を多少運ぶ程度なら問題ないだろう」


「そのだな……言いにくいのだがこの数十年の生活で手に入れた鉱石も

一緒に持ち込みたいのだが」


「鉱石ですか……、金や銀ということですね。どの程度あるんですか?」

「具体的な量は儂にもわからんが、移動させるのに男を総動員しても、

数日かかるくらいはある」


 鉱石を運べる大人を人口の半分としても百七十万人で数日か。


「ヨハン、面倒だ。五十トン級に食糧を積んで八千トン級と原油タンカーの

二割を回してやってくれ」

「かしこまりました」

  


「それは有り難い、我々には生活用品という物の持ち合わせは少ないが

鉱石だけは膨大だったのだ」

             

「ヨハン、服も送ってあげてくれ」

「サイズは?」

「女性用を中心に五百万着程度でいいだろう」


「それは結構ですが、どこで受け入れますか?」


 そうか、エクレールに四百万人も受け入れられないよな。

 

「みなさんも我が国を数日見て回ったと思われますが

皆さんに合っていそうな職業はありましたか?」

         

「自動車工房というのを見せて頂いたが、あれの成形なら出来るな」 

「船作りなら任せてくれ」


 技術者寄りか。ミランのアインス工業地帯には行きたくないとなると。

 

「それならば東にベル工業地帯があるのでそこで受け入れましょう」

「それでは早速、同胞にこの吉報を知らせるとしよう」

「兄じゃ、これからは毎日腹一杯食べれるんですね」


「我々の悲願がやっと叶うか」



 やっと帰ったか。なんだろうな悲願って?


「ノア様、高度に精製された金十トンとヒヒイロカネ五百トンが土産とは

彼らはかなりの鉱石を持っているようですね」


「金相場が暴落するのは確定だろう。ヒルダに換金するよう言っておいてくれ」


 アヒル族とは聞いた事のない種族だな。銀市場を開く前で良かった。


 

 

 今日は昼から雨か。大豆の収穫も終わったし問題ないか。

 

「若様、やっと終わりましたね」

「ニコの野郎、こんなに仕事をしてたなんて知らなかったぜ」

「苦労していたのね」

 

「それなら来年からはミーアが手伝ってやってくれよ」

「わたしはこれでもヨハンの手伝いをしてるのよ」

    

「そういえばヨハンの所の長女は今年技術大学院を卒業だろう

進路は決まったのか?」

  

「そこはミーアの長女って言ってよ」

「それで?」

「航空機工房かシリウス航空の設計部門が希望みたいね」


「兄貴のところが技術職だった事を考えれば可笑しくはないですね」

「あまり技術職にばかり優秀な人間が集まっても困るんだよな」


「技術と言えば、アレス七型として公表していた航空機をアレス六型に

変更して運用していますが性能的に考えるとそろそろ退役ですね」


「オーガスの新鋭機にはかなり劣るしミカエル一型にも負けてるな」


「三型は民間用にして六型は練習機にしよう」

 

「兄貴、そうなると戦闘機はほとんどが一人乗りになりますよ」


「幹部が移動する時は攻撃機か爆撃機を利用しよう」

「それにヘリもあるじゃない」


 そういえば久しくデカ物ヘリには乗ってないな。進化してるんだろうか?



 

 十二月になってアヒル族の移住も九割以上が終了したが

アヒル族の持ってきた鉱石は尋常な量ではなかった。


「大商会は小麦の買い占めを行い価格をつり上げる事に成功しましたが

同時に金相場にかなりの金額を投資していた結果、破産者が続出しています」


「小麦の在庫を浴びせかけたんだろう?」

 

「最高のタイミングで売れました。しかし金相場では

値が付かない状況が続いており国に補償を求める声が高まっています」

             

「市場を開くときに自己責任という事は魔法契約で取り決めをしてある

浮かれた連中の戯れ言などは聞く必要はない」


 これで株式市場の開設の声も少しは弱まるだろう。



「しかし、鉱石の総量が百五十万トン以上です。金だけでも二十万トンは

あるのでミランは何とかなりましたがノルト大陸との貿易は

完全に途絶えてしまいました」


「まあ、我々には恩返しと言って相場の二割で売ってくれると言っているんだ。

悲願の大食いだかなんだかは知らないが好きなだけ食べさせてやってくれ」

         

「女性でも一日に一人で軽くご飯五キロ食べますからね

食費だけなら五千万人を受け入れた規模になります」

      

 大食い大会を開こうと思っていたが優勝者が決まっていては

盛り上がりに欠けるな。暫くは静観するか。



 

 破産者を続出させた税の徴収で悪魔の異名を浸透させたフレッドも

今日は休日でお出かけだ。


「今日は凄い列だな」

「気長に待ちましょう」

   


「さすがフレッド様じゃねえか、二つ名が色々あるようだな」

「そんな事を一々気にする余裕はないですよ」


「金相場でしくじった成金と税を払わない難民もどきだからな」

「ノア兄、税を未納の状態のままにしておいて

他の国民が真似したらどうするつもり?」           

   

「ミーア、その心配は杞憂ですね。未納者の大半は港や鉄道それに道路建設

の仕事です。給金は月に小金貨三枚と簡素な食糧だけです。

来年の秋には新領土で真面目に税を納めた人間との貯蓄の差は

数十倍になるでしょう」


「フレッド、そんなに差が出るの?」

「小金貨三枚では生活するのがやっとです。通常は金貨一枚と小金貨三枚です。

毎月金貨一枚分、二十万アルの差がつくんですよ」


「一年で二百万アル以上とは哀れだな」

「それに灰色国民の持つ農産物は買いたたいてもいいと勧告済みですよ」


「フレッド、悪魔の二つ名が益々広がりそうだな」

「いいんですよ、わたしも明後日からはミカエル王国に旅行ですから」


「ニコの次はフレッドも旅行か」

「行きたければいけよ、軍隊は陸軍以外は暇だろう。勿論情報局も」

     

「「うちの嫁は妊娠中なんです」」


「私も妊娠しているけど旅行だったら喜んで付いていくわ」


  

「ご注文を先に伺いますね?」

「やっと注文か?」

  

「トリプルチャーシューの全部入り辛味噌ラーメンの大盛りを五人前

あとは五目チャーハンを五人前だな」

             

「すいません、ご飯は終わっちゃいまして、ラーメンだけでいいですか?」

「仕方ないな。昼前なのにどうして終わったんだ?」

「それがアヒル族の方が二十人いらして食べ尽くしてしまいました」


「わかったよ」


 アヒル族恐るべしだな、二十人で満腹亭のご飯を食い尽くしたか。


「この列の原因はアヒル族だったのね」

「満腹亭も立体自動炊飯器を買わないとダメだな」


「あれって、金貨四枚以上でしょう」

「色々ありますよ。下は三キロから上は百キロ炊きまで」

   

「お客さん、テーブルが空きました。四人用ですがすいませんね」

「やっと食えるな」


「おまちどおさま」

「さすがに先に注文を取っただけあって早いな」


「「「「いただきます」」」」

    

「それって、アレス教の儀式ですね」

「美味しく頂こうというお祈りだ。悪い事じゃないだろう」


「美味しいですね。今日は辛さが一段上のような気がします」

「ほんと、辛いわね」

         

「それで話は戻るけど、百キロもお米を炊いても食べきれないでしょう」

「黒金貨三枚ですからね。導入している店は少ないですが

我らの庁舎では採用していますよ」


「空軍でも八十キロ炊きを使ってますよ」

「兄貴、国の行政機関の本館もそろそろ移転する予定ですから

その時に導入しましょうか?」       


「来年の始めに完成するんだったな。良いかもしれないな」


もはや三十二億の国民を管理するのには今の本館だけでも許容を超えて、

いるので夏から工事を開始しているが今度は何階建てだろうな。


「「ごちそうさま」」


「これはお詫びです。皆さんでどうぞ」

「悪いな」

     

「これってポテトフライね」

「なんか太る予感がするわ」


「すいません、追加で餃子を十人前下さい」

「フレッドも食べるな」

「みなさん十二個くらい食べれるでしょう」

 


「しかし、こんなに食べて無くならないの?」

「ちょっと危ないとも言えるな」

  

「そうですね、来年の秋以降なら収穫高は倍に伸びるでしょうが、

来年の七月まではギリギリというのが実情ですね」

「フレッド、そんなに足りないのにパクパク食ってていいのか?」


「民衆にバレなければいいんですよ

穀物を貯蔵されなければ何とかなるというのが分析班の意見です」

   

「その為に小麦の高騰を狙った商会を狙い撃ちしたんじゃないか」

「金を貯め込んでも仕方ないのにな」


「溜め込むとは失礼ね

うちも海金貨で千枚以上はアレス銀行に預けてあるわよ」

  

「ヨハンの食肉への投資も凄い利益だな」

「長官職で投資に無関心なのはノア様とヤンとコンラートだけですよ」


「俺は一度牛乳で失敗しているからな」

「僕も郵便事業に空軍を使って参入してますよ」


「それじゃノア様とヤンだけですか」

「わたしはシリウス商会の大株主だからね」


「え――、それじゃ俺だけ事業に参加してないのかよ」

「仕方ない、食堂に投資でもするか」


「自分にあっている分野への投資が安全だね」


 投資すれば仕事が増えるんだが言わないでおこう。

  

 明後日には二十四才か、そういえば十型は開発してるのかな?

 


お読み頂きありがとうございます。


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