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8話 ごめんね、仲直りできるかな? 下手に出てる団長ってキモイっすねー!


 監獄島3日目。脱獄の日。

 アスラは《月花》の予備兵となった《監獄島の正当支配者》の連中にさよならを告げた。

 その時に、一番リーダーに向いている者を次のリーダーに指名しておいた。

 もちろん、仮のリーダーだ。アスラはずっと彼らのボスでいると決めたから。

 それから、ラウノがやってくる。

 ラウノは髪を切っていた。とはいえ、マルクスのような短髪になったわけではない。

 肩ぐらいまで伸びていた髪を耳ぐらいでカットし、全体的にボリュームダウンしている。


「似合うよ。こっちだ」


 アスラが歩き始め、ラウノがそれに続く。

 2人は無言で砂浜まで移動した。

 砂浜ではユルキが火を焚いている。

 ラウノがキョロキョロと周囲を見回してから言う。


「船は見えないね。迎えはまだ来ていないってことかな?」


「船ではないよ」とアスラ。

「上だ上」とユルキが上空を指さす。


 ラウノが顔を上げる。


「ドラゴン!?」


 さすがのラウノも表情を引きつらせた。

 ちょうど、ゴジラッシュとゴジラッシュに乗ったティナが到着したところだった。

 アスラが手を振る。

 ゴジラッシュがゆっくりと下降して、砂浜に降り立つ。


「信じられない……」ラウノが言う。「ドラゴンは上位の魔物だろう? どうやって手懐けた?」


「愛情だよ愛情」


 アスラが笑いながらゴジラッシュに近付き、顔を撫でる。

 ゴジラッシュは嬉しそうに小さく鳴いた。


「団長のじゃなくてティナのな」


 ユルキが補足しながらゴジラッシュに近寄る。


「ぼくはティナですわ、ラウノ・サクサ」


 ティナはゴジラッシュの上から挨拶。

 それから、アスラとユルキの装備を砂浜に落とした。

 アスラとユルキがそれを拾い、着替える。


「ここで脱ぐんだね……アスラ」ラウノが驚いたように言う。「13歳だろう? そろそろ男の目を気にして欲しい」


「あん? 君はロリコンかね? 私に欲情すると?」


「しない」ラウノがキッパリと言う。「そうではなくて、年齢的にそういう気を使った方がいいという意味」


「ほら。短剣は扱えるかね?」


 アスラが抜き身の短剣を一本、ラウノに投げる。

 ラウノは上手に柄を握って受け取る。

 その様子を見て、アスラが微笑む。


「剣の方が得意だよ。僕は憲兵だったから、剣と制圧体術。短剣はまぁ、殺す時に使わせてもらう」

「では行こう。乗りたまえ」


 いつものローブに着替え終わったアスラが、ヒョイとゴジラッシュに飛び乗る。

 ユルキもそれに続く。

 ラウノは少しだけ迷ったが、ゴジラッシュに近寄る。

 ゴジラッシュがジッとラウノを見詰める。


「ダメですわよゴジラッシュ。ラウノは餌じゃありませんわ」


 ティナが言うと、ゴジラッシュはラウノから目を逸らした。


「ゴジラッシュ?」


 ラウノが手を伸ばし、ユルキがラウノを引き上げた。


「こいつの名前さ」アスラがゴジラッシュの背をポンポンと叩く。「センスないだろう? 名付け親はジャンヌ・オータン・ララだよ」


 ゴジラッシュが翼を上下に振り、上昇する。

 ラウノは空を飛ぶのが初めてだったので、落ちやしないかと不安になった。

 それを察したティナが、ラウノの肩を掴む。


「落ちませんわ。慣れるまで支えますわ。ちなみに、落ちても助けるから問題ありませんわよ?」


 監獄島の全域が見渡せるほど、ゴジラッシュは上昇した。


「入り江の船が出航準備をしているね」アスラが言う。「コンラートが海の覇者に戻る日も近いね」


「そうっすね。つか、割と平和だったっすよねー監獄島」


「元々、好戦的なのは君らの派閥だよ」ラウノが言う。「正当な支配者だと言って攻撃を仕掛けてくるから、応戦してた感じ」


「なるほど。私が一時的にボスだったから、何も起こらなかっただけか」


 ゴジラッシュはヘルハティの方へと飛ぶ。


「速いな……」とラウノ。


「空の移動だからね」アスラが言う。「ドラゴンを増やして空挺部隊を作るのも悪くない」


「空挺部隊?」

「地形や敵の陣地を無視して、高速かつどこにでも部隊を降ろして展開する、という構想だよ」

「突然、敵の部隊が背後に降ってくる……と?」

「だな。実現したら戦争が変わるぜ?」

「君たちは……なんて恐ろしいことを考えるんだろう……」


 ラウノは若干引いていた。


「空から火矢を放って、敵陣を焼き払うような作戦も可能になるね」


「それは地上からの矢で反撃できるのでは?」とラウノ。

「ゴジラッシュに矢なんて刺さりませんわ」とティナ。


「まぁ、エルナなら乗っている人間を地上から狙えると思うけどね」アスラが言う。「外でエルナと戦うのだけは私も嫌だね」


「エルナと敵対するなら、絶対に室内っすね」ユルキが言う。「ファイア・アンド・ムーブメントしてくるから、相当厄介っすよね、外だと」


「1人でジャンヌ軍の隊長格を殺して回ったそうだよ。私らかよ、って思ったね」


 アスラが楽しそうに言った。


「エルナってエルナ・ヘイケラ?」ラウノが言う。「ファイア・アンド・ムーブメントって?」


「そう。大英雄のエルナ」アスラが言う。「ファイア・アンド・ムーブメントは私らの基本戦術。移動しながら攻撃する。心配しなくても、君にも教えるよ」


 アスラの言葉が終わった時、前方の海に船が見えた。

 帆に大きなバツ印が描かれている。


「あれだな」ユルキが言う。「頑張れよラウノ」


「別に。僕はただ、僕のやり残したことを片づけるだけさ。彼女を殺すように命じて、今も生きている。考えただけで反吐が出る。刻んでやりたいよ」


       ◇


 ゴジラッシュの低空飛行から、アスラ、ユルキ、ラウノが船の甲板に飛び降りた。

 ゴジラッシュとティナは空中待機。

 甲板に出ていた海軍の連中は、全員が面食らっていた。

 突然、ドラゴンが突っ込んできたように見えたのだから、当然だ。


「てめぇら! 海軍軍人がビビッてんじゃねぇぞ!」


 顔に傷のある男、ユッカ・ホルケリが叫んだ。

 海軍の制服に身を包み、すでに剣を抜いている。


「ラウノ・サクサってのはどっちだ?」


 ユッカはユルキとラウノを交互に見た。


「僕だよ。囚人服で分かれよ低能」


 ラウノが前に出る。


「マルクス、ご苦労様」

「団長も、首尾は良さそうですね」


 いつの間にか、マルクスがアスラの隣に立っていた。


「んじゃあ、俺らは見学としゃれ込むか」


 ユルキは舷縁にもたれた。


「邪魔が入らない限りね。もし、海軍どもが動いたら、参加する」

「団長の言葉を聞いたな?」


 マルクスが言うと、海軍の連中がビクッと身を竦めてから頷いた。


「ほう。君を恐れているね。マルクス、何かやったのかね?」

「特には。海上に出てから、自分に突っかかってくる者が多かったので、半殺しにした程度です」


「それじゃねーかよ」とユルキ。


「僕の妻を殺すように命じたのか?」


 ラウノが言った。


「おう。言った。クソ女が、オレとファミリーの癒着を疑い始めたからな! クソが! 知らなくていいことを知った奴ってのは死ぬんだよ! テメェもだラウノ!」

「そうか」


 ラウノは目を瞑って、深呼吸。

 その隙に、ユッカが剣を縦に振る。

 しかしラウノは小さな動きでそれを躱した。

 ユッカも海軍の連中も驚いた。

 ラウノが目を開く。


「僕はお前に成った。お前がクソヤローだと理解したよ。だから、僕が目を瞑ると攻撃してくると分かった」

「なんだてめぇは!」


 ユッカが剣を横に振る。左から右へと振った。

 ラウノはユッカの右側からユッカの背後に回り込むように回避。


「ほう。剣がどっちから来るか、事前に知っていた動きだ」とマルクス。


「今のラウノに勝つには、かなりの実力差がいるよ。なんせ、全部読んでくる」


 ラウノは背後から、ユッカの膝裏に蹴りを入れる。

 ユッカのバランスが崩れる。

 ラウノはすかさず水面蹴り。

 ユッカが甲板に倒れ込む。


「クソがっ!」


 立ち上がろうとしたユッカの後頭部に、ラウノが飛び乗った。

 ユッカは甲板で顔面を強打。


「うわぁ、あれは痛いっすねぇ」


 ユルキが顔を歪めた。


「ちくしょー」


 鼻と口から血を流しながら、ユッカが立ち上がる。


「てめぇ……」

「何をしたんだ?」


 ユッカの言葉を、ラウノが続けた。

 ユッカが目を丸くする。


「僕はお前に成った。だから、お前が何をどうするのか、何を思考しているのか、理解できる。僕を殺せないと悟った。だから逃げようと思ったけど、ここは海上で、どうにもできない。死ぬんじゃないかと恐れている。正解だよ。お前は死ぬ」


「クソが……」

「意味の分からないことを言うな?」


 また、ユッカの言葉をラウノが続けた。


「舐めるなぁ!! 憲兵の小僧が!!」


 ユッカが剣を持つ右手を大きく振りかぶった。


「あ、終わったね」とアスラ。

「かー、ダメな奴だなおい」とユルキ。

「隙だらけだ。冷静さを欠くというのは、本当に無様だ」とマルクス。


 ラウノはすでに、ユッカの首を短剣で斬っていた。

 ユッカが隙を見せると、知っていたからこその早業。

 ユッカの首から血が噴き出す。

 その頃には、ラウノはもうそこにいない。

 返り血を浴びたくなかったのだ。

 ユッカの体が倒れる。

 沈黙。

 海軍の連中は何がなんだか分かっていないような、そんな複雑な表情をしていた。


「おーい、ゴジラッシュ、餌だよ!」


 アスラが言うと、ゴジラッシュが急降下してユッカの体を咥える。

 そして再び上昇。

 空中でバリバリとユッカを食べた。

 そのあんまりな光景に、海軍の連中が膝を突いたり、座り込んだりした。


「ゴジラッシュの主食は人間?」ラウノが言う。「だとすると、いい気分じゃないな」


「いや? 雑食だよゴジラッシュは。人間も食べるってだけ。死体の処理に使えて便利だろう? 乗り物にもなるし、最高だよ」


 アスラが肩を竦めた。


「自分は副長のマルクス・レドフォードだ」

「僕はラウノ・サクサ。60日間よろしく」


 言ったあとで、ラウノはハッとしたようにマルクスを見た。


「蒼空騎士か?」

「元、だ」

「ふぅん。傭兵団《月花》って、有名人ばかり集まってるわけ?」


「そういうわけでもない」マルクスが言う。「元娼婦や、元普通の村人もいる」


「さぁ、帰ろう。ゴジラッシュ的には定員オーバーで大変だろうけどね」


 アスラがニコニコと笑った。

 でも次の瞬間、凍り付いた。


「減らしてあげようか?」


 アスラに背後から抱き付いた人物がいた。

 そいつは一切の気配を発することなく、気付いたらアスラに抱き付いていた。

 マルクス、ユルキ、ラウノが後方に飛んで戦闘態勢へ。

 アスラは動けなかった。

 動いたら殺される。

 本能でそう理解した。


「初めまして、アスラ・リョナ」


 アスラに抱き付いた少女が言った。

 少女は16歳前後の見た目で、色が白く、細い。

 服装は、どこかの国のお姫様のような、高価なドレス。

 フリフリとした、黒と赤のドレス。

 髪は透き通るような、綺麗な銀色。

 アスラと同じ色。


「いつからいた?」とアスラ。


 同時に、ハンドサインを出す。

 動くな。何もするな。やり過ごせ。


「ずっと」

「船? ゴジラッシュ?」

「船」


 少女は楽しそうな口調だが、声は冷たい。

 心の底から冷やしてくるような、そんな声。


「自分は知らない」マルクスの声が微かに震えた。「いなかった。お前などいなかった」


「見えなかっただけ」少女が言う。「てゆーかアスラ、少し臭いわよ。温泉に行けば?」


「いいね。そうするよ。離してくれるかな?」

「まだダメ。知りたいの、預言をぶち壊したアスラ・リョナという人間を」

「預言?」


 何のことを言っているのか、アスラにはサッパリ分からない。


「その前に、不必要な人たちを殺すね」


 少女がそう言った次の瞬間には、甲板にいた全ての海軍軍人の首が飛んでいた。


「魔法か」


 アスラには見えていた。

 たくさんの剣が、軍人たちの首を斬り落としたのだ。

 もちろん、マルクスやユルキ、ラウノにも見えていた。


「そう。固有属性・王の攻撃魔法【王立騎士団】」

「王だって?」


 知っている。ジャンヌの魔法書に記されていた。

 ジャンヌに時限魔法【呪印】と付与魔法【神性】を与えた者の属性。


「【雷神剣】!!」


 ティナが叫びながら降って来た。

 手には魔法で作った輝く稲妻の剣。

 ティナが突っ込んで来たので、銀髪の少女がアスラから離れ、距離を取る。


「何の用ですのナナリア」甲板に降りたティナが言う。「アスラたちに何かするつもりなら、殺しますわよ。ぼくは許してませんわ。ぼくの街に魔物を放ったこと、姉様に【呪印】を施したこと。全部許してませんわ」


 アスラはティナの剣に軽く触れてみた。

 その瞬間、凄まじい電撃を受けて、意識が飛びそうになった。


「アスラ何しますの!?」


 ティナが驚いた。

 ユルキとマルクスも、ナナリアと呼ばれた少女も驚いた。


「軽く触っただけで、死ぬかと思ったよ」アスラが笑う。「凄いじゃないか。これ、まともに当たったら黒焦げ間違いなしだね」


 ティナが【雷神剣】を消した。


「いや、いやいや!」ユルキが言う。「団長マジで何やってんの!? 死んだらどうすんの!? 普通、触るか!? 触らなくてもヤベェって分かるよな!?」


「団長はアホだアホだと思っていたが、本当にアホだ……」


 マルクスが額に手を当てて首を振った。


「君たちって苦労してそうだよね」とラウノ。


「頭のネジが飛んでるのね、アスラは」ナナリアが言う。「あとティナ。【呪印】はジャンヌの意思よ。嘘は吐いたけれど。それに、汚らわしいダブルのティナに許してもらう必要なんてないし、純血の私を殺せるとでも?」


 アスラが再びハンドサインを出す。ナナリアには見えないように。

 動くな。何もするな。生きて帰ろう。だが備えろ。

 アスラはティナの激しい殺気を感じ、それを削いだのだ。

 ユルキとマルクスもそれに気付き、張り詰めていた空気を緩和した。

 ティナが一緒に戦ってくれたとしても、ナナリアに勝てる見込みは低い。

 もちろんゼロではない。

 最後には戦うかもしれない。だけれど、まずは喋らせて情報を得る。


「ところでナナリア、私が預言をどうしたって?」


 言いながら、アスラはハンドサインを出す。

 私はすでに仕込んだ。最悪、逃げ出せるように。

 アスラのサインを見て、ユルキもマルクスも驚いた。

 もちろん、それを表情には出さない。

 アスラが仕込んだことに、2人は気付けなかった。

 だが、どのタイミングで仕込んだのかは分かる。

 ティナが降って来た時か、ナナリアが軍人たちを殺した時だ。

 あるいは両方。

 どちらもナナリアの気が逸れた。


「世界史を変えた自覚はなさそう」ナナリアが言う。「いいわ。教えてあげる」


 アスラは笑いを堪えるのに必死だった。

 ナナリアのようなタイプは、話したがり屋だ。

 自慢したがりで、そうすることで優越感を感じる。

 尊大で油断していて、自分を完璧だと思っている。

 自分以外の全ては下等な生物で、だから当然、常に舐めてかかる。

 勝機があるなら、そこ。


「世界の秩序を、私たちの利権を、脅かしたの、アスラは」


「ごめんね。仲直りできるかな?」とアスラ。


「態度次第よ」


 ナナリアは気分良さそうに言った。

 相変わらず声は冷えているが、気分がいいのは表情で分かる。


「聞かせておくれ。私は何をしてしまったのだろう?」


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[一言] 「何の用ですのナナリア」甲板に降りたティナが言う。「アスラたちに何かするつもりなら、殺しますわよ。ぼくは許してませんわ。ぼくの街に魔物を放ったこと、姉様に【呪印】を施したこと。全部許してませ…
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