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EX21 ラウノが仲間(仮)になりました レコとサルメは照れました

大変お待たせしました、連載開始します! 今回はExtraを月曜・木曜の18時に更新します。


「貴族王って魔物だったんだ!」


 レコが楽しそうに言った。

 ここは傭兵国家《月花》の本拠地である古城。

 広い謁見の間に、全員が集まっている。

 円を作るような形で、全員が床に座っていた。

 アスラはラウノを簡単に紹介したのち、自分たちの大怪我の原因について話した。

 アスラたちはすでに治療を終えていて、包帯姿だ。


「それって、本当なら大変なことじゃない?」


 アイリスはやや引き気味で言った。

 サバイバル訓練を終えたアイリスは、いつものお嬢様的な服装に、いつものツインテール。


「そう?」イーナが言う。「……あたし、人間の支配よりは……マシかなって」


 人間嫌いのイーナは、特に何も思っていない。


「まぁ、私たちには関係ないですよね。支配者が誰か、なんて」


 焼いたカエルを囓りながら、サルメが言った。


「君、カエル獲りすぎじゃないかな?」


 アスラが呆れたように言った。

 サルメは木の棒を隣に置いていて、その棒にはカエルの死体がいくつも括られている。

 全て調理済みの状態だ。


「包帯でグルグルの団長って、なんか可愛いね」


 レコがニコニコと言った。


「俺はどうだレコ?」

「ユルキは可愛くない」

「そーかよ」


「和やかに話してるけど!」アイリスが言う。「最上位の魔物が人類の頂点とか、意味分からないからね!?」


 各国の王ですら跪く貴族王。

 あらゆる貴族の頂点に立つ者。

 人類最大の権力者と言っても過言ではない。


「僕は脳が焼き切れそうだよ」ラウノが溜息混じりに言う。「ドラゴンに乗ったのは生まれて初めてだし、最上位の魔物に襲われたのも初体験。更にティナも魔物だって?」


「ぼくも分類上は最上位ですわ」


「《月花》に入ると、世界が引っ繰り返りますよラウノさん」サルメが言う。「あ、体験入団でしたっけ? どちらにしても、これからも衝撃を受けることが多いかと」


「人類と魔物は共存できるということだね」

「なんでそんな、前向きに受け止めてるのアスラは!!」


「アイリス、後ろ向きに受け止めても意味がない」マルクスが言う。「基本的には関わらない。が、ナナリアはいずれ機会があれば殺す。向こうが金銀財宝を積めば話は別だが」


「関わらないって、でもこれ、人類にとっては大変な事態よ!?」


「なぜですの?」ティナが首を傾げる。「ファリアス家は銀神歴の最初からずっと支配者ですわ」


「そうかもしれないけど!」アイリスが言う。「ほとんどの人は許容しないわよ!? 魔物に支配されてるなんて!」


「他の英雄に話すなよアイリス」アスラが言う。「ややこしくなる」


「話したって誰も信じてくれないわよ! だからこんなに、もどかしいの!」


「まぁ、実際その場にいた僕ですら、半信半疑な部分あるしね」ラウノが言う。「普通に生きていた人たちは、きっと信じないね。アイリスの頭が壊れたと非難されるのがオチだろう」


「とにかく、余計な行動は起こさないように」アスラが言う。「今後の方針は、現団員の強化。ナナリアが再び現れた時に、撃退できるようにすること。50日では厳しいが、やらなきゃ私らが死ぬ」


「具体的には」マルクスが言う。「サルメ、レコ、アイリス、ラウノの4名は魔法を全性質覚えて貰う。その上で、魔法を用いた連携の訓練」


「全性質と言っても、4性質でいいよ。とりあえずはね」アスラが言う。「変化、付与、時限に関しては追々でいい。私もまだ付与と時限は覚えていない」


「あー、僕は魔法使えるよ?」とラウノ。


 みんなが目を丸くしてラウノを見た。


「ゲレオンって部下が魔法使いで、教わったんだよ」ラウノが言う。「水属性か火属性だったら、監獄島で役に立つからね。でも残念、風だったから、使えるだけで熟練はしてない」


「……は? 風最強だし……」イーナが言う。「戦闘では……風が……一番役に立つし……。全然、残念じゃないし……」


「……ラウノさんって優良物件ですね」サルメが舌打ちする。「でも私の方が先輩なので」


「どちらにしても、ラウノは回復したらサルメたちと同じ訓練をしてもらう」アスラが言う。「しばらくはイーナが引率。私、マルクス、ユルキは傷を癒すのが先決だけど、2人はその間に変化を覚えたまえ」


「ういっす」とユルキ。

「了解です」とマルクス。


「では解散」


 アスラが手を叩き、みんなが立ち上がった。


       ◇


 ラウノは与えられた部屋で小さく息を吐いた。

 殺風景で狭い部屋だ。ここが今日からラウノの部屋。

 ベッドだけは綺麗にしてある。そのまま飛び込んで眠れるぐらい綺麗。

 誰かが掃除したのだろう、とラウノは思った。


「あの中なら、誰が掃除するタイプかしら?」


 彼女が言った。


「ティナだろう」


 ラウノは床に座ってベッドにもたれた。


「案外、イーナも掃除しそうに見えたわよ?」

「自分の部屋はするだろうけど、僕の部屋を掃除してくれるかは五分五分」


 今日は疲れた。

 傷も痛む。

 思考も少し鈍い。


「大丈夫? 酷いケガよ?」

「彼らは応急処置の技術があるみたいだね」


 ラウノを治療したのはイーナだった。

 アスラは自分で自分の治療をしていたし、マルクスとユルキの治療はレコとサルメがおっかなビックリ指示を受けながら行っていた。


「そうね。それにこの城、古いけど医療用品はたくさんあるみたいね」

「傭兵だからね。備えているのだろう」


 と、閉めなかったドアからレコが顔を覗かせた。

 顔だけで、ラウノをジッと見ていた。


「レコ? 何か用?」

「ラウノって、ふわふわしたイケメンだよね」


 レコが部屋に入った。


「ふわふわ?」

「女たちが話してたよ。ラウノはふわふわしたイケメンだって」

「そう……」


 妻以外の女性に興味がない。


「誰と話してたの?」

「妻だよ」

「透明なの? ラウノの妻は」

「いや、見えないだけ。僕以外には」


 知っている。本当は知っている。彼女が死んだこと。僕が彼女に成り続けているから、そこに存在しているような気がするだけ。


「オレの妻は団長だよ」

「それ、非公認だろう?」


 ラウノがクスッと笑った。


「相談はしてないけど、そう決めた」


「頑張れ少年」ラウノが言う。「僕も、君ぐらいの時から彼女が好きだった」


「妻のこと?」

「そう。妻のこと。みんなが僕を気味悪い魔物扱いしてたけど、彼女はずっと味方で、ずっと仲良くしてくれた。彼女がいたから、僕は道を踏み外さずに済んだ」

「今は踏み外してるね」


 レコは悪気も何もなく、淡々と言った。


「そう。そうだね。彼女と一緒に正義を失った。確かにあったのに、僕の中には」


「違う違う」レコが右手をヒラヒラと振った。「うちに入っちゃったでしょ? ここは地獄の入り口だよ。正気と狂気の狭間」


 ラウノは目を瞑って深呼吸した。

 そしてゆっくり目を開く。


「レコは、何かトラウマがある?」

「たぶん。オレ、目の前で家族が魔物にバリバリ食べられちゃった」

「そっか。それで、耐えられなくて、心を潰したんだね。可哀想に。おいで」


 ラウノの声は酷く優しかった。

 レコはフラフラとラウノに近寄って、ラウノの前に座る。

 ラウノが手を伸ばし、レコの頭を撫でた。


「大切な人を失う辛さは分かるよ。心を捨てなければ、とても耐えられない。よく分かるよ。僕は怒りに任せることで、耐えた。レコは全てを拒絶することで耐えたんだね」


「なんか、ふわふわする」レコの頬が朱色に染まる。「なんでこんな話になったんだっけ?」


「正気と狂気の狭間、って言った時のレコの表情が気になったから、君に成った」

「特殊スキルだよね。ラウノだけの」

「そう。僕だけの能力。エンパスだとアスラに言われたよ」


 ラウノはレコを撫でるのを止めた。


「ふぅん。凄いね。とにかく、オレが言いたかったのは、これからよろしく、地獄へようこそってだけ!」


 レコは立ち上がって、ピューっと走ってラウノの部屋を出た。


「可愛い子ね。照れちゃってる」と彼女。


「子供は好きだよ。君との間に欲しかったし」


 ラウノが微笑む。

 それから、ラウノは彼女と世間話をした。

 そうしていると、今度はサルメがやってきた。


「先輩、何か用?」とラウノ。


「ちゃんと挨拶しようと思って来ました。カエル食べます?」


 サルメが棒をラウノの方に突き出す。


「いや、今は食欲がない」

「美味しいですよ」


 サルメはカエルを1匹、棒から解いて食べ始めた。


「君は少し、無理をしているんじゃないかな?」


「はい?」とサルメが首を傾げた。


 ラウノは目を瞑り、深呼吸。

 他の誰かに成る時、目を瞑ると成りやすい。


「何をしているんです?」

「君に成った」


 ラウノが目を開く。


「面白いですね。共感能力でしょう? 知ってますよ。でもアスラ式プロファイリングでも似たようなことができます」

「君はアスラのことを尊敬している……いや、憧れているね」


「はい。団長さんは限りなく自由な人です。私も自由に生きたいので」

「辛い人生だった?」


「そうでもないですよ? 私はまだ普通です。ルミアさんとか、ジャンヌとか、もっと壮絶な人生を歩んだ人たちがいます」

「でも、他人は他人だよ。君の心には深い闇と傷があるね。虐待かな?」


「そうですね。虐待と性的暴行」サルメは微笑みながら言った。「男の人は嫌いです。団員は別ですけど」


「憲兵は君を助けなかった?」


「はい。捜査を優先しました。私のことに、気付いていたのに。私が泣いてること、知っていたはずなのに」サルメが小さく息を吐いた。「それホットリーディングですよね? 喋りながら、私の表情や声音、仕草を見ています」


「名前は知らないけど、昔からやってる。君に共感し、深く理解するのに必要だから」

「そうですよね。やっぱり共感した上で、情報を引き出しますよね。ラウノさんは自然にアスラ式プロファイリングをやっていて、その上で共感までするから、憲兵のエースになれた」


「深く共感するためには、少しお喋りが必要」ラウノが言う。「そして深く共感すれば、相手が何を望んでいるのか、何がしたいのか、分かるようになる」


「私は何を望んでいますか?」


 サルメはラウノの前に座り込んだ。

 ラウノはサルメの頭を撫でた。


「僕が憲兵だった頃なら、君を助けたよ。たとえ、捜査が台無しになっても。他の全ての憲兵が僕を批判しても、僕は君を助けた。絶対に」


 ラウノは被害者に成り続けた。

 だから、分かってしまうのだ。

 その辛さ、悲しさ、孤独、絶望、色々なことが分かってしまう。

 だから見捨てられない。

 憲兵だった頃の、まだ正義があった頃の話だけれど。


「私を助けることで、憲兵を辞職することになってもですか?」

「それでも助けた」

「助けたあとは?」


「しかるべき機関に君を保護させる。時々、様子も見に行くだろう。娘のように、君の成長を見守る。君は本当はとってもいい子だよ。手を差し伸べる人さえいたら、君は傭兵にはなってなかった。ごめんよ。助けられなくて」


「私は……」サルメの瞳に涙が溜まる。「誰かに助けて欲しかった……。ただ助けて欲しかったんです!」


「分かるよ。でも君はアスラに救われた。だろう?」


 それが幸福なのか不幸なのか、ラウノにはまだ分からない。


「はい……。団長さんが、私を引き上げてくれた。《月花》のみんなが、あの苦痛の中から私をすくい上げてくれました」

「そして君は強くなった。その強さを、正しく使って欲しい。カエルを虐殺することじゃなくてね」


 ラウノは笑って、サルメの頭をポンポンと叩いた。


「……努力します。まだ、自分でも自分を制御できないんです、私」


 サルメは少し、恥ずかしそうに言った。


「できるようになるさ」ラウノが言う。「僕の知る限り、傭兵は喧嘩っ早いけど理性的だよ。君も必ずそうなる。きっといい傭兵になれるよ」


「は、はい」サルメの頬が朱色に染まる。「あの、えっと、ラウノさんも、体験入団ではありますが、その、頑張ってください! 地獄にようこそ! って言いたかっただけなのにぃぃ!」


 サルメは立ち上がって、走り去った。


「あの子も照れちゃったわね」と彼女。


「誰だって、本当は心の傷を舐めて欲しいものだよ」

「でもそれは、嬉しいけれど、同時に恥ずかしいことでもあるのね」

「そう。僕もそう。本当は、誰かに傷を舐めて欲しいのかも」


 だから他人の傷に触れるのかもしれない、とラウノは思った。

 なるべく優しく。


「あとラウノ、あの子、カエル忘れていったわよ?」

「……あとで届けるよ」


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