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EX03 ジャンヌ・オータン・ララの栄光 勝利への道はわたしが示す!!

大変お待たせしました、Extra(過去編)連載開始します! 今回は短いので毎日18時に更新します。


「私たちは昼にはこの国を出る」


 アスラが言った。

 エルナはすでにこの部屋にいない。


「誤解が解けない可能性を考慮して、ですか?」


 マルクスがアスラをジッと見詰める。


「そう。エルナが憲兵に事情を説明しに行ってくれたけれど、全ての住民が納得するとも限らないからね。知っての通り、私は市民でも容赦しない。敵対するなら叩き潰す」


「ま、攻撃されたらやり返すってのは基本っすよね」ユルキが笑う。「でも、相手が市民だと、俺らの評判に関わるわけで」


「……うん。依頼が入らなくなると……困る……」

「その通り。私たちの評判は、今のところ悪くないはずだからね。失敗したこともないし、余計な死体も出してない」


 一瞬、ウーノとその取り巻きたちのことを思い出したけれど、アスラは忘れることにした。

 あれは正当防衛だ。問題ない。


「……むしろ死体しか残らないじゃない……」


 アイリスがボソッと呟いたが、誰も反応しなかった。


「上位の魔物も処理できる」とレコが楽しそうに言った。

「犯罪組織も潰せます」とサルメ。


「そして当然、戦争もできる」マルクスが言う。「今のところ、確かに評判はいいでしょうね」


「そう。進んで評判を落とす必要はない。それはそうと諸君。エルナもいなくなったし、出国前にルミアの話をしておこう。私の知る限り、だがね」


「実に興味深いです」マルクスが食い付く。「自分はジャンヌマニアですので。憧れの人がまさか副長……いえ、ルミアだったとは。感慨深いものがあります」


「俺も興味あるっすねー」

「……あたしも」

「私もです。ルミアさんが大虐殺を行ったというのが、ピンと来ません」


「やってないからね」アスラが笑う。「ルミアが殺したのは、処刑場にいたゴミクズどもだけさ。近隣の村々で略奪したのは、ピエトロみたいな連中さ」


「でしょうね」とマルクス。


「ルミアはやらないよねー」レコがニコニコと言う。「オレ、見る目ある方だよ。ルミアがジャンヌだって知ってたし」


「は? お前なんで知ってんの?」とユルキが目を丸くした。


「レコはムルクスの村で【神罰】を見ている」アスラが説明する。「だから簡単にルミアとジャンヌが繋がったんだよ。アクセルが色々と話した時だろう?」


「うん」


「なるほど」マルクスが頷く。「それであの時、【神罰】に食い付いたのか」


「あー、そっか、アレ【神罰】か」ユルキが言う。「フルマフィのアジトで、細切れの死体あったっしょ? どうやったのか実は気になってたんっすよ」


「……ルミアは、なんで内緒にしてたの……?」


 イーナがコテンと首を傾げた。


「勇気がなかったんだよ。自分の正体を明かす勇気がね」


 ククッとアスラが笑った。


「……あたしたち、そんなことで、ルミアを嫌ったり……しないのに……」

「だろうね。私もそう思うよ。でも、ルミアは話せなかった。怖かったのだろうね。君たちの反応が」


「心外ですね」マルクスが少し怒った風に言う。「自分たちはそんなに小さい人間ですか?」


「文句なら、次に会った時に言えばいいさ」アスラが肩を竦めた。「さぁ、ルミアの過去を話そう。愛しくもおぞましい、ルミアの歩んだ道を」


       ◇


 ジャンヌ・オータン、14歳、初陣。


「よぉ、嬢ちゃん、自殺用の毒か短剣はちゃんと持ったか?」


 ジャンヌが所属する小隊の隊長、ニコラ・カナールが言った。

 ここは戦場。

 まだ開戦の合図は聞こえてこない。

 敵も味方も、横一列に並んで、待機している。

 お互いの距離は目測で50メートルほど。


「嬢ちゃんとは、わたしか?」


 ジャンヌは並んでいる敵兵を見ながら、そう言った。


「お前以外にいねぇだろうが。まったく、何が楽しくて志願なんかしたんだよ。徴兵は16歳からだろ?」


 ジャンヌの所属するユアレン王国では、女子は16歳になったら戦場に行く。男子は15歳から。任期は男子12年、女子8年と定められている。

 あるいは、終戦で解放される。もちろん軍に残ってもいい。

 無茶な任期だが、もう20年も戦争をやっているので、兵員が足りないのだ。


 相手国である神聖リヨルール帝国は、全員正規の兵士。国の規模がそもそも違いすぎる。

 勝ち目などほとんどない戦争。それでも20年も続いているのは、単純にリヨルール帝国が手を抜いているから。

 兵の訓練代わりに戦争を活用しているのだ。


「祖国を救うためだ。おかしいか?」


 ジャンヌは無表情で言った。


「あー、そりゃおかしい。頭どうかしてるぜ。どうせ勝てやしないんだ。クソ、何が悲しくて独立宣言なんかしちまったかねぇ」


 ニコラは26歳の男で、黒髪。無精ヒゲを生やしている。それ以外に、身体的特徴はない。どこにでもいる、普通の青年。


「『神典』を連中が歪めているからだろう?」

「向こうから見たら、歪めてんのはこっちだがな」


 ニコラが肩を竦めた。

 ユアレン王国は、元々リヨルール帝国の属国。

 しかし宗教的対立の果てに、ユアレン王国はリヨルール帝国からの独立を決めた。


「わたしらの『神典』解釈が正しい。連中は異教徒だ」


 ジャンヌは真顔で言った。

 中央フルセンの多くの国が、宗教を基盤としている。

 その中でも重要なのが『神典』で、その解釈が違えば、相手を異教徒と呼ぶ。


「見事に洗脳されてんのな。まぁいい。自殺用の毒と短剣は?」

「なぜそれが必要なんだ?」

「だから、向こうから見たらこっちが異教徒なんだよ。異教徒には何してもいい。分かるだろ? お前みたいな可愛い嬢ちゃんが捕まったら、どんな目に遭うかぐらい」

「そうか。お前、見た目の割に優しいな」


 ジャンヌがニコッと微笑む。


「うるせぇ。見た目の割には余計だ。ま、俺の指示通りに動いてりゃ、大抵は生き残れる。いいか? まず開戦の合図があっても、飛び出すな? ちょっと遅れて行くんだ。最初に突っ込むと確実に死ぬ。分かったか?」

「分かった。やっぱり優しいな。わたしを名前で呼んでいいぞ」

「ああ?」

「わたしは神の使徒だが、お前は特別にわたしを名前で呼んでいい」

「……マジで頭大丈夫か?」


 ニコラは呆れたように苦笑い。

 それと同時に、「突撃!」という号令。

 ニコラはいつも通り、わざと遅れる。

 しかし。


「バカ! 俺の話聞いてなかったのか嬢ちゃん!」


 ジャンヌは先陣を切った。「突撃」の「と」の辺りですでに飛び出していた。


「クソ! いるんだよ! テンパって飛び出しちまうバカが!」


 だがニコラは助けに行かない。自分の命と、他の小隊メンバーの命を危険に晒すことはできない。

 ジャンヌは先頭を駆け抜ける。

 途中、大量の矢が降ってきたが、どれもジャンヌには当たらなかった。


「嘘だろ!? まるで矢が嬢ちゃんを避けたみたいに……」


 ニコラは一応、ジャンヌのことは目で追っていた。自分の小隊のメンバーなので、最期ぐらいは見届けてやろうと思っていたのだ。

 ジャンヌは背中のクレイモアを抜き、そして飛んだ。

 着地と同時に、敵兵の首が2つ飛ぶ。

 更に、ジャンヌは回転しながら周囲の敵兵を薙ぎ倒す。

 異様な光景。

 14歳の少女が、たった一人で、無数の敵を駆逐していく。

 だが敵兵もバカじゃない。すぐにジャンヌは囲まれた。

 しかし。

 その囲みもジャンヌは突破した。

 恐ろしい戦闘能力で、ただ突破した。

 そして。

 近くにいた敵を皆殺しにしたのち、ジャンヌが立ち止まって振り返る。

 その顔は返り血に濡れていて。

 ジャンヌがクレイモアを掲げる。


「わたしは神の代行者!! 『神典』を歪める異教徒どもに、神の鉄槌を!! わたしに続け!! 勝利への道は見えている!!」


 その声はよく通り、戦場全てに響き渡った。

 誰もが、その声に一瞬だが心を奪われた。


「見よ!! 神の怒りを!! 【神――」ジャンヌがクレイモアを振り下ろす。「――罰】!」


 虚空より、天使が現れる。

 目が覚めるほど美しい純白の翼を翻し、光の大剣を携えた天使が降臨した。

 目を奪われた。誰もが目を奪われた。

 そして震えた。

 ああ、本当に、神の使徒なんだ、と。

 天使は高速で移動し、敵兵を次々と斬殺していく。

 その戦闘能力に、誰も抵抗できなかった。


「もう一度言う! わたしに続け! この戦争!! わたしが終わらせよう!!」


 ジャンヌが叫び、

 ユアレン王国の兵士たちが雄叫びを上げる。

 完全に呑まれた。その戦場にいた全ての人間が、14歳の少女に呑まれた。

 ニコラ・カナールも例外ではなく。


「征くぞテメェら! 嬢ちゃん、いや、ジャンヌに続け!!」


 剣を掲げて叫んでいた。

 その場の戦闘は、ジャンヌたちの圧倒的勝利で幕を下ろした。

 いくつもある戦場の一つだが、それでも勝利は数年ぶり。

 誰もが歓喜し、誰もがジャンヌを讃えた。


       ◇


「えっと……ルミアってそんな圧倒的だったんっすか……」


 ユルキが引きつった表情で言った。


「うん? 今とさほど変わらんよ? 剣の腕はあまり伸びてないからね、ルミア。もちろん、当時より今の方が強いよ。魔法兵になったんだから。当時のルミアが魔法兵だったら、終戦に3年もかからんよ」


「20年続いた戦争を3年で終わらせただけでも、驚異的ですがね。しかも自国の勝利で」


「おいおい。寝ぼけてるのかマルクス」アスラが小さく肩を竦めた。「私らなら、10日もかからんよ。アーニアを思い出せ。主戦場参戦から4日で終わらせただろうに。まぁ、正式には休戦だし、使者の都合でもう少しかかったがね」


「あんたたちが終わらせたわけじゃないでしょ?」アイリスがキョトンとして言う。「マティアスさんが死んだから終わったんでしょ?」


 沈黙。

 アスラは自分の発言の愚かさを悔やんだ。

 アイリスにマティアス殺しを告白するところだった。

 アイリスがアホでなければ、今のアスラの発言で真相に近付く。


「え? 何? あたし変なこと言った? マティアスさんが暗殺されたから、テルバエって引き上げたんじゃないの?」


「まぁ、その要素が大きいのも事実だね。とはいえ、それがなくても勝っていたよ。テルバエ軍は物資の保管テントを焼かれていたし、二度と物資が届くこともなかったはず。私らが補給部隊を襲うからね。補給が完全に断たれた絶望感で、連中はすぐに戦えなくなる」


 アスラは咄嗟に言い訳を考え、スラスラと話す。

 さっきのポカは完全にウッカリだった。アイリスを仲間だと認識して喋っていた。

 アイリスはずっと一緒にいるし、魔法兵になると言ったし、もうアスラの中では普通に仲間のような感覚だった。

 だが実際には、監視役なのだ。


「団長の言う通りだアイリス。自分たちは確実に勝っていた。マティアスの生死とは関係なく。主戦場での勝利は目前だった」

「そうそう。俺ら、アーニアでは割と人気あったろ? 活躍したってこった。つーか、依頼がテルバエ王国を滅ぼすこと、だったら、俺ら普通に国一つ滅ぼせたんじゃね?」

「……うん。あたしたちなら……できるかも? どうやるのかは……団長任せだけど……」

「そうですね。できるような気がしますね。ちなみに、私はあの戦争が初陣でした。ユルキさんに抱き付いていただけ、ですけど」

「団長ってしっかり者みたいでウッカリさんだよね」


 団員たちが次々にフォローを入れた。

 レコだけは普通に軽くアスラを責めた。


「ふぅん。まぁみんなも頑張ったとは思うわよ? 別にそれは否定しないわよ。決定的だったのが、マティアスさんの暗殺だと思っただけよ。勝利が目前だったって状況、あたし知らなかったし」


「うん。よし、とりあえずルミアの話を続けよう」アスラは強引に話を変えることにした。「ルミアは初陣で勝利し、そこから連戦連勝、15歳の時には選抜大隊を率いるようになった。《宣誓の旅団》の前身だね」


「《宣誓の旅団》は全員が一騎当千の強さだったという噂だが、ジャンヌの名声が高すぎて、他の者の名は地方を跨いでまでは届かなかった」マルクスが補足のように言う。「まぁ、自分はある程度調べているから、主要人物だけは知っているが」


「ある程度、ね」アスラが笑う。「めちゃくちゃ調べたんだろう、本当は。ほら、主要人物を挙げてみたまえ。聞いてあげるから」


 ジャンヌマニアを自称するぐらいなのだから、話したいだろうとアスラは思った。


「では」マルクスが小さく咳払いをした。「自分はそもそも、ルミアがルミア・オータンではないかと推測していた。さすがにジャンヌだとは思っていなかったが」


「それで?」とレコ。


「それと言うのも、先ほど話に出てきたニコラ・カナール。まず彼は《宣誓の旅団》の三柱の1人であり、ジャンヌが最後まで信頼していた人物とされている」


「あー、ルミア・カナール」ユルキが言う。「そっから取ったのか。ファミリーネーム」


「自分もそう予測していた。さて、三柱というぐらいだから、あと2人いるわけだが……」


「あ、分かりました」サルメが言う。「1人はゴッドハンドのミリアムですね? ルミアさんが、ミリアムは10年鍛錬を続けていたら英雄並と言っていました。英雄並になれる人間がゴロゴロいてたまるか、という話なので、1人はミリアムです」


「その通りだサルメ」マルクスが頷く。「そして残りの1人が現ジャンヌ。白髪のだ。つまり当時だと、ルミア・オータン」


「ふむ。やはりルミアとジャンヌの入れ替わりのせいで、やや混乱するね」アスラが笑う。「まぁ、《宣誓の旅団》関連の話は今回すっ飛ばすよ? あくまでルミアを中心に話す」


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